

フェンダーダクトを穴開けただけの飾りだと思っていると、ブレーキが焼けて数万円の出費になります。
フェンダーダクトとは、フロントフェンダー部分に設けられた開口部のことです。走行中にタイヤハウス(ホイールハウス)の内側に溜まる熱気や圧縮された空気を外部へ逃がすことが、最大の目的です。
走行中、タイヤとブレーキは高速回転と摩擦によって非常に高い熱を発生させます。この熱気は閉じたタイヤハウス内に籠もり、ブレーキ性能の低下や足回りパーツの劣化を招く原因になります。フェンダーダクトはその「熱の出口」を意図的に作り出す役割を果たしています。
つまり、「穴が開いている」のではなく「空気と熱を管理するための設計」です。
さらに、タイヤハウス内に溜まった空気はそのまま放置すると、走行中に車体を持ち上げる「リフトフォース」を発生させ、高速域での安定性を損ないます。フェンダーダクトによってこの空気を排出することで、リフトを抑制し走行安定性を向上させる効果も期待できます。
GT-R、スープラ、ポルシェ、BMW Mシリーズなどの高性能車が純正でフェンダーダクトを採用しているのは、こうした機能的な理由からです。カッコいいから穴を開けているのではなく、性能上の必要性から採用されているということですね。
ダクトの位置は大きく2つに分かれます。ひとつはフェンダー上部(ボンネット脇)に設けられるタイプで、主にエンジンルームの熱気排出を目的とします。もうひとつはフェンダー後端(タイヤ後方)に設けられるタイプで、ホイールハウス内の乱流を引き抜いてリフトを減らすエア抜き用です。この2種類は見た目が似ていても役割が異なるため、カスタムする際は位置と目的をセットで考えることが原則です。
フェンダーダクトの効果・加工・取り付けについて詳しく解説している、板金塗装のプロによる解説ページです(井川自動車・広島)。フェンダーダクトの基本からプロ施工の内容まで確認できます。
フェンダーダクトの冷却効果は、ブレーキのフェード防止と足回りパーツの耐久性向上という2つの点で大きな意味を持ちます。
走行中のブレーキローターは、サーキット走行時には600〜800℃に達することもあります。これはハンダが溶ける温度(約183℃)の3〜4倍以上です。タイヤハウス内にこの熱が籠もり続けると、ブレーキオイル(フルード)の沸点を超えてベーパーロックが発生し、ブレーキが突然効かなくなるという危険な状況を引き起こします。これは命に関わる問題です。
フェンダーダクトを設けることで、タイヤハウス内に滞留した熱気が外部へ排出されます。結果として、ブレーキ温度の過度な上昇を抑制し、ブレーキ性能を安定させることができます。
また、熱対策は消耗品のコストにも直結します。ブレーキパッドやローターへの熱ダメージが蓄積されると交換サイクルが早まり、サーキット走行を定期的にする方は1回の走行で数千円〜数万円の消耗コストが変わってくることもあります。これは使えそうです。
ただし、ひとつ注意点があります。フェンダーダクトの冷却効果を最大限に得るには、ブレーキダクト(ローターへ直接冷却風を送るダクト)と組み合わせることが理想的です。フェンダーダクトはあくまでタイヤハウス全体の熱気を排出するものであり、ブレーキキャリパーを直接冷やす役割はブレーキダクト側が担います。2つを組み合わせることで冷却効率が大幅にアップします。
公道しか走らない方にとっては、日常走行での熱害リスクはサーキット走行と比べて低いですが、夏場の渋滞や山道での連続ブレーキが多い方は、冷却性能の向上が確実にメリットになります。冷却効果に注意すれば大丈夫です。
レーシングカーのフェンダーダクトの役割と分類(エアインテーク・アウトレット・クーリング)について、WEB CARTOPが詳細に解説しています。ダクトの機能的な違いを理解するのに役立ちます。
フェンダーダクトは冷却だけでなく、空力面でも重要な役割を果たします。これが「スポーツカーがわざわざ穴を開ける」もうひとつの理由です。
走行中、フロントバンパーから流れ込んだ空気はタイヤハウス内に入り込みます。高速になるほどこの空気量は増え、ホイールハウス内の圧力が高まります。この高圧の空気は車体を持ち上げる「リフトフォース(揚力)」を発生させ、タイヤの接地感が失われる原因になります。フェンダーダクトはこの高圧空気を外部へ抜くことで、リフトを抑制しダウンフォースを確保する役割を担います。
この仕組みはパラシュートに穴を開けるのと同じ原理です。パラシュートの内側に溜まった高圧の空気が、穴を開けることで一気に抜けて急降下する——この「圧力差をなくす」発想がフェンダーダクトにも応用されています。
ただし、ダウンフォース効果を体感できる速度域は一般に80〜100km/h以上とされており、一般道の法定速度(60km/h以下)では空力的な違いはほとんど感じられません。エアロパーツ全般に言えることですが、「速度が上がるほど効果が増す」というのが基本です。
