

計算がピッタリ合っていても、ホイールがフェンダーからはみ出して30万円以下の罰金が科せられることがあります。
ツライチとは、フェンダー(ホイールアーチ)の外側ラインとホイールのリム面がほぼ同一平面に揃った状態のことです。足元が引き締まって見え、ワイド感や迫力が増すため、ドレスアップカスタムとして長年人気を集めています。
ツライチを計算で狙うには、まず2つの数値を理解しておく必要があります。それが「オフセット(インセット)」と「リム幅(J数)」です。
オフセット(インセット)とは何か?
オフセットとは、ホイールの取り付け面がホイール幅の中心からどれだけ外側(または内側)にずれているかを示すミリ単位の数値です。現在は「インセット」という呼称が正式ですが、業界ではまだ「オフセット」と呼ばれる場面も多く、本記事では両方の表記を使用します。
ホイールのリム裏側や商品スペック欄に「17×7.0J +53」のように表記されている場合、「+53」がオフセット(インセット)です。この数値が下がるほど(例:+53 → +30)、ホイールが外側に出てくる仕組みです。大切なのは「オフセットの数値が1下がると、ホイールが1mm外側にズレる」という関係性です。はがきの横幅(10cm)を1mm刻みで調整するようなイメージです。
リム幅(J数)とは何か?
リム幅はホイールの横幅(太さ)を示す数値で、1J=25.4mmと定義されています。「7J」「9J」のように表記されます。重要なのは、リム幅を1J増やすと、ホイールは外側と内側の両方に半分ずつ広がるという点です。つまり1Jアップで外側に出るのは「12.7mm」だけです。これを間違えると計算が大きくズレる原因になります。
つまり計算の基本はシンプルです。
| 要素 | 変化量 | 外側への影響 |
|---|---|---|
| オフセットを1下げる | 1mm | 1mm 外側へ出る |
| リム幅を1J増やす | 25.4mm(全体) | 12.7mm 外側へ出る |
| スペーサー 5mm装着 | 5mm | 5mm 外側へ出る |
この2つの組み合わせがツライチ計算の出発点です。
計算は正確です。ただし、正確な計算をするには「現在のホイールがどのくらい引っ込んでいるか」という基準値が必要です。この数値なしに計算だけ先行させると、購入後に「思ったよりズレた」「干渉した」というトラブルになります。
ステップ1:現在のホイールサイズを確認する
ホイールのリム裏側か、タイヤ館やイエローハットなどの店頭で確認できます。「17×7.0J +53」のように表記されている場合、リム幅が「7.0J」、オフセット(インセット)が「+53」です。純正ホイールでも、同様にサイズが刻印されています。
ステップ2:フェンダーからの引っ込み量を糸で測る
特殊工具は不要です。用意するのは「糸とオモリ」だけで十分です。フェンダーアーチの一番外側の頂点からオモリ付きの糸を垂らし、リムの頂点から糸までの距離をスケールで計測します。この数値が「今のホイールがフェンダーラインから何mm引っ込んでいるか」の基準値になります。
たとえば計測値が「20mm」だった場合、あと20mm外側に出せばツライチになる計算です。
ステップ3:新しいホイールの出面を計算する
計算式の流れは次の通りです。
$$\text{新オフセット} = \text{純正オフセット} - \left(\text{引っ込み量} - \frac{(\text{新J数} - \text{純正J数}) \times 25.4}{2}\right)$$
実際の市販品のオフセット設定は1mm単位でピッタリ揃わないことも多いため、「計算上の理想値に最も近いホイールを選ぶ」のが現実的な考え方です。
ステップ4:内側の干渉も必ずチェックする
外側ばかりに目が行きがちですが、リム幅を増やすと内側(サスペンション・ショックアブソーバー方向)にもホイールが広がります。内側の余裕も計測しておくことが不可欠です。余裕を確認せずにリム幅だけ増やすと、走行中にショックやブレーキキャリパーに干渉してしまいます。内側の干渉確認が条件です。
