

ダウンサスに替えただけで車が突然フルバンプすることがあり、修理代が10万円を超えるケースも珍しくありません。
サスペンションのストローク量とは、ショックアブソーバー(ダンパー)が上下方向に動ける距離の総量のことです。具体的には、サスペンションが最も縮んだ状態(フルバンプ)から最も伸びた状態(フルリバウンド)までの幅を指します。この数値はミリメートル単位で管理され、街乗り一般車では概ね100〜150mm程度が標準的な設計値になっています。
ストローク量は縮み方向(バンプストローク)と伸び方向(リバウンドストローク)の2種類に分けて理解することが大切です。一般的なスポーツカーのセッティングでは、バンプストロークをリバウンドストロークよりも多めに取る設計が採用されており、バンプ60%・リバウンド40%の比率が目安とされています。これは路面の凸凹をサスペンション側が受け止めやすくするためで、車体の安定性に直結します。
ストローク量は乗り心地と操縦安定性の両方に影響します。ストローク量が長いほど路面追従性が高まり、柔らかい乗り心地を作りやすくなります。逆にストローク量を短くすると、バネレートが高い設定でも底突きせずに済むため、低車高を実現しやすいというメリットがあります。ただしその分、乗り心地は硬くなる傾向があります。
つまりストローク量は、乗り心地・車高・操縦安定性のすべてをつなぐ根幹の数値です。
ここで注意したいのが「有効ストローク」という概念です。ショックアブソーバー自体のストローク全長と、実際に安全に使用できる有効ストロークは別物です。有効ストロークはダンパー内部のバンプラバー(緩衝ゴム)の高さを差し引いた値で求められます。計算式は以下のとおりです。
| 計算項目 | 計算式 |
|---|---|
| 有効ストローク | ロッド長 - バンプラバーの高さ |
| バネのストローク | ホイールハブのストローク ÷ レバー比 |
| ホイールレート | バネレート ÷ レバー比² |
たとえばロッド長が170mm、バンプラバーの高さが20mmであれば、有効ストロークは150mmとなります。この数字を基準に、次の計算ステップへ進むことができます。
参考:サスペンションのストローク量の基礎知識(グーネット公式マガジン)
https://www.goo-net.com/magazine/carmaintenance/parts/215493/
実際にストローク量を計算するためには、車両重量・レバー比・走行Gの3つのデータを揃えることが第一歩です。この3要素が決まれば、必要なバネレートと必要なストローク量を数式で算出できます。
まず1輪あたりの静止荷重(1G荷重)を求めます。たとえば車両重量1000kg、前後重量バランスが50:50の場合、前軸重は500kgです。これを左右2輪で割ると、1輪あたりの静止荷重は250kgになります。次に、走行する環境での最大Gを掛け合わせます。街乗りでは最大0.5G〜0.7G程度、スポーツタイヤ使用のサーキット走行では最大1.0〜1.2Gに達することもあります。
次にレバー比を考慮します。レバー比とは、サスペンションアームの取り付け位置によって生じるテコの比率のことで、ストラット式では1.0、ダブルウィッシュボーン式では一般的に1.3〜1.5前後の値になります。レバー比がかかっているとバネに実際にかかる荷重はホイール側より大きくなるため、スプリングレートの計算にはレバー比の2乗を使います。
これが意外と見落とされがちな盲点です。
たとえばレバー比1.5のサスペンションで、ホイールに100kgの荷重がかかるとします。バネ側には100kg × 1.5 = 150kgの力がかかり、さらにストロークはホイールが動いた距離の1.5分の1しかバネは動きません。そのため、ホイールレートはバネレートをレバー比の2乗(1.5² = 2.25)で割った値になります。バネレート10kg/mmのスプリングを使っても、ホイール側から見たレートは約4.4kg/mmに低下するわけです。
具体的な例を挙げます。前軸重880kg・レバー比1.0(ストラット式)のインプレッサGRBで、サーキット最大横G1.7G、有効ストローク120mmの場合を計算してみます。
1輪の静止荷重は440kgf。最大荷重は440 × 1.7 = 748kgf。必要バネレートは748kgf ÷ 120mm ≒ 6.2kg/mm となります。これがサーキット走行で底突きしないための最低バネレートです。これで大体のイメージが掴めたでしょうか。