より積極的にダウンフォースを稼ぎたい場合は、フェンダー上部に「ルーバー」を組み合わせるのが効果的です。ルーバーは走行風に反り立つ壁を作り、フェンダー内部に「負圧」を発生させて強制的に空気を引き出します。ポルシェ911 GT3などが純正でこの構造を採用しており、GTウイングのようにドラッグ(空気抵抗)を増やさずに効率的なダウンフォースを得られると評価されています。
フロントのダウンフォースが増すと、ハンドリングのレスポンスが向上し、コーナリング時の安定感が高まります。サーキット走行でタイムアップを狙う方には、見逃せないチューニングのひとつといえます。
フェンダーダクトを後付けする際に、多くの人が見落としがちな重要な注意点があります。それがインナーフェンダー(ホイールハウス内側のカバー)の処理です。
フェンダーのアウターパネルに穴を開けただけでは、ダクトとして機能しません。なぜなら、タイヤハウスとフェンダー外側の間には、樹脂製のインナーフェンダーが仕切りとして存在しているからです。この仕切りをダクトの形状に合わせてカットしないと、熱気や空気はインナーフェンダーに遮られてしまい、外へ排出されません。結果的に「ただのデザイン上の穴」になってしまいます。
つまり、アウターとインナーの両方を同時に加工することが条件です。
プロショップでの施工費用の相場を見ると、フェンダーダクト加工は1箇所あたり2万5千円〜8万円程度が目安です。ワンオフ(完全オリジナル)での板金製作ともなると、左右合計で20万円以上になるケースも珍しくありません。「穴を開けるだけ」に見えてコストがかかるのは、こうした内部処理を含む丁寧な施工が必要なためです。
DIYで挑戦する方もいますが、インナーフェンダーのカット位置を誤ると防水・防泥性能が失われ、エンジンルームへの泥や水の侵入リスクが高まります。これはパーツの腐食につながる点で、長期的な出費の増加につながります。厳しいところですね。
また、ダミーダクト(実際には貫通していない飾りのダクト)という選択肢もあります。両面テープで貼り付けるだけで外観をスポーティに演出できますが、機能的な効果は一切ありません。見た目だけを求めるなら数千円〜1万円程度で手軽に実現できますが、冷却・空力効果を期待するなら実働ダクトの施工が必要です。両者の違いを理解した上で目的に合った選択をしましょう。
フェンダーダクトのカスタムを考えるうえで、車検への影響も必ず確認が必要です。ここは特に後悔しないよう、事前に理解しておく価値があります。
フェンダーへの加工そのもの(穴を開ける行為)は、直ちに車検不合格の原因になるわけではありません。ただし、いくつかの保安基準に関わるポイントがあります。
まず注意が必要なのが車幅の変化です。ダクト付きのワイドフェンダーに交換する場合、車検証に記載された全幅を20mm(2cm)以上超えてしまうと、構造変更の申請が必要になります。申請なしで超過した状態で公道を走ると保安基準違反になるため、交換前に必ず確認が必要です。
次に突起物の有無が問題になります。後付けのダクト部品に鋭利な端部があると、歩行者に対する安全上の問題として指摘される場合があります。社外品を取り付ける際は、端部の仕上げにも気を配りましょう。
さらに、ダクト加工によってタイヤとフェンダーの位置関係が変わる場合は、タイヤのはみ出しにも注意が必要です。2017年の保安基準改正により、乗用車(定員10人未満)に限り一定条件のもとタイヤのわずかなはみ出しは認められるようになりましたが、ホイール前方30度・後方50度の範囲はフェンダー内に収まっていることが前提です。
車検対応の範囲内であれば問題ありません。不安な場合は、施工前にディーラーや整備工場に相談するのが確実な方法です。カスタムショップに依頼する場合も「車検対応かどうか」を明示して確認しておくことが大切です。
| 確認ポイント | 基準の目安 | 対応 |
|---|---|---|
| 車幅の変化 | 車検証記載値+20mm未満 | 超える場合は構造変更申請が必要 |
| 突起物・鋭利な端部 | なめらかな仕上げであること | 取り付け後に端部を確認する |
| タイヤのはみ出し | 前30°・後50°の範囲でフェンダー内 | ワイドフェンダー交換時は特に注意 |
| インナーフェンダー加工 | 直接的な車検基準はないが防水性に影響 | 丁寧な仕上げ処理を行う |
イエローハット公式コラムによる、フェンダーと保安基準に関する解説ページです。タイヤはみ出しの基準変更(2017年改正)や車検の判断基準についてわかりやすく説明されています。

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