計算した通りのホイールを購入して取り付けた結果、「ほんの少しはみ出した」「逆に引っ込み過ぎた」というケースが実際には多くあります。これは計算が間違っているのではなく、現物に特有の誤差が重なる結果です。
原因① タイヤの銘柄ごとに膨らみが異なる
同じタイヤサイズ(例:225/45R18)でも、銘柄によってサイドウォールの膨らみ方が数mm〜10mm以上変わることがあります。リムガードが大きく張り出すデザインのタイヤは「ホイールのリムより外側に出る」ため、計算通りにホイール位置を合わせても、タイヤが数mm飛び出てしまいます。
これは意外ですね。同じ「225/45R18」という表記のタイヤでも、国産スポーツ系と輸入バジェット系では実測で5〜8mm程度の差が生じることが確認されています。ツライチを狙うなら「タイヤの銘柄と膨らみの実績」を事前にショップで確認するのが確実です。
原因② 車体の個体差・左右差
同じサイズのホイールを左右に取り付けても、「右はツライチなのに左は5mm引っ込んでいる」というケースがあります。これは製造段階での車体の個体差やボディの微妙なゆがみが原因で、ホイール側の問題ではありません。
プロショップ「J-LINE」のアドバイザーによれば、「1〜2mmのツライチ左右差であれば車の構造的に仕方ない範囲」とのことです。3〜5mm以上の差がある場合は、車高調の取り付け角度(キャンバー角)や調整式アッパーマウントの状態を確認する価値があります。特にトーションビーム式サスペンションを採用したリアまわりでは、ラテラルロッドに相当する突っかえ棒がなく横方向のブレが大きいため、3〜4mmの左右差は許容範囲と割り切ることも必要です。
原因③ ローダウンとの組み合わせ
車高を下げると、フェンダーとタイヤの距離が縮まります。当然、計算上ではフェンダー内に収まるはずのホイールが、バンプ(段差通過時の足の縮み)で干渉することがあります。ツライチ+ローダウンの組み合わせは計算の難易度が一気に上がります。初心者ほど「計算値より2〜3mm内側」に余裕を持ったサイズを選ぶのが安全な考え方です。
「ツライチにしたら車検に通らないのでは?」という心配を持つ方が多くいますが、正確な理解をしておくことが重要です。
2017年の保安基準改正で変わったこと
2017年6月の道路運送車両の保安基準改正により、「最外側がタイヤとなる部分の10mm未満の突出」は「はみ出していないもの」とみなされるようになりました。つまり、タイヤのサイドウォール部分に限り、10mm未満のはみ出しは車検でOKになったのです。
ただし、ホイールのリム・スポーク・ホイールナット・ホイールキャップ部分はこの緩和対象外です。ホイールがわずかでもフェンダーの垂直面より外側に出ていると、即アウトになります。これが最も多い誤解のポイントです。
| 部位 | はみ出し許容量 | 備考 |
|---|---|---|
| タイヤ(サイドウォール) | 10mm 未満まで OK | 2017年改正で緩和 |
| ホイール(リム・スポーク) | 0mm(一切NG) | 改正の対象外 |
| ホイールナット・キャップ | 0mm(一切NG) | 改正の対象外 |
保安基準違反になった場合の法的リスク
ホイールがフェンダーからはみ出した状態での走行は、道路運送車両法第62条「整備不良車両の運転の禁止」に抵触します。違反した場合は6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科せられる可能性があります。「ちょっとくらいはみ出しても大丈夫」という感覚は非常に危険です。これは見逃せませんね。
車検時の測定角度範囲
保安基準の測定はホイールの中心鉛直線を基準に、前方30度・後方50度の扇形の範囲内で行われます。この範囲でフェンダーの鉛直面内に収まっていれば問題ありません。ツライチであっても、この範囲内に収まる状態なら車検は通過できます。
外側に出るか出ないかの境界線を知っていれば、安心してカスタムを楽しめます。
ホイールとタイヤのはみ出し基準を正確に理解したい場合は、国土交通省の保安基準解説を合わせて確認することをお勧めします。
