

バネレートを上げたのに、車高が下がるどころか30mm以上も上がってしまい、乗り心地だけが悪化するケースが実際に報告されています。
スプリングレートとは、スプリング(バネ)を1mm縮めるのに必要な力を表す数値です。単位は「kgf/mm」または「N/mm」で表記されます。数値が大きいほど硬いスプリング、小さいほど柔らかいスプリングということになります。
計算の出発点は「1輪にかかる荷重」を正確に把握することです。よく誤解されるのが、車両重量を単純に4で割った値をそのまま使うやり方です。車の前後重量バランスは均等ではありませんので、車検証に記載された「軸重(前輪・後輪それぞれにかかる荷重)」をベースにするのが正しい手順になります。
たとえば、車両重量1,000kgで前後バランスが50:50の車なら、前後それぞれ500kgf。さらに左右で割ると1輪あたり250kgfです。ところがフロントエンジン車の多くは前側に重心が寄っているため、実際に前輪1輪にかかる荷重は300〜400kgfに達するケースも珍しくありません。この数値がずれると、その後の計算がすべてズレてしまいます。
1輪荷重が求まったら、次はスプリングレートの基本式です。
$$スプリングレート(kgf/mm)= \frac{1輪荷重(kgf)}{目標沈み量(mm)}$$
たとえば、1輪荷重350kgfの車で1Gのときに50mm沈ませたい場合は、350÷50=7kgf/mmが必要なスプリングレートとなります。これがサーキット走行用GR86のフロント側の計算例としても実際に使われている数値です。
つまり軸重が基本です。計算前に必ず車検証を確認しましょう。
【参考:goo-net】車高調バネレートと車高の関係についての解説(具体的な設定目安とその影響)
スプリングレートの計算において、最も見落とされがちな要素が「レバー比」です。これを無視したまま計算すると、実際のホイール動作とスプリングの硬さが大きく食い違うことになります。
レバー比とは、ロアアームの付け根(支点)からショックアブソーバー取り付け点(作用点)までの距離と、支点からナックル(力点)までの距離の比率です。テコの原理と全く同じ構造で、力の伝わり方が変わります。
サスペンション形式によるレバー比の目安は下記の通りです。
| サスペンション形式 | レバー比の目安 |
|---|---|
| ストラット | 約1.0(ほぼ1対1) |
| ダブルウィッシュボーン | 約1.3〜1.7 |
| マルチリンク | 車種によって異なる |
ここで重要なのが「レバー比の2乗」です。スプリングレートをホイールレートに換算するには、以下の式を使います。
$$ホイールレート = \frac{スプリングレート}{レバー比^2}$$
逆に、必要なスプリングレートをホイールレートから求めるには次の式になります。
$$スプリングレート = ホイールレート \times レバー比^2$$
これは直感に反する部分です。たとえばレバー比が1.5のサスペンションで、必要なスプリングレートを計算する際に1.5を1回だけかける人が多いのですが、それは誤りです。1.5の2乗=2.25をかけなければなりません。
具体的に数値で確かめましょう。ロードスターのリア側でレバー比1.1の場合、1輪ホイールレートが325kgfだとすると、必要なスプリング荷重は325×1.1×1.1=393kgfです。レバー比を1回しかかけなかった場合は357kgfとなり、同じ荷重でも35kg以上の誤差が出てしまいます。
レバー比の2乗が原則です。サスペンション形式の確認を忘れずに。
【参考:廃車ドットコム】レバー比を使ったバネレートの決め方(ストラット・ダブルウィッシュボーンそれぞれの計算事例)
実際にスプリングレートを計算する場合、以下の3つの要素を順番に確定させていく流れになります。
① 1輪にかかる最大荷重を求める
まず、車検証の軸重から1輪あたりの静止荷重(1G状態)を算出します。次に、走行時にかかる最大横G・縦Gを考慮して最大荷重を計算します。街乗り中心なら横G約0.5G、サーキット走行なら1.3〜1.7G程度が目安です。
たとえばインプレッサGRBの場合、前軸重880kg、1輪440kgf、サーキットでの最大G=1.7Gとすると、1輪の最大荷重は440×1.7=748kgfです(ストラット式なのでレバー比はフロント1.0)。
② バンプストローク(有効ストローク)を確認する
ショックアブソーバーのロッド長からバンプラバーの高さを引いた値が「有効ストローク」です。この数値がバネの使用可能ストロークの上限になります。インプレッサGRBの例では有効ストローク120mmを採用します。
③ 必要なスプリングレートを計算する
$$スプリングレート = \frac{最大荷重(kgf)}{有効ストローク(mm)}$$
748kgf ÷ 120mm = 約6.2kgf/mm
ただしこれはあくまで理論上の最低ラインです。実際には全ストロークを使い切ることはなく、サーキット走行では使用ストローク50mm程度に絞って計算するケースも多いです。その場合は748÷50=約15kgf/mmとなり、街乗り仕様と比べてもスプリングレートが大きく変わることがわかります。これは使えそうです。
用途に合わせた計算が条件です。公道とサーキットでは必要なスプリングレートがまるで異なります。
【参考:note(SSE Shippou Sim Engineering)】GR86を例にしたバネレート計算の具体的な手順と前後レート設定
多くの人が見落としているのは、スプリングレートを変えると「乗り心地だけでなく車高も変わる」という点です。乗り心地改善のためにバネを交換したら、思わぬ車高変化が生じて困惑するケースが後を絶ちません。
実際の実験データを見てみましょう。30プリウスで自由長170mmのバネを使い、バネレートだけを変えた時の車高(フェンダーアーチ高)の変化です。
| バネレート | フェンダーアーチ高 | 差 |
