
道路運送車両法の保安基準は、自動車の安全性を確保し、公害防止や環境保全を目的として国土交通省令で定められた技術基準です。この基準は、車両の構造、装置、性能に関する具体的な規定を含んでおり、すべての自動車が公道を走行する際に満たすべき最低限の要件となっています。保安基準に適合しない車両は、車検に合格できないため運行することができません。
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道路運送車両法は、自動車の登録制度と検査制度を確立することで、車両の安全性を継続的に維持し、所有権の公証や自動車盗難の予防にも役立っています。また、整備事業の健全な発達を促進し、公共の福祉に寄与することも重要な目的の一つです。
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保安基準では、自動車の基本的な寸法について厳格な制限が設けられています。これらの規定は、道路上での安全な運行を確保するために不可欠な要素です。
車両の寸法に関する主な保安基準は以下の通りです:
項目 | 基準 |
---|---|
車両の長さ | 12m以下(一般的な乗用車は5m以下) |
車両の幅 | 2.5m以下(一般的な乗用車は2m以下) |
車両の高さ | 3.8m以下(一般的な乗用車は4m以下) |
最低地上高 | 15cm以上 |
車両総重量 | 車種により異なる(軽自動車は3.5t以下) |
これらの寸法規定を超える車両は、特殊車両として扱われ、基準緩和の認定を受けなければ公道を走行できません。車両の長さや幅、高さは、他の交通との安全な共存や、道路施設の利用に直接影響するため、厳格に管理されています。
参考)道路運送車両法 - Wikipedia
最低地上高の規定は、路面との接触を防ぎ、車両の下部にある重要な部品を保護するために設けられています。極端なローダウンカスタムを行うと、この基準に適合しなくなる可能性があります。
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灯火類に関する保安基準は、夜間や悪天候時の視認性を確保し、他の交通参加者とのコミュニケーションを円滑にするために定められています。ヘッドライト、テールランプ、ウインカーなどの色や明るさ、点滅パターンには具体的な規定があります。
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保安基準で定められた灯火類の主な規定は以下の通りです:
参考)https://www.ams.or.jp/new/10fusei_kaizou.html
これらの規定に違反した改造は不正改造となり、車検に合格できません。特に、テールランプを赤色以外に変更したり、ウインカーを橙色以外に変更したりすることは、他の交通から誤認されたり見落とされたりして、事故を誘発する危険性があります。
国土交通省の不正改造の具体例ページでは、灯火類に関する違法な改造事例が詳しく解説されています。
前部に赤色の灯火、後部に白色の灯火(後退灯を除く)を設置することは保安基準で禁止されています。これは、対向車や後続車に誤った情報を与え、交通の安全を著しく損なうためです。
マフラーの騒音に関する保安基準は、年々厳格化されており、近隣住民への騒音被害を防止し、快適な生活環境を守るために重要な役割を果たしています。2010年4月以降に生産された車両には、特に厳しい騒音規制が適用されています。
2010年4月1日以降に生産された車両の近接排気騒音基準は以下の通りです:
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騒音の目安として、カラオケ店が約90dB、電車が通過する時のガード下が約100dBです。2018年11月からは「相対値規制」が導入され、交換用マフラーを装着する場合、新車時の近接排気騒音に5dBを加えた値以下でなければならないという規定が追加されました。
例えば、新車時の近接排気騒音が91dBの車にマフラーを交換する場合、91dB+5dB=96dB以下であれば保安基準に適合します。この規制により、純正品以外のマフラーを選ぶ際には、新車時の騒音値を確認することが必須となりました。
さらに、2010年マフラー規制では、加速走行騒音が82dB以下であることも求められています。インナーサイレンサーなどで一時的に騒音を低減する対策は保安基準不適合となり、取り外しが容易な消音機構は認められません。
参考)2010年マフラー規制について [平成22年4月施行] モ…
日本自動車スポーツマフラー協会(JASMA)の騒音値規制ページでは、マフラーの騒音規制に関する詳細な情報が提供されています。
