ダブルウィッシュボーンとマルチリンクの違いと選び方

ダブルウィッシュボーンとマルチリンクの違いと選び方

ダブルウィッシュボーンとマルチリンクの違いと乗り心地・維持費を徹底比較

マルチリンクはダブルウィッシュボーンより「乗り心地が良く静か」なのに、ブッシュ全交換で100万円超えの出費になることがあります。


🔍 この記事の3ポイント要約
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実は同じ構造から派生している

ダブルウィッシュボーンとマルチリンクは本質的に同じ設計思想から生まれており、マルチリンクは「スペース問題を解決したダブルウィッシュボーンの進化型」とも言える。

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使い分けには明確な理由がある

フロントにダブルウィッシュボーン・リアにマルチリンクという組み合わせが多い理由は、室内空間との兼ね合いにある。クラウンや日産スカイラインも同じ構成だ。

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維持費の差が後から効いてくる

マルチリンクはブッシュ類の部品点数が多く、全交換すると100,000〜200,000円の出費になるケースも。サスペンション形式を知ると維持費の計画も変わる。


ダブルウィッシュボーンの基本構造とサスペンションの仕組み





「サスペンション形式なんて、どれも同じでは?」と思っている方も多いかもしれません。ところが、形式ひとつ変わるだけで乗り心地・ハンドリング・維持費に大きな差が生まれます。まずはダブルウィッシュボーンの基本からおさえておきましょう。


ダブルウィッシュボーン式サスペンション(Double Wishbone Suspension)とは、鳥の叉骨(wishbone)に似たA字型のアームを上下に2本(double)配置してタイヤを支える独立懸架式サスペンションです。上側のアームをアッパーアーム、下側をロワアームと呼び、この2本がタイヤ取り付け部(ナックル・アップライト)を上下からサンドイッチするように挟み込む構造になっています。


最大の特徴は、前後・横それぞれの方向に対する剛性を独立して設計できる点です。横方向の剛性は2本のアームがしっかりとタイヤを支えることで確保し、前後方向の衝撃はアームが前後にわずかにたわむことで吸収できます。つまり、「曲がる力に対しての踏ん張り」と「段差の衝撃吸収」を別々にチューニングできるということです。これが原則です。


また、アッパーアームをロワアームよりも短くすることで、サスペンションが上下にストロークしてもタイヤのキャンバー角(路面に対してタイヤが傾く角度)がほぼ一定に保たれます。コーナリング時に車体がロールしても接地面が大きく変わらず、グリップ力を安定して引き出せるのです。これがF1をはじめとするレーシングカーが半世紀以上にわたってダブルウィッシュボーンを使い続けている最大の理由です。


国産車ではトヨタ クラウン・マークX・スープラ(A80型)、ホンダ レジェンド・NSX・シビック(EF型)、日産 フェアレディZのフロントなどに採用されてきた実績があります。セッティングが使えそうですね。
























項目 ダブルウィッシュボーン
アーム本数 上下各1本(計2本のA字型アーム)
キャンバー角変化 小さく安定
主な搭載位置 フロント、スポーツカーの前後
代表車種 トヨタ クラウン(フロント)、ホンダ NSX、日産 フェアレディZ(フロント)


参考:ダブルウィッシュボーンの構造と特徴についての詳細解説


マルチリンクの構造とダブルウィッシュボーンとの根本的な違い

「マルチリンクのほうが高性能」という声をよく聞きます。これは正しい面もありますが、一面的な理解です。つまり単純な優劣ではないということです。


マルチリンク式サスペンションは1982年、メルセデスベンツが190E(W201)のリアサス用として初採用した比較的新しい形式です。その後BMW・トヨタ レクサス・日産インフィニティなど、高級車のリアサスペンションを中心に急速に普及しました。


構造的な違いはシンプルです。ダブルウィッシュボーンが大きなA字型アームを上下2本使うのに対し、マルチリンクは3〜5本の細いリンク棒(ロッド)を組み合わせてタイヤを支えます。見た目で言えば、ダブルウィッシュボーンはY字に開いた太い骨が2本、マルチリンクは細い棒が複数本クモの巣のように伸びているイメージです。


