

クラッチフルードを「車検さえ通ればいい」と思っていると、費用が数十倍に膨らんで返ってくることがあります。
クラッチフルードとは、マニュアル車(MT車)の油圧式クラッチを動かすための液体(フルード)のことです。クラッチペダルを踏んだとき、その踏力を油圧として伝え、クラッチを切る役割を担っています。これがないと、そもそもクラッチが正常に動作しません。
実は、クラッチフルードとブレーキフルードはまったく同じ液体です。つまりです。どちらもDOT(米国運輸省)規格に準拠したグリコール系フルードで、DOT3またはDOT4が一般的に使用されています。そのため、補充の際にはブレーキフルードで代用できるという点は、多くのMT車ユーザーが知らない事実でもあります。
クラッチフルードが採用されているのは、主に「油圧式クラッチ」を搭載した車種です。大型セダンやスポーツカーに多く、軽自動車や小型MT車にはクラッチワイヤー(ケーブル式)が使われるケースも多いため、まず自分の車が油圧式かどうかを確認することが必要です。確認方法は、エンジンルームにクラッチフルードのリザーバータンクがあるかどうかを見るだけです。ブレーキフルードのタンクのすぐ近くに、やや小さめのタンクとして設置されていることが多いです。
クラッチフルードの大きな特性として「吸湿性」があります。空気中の水分を少しずつ吸収していく性質があり、これが劣化の主要な原因です。水分を吸収すると、フルードの沸点が著しく下がります。新品のDOT4フルードの沸点は約230℃以上ありますが、水分を3〜4%程度吸収すると沸点が155℃前後まで低下すると言われています。これがクラッチトラブルの直接的な引き金になります。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 液体の種類 | ブレーキフルードと同じ(DOT3/DOT4) |
| 役割 | 油圧でクラッチを操作する |
| 採用車種 | 油圧式クラッチ搭載のMT車(主に大型・スポーツ系) |
| 主な劣化原因 | 吸湿(空気中の水分を吸収する) |
| 劣化の目安(色) | 新品:無色〜淡黄色 → 劣化:茶色〜黒色 |
クラッチフルードの交換費用は、どこに依頼するかによってかなり差があります。費用が安ければいいというわけでもなく、それぞれのメリットとデメリットを理解したうえで選ぶことが大切です。
まず、ディーラーに依頼した場合の費用は、工賃込みで約3,000円〜8,000円程度が目安です。車種によって変わりますが、スバルBRZの車検時事例では「クラッチフルード交換2,750円(税込)」という具体的な事例が報告されています。ディーラーは純正フルードを使用し、作業の確実性が高い点が強みです。
次に、オートバックスやイエローハットといったカー用品店では、工賃が約2,200円〜6,600円程度とされています。A PIT オートバックス汐留では2,750円〜(作業40分〜)、A PIT オートバックス京都では6,600円〜(同じく40分〜)と、店舗によって大きな差があるのが実情です。事前にWEBや電話で確認することをおすすめします。
DIYで自分で交換する場合、フルード代だけで済むため、費用は約500円〜1,500円程度に抑えられます。DOT4フルード500mlは市販品で1,000円前後から購入でき、特別な工具なしで対応できる車種もあります。ただし、作業にはエア抜き(ブリーディング)という工程が必要で、これを怠るとクラッチが正常に作動しないリスクがあります。作業経験がない方には推奨できません。
| 依頼先 | 費用目安(税込) | 作業時間 |
|---|---|---|
| ディーラー | 3,000円〜8,000円 | 20〜40分 |
| カー用品店(オートバックス等) | 2,200円〜6,600円 | 20〜40分 |
| 整備専門店(民間工場) | 2,000円〜4,000円 | 15〜30分 |
| DIY(自分で交換) | 500円〜1,500円 | 30〜60分(慣れが必要) |
