

車載ジャッキだけでタイヤ交換を終えると、実は1輪ずつでも数十kgの荷重が一点にかかり続け、作業中に突然倒れて車が潰れる事故が毎年複数件発生しています。
ジャッキスタンドとは、ジャッキで持ち上げた車体を安定した状態でキープするための支持台です。「リジッドラック」や「ウマ(馬ジャッキ)」とも呼ばれており、DIY整備のシーンでは欠かせないアイテムのひとつです。
多くの人が誤解しているのが、ジャッキとジャッキスタンドの役割の違いです。ジャッキはあくまで車体を"持ち上げるための道具"であり、"支え続けるための道具"ではありません。油圧式のガレージジャッキ(フロアジャッキ)は特に、経年劣化やオイル漏れによって突然圧力が抜け、車体が落下する危険があります。つまり、ジャッキ単体で持ち上げたまま作業を続けることは、命に関わるリスクを伴います。
実際に危険性は数字にも表れています。SNS上では「油漏れして使えなかった」「途中までしか車が上がらなかった」という声が複数報告されています。2023年11月には北海道札幌市で、タイヤ交換作業中にジャッキが外れ、男性が車の下敷きになって亡くなる死亡事故が発生しています。同年4月にも北海道小樽市で同様の死亡事故が起きており、年間を通じてこうした悲惨な事故は後を絶ちません。
ジャッキスタンドが必要な理由は明確です。万が一ジャッキが外れても車体を受け止め、大事故を防ぐための最後の砦になるからです。構造がシンプルで価格も手頃なものは2,000〜3,000円台から購入でき、安全への投資として非常にコスパが高いアイテムといえます。
| 種類 | 主な用途 | 安定性 |
|---|---|---|
| パンタグラフジャッキ(車載) | タイヤ交換のみ | △ 低い |
| ガレージジャッキ(フロアジャッキ) | タイヤ交換・メンテナンス全般 | ○ 高め |
| ジャッキスタンド(リジッドラック) | 持ち上げた車体の保持 | ◎ 非常に高い |
ジャッキスタンドは「保持専用」が原則です。ジャッキスタンドを使って車体を下ろした後は、ジャッキをそのまま添えておくダブル保険を取るとさらに安心です。
参考:ジャッキアップ事故の実態と原因(くるまのニュース)
クルマの下敷きに… 後を絶たない「ジャッキアップ事故」なぜ起きるのか(くるまのニュース)
ジャッキスタンドを設置するうえで最も重要なのが「どこにかけるか」という点です。正しい位置でなければ、ボディが歪んだり最悪の場合に車体が落下する原因になります。
車には「ジャッキアップポイント」と呼ばれる、ジャッキやジャッキスタンドをかけるための専用の強化部位が設けられています。パンタグラフジャッキ(車載ジャッキ)用のポイントは、各タイヤの近くにある車体下部の端にあり、フレームに切り込み(ノッチ)が入っているのが目印です。ガレージジャッキ用のポイントは車体の前後方向にある「センタージャッキポイント」が一般的で、デフやサブフレームの付近に設けられていることが多いです。
ジャッキアップポイント以外にジャッキをかけると、ボディ底面の金属が歪んだりひしゃげてしまうリスクがあります。これは修理費数万円の損害になることもあります。
📌 ジャッキアップポイントの確認方法
- 車の取扱説明書に記載されているのが最も確実です
- 車体下部のスカートやサイドシルに刻印・マークがある車種もあります
- 不明な場合はディーラーや整備工場に確認することをおすすめします
ガレージジャッキ用とパンタグラフジャッキ用では、ポイントの位置が異なる場合があります。これが知られていない落とし穴のひとつです。「タイヤ交換で使ったポイントに、そのままジャッキスタンドもかけた」というケースがありますが、前後ジャッキアップのような広い範囲を持ち上げる作業では、ジャッキスタンドをかける位置はジャッキとは別の場所(サイドのサイルアンダー部分や、ロアアームの付け根など)になることもあります。
ジャッキスタンドを設置する際は、まず最低の高さにセットしてからジャッキアップポイントに合わせ、そのあとジャッキで少しずつ上げながらジャッキスタンドが確実に噛み合う高さに調整していきます。車体をゆっくりジャッキスタンドに乗せたら、車体を軽く左右に揺すって安定を確認してから作業に入りましょう。
参考:ジャッキアップポイントの見つけ方(チューリッヒ保険)
ジャッキアップの方法やジャッキアップポイントとは(チューリッヒ保険)
ここでは、ガレージジャッキ(フロアジャッキ)とジャッキスタンドを組み合わせた、安全なタイヤ交換の手順を解説します。手順を守るかどうかで、安全性には雲泥の差が生まれます。
作業前の準備
まず、平坦で硬い地面(アスファルトまたはコンクリート)を選んで車を停めます。砂利や土の上はジャッキが沈み込んだり傾いたりするため厳禁です。エンジンを止め、ATはPレンジ・MTは1速またはRに入れ、サイドブレーキを確実にかけます。作業しない側のタイヤに輪止め(カースロープ)を置くと、さらに安全性が上がります。
ジャッキアップからジャッキスタンドのセットまで