ここが重要な点です。マルチリンク式はダブルウィッシュボーン式のA字型アームを、複数の単純なリンク棒に「分解した」ものとも言えます。実は本質的には同じサスペンションの思想から派生していて、動きのメカニズムも根本的には同じなのです。「マルチリンクとダブルウィッシュボーンは別物」だと思っていた方には意外ですね。


では、なぜわざわざ分解するのかというと、リンク棒にすることで設置場所の自由度が大幅に増すからです。A字型の大きなアームは水平方向に広いスペースを必要とし、リアシートやトランクのスペースを圧迫します。細いリンク棒に分けてしまえば、棒の位置や角度をバラバラに設定できるため、室内空間を確保しながら高性能なサスペンションを搭載できるのです。


さらに大きなメリットは、ロードノイズの遮断性能です。マルチリンク式のリアサスは通常、防振ゴムを使ったサブフレームという構造を介して車体に取り付けられています。このサブフレームが路面からの振動を二重にカットしてくれるため、高速道路を走ったときのロードノイズが非常に静かになります。高級セダンの後席が静かなのは、このマルチリンク+サブフレーム構造の恩恵です。
























項目 マルチリンク
リンク本数 3〜5本の独立したリンク棒
設置自由度 高い(各リンクを任意の位置に配置可能)
主な搭載位置 リア中心、高級セダン・スポーツセダン
代表車種 レクサスLS・メルセデスEクラス・BMW 5シリーズ(リア)、日産スカイライン(リア)


参考:マルチリンクの初採用の歴史と採用車種について
マルチリンクサスペンション|カーセンサー用語集


乗り心地・ハンドリング性能をダブルウィッシュボーンとマルチリンクで比較

「マルチリンクのほうが新しいから乗り心地が良いはず」と考える方は少なくありません。実際のところはどうでしょうか?


ハンドリング性能という観点では、ダブルウィッシュボーンに分があります。A字型の大きな一体アームは剛性が非常に高く、ステアリングを切ったときにタイヤが即座に反応するシャープな特性を生みます。コーナリング中に横からの力(横G)がかかっても、アームがねじれたり変形したりしないため、「思った通りのラインに乗る」という感覚が際立つのです。これがF1などのレーシングカーが前後ともにダブルウィッシュボーンを採用し続ける理由でもあります。剛性が条件です。


一方、乗り心地・静粛性という観点ではマルチリンクに優位性があります。リンク棒を接続するブッシュ(ゴム製の部品)が複数あることで、路面の微細な振動を細かく吸収してくれます。前述のサブフレーム構造と相まって、高速走行時のロードノイズがかなり小さくなるのです。これが主理由で、レクサスやメルセデス・ベンツなどの静粛性を売りにする高級車のリアサスにマルチリンクが採用されているわけです。


ただし、一つ注意点があります。マルチリンクはブッシュが多い分、可動抵抗も大きくなります。スタビライザー取付部分のブッシュにグリスを塗るかどうかだけで、コーナリングのスムーズさが体感でわかるほど変化すると言われるくらい、わずかな抵抗でも走行感覚に影響するのです。ブッシュ類が劣化してくると乗り心地が一気に悪化するというデメリットも覚えておきましょう。ブッシュの状態が条件です。


実際の体感差について言えば、まったく知らない車に乗って「これはダブルウィッシュボーンだ、マルチリンクだ」と当てられる人はほとんどいないのが現実です。どちらも独立懸架式で設計が十分に煮詰まっていれば、乗り心地は高い水準にあります。形式の違いよりも、メーカーがどこに重点を置いてセッティングしたかのほうが、実際の走行感覚に影響します。これは意外ですね。





























比較項目 ダブルウィッシュボーン マルチリンク
ハンドリングの鋭さ ⭐⭐⭐⭐⭐(高剛性・シャープ) ⭐⭐⭐⭐(しなやか)
乗り心地の快適さ ⭐⭐⭐⭐(良好) ⭐⭐⭐⭐⭐(振動遮断に優れる)
静粛性・ロードノイズ ⭐⭐⭐(普通) ⭐⭐⭐⭐⭐(サブフレーム効果あり)
セッティングの幅 ⭐⭐⭐⭐⭐(調整自由度が高い) ⭐⭐⭐⭐⭐(さらに細かい調整が可能)


