

ハイカムを入れると、街乗りで逆に10万円超えの出費が発生することがあります。
ハイカムを搭載したエンジンが低回転域で極端に扱いにくくなる理由は、バルブタイミングの設計思想そのものにあります。ノーマルカムは低回転から高回転まで幅広く使えるよう「中庸なバルブ作用角」に設計されていますが、ハイカムはその作用角(バルブが開いている時間)と、リフト量(バルブの開き量)を両方とも大きく取っています。
問題はその「長く開いている」という特性が、低回転時に仇となる点です。低回転では吸気の流速が遅いため、吸気バルブが長く開いていても混合気がシリンダー内にうまく流れ込みません。それどころか、圧縮行程でもまだ吸気バルブが閉じ切っていない状態(バルブオーバーラップ)が生じ、せっかく圧縮しようとした混合気がインテーク側へ逆流してしまいます。これが低回転トルクの低下の直接原因です。
つまり低速はスカスカになるということですね。
具体的な影響としては、たとえば信号発進時のクラッチミートが非常にシビアになり、わずかな操作のズレでエンストしやすくなります。アイドリング回転数も安定を保てず、「ドコドコ」と回転がバラけるいわゆる「ラフアイドル」状態になることも珍しくありません。マニュアル車であれば街乗りでの渋滞路は苦行に近い状態になることもあります。
これは問題です。街乗りが主体のドライバーにとって、ハイカムは使いにくいエンジンを生み出すリスクを伴います。
みんカラなどでは実際に「ハイカム組んだ最初はノーマルマップで走っていたけど開ければパワーは出るが他の色々な場面でボコついて扱いにくく四苦八苦」という声が多数見られます。この「低回転の扱いにくさ」は、ハイカム導入で最初に直面するデメリットのひとつです。
ちなみにホンダのVTEC機構は、まさにこのジレンマを解決するために開発された技術で、低回転ではノーマルカムのプロフィールを使い、高回転になると自動的にハイカムのプロフィールに切り替えます。VTECのないエンジンにハイカムを入れる場合は、常にそのトレードオフを受け入れる必要があります。
ホンダのVTEC機構についての詳しい解説はこちらも参考になります。
ハイカム交換を検討している方の多くは「カムシャフト1本を換えるだけ」というイメージを持っています。しかし実際には、ハイカム単体を組み込むだけでは本来の性能は引き出せず、複数の周辺作業が必要になることが少なくありません。
まず燃費の問題です。ハイカム化によってバルブオーバーラップが増えると、燃焼前の混合気がそのまま排気側へ吹き抜けてしまう「吹き抜け」が発生しやすくなります。これは純粋な燃料の無駄であり、ノーマルと比較して燃費が悪化する直接的な要因のひとつです。さらにハイカムの恩恵を最大限引き出すために燃料噴射量を増やすECUセッティングを行えば、燃費はさらに落ちます。
次にコストの問題です。ハイカムのパーツ代は車種によって差がありますが、品質の高い社外品カムシャフトで数万〜10万円前後が相場です。しかしそれだけでは終わりません。
これらをトータルで見ると、ハイカムチューニングにかかる実費は部品代・工賃・ECUセッティングをすべて含めると20万〜30万円を超えることも珍しくありません。カム交換の工賃だけで4万円〜が相場です(脱着別途の場合あり)。
コストは思ったより大きいですね。
さらに乗り方が変わらない場合、ハイカム化による燃費悪化で年間のガソリン代が1〜2万円単位で増加するケースもあります。高回転域を多用しなければメリットが得られないため、街乗り中心のドライバーほど「費用対効果が見合わない」という結果になりやすいのが現実です。
チューニングに関する費用の全体像を把握したい場合は、事前にショップへ見積もり相談をしておくのが確実です。
新車や保証付き中古車に乗っている方がハイカムを入れた場合、見落としがちな大きなリスクがあります。メーカー保証の対象外になるという点です。
自動車メーカーは新車から一定期間・一定走行距離の範囲でエンジンの主要部分に対して保証を提供していますが、その前提はあくまで「純正仕様のまま使用していること」です。カムシャフトを社外品に換えるようなエンジン内部のチューニングを施した場合、たとえチューニングとまったく無関係な箇所が壊れたとしても、「改造済みエンジンだから」という理由で保証適用を断られる可能性があります。
