
自動車事故が発生した際、保険会社への連絡後に動き出すのがアジャスターです。アジャスターは「調整役」という意味を持ち、その名の通り事故車両の損害調査から修理費用の算定まで幅広い業務を担当します。
アジャスターの主な業務は以下の通りです。
事故発生後、保険会社の受付センターに連絡が入ると、案件は各都道府県の支店に割り振られます。そこから「車の損害担当者」「ケガの担当者」「アジャスター」の3人1組で1つの事故に対応するチーム体制が組まれます。
アジャスターは単に保険会社の立場で業務を行うわけではなく、適正な修理費用を算出するために公正な立場で調査を行います。車両の損傷状況を確認し、修理工場と打ち合わせを重ねながら、最終的な修理金額を決定していくのです。
修理費用の協定は、アジャスターの業務の中でも特に重要なプロセスです。このプロセスは以下のステップで進められます。
かつては修理工場へ直接出向くことが主流でしたが、現在では保険会社と修理工場の間で損害写真をやり取りできるシステムが発達し、画像での確認が増えています。
修理内容の打ち合わせは、保険会社と修理工場の考えが一致しているかを確認する重要な段階です。この段階でズレが生じると、後の協定が難しくなるため、細かく確認することが大切です。
アジャスターと修理工場の間では、修理費用について見解の相違が生じることがあります。これは単に保険会社が修理費用を値切ろうとしているわけではありません。
修理費用の協定でよく議論になるポイントには以下のようなものがあります。
多くの人が誤解していることですが、アジャスターは必ずしも修理費用を下げようとしているわけではありません。指標に沿った適正金額査定を行っているため、逆に修理工場の提示金額がアジャスターの提示金額より低い場合は、修理金額が上がることもあります。
修理費の協定は、よく揉めるポイントになりますが、その原因は初回の打ち合わせがしっかりとできていなかったり、双方の想定している工賃に乖離があるなどさまざまです。この差分を交渉し、協定していくためには、車両や修理の知識とコミュニケーション能力が必要となります。
アジャスターには大きく分けて2種類あります。
どちらの場合も、アジャスターとして活躍するためには日本損害保険協会にアジャスターとして登録されていなければなりません。国家資格ではありませんが、試験や研修をクリアする必要のある専門資格です。
アジャスターの資格取得には、自動車整備士などの実務経験が役立ちます。実際に整備士からアジャスターへキャリアチェンジする人も少なくありません。車両の構造や修理に関する知識があることで、より適切な損害査定が可能になるからです。
アジャスターは高い専門性を持ち、時には裁判所などから報告書の提出や意見を求められることもあります。そのため、技術的な知識だけでなく、公正・中立を貫く高い「人間力」も求められる職業です。
自動車事故後の修理に関して、多くの誤解が存在します。特に多いのが以下のような誤解です。
実際には、アジャスターは単に保険会社の利益のために修理費用を抑えようとしているわけではありません。適正な修理費用を算出するための指標があり、それに基づいて査定を行っています。
また、保険会社へ連絡したからといって、必ずしも保険を使用しなければならないわけではありません。事故が起きた場合は、保険を使う・使わないにかかわらず、まずは連絡することが重要です。
修理工場側も利益を上げるために修理額を高く見積もる傾向があります。一方で、保険契約者は「保険で新車同様に修理してもらえる」と思いがちです。アジャスターはこうした異なる期待の間に立ち、適正な修理費用を決定する役割を担っています。
修理費用の協定において、アジャスターと修理工場は対立する関係ではなく、適正な修理費用を決めるためのパートナーです。両者が適切に協力することで、保険契約者は適正な修理を受けることができるのです。
自動車事故に遭遇した際に知っておくと役立つポイントをまとめました。
保険事故の対応においては、アジャスターは単なる保険会社の代理人ではなく、適正な損害査定を行うプロフェッショナルです。その専門性を理解し、適切にコミュニケーションを取ることで、事故後の修理をスムーズに進めることができるでしょう。
事故は誰にでも起こりうるものです。もしもの時に慌てないよう、自分の加入している保険の内容を理解し、アジャスターの役割を知っておくことが大切です。適切な知識を持っていれば、事故後の対応もより円滑に進めることができるでしょう。
デジタル技術の発展により、アジャスターの業務にも変化が生じています。従来は修理工場に直接出向いて損害確認を行うことが一般的でしたが、現在ではデジタル技術を活用した業務効率化が進んでいます。
最近の主な変化
これらの技術革新により、アジャスターはより多くの案件を効率的に処理できるようになっています。しかし、複雑な事故や大きな損害が発生した場合には、依然として現場での直接確認が重要です。
また、電気自動車(EV)や先進運転支援システム(ADAS)を搭載した車両の増加に伴い、アジャスターに求められる知識も変化しています。最新技術を搭載した車両の修理は従来の車両と異なる点が多く、アジャスターには常に最新の知識をアップデートすることが求められています。
このように、アジャスターの業務は技術の進化とともに変化していますが、公正な立場で適正な修理費用を決定するという本質的な役割は変わっていません。むしろ、技術の複雑化に伴い、専門家としてのアジャスターの役割はより重要になっているといえるでしょう。
修理費用の協定は、アジャスターと修理工場の間で行われますが、車の所有者である消費者にも知っておくべき権利と注意点があります。
消費者の権利。
注意点。
もらい事故の場合は、相手の保険会社のアジャスターが修理費用の協定を行います。この場合、自分の利益を守るために、修理内容や費用について積極的に確認することが大切です。
また、修理費用の協定で合意に至らない場合は、第三者の専門家に意見を求めることも一つの選択肢です。消費者センターや弁護士に相談することで、より公正な解決を図ることができる場合もあります。
適切な知識を持ち、自分の権利を理解することで、事故後の修理プロセスをより円滑に進めることができるでしょう。アジャスターは調整役ですが、最終的に車の所有者の満足のいく修理が行われることが重要です。
※中古車の場合は、修理・交換よりも車を買い直したほうが安いケースもあります。