参考:サスペンション形式ごとの走行性能の差についての解説
ダブルウィッシュボーンとマルチリンクって何が違うの?仕組みと用途の違いを解説|newcars.jp


ダブルウィッシュボーンとマルチリンクの維持費・修理コストの現実

「高性能サスペンション=高いのは当たり前」と思っていませんか。実は、どちらの形式でどの部品が傷みやすいかを知っておくと、維持費の見通しがまったく変わります。


まずダブルウィッシュボーンのメンテナンスコストから見てみましょう。アッパーアームとロワアームそれぞれにブッシュとボールジョイントが使われており、これらは一般的に走行距離8万kmが交換目安とされています。ブッシュ交換の費用は本体+工賃で片側あたり1〜3万円程度が相場です。4輪全てのブッシュ類を交換するケースでも、構造が比較的シンプルなため工賃が抑えられ、整備性という面では有利と言えます。


マルチリンクはどうでしょうか。リンク本数が3〜5本あるため、各リンクにブッシュが存在します。すべてのブッシュを交換する場合、費用の目安は100,000〜200,000円とされています(車種によって異なります)。アーム・リンクをすべて新品でリフレッシュする場合は40万円以上になることも珍しくありません。痛いですね。


さらに厄介な点があります。マルチリンクは設計が悪いと一部のブッシュに負担が集中して劣化が早くなります。また、「ブッシュの単品供給がない車種」では、アームごとアッセンブリで交換しなければならないケースもあります。部品代が数倍に膨らむのが現実です。


ショックアブソーバーダンパー)については、一般的な交換目安は走行距離4万kmとされており、1本あたり2〜7万円(部品代+工賃)が相場です。4本全て交換すると8〜28万円程度になります。これは両形式ともほぼ同じと考えていいでしょう。


維持費の観点で言えば、マルチリンク車(特に欧州高級車)はメンテナンスサイクルを守って定期的に点検・交換していくことが大前提です。「足回りから異音がするけど少し様子を見よう」という行動をとると、劣化したブッシュが他の部品にもダメージを与えて修理費が倍増することもあります。異音に注意すれば大丈夫です。


自分の愛車がどちらのサスペンション形式かを把握したうえで、整備工場での点検時にサスペンション周りの状態も確認するよう習慣にしておくと、突然の高額出費を避けられます。


参考:サスペンションの交換費用・交換時期の目安
サスペンション交換時期や費用の目安を整備士が解説!|ガリバー


フロント・リアでサスペンション形式が異なる理由と代表的な組み合わせ

「フロントはダブルウィッシュボーン、リアはマルチリンク」という組み合わせを見たことはありませんか。これは偶然ではなく、明確な設計意図があります。


フロントサスペンションには、タイヤを左右に切る(ステアリング操作)機能も求められるため、動きの軌跡を精密にコントロールできるダブルウィッシュボーンが向いています。高い横剛性でブレーキング時やコーナリング入口のシャープな応答性を担保できる一方、操舵に対してもダイレクトな感触が得られます。これがスポーツカーや高性能セダンのフロントにダブルウィッシュボーンが好まれる理由です。


リアサスペンションには、後席の居住空間・トランクルームを確保しながら高性能を実現することが求められます。ここにダブルウィッシュボーンの大きなA字アームを配置しようとすると、後席の床面が大幅に削られてしまうのです。A字型の幅広いアームは横方向にスペースを取るため、室内の広さとトレードオフになります。


そこで登場するのがマルチリンクです。細いリンク棒の配置を3次元的に自由に決められるため、トランクの床下やホイールハウス周辺の限られたスペースにうまく収めることができます。結果として室内空間とサスペンション性能を高次元で両立できます。つまり「フロント=ダブルウィッシュボーン」「リア=マルチリンク」は理にかなった組み合わせということです。


実際にこの構成を採用している代表的な車種を見てみましょう。



  • 🚗 トヨタ クラウン(現行型):フロント ダブルウィッシュボーン / リア マルチリンク

  • 🚗 日産 スカイライン(V37型):フロント ダブルウィッシュボーン / リア マルチリンク

  • 🚗 日産 フェアレディZ(RZ34):フロント ダブルウィッシュボーン / リア マルチリンク

  • 🚗 ホンダ レジェンド:フロント ダブルウィッシュボーン / リア マルチリンク

  • 🚗 レクサス IS(現行):フロント ダブルウィッシュボーン / リア マルチリンク


一方、四輪ともにダブルウィッシュボーンを使う純粋なスポーツカーもあります。トヨタ スープラ(A80型)、ホンダ NSX(初代)、マツダ RX-7(FD型)などがその代表です。こういった車はトランクや後席の広さよりも走行性能を最優先にした設計思想から生まれています。これは使えそうです。


