

コトコト音が止まったからといって、安心してはいけません。音が消えたのは「直った」のではなく「最終警告ラインを過ぎたサイン」の可能性があります。
アッパーマウントとは、ショックアブソーバー(ダンパー)の上端と車体(ボディ)をつないでいるパーツです。内部にはゴムが組み込まれており、路面からサスペンションに伝わる衝撃・振動・ねじれを吸収するクッションの役割を果たしています。ストラット式サスペンションを採用している車(国産コンパクトカーや軽自動車の多くがこのタイプ)では、ハンドルを切るたびにアッパーマウントが回転軸になるため、特に負荷がかかりやすい部品です。
コトコト・コンコンという異音は、このゴムが劣化して弾性を失ったり、内蔵ベアリングが摩耗したりすることで発生します。ゴムが硬化・亀裂すると、衝撃を吸収できずに「遊び」が生まれ、金属同士がわずかに当たって音が出るのです。段差を乗り越えるたびにコトコトと聞こえるのは、まさにこの「遊び」が音になっている状態です。つまり、あの音は部品が正常に機能していないことを車が知らせているサインです。
アッパーマウントの構成は大きく分けて「ゴムブッシュタイプ」と「ピロボールタイプ」の2種類があります。
自分の車がどちらのタイプかを確認することが、まず最初のステップです。
参考:アッパーマウントの役割・構造と交換のポイントについて詳しく解説されています。
グーネット|アッパーマウントから「コトコト」「ギシギシ」と異音がする原因と対処法
「なぜコトコト鳴るのか」は、一つの原因とは限りません。実際の整備現場では、複数の要因が重なっているケースも多く報告されています。以下の4つが特に頻出する原因です。
| 原因 | 音が出やすいタイミング | 目安の修理費用 |
|---|---|---|
| アッパーマウントのゴム劣化 | 段差・カーブ・発進時 | 1か所14,000〜20,000円 |
| アッパーベアリングの摩耗 | 低速でハンドルを切るとき | 部品代+工賃で1か所10,000〜25,000円 |
| 取り付けボルト・ナットの緩み | 走行中・段差通過時(常時) | 増し締めで0〜数千円 |
| スプリングとシートの擦れ | 乗降時・段差通過後 | グリスアップで数千円程度 |
①ゴムブッシュの劣化は最も多い原因です。ゴムは紫外線・熱・走行振動にさらされ続けるため、新車登録から10年・走行距離10万kmを超えると一気に劣化スピードが上がります。目視でひび割れや変形が確認できる場合は、すでにかなり進行しています。
②アッパーベアリングの摩耗は、特にストラット式サスペンションで起きやすいパターンです。ベアリングはハンドル操作のたびに回転するため、走行距離が伸びると内部のグリスが枯れて金属同士が擦れ、コトコトという音を発します。低速でゆっくりハンドルを切ると特に音がはっきり聞こえるなら、このパターンが濃厚です。これが基本です。
③ボルト・ナットの緩みは、比較的シンプルな原因ながら見落とされがちです。増し締めだけで音が消えることもありますが、なぜ緩んだかの原因究明も必要です。
④スプリングとスプリングシートの擦れは、錆や汚れが付着した箇所でスプリングが動くたびに音が出るケースで、グリスアップや清掃で改善することもあります。これは使えそうです。
ただし、「コトコト」という音が必ずしもアッパーマウントのみとは限りません。スタビライザーリンクのブッシュ劣化やタイロッドエンドの摩耗も、似た音の原因になりえます。音が出るタイミングや場所をできるだけ具体的に整備士に伝えることが、正確な診断の近道です。
参考:足回りの異音パターンと各修理費用を一覧で確認できます。
ハイシャル|足回りから異音がするのはヤバい?7つの原因と修理費用を整備士が解説
「たまに鳴るだけだから大丈夫」と放置するドライバーは少なくありません。しかし、放置によるリスクは時間とともに段階的に大きくなっていきます。
【第1段階】乗り心地の悪化・タイヤの偏摩耗(放置初期)
アッパーマウントが正常に機能しなくなると、サスペンションが本来の位置から微妙にずれます。すると、アライメント(タイヤの向き・角度)が狂い始め、タイヤが一部分だけ偏って摩耗します。タイヤが偏摩耗すると、新品タイヤ(1本あたり7,000〜30,000円)の寿命が大幅に短くなります。しわ寄せが他の部品へ広がっていきます。
【第2段階】ショックアブソーバーへの二次ダメージ(放置中期)
アッパーマウントが異常な状態のままショックアブソーバーに衝撃が伝わり続けると、ショックアブソーバー自体にも負荷がかかります。ショックアブソーバーの交換費用は1本あたり20,000〜40,000円です。アッパーマウントの修理費用(1か所14,000〜20,000円)と比べると、放置するほど出費が増えるのがわかります。痛いですね。
