

エンジンの「カタカタ音」を放置すると、修理費が10万円以上になることがあります。
「チェーンテンショナー」という名前を初めて聞くと、タイヤとエンジンをつなぐドライブチェーンに関係する部品だと思われがちです。しかし実際には、バイクのチェーンテンショナーには大きく分けて2種類あり、それぞれがまったく異なる場所で異なる役割を担っています。理解のためにも、この区別から押さえておきましょう。
ひとつ目はカムチェーンテンショナーです。これはエンジンの内部にあるパーツで、クランクシャフトとカムシャフトを連動させる「カムチェーン」のたるみを調整します。カムチェーンはエンジンの吸気・排気バルブの開閉タイミングを制御するための動力伝達チェーンで、エンジンが動く限り常に回転し続けます。このカムチェーンに適切なテンション(張り)をかけておくのが、カムチェーンテンショナーの仕事です。
ふたつ目はドライブチェーン用のテンショナーです。こちらはエンジンの動力を後輪に伝えるドライブチェーンに取り付けるカスタムパーツで、オフロードバイクのセロー250などに人気があります。激しい路面でチェーンが暴れるのを抑え、スロットルのオン・オフ時のレスポンスを安定させる効果があります。
2つは名前が似ていますが、取り付け場所も用途もまったく別物だということですね。一般的にバイク整備の文脈で「チェーンテンショナーの交換が必要」という話が出る場合は、エンジン内部のカムチェーンテンショナーを指すことがほとんどです。
カムチェーンはエンジンオイルで常に潤滑されているため、外側のドライブチェーンよりも摩耗しにくい環境にあります。ただし、それでも年数と走行距離を重ねるにつれて少しずつ伸び、テンショナーのバネやゴムが経年劣化でへたってくるのは避けられません。これが後々の異音やトラブルにつながります。
| 種類 | 取り付け場所 | 目的 | 主な対象車種 |
|---|---|---|---|
| カムチェーンテンショナー | エンジン内部 | バルブタイミングの安定 | ほぼ全車種(純正装備) |
| ドライブチェーンテンショナー | スイングアーム周辺 | チェーンのたるみ・暴れ防止 | セロー250など(カスタムパーツ) |
参考:カムチェーンの構造と役割について、ヤマハが公式ブログで解説しています。
カムチェーン - ヤマハ バイク ブログ|ヤマハ発動機株式会社
カムチェーンテンショナーが不具合を起こしたとき、最初に現れるサインはほぼ例外なく「エンジンからの異音」です。この音を「こんなものかな」と流してしまうと、修理費がどんどん膨らむ恐れがあります。
具体的には、アイドリング時や低回転時に「カラカラ」「カチカチ」「シャラシャラ」という金属音が出ることが多いです。この音はエンジンの回転数が落ちたときに特に目立ち、空ぶかしをしたあとにアクセルを戻した瞬間にも聞こえます。これはカムチェーンがたるんでチェーンガイドに当たることで生じる音です。
一方、カムチェーンが完全に切れてしまった場合は、いきなりエンジンがかからなくなります。エンジンが止まるだけにとどまらず、最悪の場合はバルブとピストンが衝突してエンジン内部が大破するケースもあります。これは「バルブクラッシュ」と呼ばれ、オーバーホール費用が10万〜50万円以上に膨らむ原因です。
よく混同されるのが、「テンショナーの故障」と「カムチェーン自体の伸び」の切り分けです。どちらの不具合でも似た異音が発生するため、音だけでは判断しにくいことがあります。おおよその目安として、テンショナーが原因の場合は調整または交換で音が収まりますが、チェーン自体が限界まで伸びているとテンショナーを換えても解消しません。怪しいと感じたら、まずは整備経験のあるショップに診てもらうのが条件です。
異音が出た場合の対応は次の通りです。
「カラカラ音が最初から大きかった」という機種も存在します。たとえばカワサキのZ1系やW650、旧型ホンダのCBシリーズなどは、純正テンショナーのチェーンへの押し付け圧が低めに設計されており、多少の音はもともと出やすいとされています。そのため、こうした車種に乗っている場合は「音が出るのが当然」と思い込んで放置するケースがあります。しかし音が変わった・大きくなったと感じたら、それは要注意ですね。
参考:エンジン異音の種類と対処法について詳しく解説されています。
バイクのエンジンから異音がする時の対処法は?故障のリスクや修理費用の目安|グーバイク
交換のタイミングは車種によって大きく異なります。ここでは代表的なパターンと費用の実態を整理します。
