安全機能 機能安全 違いを本質安全と比較

安全機能 機能安全 違いを本質安全と比較

安全機能と機能安全の違い

この記事のポイント
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用語の違いを明確化

安全機能と機能安全の定義と使い分けを理解

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本質安全との比較

機能安全と本質安全の考え方の違いを解説

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自動車での実例紹介

具体的な車の安全装置を通じて理解を深める

安全機能の定義と自動車での役割


機械安全(電気装置)/機能安全実用マニュアル

 

安全機能とは、自動車に搭載される具体的な安全装置や機能のことを指します。衝突被害軽減ブレーキ(自動ブレーキ)、車線逸脱抑制装置、誤発進抑制制御機能など、ドライバーの運転をサポートし、事故を防止または被害を軽減する個別の装備が該当します。これらは予防安全(アクティブセーフティ)に分類され、事故そのものを回避することを目的としています。
参考)車の安全性機能一覧

2021年以降の新型車には衝突被害軽減ブレーキの搭載が義務化され、カメラやレーダーによって前方の障害物や歩行者を検知し、自動的にブレーキを作動させる機能が標準装備となりました。実際のデータでは、自動ブレーキ搭載車は非搭載車と比べて追突事故率が50%前後低いという結果が出ており、安全機能の有効性が実証されています。
参考)https://www.zurich.co.jp/carlife/cc-automatic-brake-duty/

車線逸脱抑制装置は、カメラが車線を認識してブレーキやハンドル操作により車両を車線内に維持する安全機能です。路外逸脱によるガードレールへの衝突や、センターラインを越えての正面衝突といった重大事故を防ぐ役割を担っています。このように安全機能は、具体的な技術や装置として車に実装されるものを指します。
参考)車線逸脱抑制装置等の試験方法及び評価方法 / 独立行政法人自…

機能安全の定義とISO26262規格

機能安全とは、監視装置や防護装置などの付加機能によってリスクを許容可能なレベルまで低減するという安全確保の考え方を指します。JIS C 0508(IEC 61508)では「電気・電子・プログラマブル電子安全関連系及び他のリスク軽減措置の正常な機能に依存する部分」と定義されています。機能安全は個別の装置ではなく、システム全体の安全性を確保するための設計思想や手法を意味します。
参考)【機能安全とは】組み込みシステムにおける安全規格について解説…

自動車分野では、ISO26262という機能安全規格が制定されており、電気・電子(E/E)システムの機能不全により生じるハザードに起因するリスクを回避するための要求事項を定めています。この規格では、リスクをASIL(Automotive Safety Integrity Level)というA~Dの4段階で分類し、最もリスクが高いASIL-Dにはエアバッグやアンチロック・ブレーキなどの重要システムが該当します。
参考)https://www.nec-solutioninnovators.co.jp/ss/mobility/column/04/index.html

機能安全の考え方では、不具合は発生するという前提に立ち、その発生確率や発生時の影響を把握して許容範囲にリスクを収めるリスク管理を行います。ISO26262は車両のライフサイクル全体を対象とし、リスク評価、安全要件の定義、設計・実装、検証、運用・保守といった各工程で機能安全を確保するプロセスを規定しています。
参考)https://www.ncos.co.jp/products/mobility/development/consulting/iso26262.html

安全機能と機能安全の違いを具体例で理解

安全機能と機能安全の最大の違いは、前者が「具体的な装置や技術」を指すのに対し、後者が「安全を確保するための設計概念や手法」を指す点にあります。踏切の例で説明すると、警報機や遮断機といった個別の装置が「安全機能」に該当し、これらの機能を組み込んだ踏切全体のシステムが「機能安全製品」となります。
参考)「機能安全」の基礎を解説!装置の安全関連システム構築、SIL…

自動車においても同様の関係性が成り立ちます。衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱抑制装置は個別の「安全機能」であり、これらの機能をISO26262に基づいて適切なASILレベルで設計・実装することが「機能安全」の実践となります。つまり、安全機能は機能安全を実現するための具体的な手段の一つと言えます。
参考)機能安全 - Wikipedia

実務的には、安全機能の開発において機能安全規格への適合が求められるため、両者は密接に関連しています。例えば、自動ブレーキシステムを開発する際には、ISO26262のプロセスに従ってハザード分析とリスク評価(HARA)を実施し、適切なASILレベルを決定した上で、そのレベルに応じた設計・検証を行う必要があります。このプロセス全体が機能安全の実践であり、最終的に実装される自動ブレーキが安全機能となります。
参考)ISO26262機能安全規格とは?第2版・3版の違いも解説 …

本質安全と機能安全の違い

本質安全とは、危険を及ぼす原因そのものを設計段階で低減または除去する考え方です。踏切の例では、線路と道路を立体交差にして電車と車の接触可能性そのものをなくすことが本質安全に該当します。つまり、リスクを根本的に排除して危険が存在しない状態を作り出すのが本質安全の特徴です。
参考)【前編】機能安全規格「ISO26262」とは?定義について解…

一方、機能安全は潜在危険が存在することを前提としつつ、監視装置や防護装置などの付加機能によってリスクを相対的に軽減する手法です。踏切に警報機や遮断機を設置する例では、誤って線路内に侵入するリスクは完全には除去されませんが、これらの機能によって事故の可能性を大幅に下げることができます。​
設計プロセスにおいては、まず本質安全による対策を優先的に検討すべきとされています。しかし、技術的・経済的な理由などで本質安全を100%確保できない場合、残留リスクに対して機能的な安全対策を追加するのが機能安全のアプローチです。自動車開発においても、この優先順位に基づいた安全設計が求められています。
参考)機能安全とファンクショナルアプローチ~本質安全との違いと事例

安全機能の実装における機能安全規格の重要性

現代の自動車には電気・電子部品や多数のECU(電子制御ユニット)、複雑なバスシステムなどが組み込まれており、これらの複雑なシステムの誤動作リスクを分析・管理する必要性が高まっています。ISO26262は、このような複雑な自動車システムの機能安全を体系的に確保するための国際標準として広く採用されています。
参考)ASIL(Automotive Safety Integri…

機能安全規格では、ハザード発生時の怪我の重度、発生確率、回避可能性の3つの要素からASILレベルを決定します。例えば、発生確率が高く、深刻な怪我が予想され、回避も困難な場合はASIL-Dに分類され、最も厳格な安全要件が適用されます。パワーステアリングやアンチロック・ブレーキなどの重要システムがこのレベルに該当し、故障時のリスクが最も高いため厳しい開発プロセスが求められます。​
安全機能を実装する際には、ISO26262に基づいた設計・検証作業が不可欠です。具体的には、システムの安全要件定義、ハードウェアとソフトウェアの設計、フェールセーフ機能や冗長設計の採用、シミュレーションやテスト走行による検証、市場投入後の保守・リコール対応といった包括的なプロセスを実施します。このように、個別の安全機能の開発においても、機能安全という体系的なアプローチが安全性確保の基盤となっています。
参考)https://techlabo.ryosan.co.jp/article/25022810_1183.html

機能安全とは何か、本質安全との違いについて詳しく解説した参考記事
ASILの定義とレベル分類について詳細に説明している専門サイト
車線逸脱抑制装置の試験方法と評価について解説した公的機関の資料

 

 


機能安全の基礎と応用: 自動車・鉄道分野を通して学ぶ (信頼性技術叢書)