【第3段階】走行不能・車検不合格(放置末期)
最も深刻な段階では、アッパーマウントのゴムが完全に崩壊し、サスペンションと車体の接続が不安定になります。その結果、直進走行が難しくなったり、最悪の場合は走行中に足回りが破損して動けなくなるリスクがあります。また、足回りに著しい劣化があると車検も通りません。つまり、修理しないまま車検を迎えれば、確実に追加出費が発生します。
特に注意したいのが「音が突然消えた」ケースです。コトコト音が自然に止まったからといって直ったわけではなく、劣化がさらに進んで部品同士が完全に密着・固着したり、逆にガタが大きくなりすぎて別の当たり方をしているだけのことがあります。音が消えたときこそ、すぐに整備工場で点検を受けてください。
参考:放置がもたらすリスクと修理費用の実例を詳しく確認できます。
タウ|足回りの異音の正体はコイツ!9種のパターンでわかる原因と修理費用
アッパーマウントの交換を検討する際に、まず知っておきたいのが費用の全体像です。
ここで多くのドライバーが考えるのが「音が鳴っている1か所だけ交換して費用を安く抑えたい」という判断です。しかし、整備の専門家はこれを口をそろえて「避けるべき」と言います。
理由は明確です。左右のアッパーマウントは同じ走行環境・同じ年数・同じ振動にさらされてきたため、劣化の進行度は両側でほぼ同じだからです。片側だけ新品にすると、左右で振動吸収性能に差が生まれ、車体がバランスを崩します。このバランスの崩れが、タイヤや他のサスペンション部品にさらなる負担をかけ、かえって修理費用が膨らむ悪循環に陥ることがあります。左右同時交換が原則です。
また、車高調(社外サスペンション)を装着している車では、アッパーマウントにピロボールタイプが使われているケースがあります。ピロボールは乗り心地よりも操縦性を優先した部品で、金属製のため定期的なグリスアップが不可欠です。グリスが切れると激しいコトコト音や、ガリガリという金属音が発生することがあります。競技使用・スポーツ走行が多い車は、走行距離に関わらず約1年ごとの点検が推奨されています。これは必須です。
費用を少しでも抑えたい場合は、以下の3つの方法が有効です。まず、ディーラーではなく一般の整備工場(認証工場・指定整備工場)に依頼すること。工賃がディーラーより安くなる傾向があります。次に、中古パーツやリビルトパーツの使用を相談すること。部品代を新品の半額程度に抑えられる場合があります。そして、複数の整備工場から相見積もりを取ること。同じ作業でも工場によって数千円から数万円の差が出ることがあります。
参考:左右同時交換が重要な理由を詳しく解説しています。
整備工場に持ち込む前に、ドライバー自身でアッパーマウントの異常を疑えるかどうかは、早期発見・早期修理に直結します。実は、いくつかの簡単なチェック方法があることはあまり知られていません。意外ですね。
🚗 走行中のセルフチェック:「音が出るタイミング」で原因を絞る
🔍 停車中の目視チェック:ボンネットを開けて確認する
ボンネットを開けてエンジンルームを覗くと、左右のフロントショックアブソーバーの上部にアッパーマウントが見えます。ゴムブッシュに目立つひび割れ・変形・剥離がないかを確認してください。また、取り付けボルトに緩みや錆の付着がないかも併せて確認できます。リアの場合はトランクルームの内張りを外すか、車種によってはリアシートを倒すと確認できる車もあります。
📅 交換時期の目安を数字で把握しておく
「まだ大丈夫だろう」という感覚的な判断が、結果的に高額修理につながるケースは多いです。以下の数字を基準に、早めに点検を依頼することが重要です。
10万kmを超えているにもかかわらず「異音がないから問題ない」と思っているドライバーは、実は内部劣化が静かに進行している可能性があります。ゴムは外から見えない内側から劣化することもあるため、走行距離10万kmを超えた時点で一度プロに点検してもらうのが最もリスクの低い選択です。早め点検が条件です。
また、車高調(社外品)に乗せ換えた場合は純正の基準が当てはまりません。車高調付属のアッパーマウントは純正より早く消耗するケースが多く、1〜2年ごとの定期点検が推奨されています。車高調ユーザーは特に注意が必要です。
参考:アッパーマウントの交換時期・劣化の見分け方を詳しく解説しています。
グーネット|車高調のアッパーマウントとは|選び方や交換方法をわかりやすく解説