タイヤのはみ出しに関する保安基準改正の詳細解説(DIYラボ)- 2017年改正内容の正確な解釈と誤解しやすいポイントを専門家が解説
ホイールを交換しても「あと3〜5mm外に出したい」という場面は多くあります。このような微調整に使われるのがホイールスペーサーです。ただし、スペーサーにはいくつかの注意点があります。スペーサーの選び方を間違えると、走行中のホイール脱落という大きなリスクにつながるため、慎重さが必要です。
スペーサーの種類と選び方
ホイールスペーサーには大きく2種類あります。
スペーサー使用時の具体的な注意点
一般的に6mm以上の薄型スペーサーを使う場合は、純正のハブボルトの出しろが不足するため、ロングハブボルトへの交換が必要になります。ハブボルトへのナットのかかり代は最低でも「ボルト径×1倍以上」が安全の目安とされています(M12ボルトであれば12mm以上)。
15mm以上のワイドトレッドスペーサーを使う場合は、車検での問題が生じやすく、整備現場の経験者によれば「何の対策もなしに車検に通ることはほぼない」という声もあります。
スペーサーを使う場合のリスクとしては「ホイール脱落による車外放出」という事故リスクがあります。微調整に使う場合は3〜5mmの薄型スペーサーにとどめ、それ以上の調整が必要な場合はオフセット値の異なるホイール選び直しを検討するのが原則です。
スペーサーを検討する前に「今のホイールで出面の計算を見直す」一手を取るのが安心です。
スペーサー選びで迷った場合は、専門のタイヤ・ホイール店に現車を持ち込んで確認してもらうことを強くお勧めします。
ワイドトレッドスペーサーは車検に通る?取り付け時の注意点(DIYラボ)- 車検適合条件・装着時のリスク・注意点をプロが詳しく解説
ツライチを目指す人の多くが陥りやすい失敗のパターンがあります。ここでは具体的な失敗例を整理しつつ、見落とされがちな「攻めすぎた場合の金銭的コスト」について触れておきます。これは他の記事ではあまり取り上げられない視点です。
失敗例① 計算値ピッタリのサイズを購入してタイヤが干渉した
「計算通りのオフセットでツライチになるはずなのに、走行中にフェンダーを擦る」という失敗は特に多いです。原因は「走行中の足の動き(バンプ・フルバンプ)」の考慮漏れです。停車状態でギリギリのサイズは、走行中のバンプ時に数mmタイヤが上方向・外側方向に動くため干渉が起こります。プロの間では「計算値よりも3〜5mm内側に余裕を持つ」のが鉄則とされています。余裕3〜5mmが条件です。
失敗例② ホイール交換後に車検で不合格になった
「ツライチが実現できたと思ったら、車検でホイールがはみ出していると指摘された」というケースです。多いのは「タイヤではなくリムが外側に出ていた」場合です。前述の通り、2017年改正はタイヤ(サイドウォール)の10mm未満のみが対象で、ホイールのはみ出しは旧来の基準と同じく一切NGです。この誤解による再検査・整備費用の発生は損害になります。
失敗例③ 前後で同じサイズのホイールを選んだ結果、前輪がハンドル切り込み時に干渉した
リアがツライチでも、フロントはハンドルを切るために余裕が必要です。フロントは「ハンドル全切り時の軌跡」にタイヤが収まるかが最優先の判断基準になります。前後同じサイズで揃えたいという気持ちは理解できますが、フロントは少し引っ込んだオフセット(やや大きめの数値)を選ぶのが安全策です。
「攻めすぎ」が生み出す本当のコスト
ツライチを攻め過ぎると、次のような費用が連鎖的に発生することがあります。
見た目のために数万円の追加出費が発生するケースは珍しくありません。「少し攻めすぎた1回の選択」が、累計で3〜5万円規模のコストになることがあります。ツライチは丁寧な計算と「攻めすぎないマージン」で最もコスパよく仕上がります。
これは使えそうです。計算の精度と余裕幅を両立させることが、結果的に一番コストが低く、見た目のクオリティも高くなる正解と言えます。
ツライチのオフセット計算をオンラインで手軽に確認したい場合は、以下のようなツールを利用すると便利です。
ホイールオフセット計算機(wheel-calc.com)- 現在のホイールと交換後のホイールの出面変化を自動計算できる無料ツール