保証はなくなると思っておくのが原則です。
では、もしハイカムを入れた後にエンジントラブルが発生した場合の修理費用はどのくらいになるのでしょうか?カムシャフト交換だけであれば部品代+工賃で平均13万円前後(カープレミア調べ)、エンジンが深刻なダメージを受けた場合には軽自動車でも30万円以上、普通車では50万円以上が一般的な相場です。ハイスペックなスポーツエンジンや輸入車では100万円を超えるケースも珍しくありません。
ハイカム化はエンジンに高負荷をかける方向のチューニングです。バルブスプリングへの負担が増えることでスプリングの寿命が縮まり、バルブサージング(スプリングが追従できずバウンスする現象)のリスクも高まります。これが進行するとバルブが正しく閉じなくなり、エンジン内部に深刻なダメージを与えます。
対策が必要な場面です。ハイカムを導入する際は、信頼できるチューニングショップに事前相談のうえ、強化バルブスプリングのセット交換や定期的なタペット調整を込みで計画することが重要です。万一に備えてチューニング車両対応の任意保険の内容も見直しておくと安心です。
ハイカムに関して意外と見落とされているのが、「ハイカムだけ入れても思ったほど変わらない」という現実です。これはチューニング経験者の多くが口にする感想でもあります。
ハイカムシャフトはエンジンの吸排気タイミングを変える部品ですが、エンジンが発揮できるパワーはカムシャフトだけで決まるわけではありません。燃料を噴射するECUのマップ、混合気を燃やす点火時期、空気を取り込む吸気系、排気を効率よく出す排気系——これらすべてがひとつのシステムとして連動しています。
ハイカム単体では「ボコつき」が出やすいです。
ハイカムのカムプロフィールに合わせてECUのマップが書き換えられていないと、ノーマルの燃料マップのままでは空燃比がズレ、アクセルを開けるたびにボコつきや失速感が出ます。また吸気側をノーマルのまま残していると、エアの流量が足りずハイカムの特性を十分に活かせません。
つまり「ハイカムを最大限生かすには、周辺チューニングとセットで行う必要がある」ということが原則です。
具体的には以下のような周辺チューニングが一般的に組み合わされます。
これらをすべてそろえてはじめて、ハイカムが本来の効果を発揮します。ハイカムを「手軽な単品チューニング」と思い込んでいると、費用と労力の見積もりが大幅に狂うので注意が必要です。
タサキチューニングのブログでも「ハイカムシャフトを生かすには、他のパーツとの組み合わせが重要」と明記されており、業界の専門家も同様の見解を示しています。
ハイカムのデメリットとして検索上位の記事ではあまり詳しく触れられていない点ですが、実はスロットルバルブへのカーボン堆積が進みやすくなるという問題があります。
ハイカムのバルブオーバーラップが大きくなると、エンジンブレーキ時などに吸気ポート側への「吹き返し」が増えます。排気側にあった未燃焼ガスやカーボン分が含まれた気流がスロットルバルブ方向へ逆流しやすくなるのです。これが繰り返されると、スロットルバルブ周辺や吸気系にカーボンが付着・堆積し、アイドリングのさらなる不安定化や、スロットルの動きが重くなるといったトラブルに発展します。
これは気づきにくいですね。
通常の走行でもスロットルにはカーボンが少しずつ付着しますが、ハイカムではその速度が明らかに早まります。走行距離2〜3万km程度でスロットルボディの洗浄が必要になるケースも報告されています(ノーマル車では一般に5万km以上が目安)。スロットルボディの洗浄・清掃工賃はショップによって異なりますが、おおよそ5,000〜15,000円程度かかります。
このカーボン堆積問題への対処として、定期的な吸気系の洗浄が有効です。具体的には、スロットルボディクリーナー(カーボンクリーナー)を使った定期清掃をメンテナンスサイクルに組み込むことが推奨されます。ハイカム導入後は、オイル交換のタイミングに合わせてスロットルの状態確認を習慣化するだけで、大きなトラブルを未然に防ぎやすくなります。
ノーマルカムに比べて吸気系のメンテナンス頻度が上がることも、ハイカムのランニングコストとして事前に見込んでおく必要があります。