|---|---|---|
| 5K(kgf/mm) | 573mm | 基準 |
| 8K(kgf/mm) | 596mm | +23mm |
| 10K(kgf/mm) | 603mm | +30mm |
バネレートを5Kから10Kへ(2倍に)上げると、車高が約30mmも上がります。たった5kgf/mmの差が、指3本分(30mm)の高さ変化を生み出すわけです。逆に、バネレートを下げれば同じだけ車高も下がります。
これがどんな失敗につながるかというと——「乗り心地改善のためにバネレートを下げたら、予想以上に車高も下がってしまい線間密着を起こした」というパターン。あるいは「車高を下げたくて硬いバネ(20kgf/mm)に交換したら、バネが縮みにくくなって逆に車高が上がった」というパターンです。バネレートを上げると車重でバネが縮む量が減るため、短いバネを入れても効果が打ち消されてしまいます。
こういった状況で注意が必要なのが「有効ストローク計算との連動」です。バネレートを変更する際は、必ずセット長(バネが実際に使用される長さ)と有効ストロークの余裕を同時に確認することが求められます。計算式で目標のバネレートを出したとしても、車高調のストローク調整幅が残っていなければ意味がありません。
バネレートと車高は連動するということですね。どちらか一方だけを見て決めると後悔しやすいです。
【参考:DIYラボ】バネレート変更で車高がどう変化するかを実車実験した詳細レポート
車高調のセッティングを突き詰めていくと、「ヘルパースプリング(アシストスプリング)」や「デュアルスプリング(ツインスプリング)」という構成に出会うことがあります。この場合に必要になるのが「合成バネレート」の計算です。
主スプリングとヘルパースプリングを直列に並べると、合成バネレートは次の式で求められます。
$$合成バネレート = \frac{K_1 \times K_2}{K_1 + K_2}$$
たとえば主スプリングが10kgf/mm、ヘルパースプリングが2kgf/mmの場合は次のようになります。
$$合成バネレート = \frac{10 \times 2}{10 + 2} = \frac{20}{12} \approx 1.67 \text{ kgf/mm}$$
この数値は、どちらのスプリング単体よりもずっと柔らかくなります。ヘルパーを加えることで、ストローク初期のレートが大幅に下がり、低速域での路面追従性が上がる効果があるわけです。
ただし、重要な注意点があります。ヘルパースプリングは荷重がかかって密着(線間密着)した後は機能しなくなるため、その時点から主スプリング単体のレートが作用します。つまり「密着前のレート」と「密着後のレート」が別々に存在することになります。これを理解せずにセッティングすると、乗り心地の「突然の硬さの変化」を感じることになります。厳しいところですね。
また、スプリングを並列(横に2本並べる)にした場合は計算が逆になり、合成バネレートは個々のレートの合計になります。
$$並列合成バネレート = K_1 + K_2$$
直列は「積÷和」、並列は「足し算」、この違いだけ覚えておけばOKです。
【参考:SPL(Spring Professional Lab.)】合成バネレートを自動計算できるツールと計算式の解説
スプリングレートの計算を正しく行っても、ダンパー(ショックアブソーバー)とのバランスが取れていなければ走りは安定しません。ここはあまり語られない部分ですが、実は多くの失敗の根本原因になっているポイントです。
「スプリングを硬くすれば安定する」と思っている人は多いですが、スプリングを硬くしすぎてダンパーが対応できなくなると、逆に車体が跳ねるような動きになります。これはバネが素早く縮もうとするのに、ダンパーがその動きを吸収しきれない状態です。ちょうど、強いバネで跳ね返すボールのような動きをイメージしてください。
ダンパーとのバランスを考えるうえで目安になるのが「固有振動数(Sprung Frequency)」という概念です。スプリングレートが決まれば、バネ上質量(車重のうちサスペンションより上の部分)との関係で固有振動数を計算できます。
$$固有振動数(Hz)= \frac{1}{2\pi} \sqrt{\frac{ホイールレート \times 9.8}{バネ上質量}}$$
一般的な乗用車のストリート仕様では1〜2Hz程度、スポーツ走行では2〜3Hz以上を目指すことが多いです。この数値を念頭に置いてスプリングレートを計算すると、ダンパーの減衰力設定との整合性がとりやすくなります。
もうひとつ意外な視点があります。市販の車高調の中には、吊るし状態のまま使うと1.3G以上の横Gに耐えられないスペックのものが存在します。街乗りでは問題ないことが多いですが、マンホールや段差で予期せず大きな衝撃がかかった場合、バンプラバーに荷重が移ってしまい、その時点で20kgf/mm近い急激なバネレート上昇が発生します。これが「突然ガツンとくる」という感覚の正体です。
スプリングレートの計算は「バネ単体」で考えるだけでは不十分なのです。ダンパーの調整幅、バンプラバーの硬さ・長さ、そしてプリロードの設定量(目安は5〜10mm)まで含めてトータルで考えることが、理想のセッティングへの近道になります。
足回りで悩んでいる場合、スプリング交換前に信頼できるショップで現状のセッティングを診てもらうことも選択肢のひとつです。スプリング本体の交換費用の相場は1本あたり2万〜5万円、工賃込みで4〜9万円程度が目安になります。計算だけで進めて失敗するよりも、プロに一度確認してもらう方が結果的に余分な出費を防げることも多いです。
【参考:AutoExe(貴島洋一郎コラム)】スプリングレートの求め方と固有振動数の考え方を含む動的セッティング解説

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