車体をジャッキスタンドに乗せたら、ジャッキはそのまま脇に置いておくのが理想です。万が一スタンドが外れたときの第二の安全策になります。さらに外したタイヤを車体の下に入れておくと、最終的な「床まで落ちない」保険になります。
作業後の降ろし方
ジャッキで車体を少し持ち上げてスタンドの荷重を抜いてから、ジャッキスタンドを外します。そのあとゆっくりジャッキを下げて車体を地面に降ろします。この「スタンドを先に外す」順番を間違えると、荷重がかかったままスタンドを無理に引き抜こうとする危険な状態になります。順番が命綱です。
参考:ジャッキアップのやり方を詳しく解説(アストロプロダクツ)
ジャッキアップのやり方を分かりやすく解説!(アストロプロダクツ公式ブログ)
ジャッキスタンドを選ぶ際に最初に確認すべきは「耐荷重(対荷重)」です。ただし、ここには少し注意が必要な落とし穴があります。
ジャッキスタンドの耐荷重は「2個セット使用時」の数値で表示されているものがほとんどです。つまり、「3tのジャッキスタンド」と書いてあっても、1個あたりが担う実際の荷重は1.5tということになります。
車重の目安は以下のとおりです。
| 車種 | 車重の目安 | おすすめ耐荷重(2個セット) |
|---|---|---|
| 軽自動車 | 約700〜900kg | 2t以上 |
| コンパクトカー・セダン | 約1,000〜1,400kg | 2t以上 |
| SUV・ミニバン | 約1,500〜2,000kg | 3t以上 |
一般的な普通車であれば2tタイプで十分ですが、より安全を考えるなら3tタイプを選んでおくとどんな車でも対応できます。
これが基本です。ただし注意点がもうひとつあります。車重に対してギリギリの耐荷重を選ぶのはリスクがあります。計算上の荷重が1.5tだったとしても、作業中の揺れや振動で瞬間的な荷重が増すことがあるため、1段階上の耐荷重を選ぶのが安全の鉄則です。
高さ調整の確認も忘れずに
ジャッキスタンドには最低高さ・最高高さが製品ごとに異なります。例えば車高の低いスポーツカーやローダウン車では、スタンドの最低高が高すぎてジャッキアップしきれないことがあります。逆にSUVやRV車では、スタンドの最高高が低すぎて届かないケースもあります。必ず自分の車のジャッキアップ時の高さを確認してから購入しましょう。
また、市販のジャッキスタンドには段階調整式(ラチェット&ピン固定)と、ネジ式(スクリュータイプ)の2種類があります。ラチェットタイプは高さ調整がワンタッチで行いやすく、初心者にも扱いやすいのでおすすめです。
なお、ジャッキアップポイントをスタンドが傷つけないよう、ゴムパッド付きのスタンドか、別売りのラバーアダプターを組み合わせるとボディへのダメージを抑えられます。これはあまり知られていないのですが、車体側の「ジャッキアップポイント」そのものも繰り返しの荷重で変形することがあるため、パッドによる保護は長期的なメリットが大きいです。
知識があっても、やってはいけない「NG行動」を見落とすと事故につながります。このセクションでは、初心者はもちろん経験者も見直すべきポイントを整理します。
🚫 絶対にやってはいけないこと
- 傾斜地や砂利・土の上での作業:ジャッキもスタンドも横向きの力に弱く、地面が不安定だと一気に転倒リスクが上がります
- ジャッキ単体での潜り込み作業:タイヤ交換程度ならまだしも、パンタグラフジャッキ(車載ジャッキ)のみで車体を支えたまま下に潜るのは死亡事故と隣り合わせの行為です
- ジャッキアップポイント以外への設置:ボディが変形し、修理費が数万円に及ぶケースがあります
- 1個だけのジャッキスタンドでの支持(片側作業):前輪2本をまとめてジャッキアップした場合など、必ず2個1組で支えることが必要です
- エンジンかけたままの作業:突然クルマが動き出す原因になります
ジャッキスタンドをかける前にエンジンを切るのが原則です。
✅ プロが実践する安全習慣
プロの整備士が行う習慣として特に参考になるのが「二重保護の原則」です。ジャッキスタンドをセットしたあと、外したタイヤを車体下に置いておくことで、万が一スタンドが外れても車体が一気に地面まで落ちないようにするというものです。これはコストゼロで実践できる安全対策です。
また、オートマチックのFR車(後輪駆動車)は、ギアをPに入れてサイドブレーキをかけても、後輪を持ち上げると車が前後に動いてしまう構造上の特性があります。これは意外に見落とされがちなポイントです。FR車のリアをジャッキアップする際は、前輪に必ず輪止めを置く対策が必要です。オートマ・マニュアルを問わず輪止めは必須と覚えておくだけで大丈夫です。
さらに、フロアジャッキは定期的なオイル確認も必要です。オイル漏れが起きていると、ジャッキアップ中に突然下がってしまうことがあります。使用前に必ず動作確認(空ポンピング)をする習慣をつけましょう。万が一の油圧トラブルに備えるという意味では、スタンドへの定期的な目視確認も有効です。
参考:タイヤ交換時の安全確認ポイント(三菱自動車)
ジャッキアップ 正しく使用しないと重大な事故のおそれが(三菱自動車公式)

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