費用だけを見るとDIYが圧倒的に安く見えます。これは確かです。ただし、エア抜きの失敗や適切でないフルードの選択をしてしまうと、のちのちクラッチシステム全体のトラブルにつながる可能性があります。初めて作業する方は、工賃のかかるプロへの依頼が安全です。コストを重視する場合は、民間の整備工場が比較的安価で、かつ作業の品質も安定していることが多いです。複数店舗から見積もりを取ることが、費用を抑える基本です。
参考:クラッチフルード交換の実例費用(ディーラー車検時)については、以下のページに詳しい事例が掲載されています。
BRZ ZC6の車検時のクラッチフルード交換費用・時期の解説(GTNET車検センター横浜都筑)
クラッチフルードの交換時期は「2年に1回」が基本です。これはブレーキフルードと同じサイクルで、車検のタイミングに合わせて交換するのが合理的です。走行距離の目安としては、2万km〜3万km程度が一つの参考値になります。
なぜ2年なのかというと、クラッチフルードの吸湿性が関係しています。走行距離に関係なく、フルードは空気に触れているだけで少しずつ水分を吸収します。一般的には1〜2年の使用で、吸湿率が3〜4%程度に達するとされており、この時点で沸点が大きく低下します。2年という交換サイクルは、この吸湿限界の前に交換することを意図したものです。
交換を怠ると何が起きるか、具体的に見ていきましょう。
最も深刻なのが「ベーパーロック現象」です。山道の下り坂や渋滞時の繰り返しクラッチ操作で、フルードが沸騰して気泡が発生します。気泡は液体と違って圧縮されてしまうため、クラッチペダルを踏んでもクラッチに力が伝わらなくなります。これはクラッチが「全く切れなくなる」状態で、最悪の場合は走行不能になります。ホンダドリームのメンテナンス情報でも、この現象の危険性について明確に警告が出ています。
次に起こりやすいのが「内部部品の劣化促進」です。水分を含んだフルードは腐食性を持ち、クラッチマスターシリンダーやレリーズシリンダー内のゴムシール(Oリング)を傷めます。シールが劣化するとフルード漏れが発生し、ここに至ると単なるフルード交換では済まなくなります。シリンダーや内部部品のオーバーホール、最悪の場合は部品交換が必要になります。
フルード交換の費用が2,000円〜5,000円で済むところが、放置によってクラッチ本体の交換(普通自動車で10万円〜15万円)にまで費用が膨らんだ事例は珍しくありません。差額が10万円以上になることもあります。これは知っておくべき事実です。
参考:クラッチフルードの劣化によるベーパーロック現象の危険性について、ホンダドリーム公式が詳しく解説しています。
消耗品・定期交換部品について クラッチフルード編(ホンダドリーム相模原)
クラッチフルードは、自分で劣化具合を確認できるメンテナンス項目のひとつです。タンクを見るだけで状態がわかります。これは心強い点ですね。
最もわかりやすい確認ポイントが「色」です。新品のクラッチフルードは無色透明〜淡い黄色をしています。これが茶色、さらに赤茶色、黒色と変色していくにつれて劣化が進んでいるサインです。エンジンルームのリザーバータンク越しに光を当てれば、色の確認ができます。タンク自体が白色半透明のプラスチック製が多いため、外から目視するだけでも大まかな状態確認が可能です。
次に確認したいのが「液面レベル」です。リザーバータンクには「MAX」と「MIN」のラインが刻まれています。MIN以下になっている場合は、フルード漏れや著しい消耗が疑われます。通常、正常な状態ではフルードが急激に減ることはないため、急減している場合は漏れが発生している可能性があります。すぐに整備士に見てもらいましょう。
走行中のクラッチの感覚も重要な手掛かりです。以下の症状が出た場合は、フルード劣化または関連部品の問題が疑われます。
これらの症状は複数の原因が絡むことが多いため、症状が出た段階でフルードの状態を確認しつつ、早めに整備工場で点検してもらうことが重要です。
なお、クラッチフルードのリザーバータンクが見つからない場合、それは車がケーブル式(ワイヤー式)のクラッチを採用している可能性が高いです。この場合、クラッチフルードは存在しないため、今回の内容は当てはまりません。念のため確認することをおすすめします。
クラッチフルードの交換費用を賢く抑えるには、いくつかの実践的な方法があります。知っているかどうかで、数千円単位の差が出ることも珍しくありません。これは使えそうです。