マフラーの取り外しや切断は、明確な不正改造に該当し、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます。
参考)不正改造に対する罰則等
車両の改造によって基本的な寸法や重量、構造が大きく変わる場合、構造変更検査という特別な手続きが必要になります。この検査は、改造後も保安基準に適合していることを確認し、車検証の記載内容を更新するために行われます。
参考)車の構造変更とは?必要な書類と手続きの流れを紹介 - みんな…
構造変更検査が必要となる代表的なケースは以下の通りです:
構造変更申請の手続きは、書類審査と実車検査の2段階で行われます。書類審査には約1週間から10日間程度かかり、通常の車検よりも厳しく審査されます。書類審査に合格すると「改造自動車等審査結果通知書」が交付され、その後実車検査を受ける流れとなります。
国土交通省の構造等変更の手続ページでは、構造変更に関する詳細な手続き方法が説明されています。
実車検査に合格すると、車検証に「改」と表示され、新しい車検証が交付されます。自分で構造変更の手続きを行うのが難しい場合は、業者に依頼することもできますが、約3万円の費用がかかります。
乗車定員の変更は、シートの取り外しだけでなく、安全基準を満たすための作業も必要になるため、専門知識が求められます。例えば、ハイエースコミューターで14人乗りから10人乗りに変更する場合、座席の取り外しに加えて、法律に定められた書類申請が義務付けられています。
参考)https://www.mech.chuo-u.ac.jp/~okubolab/users/kon/kouhen1.htm
タイヤやホイールのはみ出しに関する保安基準は、2017年6月22日の改正により、一定条件下で緩和されました。この改正により、従来は全く認められていなかったタイヤのはみ出しが、限定的に許容されるようになりました。
参考)車検ではみ出してもいいのはタイヤだけ!基準と危険なタイヤにつ…
現在の保安基準では、以下の条件を満たす場合にタイヤのはみ出しが許容されます:
参考)はみ出しタイヤはどこまで車検が通る?はみ出しタイヤの基準や罰…
✅ タイヤ部分のみ10mm未満のはみ出しであること
✅ 専ら乗用の用に供する自動車であること
✅ 車軸中心を通る鉛直面と前方30度、後方50度に交わる2平面にはさまれる範囲であること
重要なのは、はみ出しが許容されるのはタイヤのみであり、ホイールや取り付けナット、ボルトなどは従来通りフェンダー内に収める必要がある点です。この改正により、扁平タイヤのリムガードやオフロードタイヤのラベリングによる突出が10mm未満であれば、車検に合格できるようになりました。
参考)タイヤのはみ出しはどこまでOK?車検で見られるポイントを解説…
タイヤやホイールがフェンダーから大きくはみ出している状態は、歩行者や他の車両に接触する危険性があり、また走行中に飛び石などを周囲に飛散させる原因となります。そのため、10mm以上のはみ出しや、ホイール・ナットのはみ出しは保安基準違反となり、車検に合格できません。
カスタムでワイドタイヤやオフセットの大きいホイールを装着する際は、必ずフェンダー内に収まるサイズを選択し、タイヤのはみ出しも10mm未満に抑える必要があります。
道路運送車両法の保安基準に違反した場合、使用者と改造実施者の両方に罰則が科される可能性があります。不正改造は犯罪であり、法律で厳しく規制されています。
参考)https://www.tossnet.or.jp/tabid/67/Default.aspx
保安基準違反に対する主な罰則は以下の通りです:
不正改造の実施者
不正改造車の使用者
無車検車運行
初犯の場合は略式裁判による罰金処分で済むことが多いですが、繰り返し違反している場合や無車検の使用期間が長い場合は、正式裁判になる可能性があります。前科がある場合や執行猶予期間中に同じ違反をした場合は、実刑判決により刑務所に収容される可能性もあります。
保安基準に適合しない改造を行った業者も、警察に摘発され逮捕されることがあります。道路運送車両法第99条の2では、「何人も、有効な自動車検査証の交付を受けている自動車について、保安基準に適合しないこととなる改造や装置の取付け・取り外しを行ってはならない」と明確に規定されています。
国土交通省の不正改造に対する罰則等のページでは、具体的な罰則内容と事例が詳しく解説されています。
車検に合格していても、検挙時に警察が不適合と判断すれば不正改造の罰則を免れることはできません。そのため、常に保安基準に適合した状態で車両を維持することが重要です。
参考)車検の保安基準について徹底解説!基準に適合しないケースもご紹…
保安基準は、車検(自動車の検査)の判定基準として機能しており、車検に合格するためには保安基準に適合していることが必須条件です。車検は、定期的に車両の安全性と環境への適合性を確認するための制度であり、保安基準に基づいて実施されます。