さらに、「言ったもん勝ち」と言われるほど両者の境界線が曖昧なケースも存在します。マルチリンクの一形態として3〜4本のリンクを持つものをダブルウィッシュボーンの変形と呼ぶメーカーもあり、呼称が必ずしも統一されているわけではありません。カタログの表記だけで判断するのではなく、実際の足回りの構造で確認することが大切です。


参考:ダブルウィッシュボーンとマルチリンクの見分け方・構造の違い
ダブルウィッシュボーンとマルチリンクの違いについて|Freedom


ダブルウィッシュボーンとマルチリンク、車選びで後悔しないための知識

サスペンション形式をカタログで見てどちらかを選ぼうとすること、実はあまり意味がありません。これが意外な落とし穴です。


理由は明確で、サスペンションの性能は「形式」よりも「チューニング・セッティング」の出来栄えが乗り心地に直結するからです。たとえばトーションビーム式(非独立懸架)であっても、メーカーが丁寧にセッティングを煮詰めた車は独立懸架の粗末な車より乗り心地が良くなることがあります。形式はあくまでも「性能ポテンシャルの器」に過ぎません。


それでも形式を知っておく実用的なメリットがあります。それは「維持費とメンテナンス計画の見通し」です。マルチリンクを採用している欧州高級車(メルセデス・ベンツ、BMW、レクサスなど)を中古で購入する際、ブッシュの劣化状態は必ずチェックすべき項目になります。走行距離が8万kmを超えた個体はブッシュ交換が近い、あるいはすでに必要な状態の可能性があります。交換費用が100,000〜200,000円になるとわかっていれば、購入価格の交渉材料にもなります。これは知ってると得します。


一方、ダブルウィッシュボーン搭載車(特に国産スポーツカー系)は、社外品のアーム類やブッシュが豊富に市場に出回っていることが多いです。ホンダ シビック(EK/EF系)やトヨタ クラウン系、日産 スカイライン系などは、カスタムパーツも豊富で、アライメント調整の自由度も高く、スポーツ走行向けにセッティングしたい方には有利です。


車を購入する前に「この車はフロント・リアに何式のサスペンションを採用しているか」「ブッシュの交換サイクルと費用の相場はどのくらいか」を調べておくのが賢い選択です。ディーラーや整備工場に問い合わせるか、車種専用のオーナーズフォーラム(みんカラなど)でオーナーの実体験を調べると具体的な情報が得られます。


また、中古車を検討するなら、購入前に第三者機関の車両検査(JAA・AIS検査など)を活用して足回りの状態を数値で確認する方法もあります。サスペンションの異常は「段差を乗り越えたときに底突き感がある」「コーナーでタイヤが外側に逃げる感覚がある」「直進中にステアリングが取られる」などの症状で現れることが多いです。これらに当てはまる車は注意が必要です。


結論は「形式よりもセッティングと状態を見ろ」です。サスペンション形式はあくまでも設計の道具であり、最終的な乗り味はメーカーの意図とメンテナンスの状態によって決まります。形式の名前にこだわりすぎず、実際に試乗して体感することと、購入後の維持費を現実的に見積もることのほうがはるかに重要です。



  • 🔍 試乗チェックポイント①:段差を乗り越えたときの突き上げ感・衝撃の収まり方を確認する

  • 🔍 試乗チェックポイント②:高速道路のレーンチェンジ時に車体がしっかり追随するかを確認する

  • 🔍 試乗チェックポイント③:コーナー出口でステアリングを戻したとき、ヌルっと自然に直進に戻るか確認する

  • 💴 維持費チェックポイント:走行距離8万km以上の個体はブッシュ交換費用(最大20万円超)を想定した予算計画を立てる


参考:サスペンション形式とセッティングの関係性について
結局どれがいい?多種多様なサスペンション形式がある理由とは|omoren.com




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