参考:バネレートの決め方と有効ストロークの求め方(廃車ドットコム)
https://www.hai-sya.com/column/banerate.html
ストローク量が足りない状態で走行を続けると、サスペンションが「底突き」と呼ばれる現象を起こします。底突きとは、ショックアブソーバーのストロークを使い切り、それ以上縮められない状態になることです。この瞬間、路面の衝撃は足回りではなく車体そのものに直接伝わります。骨太の硬い突き上げが起きる理由はここにあります。
底突きが起きると何が問題でしょうか。まず乗り心地が急激に悪化します。バンプラバーが当たった瞬間のバネレートは、通常のバネレートの何倍にも跳ね上がります。ある実験データによると、バンプラバーが10mm縮むだけで、実質的なバネレートが20kg/mm近くに達することが確認されています。これは一般的な街乗り車のバネレートの3〜4倍に相当する硬さで、ハンドルを取られたり、車体が跳ね上がったりする危険な挙動につながります。
厳しいところですね。
さらに深刻なのは、底突きによる部品ダメージです。ショックアブソーバー内部のピストンが底突きを繰り返すと、オイル漏れやロッドの曲がりが生じます。修理費用は1本あたり3万〜5万円、4本交換となれば12万〜20万円以上になることもあります。またリアサスペンションの伸びストロークが不足するとブレーキング時にリア荷重が乗らず、車体がスピンしやすくなるという安全上のリスクもあります。
ストローク不足はお金と安全の両方に直結する問題です。
特に注意したいのがダウンサスを純正ショックに組み合わせるケースです。ダウンサスはスプリングを短くすることで車高を下げますが、純正ショックのストローク全長は変わりません。つまり縮み側のストロークが大幅に短くなった状態で走行することになり、少しの段差でも底突きしやすい状況が生まれます。ダウンサスに交換する際は必ず対応ショックとセットで導入するか、ストローク量を事前に計算して安全性を確認してください。
参考:チューニングを楽しむための動的感性工学概論 §10(AUTO EXE)
https://www.autoexe.co.jp/kijima/column10.html
ストローク量の計算をするとき、多くのドライバーは「縮み側(バンプ)」だけに注目しがちです。しかし伸び側(リバウンド)のストローク量にも同等の注意を払う必要があります。これが見落とされがちなポイントのひとつです。
バンプストロークとリバウンドストロークのバランスについて説明します。一般的なセッティングでは、バンプ:リバウンド=6:4の比率が基本とされています。たとえば総ストローク量が100mmのショックなら、バンプ側60mm・リバウンド側40mmという配分が標準です。この比率は、路面の凸凹を吸収しながら車体姿勢の乱れも抑えるためのバランスを考慮した設計です。
| 走行シーン | 推奨バンプ比率 | 推奨リバウンド比率 |
|---|---|---|
| 街乗り重視 | 55〜60% | 40〜45% |
| スポーツ走行 | 60〜65% | 35〜40% |
リアのリバウンドストロークが不足すると、ブレーキング時に後輪の接地荷重が低下し、車体後部が浮き気味になります。このとき後輪のグリップが失われやすく、リアがスライドするオーバーステア傾向が出やすくなります。コーナーでブレーキを踏んだ瞬間にリアが流れる経験がある方は、リバウンドストロークの不足が原因のひとつとして疑う価値があります。
プリロード(スプリングへの予荷重)もストローク量に影響します。プリロードを掛けると、その分だけリバウンドストロークが実質的に短くなります。たとえば10kg/mmのバネに5mmのプリロードを掛けると、0G状態でバネにはすでに50kgfの力がかかっています。これにより伸び側ストロークのマージンが削られ、タイヤが路面から離れやすくなります。プリロードは原則ゼロが基本です。
プリロードゼロが条件です。
ストローク量の配分を設計する際には、①総ストローク量の確認、②バンプ・リバウンドの比率設定、③プリロードの影響確認の3ステップで整理することをおすすめします。足回りのセッティングで悩んでいる方は、カシオの計算サイトに用意されたサスペンションストロークシミュレーション(ベータ版)を活用すると、前後重量・バネレート・レバー比を入力するだけで1G荷重時のストローク量を視覚化できます。