車検では、以下のような多岐にわたる項目が保安基準に基づいて検査されます。
🔧 車体の寸法(長さ、幅、高さ)の測定
🔧 灯火類の色、明るさ、点灯状態の確認
🔧 制動装置(ブレーキ)の性能テスト
🔧 排気ガスの測定
🔧 騒音レベルの測定
🔧 タイヤの溝の深さと状態の確認
🔧 ステアリング装置の遊びと確実性の検査
車検に合格すると自動車検査証が交付され、一定期間(通常は新車で3年、継続車検で2年)有効となります。車検証の有効期間内であっても、保安基準に適合しない状態で運行すれば違法となり、罰則の対象となります。
保安基準は時代に合わせて随時改正されており、環境保護や交通安全性の向上を目的として、より厳格な基準が導入されることがあります。例えば、排気ガス規制や騒音規制は段階的に強化されてきました。
車検は、車両の所有者にとって保安基準への適合性を確認する重要な機会であり、日常点検と併せて車両の安全性を維持するための基盤となっています。車検に合格していない車両で公道を走行すると、無車検車運行として6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されるため、必ず有効な車検証を保持することが重要です。
保安基準では、改造しても良い部品(指定部品)と改造が禁止されている部品が明確に区別されています。指定部品であっても、サイズや重量の基準を超過すると車検に通らないため、専門家のアドバイスを受けながら慎重に進めることが推奨されます。
参考)https://rachemon.com/blog/index.php?e=139
改造可能な指定部品の例:
✅ エアスポイラー(基準範囲内)
✅ フェンダーカバー
✅ エキゾーストパイプ
✅ マフラーカッター
✅ タイヤやホイール(はみ出し規定遵守)
✅ ステアリングホイール
✅ 変速レバー
✅ コイルスプリング、ショックアブソーバー、ストラット(車高規定遵守)
これらの部品を交換する際も、保安基準に定められた寸法や性能の範囲内に収める必要があります。カーオーディオや空気清浄機など、走行に影響を与えない装備の交換は問題ありません。
改造不可の部品や違法改造の例:
❌ マフラーの取り外しや切断
❌ 触媒装置(マフラー手前)の取り外し
❌ 基準の音量を超えるクラクションの取り付け
❌ テールランプやブレーキランプを赤色以外に変更
❌ ウインカーを橙色以外に変更
❌ 運転席や助手席の窓ガラスに着色フィルムを貼る(可視光線透過率70%未満)
運転席や助手席の窓ガラスに濃色の着色フィルムを貼ると、夜間などに周囲の交通状況が把握しにくくなるため、保安基準では「着色フィルムを貼り付けた状態での可視光線透過率が70%未満のものは不可」と定められています。
指定部品であっても基準外のものと交換すると違法改造となるため、改造を行う際は必ず保安基準を確認し、不明な点は整備工場や専門家に相談することが重要です。自分でカスタマイズしていない車でも、中古車や譲り受けた車の場合、前の所有者が改造している可能性があるため、購入時に整備工場で点検してもらうことをおすすめします。
保安基準に適合した状態を維持するためには、車検だけでなく日常的な点検と整備が不可欠です。車両の経年劣化や使用による摩耗は避けられないため、定期的なメンテナンスを怠ると、知らないうちに保安基準違反の状態になる可能性があります。
日常的に確認すべき主要な項目は以下の通りです。
🔍 灯火類の点灯確認(ヘッドライト、テールランプ、ウインカー、ブレーキランプ)
🔍 タイヤの空気圧と溝の深さ(残溝1.6mm以上が必要)
🔍 ブレーキの効き具合とブレーキ液の量
🔍 ワイパーブレードの状態
🔍 エンジンオイルの量と汚れ
🔍 異音や異臭の有無
特に灯火類は、夜間や悪天候時の安全運転に直結するため、電球の切れやレンズの破損に気づいたら速やかに交換する必要があります。ヘッドライトの光軸のずれも車検不合格の原因となるため、専門家による調整が推奨されます。
参考)車検落ちするヘッドライトの特徴とは?3つの保安基準についても…
タイヤの残溝が1.6mm未満になると保安基準違反となり、スリップサインが露出している状態では車検に合格できません。また、タイヤの亀裂や膨らみ(バルジ)も危険な状態であり、早急な交換が必要です。
道路運送車両法では、日常点検整備と定期点検整備が義務付けられており、自動車の使用者はこれらの点検を実施する責任があります。点検の結果、保安基準に適合しない箇所が見つかった場合は、速やかに整備を行い、安全な状態に戻すことが法律で求められています。
整備不良の状態で運行を続けると、整備命令が発令され、それに従わない場合は使用停止命令や罰金の対象となります。車両の安全性を維持し、自分自身や他の交通参加者の安全を守るために、保安基準を常に意識した車両管理を心がけることが大切です。