まず、ハーレーダビッドソンのツインカム(TC88)エンジンを搭載したモデルは、カムチェーンテンショナーの摩耗が特に早いことで知られています。機械式(スプリング式)テンショナーが採用されており、走行距離3万〜5万kmが交換の目安とされています。GUTS CHROMEのコラムでは「3万kmを超えたら早めに点検を」と案内されており、ショップ作業を依頼した場合の費用は最低でも数万円、部品代や他の消耗品との同時交換で10万円近くになるケースもあります。
一方、ホンダやヤマハの一般的な国産バイクに搭載されているカムチェーンテンショナーは、油圧式または自動調整式が多く、耐久性が高い傾向にあります。カープレミアの情報によれば、乗用車用のチェーンテンショナーの寿命は20〜30万km程度とされており、バイクでも極端に早期の交換が必要になるケースは少ないです。
費用の実例として、ホンダのクロスカブ(CC110)にてカムチェーンテンショナーを交換した事例では、武川製の強化テンショナーと純正パーツを組み合わせて、工賃・オイル交換を含めた合計費用が約3万円だったという記録が残っています。CBR1100XXでは、カムチェーンテンショナーと関連パーツをセットで交換した場合に4万〜6万円程度かかるとの情報もあります。
テンショナー交換だけで済むうちは修理費用は比較的抑えられます。しかし放置してチェーンが切れてしまうとエンジンのオーバーホールが必要になり、費用は一気に跳ね上がります。早期発見・早期対処が原則です。
参考:ハーレーのツインカムエンジン搭載車のカムチェーンテンショナー交換時期と費用について詳しく解説されています。
カムチェーンテンショナーの交換時期や費用は? - GUTS CHROME
エンジンから異音が出ると、「少し強めに張れば音が消えるのでは」と考えて、テンショナーを強く締め込んでしまうケースが少なくありません。しかしこれは逆効果になることがあるので注意が必要です。
カムチェーンテンショナーを張りすぎると、カムチェーンにかかる負担が大きくなりすぎて、フリクション(摩擦抵抗)が増大します。これによってエンジンが過度に負荷を受け、最悪の場合はカムチェーンが切れてしまいます。また、過大な負荷がメタルベアリングの焼き付きを引き起こすケースも報告されています。グーバイクの記事でも「音を消すことばかりにこだわると、エンジンに想定外の負荷がかかる」と明確に警告しています。
興味深いのは、一般のバイク向けサービスマニュアルの多くには、カムチェーンやテンショナーを手動で張り調整する手順が記載されていないという点です。これは、多くの現代バイクが自動または油圧でテンションを調整する仕組みを持っているためで、原則として「自動で最適な状態になる」設計になっています。手動で強引に張り調整を行うことは、純粋な整備行為ではなく、むしろリスクを伴うことがあります。
調整を試みる場合の注意点を整理しておきます。
自動調整式テンショナーの場合は、基本的に「外して取り付け直す」だけでリセットされるため、それほど難しい作業ではありません。ただし車種によっては、キャブレターやエアクリーナーボックスを先に外さないとアクセスできない場合があります。結論は、整備経験が少ない場合はプロショップに依頼する方が無難です。
カムチェーンテンショナーとは別に、ドライブチェーン用のテンショナー(アフターマーケット品)もバイク乗りの間で注目されています。こちらは主にオフロードバイクやデュアルパーパス車向けの人気カスタムアイテムです。
代表的な製品として知られるのが、セロー250・トリッカー向けに開発されたMITANI(三谷)製のチェーンテンショナーです。ガタガタの路面でチェーンが暴れることを抑制し、スロットルオン・オフ時のピックアップ感が明確に向上すると、多くのライダーから好評です。実際に使用したライダーのインプレッションでは「取り付け10分もかからず、まるで別の車両になったような感覚」という声が聞かれます。
取り付けのメリットは以下の通りです。
一方で、「チェーンのたるみをすべてなくしてしまうことが目的ではない」という点は覚えておく必要があります。バイクのドライブチェーンには、サスペンションの動きに合わせてチェーンが伸び縮みするための「遊び(たるみ)」が必要です。テンショナーはその遊びを保ちながら「暴れ」だけを抑える設計になっています。つまり「たるみを完全ゼロにするもの」ではありません。
この製品はカスタムパーツなので、車種への適合確認が最初の一歩です。セロー250・トリッカー・WR250Rなど特定の車種向けに設計されているモデルが多く、汎用品として使えるものは限られます。取り付け前にはメーカーの適合表で確認しておく行動が確実です。
参考:セロー250向けチェーンテンショナーの実使用インプレッションや効果について詳しく解説されています。
セロー250の隠れ人気アイテム、チェーンテンショナー - OFF1.jp

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