参考:サスペンションストロークシミュレーション(CASIO計算サイト)
https://keisan.casio.jp/exec/user/1652765956
街乗りでは問題ないサスペンションセッティングが、サーキット走行ではまったく機能しないことがあります。その主な原因が「想定Gの違い」です。街乗りでの最大G加速度は0.5〜0.7G程度ですが、ハイグリップタイヤを使ったサーキット走行では最大2.2G近い荷重がサスペンションにかかることがあります。これはタイヤのグリップによる縦・横G(最大1.2G程度)に、1Gの静止荷重を足した合計値です。
2.2Gというと、大ざっぱに言えば自分の体重が2倍以上になる加速度です。70kgの人が154kgになった感覚と同じで、サスペンションにかかる負荷の増大がイメージしやすくなります。
実例で確認しましょう。前軸重500kg・後軸重300kgの車両(軽自動車やコンパクトカー相当)でフロント5kg/mm・リア3kg/mmのバネを使い、ショックの許容ストロークが前100mm・後120mmだったとします。1G静止時のバネ変位は以下のとおりです。
街乗りではここに最大0.5Gが追加されるため、前75mm・後108mmの変位となり、ショックのストローク内に収まります。これなら問題ありません。
ところがサーキットで2.2Gが加わると計算が変わります。
この状態でサーキット走行を続けると、コーナリング中に突然ショックが底突きして車体が跳ね上がります。これは市販の車高調の「吊るし(標準付属)」バネのまま本格的なサーキット走行をした場合に起こりうる実際のリスクです。底突き回避のためには、2.2G時のストローク変位が許容ストロークの80%程度以内に収まるようバネレートを設定し直す必要があります。計算結果の目安として、前7.5kg/mm・後6.5kg/mm程度のバネレートが必要になります。
参考:車高調セッティングマニュアル(電気通信大学自動車部)
http://www.uecac.club.uec.ac.jp/sus_settings.php
ストローク量の計算は、サーキット走行やドレスアップだけの話ではありません。実は、日常的な車検や公道走行の安全基準とも密接に関係しています。ここは検索上位の記事ではほとんど触れられていない視点です。
車高を下げすぎてストローク量が大幅に不足した状態は、車検において「保安基準不適合」になる可能性があります。具体的には、フェンダーとタイヤが干渉したり(タイヤはみ出し)、車体が縁石や段差で底擦りして損傷したりするリスクがあります。ローダウン量の目安として、国産メーカー系サスペンションメーカーのTEINは「純正より30〜40mmダウンに抑えることを推奨する」と明言しており、これを超えるローダウンはストロークが不足してフェンダーとの干渉リスクが高まると説明しています。
これは使えそうです。
また、ストローク量不足でバンプラバーを多用した走行を続けると、タイヤのトー角やキャンバー角(アライメント)が急激に変化します。直進安定性が損なわれた状態での高速走行は、追突事故につながるリスクがあります。車高調や社外サスペンションを取り付けた後は、アライメント調整が必須とされる理由のひとつがここにあります。アライメント調整の費用は1回あたり1万5000〜3万円程度ですが、調整しないまま走り続けてタイヤが偏摩耗した場合、タイヤ4本交換で5万〜10万円の出費になることもあります。
ストローク量の計算はプロの整備士やレーシングドライバーだけの話ではなく、日常的に車高を下げているすべてのドライバーに関係する知識です。自分の車のショックアブソーバーのストローク値・レバー比・車両重量は車検証とメーカーのスペックシートで確認できます。難しい機材はいらず、スマートフォンの計算アプリとこの記事の計算式だけで、底突きのリスクを事前にチェックすることが可能です。
参考:車高調整・設定に関するFAQ(TEIN公式サイト)
https://www.tein.co.jp/question/settei.html

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