① ブレーキフルード交換と同時に依頼する
クラッチフルードとブレーキフルードは同じ液体を使用しており、交換作業もほぼ同じ要領で行われます。セットで依頼することで、工賃がまとめて割引されるケースや、作業時間が短縮されるケースがあります。実際、多くの整備工場でブレーキ&クラッチフルード交換をセットメニューとして提供しており、単品で依頼するよりも割安になることがあります。費用がセットでお得になるか、事前に確認するだけでいいです。
② 車検と同時に依頼する
車検時はどのみち整備ラインに乗っているため、その場でフルード交換を依頼すると工賃が抑えられる場合があります。車検費用の内訳に含まれるかたちで処理されることも多く、個別に整備店を訪れるよりも手間も費用も節約できます。2年サイクルの交換タイミングと車検のサイクル(普通車は2年、新車初回は3年)がちょうど合うため、合わせて依頼するのは理にかなっています。
③ 複数の見積もりを比較する
同じ作業内容でも、ディーラー・カー用品店・民間整備工場では工賃に大きな差があります。前述のようにオートバックスだけでも店舗によって2,750円〜6,600円の差があります。急いでいない場合は、3社程度から見積もりを取って比較することで、数千円の節約になることがあります。
DIYについての注意点
コストだけで考えるとDIYが最安ですが、クラッチフルードの交換作業には「エア抜き(ブリーディング)」という工程が必要で、これを正確に行わないとクラッチにエア(気泡)が入り込み、クラッチの操作不良を引き起こします。失敗すれば、さらに整備費用がかさむリスクもあります。DIYはあくまでも整備経験がある方向けの選択肢です。初めての方にはプロへの依頼をおすすめします。
車検時のクラッチフルード交換コストを抑えたい場合、楽天Car車検などの一括比較サービスを使うと、対応店舗の価格を一覧で確認でき、自分の地域で最もコストパフォーマンスの高い店舗を見つけやすくなります。
参考:クラッチ交換の費用相場や安く抑えるコツについて詳しく解説されています。
クラッチ交換の費用はどのくらい?劣化する原因や交換時期の目安も解説(ネクステージ)
多くのMT車ユーザーが「車検を通ったんだから問題ない」と安心してしまいます。しかしこれは、大きな誤解につながることがあります。
車検(法定点検)では、クラッチフルードの「量の確認」は行われますが、「品質・劣化度の確認」が必ずしも義務づけられているわけではありません。つまり、量がMINラインを下回っていない限り、劣化したフルードが車検で指摘されない可能性があります。車検合格=フルード状態が良好、ではないということです。
実際、3万km走行したBRZやインプレッサなどのスポーツ系MT車で、車検に合格しながらクラッチフルードが茶褐色に変色しているケースは整備現場でよく見られます。整備士から「交換を推奨します」と言われるかどうかは、担当者や工場のポリシーによるため、車検=自動的に交換、とはなりません。交換が必要かどうかは自分から確認する姿勢が大切です。
また、フルード劣化が進んだ状態での走行が続くと、クラッチマスターシリンダーやレリーズシリンダー内のゴムシールが腐食します。これらの部品は単体でも数千円〜1万円程度しますが、問題は工賃です。シリンダー交換は脱着に時間がかかり、工賃が部品代を大きく上回ることがあります。さらに、フルード漏れが発生してクラッチが効かない状態で走行を続けると、クラッチ板(ディスク)そのものも傷む可能性があり、普通車で10万円以上のクラッチ本体交換に至るケースもあります。
まとめると、費用3,000円前後のフルード交換を2年に1回しっかり行うことが、数十倍のリスクを防ぐ最善策です。MTを楽しみながら維持費を最小限に抑えたい方は、ぜひ次の車検のタイミングでフルード状態を確認してみてください。
参考:ベーパーロック現象の仕組みと危険性について、損保ジャパンが詳しく解説しています。
ベーパーロック現象とは?仕組みや原因、未然に防ぐための対策を解説(損保ジャパン)

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