

バルブタイミング計算を「整備士試験のネタ」と思っているなら、あなたの愛車の修理費が数十万円単位で変わるかもしれません。
4サイクルエンジンは「吸入→圧縮→燃焼(爆発)→排気」の4行程を繰り返します。この1サイクルを完了するためにクランクシャフトは2回転、すなわちクランク角で720°回転する必要があります。つまり720°が1サイクルの基本単位です。
6気筒エンジンの場合、この720°を6気筒で等分するので、1気筒あたりの点火間隔は720°÷6=120°になります。4気筒エンジンの場合は720°÷4=180°ですから、6気筒の方が点火間隔が短く、より連続的に爆発が起きます。
120°間隔というのが重要です。
これが直列6気筒エンジンのスムーズな回転感の根拠でもあります。4気筒エンジンより振動が少なく、高級車や大排気量車に好まれる理由は、この均等な120°間隔の等間隔爆発にあります。バランスシャフトなどの振動打ち消し機構も不要で、その分エンジンの構造をシンプルにできるというメリットもあります。
具体的な計算をイメージするなら、針が6本均等についた時計を思い浮かべると分かりやすいです。針と針の間が60°(360°÷6)ですが、バルブタイミング計算では720°の円を使うので、各頂点の間隔は120°(720°÷6)になります。
つまり「120°=1気筒分の動き」と覚えるのが基本です。
| エンジン種類 | 1サイクル(クランク角) | 点火間隔 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 4気筒 | 720° | 180° | 一般的な乗用車 |
| 直列6気筒 | 720° | 120° | 振動が非常に少なく滑らか |
| V型8気筒 | 720° | 90° | 高出力・大排気量車向け |
参考リンク(直列6気筒の振動バランスの詳細)。
バルブタイミングの計算問題では、「亀の甲図形」と呼ばれる正六角形を描いて解くのが定番手法です。この名前は、ベンゼン環(有機化学のC6H6)の六角形の模様が亀の甲羅に似ているところから来ています。整備士業界で長年使われてきた覚え方です。
正六角形の頂点6か所に各気筒を割り当てます。その方法は次のとおりです。
まず、問題文に「第○シリンダが圧縮上死点にある」とあれば、その気筒を図の「上」に置きます(Aパターン)。「下死点にある」場合は図の「左」または「右」に置きます(Bパターン)。
次に、基準の気筒の位置から反時計回りに、点火順序の「1-5-3-6-2-4」の順で残りの気筒番号を割り当てていきます。
各頂点の位置には意味があります。上が「圧縮上死点」、下が「オーバーラップ上死点(排気上死点)」、左上が「圧縮行程途中」、右上が「燃焼行程途中」、左下が「吸入行程途中」、右下が「排気行程途中」です。
「あねきは」という語呂合わせが有名です。
これは「ア(吸入/左下)・ネ(燃焼/右上)・キ(圧縮/左上)・ハ(排気/右下)」の頭文字を横に読んだもので、自動車整備士を目指す人たちの間で広く使われています。知っておくと、どの位置がどの行程かを瞬時に判断できます。
参考リンク(6気筒バルブタイミングの図解と詳しい解説)。
バルブタイミング(6気筒)解説 – 整備士ドットコム
正六角形が描けたら、次は「クランクを○○°回転させたとき、どの気筒がどの行程にあるか」を読み解きます。これが実際の計算問題の核心です。
クランクを時計回りに回転させると、各気筒の位置も時計回りに動きます。亀の甲図形で1頂点分動くのが120°です。具体的には次のようになります。
| 回転角度 | 頂点移動数 | 計算 |
|---|---|---|
| 120° | 1頂点分 | 720°÷6=120° |
| 240° | 2頂点分 | 120°×2 |
| 360° | 3頂点分 | 120°×3 |
| 480° | 4頂点分 | 120°×4 |
| 600° | 5頂点分 | 120°×5 |
| 720° | 6頂点分(1周) | 元の位置に戻る |
120°の倍数であれば解きやすいです。
一方、60°単位で端数が出る問題(180°、300°、420°、540°、660°など)も出題されます。この場合は「120°の倍数分だけ頂点を移動させ、残りの60°分はAパターン(上死点基準)とBパターン(下死点基準)を入れ替える」という方法で対処します。例えば540°回転させる問題なら、480°(4頂点分)移動させてからAパターン⇔Bパターンを切り替えます。
実際の問題例を確認しましょう。「点火順序1-5-3-6-2-4の直列6気筒エンジンで、第1シリンダが圧縮上死点にある状態からクランクを120°回転させたとき、インレットバルブが開いているシリンダはどれか」という問題の場合、正六角形の上に第1気筒を置き(Aパターン)、反時計回りに5・3・6・2・4を割り当て、時計回りに1頂点分回すと第1気筒が左上(圧縮行程)、第6気筒が下(吸入行程=インレットバルブが開いている)に来ることが分かります。答えは第6シリンダです。
これで図の読み方は完璧です。
参考リンク(バルブタイミング問題の解き方の詳細と過去問解説)。
バルブタイミング問題の解き方解説【2級整備士試験】 – kuruma1001
バルブタイミングで特に重要な概念が「バルブオーバーラップ」です。正六角形の「下」の頂点、つまりオーバーラップ上死点(排気上死点)がこれに当たります。
吸気バルブは通常、ピストンが上死点を少し過ぎた後に閉じます。排気バルブはピストンが上死点に達する直前に閉じます。この「両方のバルブが同時にわずかに開いている時間」がバルブオーバーラップです。この状態は上死点付近で数十度のクランク角の間だけ発生します。
オーバーラップには実用的な意味があります。
排気ガスが勢いよく出ていく流れを利用して、新しい混合気を引き込む「スカベンジング効果」が得られるのです。オーバーラップが大きいほど高回転時の出力が上がりやすくなりますが、低回転時にはアイドリングが不安定になったり、燃焼ガスが吸気側へ吹き返したりするデメリットが出てきます。
意外なのはここからです。
一般ドライバーが「高性能エンジン=オーバーラップ大きい方がいい」と思いがちですが、実際には使用シーンによって最適なオーバーラップは全く異なります。アイドリング域では排気ガスの吹き返しを防ぐためにオーバーラップを小さくし、高回転・高負荷時には大きくする必要があります。これを自動で調整するのが「可変バルブタイミング機構(VVT)」です。
参考リンク(バルブオーバーラップと可変バルブタイミングの仕組みの詳細)。
バルブ・タイミングを考えてみよう – マルハモータース
現代の6気筒エンジンには、ほぼすべてに可変バルブタイミング機構が搭載されています。トヨタのVVT-i、ホンダのVTEC、BMW・メルセデスのVANOS(バノス)など、メーカーごとに名称は異なりますが、仕組みの基本は共通です。カムシャフトの位相(エンジン回転に対するバルブ開閉のタイミング)を油圧または電気モーターでリアルタイムに変化させます。
この機構が故障すると、エンジン警告灯の点灯、アイドリングの不安定、燃費の急激な悪化といった症状が出ます。放置した場合には最悪エンジンを傷めます。
ここが多くのドライバーが見落とすポイントです。
VVT系の故障の多くは「部品そのものの品質問題」ではなく、エンジンオイルの交換不足による内部のスラッジ蓄積や油圧不足が原因です。油圧でカムの位相を制御する機構に汚れたオイルが使われると、制御が狂い始めます。
修理費の目安を知っておくことが大切です。
予防策はシンプルです。純正指定の粘度・品質のエンジンオイルを、メーカー推奨交換時期より少し早めに交換すること、それだけです。5,000〜1万kmごとの交換を習慣にしている人と、1万5,000kmを超えても交換しない人では、10万km走行後のエンジン内部の状態が大きく変わります。愛車の取扱説明書でオイル交換推奨時期を今すぐ確認してみてください。
参考リンク(VVT-i故障の原因・症状・修理費用の詳細)。
VVT-iエンジンとは?仕組み・故障時の症状から修理費用まで – carblo.net