

ブレーキクリーナーをバイクのどこにでも使っていいと思っていませんか?実は、使い方を誤ると制動力を著しく低下させ、ブレーキが効かなくなった状態で走ることになります。
ブレーキクリーナー(ブレーキパーツクリーナー)とは、ブレーキシステムの部品に付着した油分・グリス・ブレーキダスト・カーボンなどを強力に溶解・除去するための専用洗浄スプレーです。主成分は「石油系溶剤」で、ヘキサン・ノナン・エタノール・ブタンなどが配合されています。
バイクのブレーキパーツは、走行のたびにブレーキダストや泥、飛び散ったチェーングリスで汚れていきます。こうした汚れが蓄積すると、ブレーキの鳴きが発生したり、キャリパーのピストンの動きが悪くなって「引きずり」と呼ばれる不具合の原因になります。つまり定期的な洗浄がバイクの安全性維持に直結するわけです。
バイク専用品だけでなく、ホームセンターで販売されている汎用品も多く流通しており、1缶300〜1,000円前後と手頃な価格で手に入ります。これが使いやすさです。
ただし、強力な洗浄力を持つ分、使う場所を間違えると部品にダメージを与えてしまいます。「なんでも洗える万能液」ではない点を最初に理解しておく必要があります。
| 主成分の種類 | 乾燥速度 | 向いている汚れ |
|---|---|---|
| ヘキサン系 | 速乾〜中速乾 | 軽度の油汚れ・ブレーキダスト |
| ノナン系 | 遅乾 | 頑固なグリース・カーボン汚れ |
| エタノール系 | 速乾 | 軽微な汚れ・脱脂 |
つまり汚れの程度に合わせた使い分けが基本です。
参考:バイクメンテナンス専門誌の解説記事(NAPs マガジン)
ブレーキクリーナーが本来の力を発揮できる、バイクの「使用OK箇所」を正確に把握しておきましょう。使っていい場所は意外と限られています。
まず迷わず使えるのは塗装のない金属パーツです。具体的にはディスクローター(ブレーキディスク)、ブレーキキャリパー本体(金属部分)、取り外したボルトやナット、メッキのマフラーなどが該当します。これらに付着したブレーキダストや油汚れをスプレーするだけで、みるみる汚れが浮き出てきます。
ブレーキキャリパーのピストンを清掃する際も、ゴムシール(Oリング、ダストシール)を避けながらであればパーツクリーナーを活用できます。ただし必ずゴム対応タイプを選ぶのが条件です。
ブレーキダストはA4用紙1枚ほど(約210×297mm)の金属面を覆いつくすほど微細な粉塵として堆積し、放置すると固着して水洗いだけでは落ちません。こうした汚れに対してブレーキクリーナーは絶大な効果を発揮します。使えるパーツに正しく使えば、メンテナンス時間を大幅に短縮できますね。
また、エンジン周りの金属ボルト類を取り外した状態で洗浄するのにも適しています。外した状態のパーツならゴムや塗装に当たるリスクがないためです。これが使える条件です。
ブレーキクリーナーはバイクのブレーキ周りなら何にでも使えると思うと大間違いです。使用NG箇所に吹きかけると、数千円〜数万円規模の修理費が発生することもあります。
1. ブレーキパッドの摩擦材(フリクションマテリアル部分)
ブレーキパッドのうち、ディスクに接触するパッド部分(摩擦材)には絶対に使用してはいけません。石油系溶剤が摩擦材の成分を溶かし出し、制動力が著しく低下します。走行中にブレーキが効かなくなるリスクに直結します。これが最も危険です。
2. シールチェーン(OリングチェーンやXリングチェーン)
バイクのシールチェーンには、ピンとブッシュの間にグリースを封じ込めるためのOリング・Xリングが使われています。チェーンメーカーRKジャパンも「シールチェーンの洗浄にはブレーキクリーナー等の揮発系溶剤を使用しないでください」と明確に警告しています。ブレーキクリーナーを吹きかけるとシールリングが劣化し、封入グリースが流出してチェーンの寿命が大幅に縮まります。チェーン交換費用は安くても6,000円〜15,000円程度かかるため、実害は大きいです。
3. フロントフォーク・リアサスペンションのシール周辺
フロントフォークのインナーチューブとアウターチューブの境目付近には、オイルシールとダストシールが使われています。この部分にブレーキクリーナーをかけてしまうと、ゴムシールが劣化して内部のフォークオイルが漏れ出します。フォークシール交換の工賃は、バイクショップに依頼すると左右合計で1万5,000円〜3万円程度かかることもあります。痛い出費ですね。
4. 塗装面・プラスチック・樹脂パーツ
ホイール(アルミ製でも塗装されている)、サイドカバー、フェンダー、スクリーン、タンクなどは絶対に使用禁止です。石油系溶剤が塗装を溶かし、表面が白くにごったり変色が起きたりします。一度こうなると元に戻すことはほぼできません。
5. 電子部品・センサー類
ABSセンサーや各種電気配線の端子にブレーキクリーナーが入り込むと、接触不良やショートが発生することがあります。電子系トラブルの修理は費用が読めないため注意が必要です。
| 使用NG箇所 | 起こるリスク | 修理費用目安 |
|---|---|---|
| ブレーキパッド摩擦材 | 制動力の著しい低下 | パッド交換:3,000〜1万円 |
| シールチェーン | Oリング劣化→グリース流出→チェーン寿命短縮 | チェーン交換:6,000〜1万5,000円 |
| フォーク・サスシール | オイル漏れ | シール交換:1万5,000〜3万円 |
| 塗装面・プラスチック | 塗装溶解・白濁 | 再塗装:数万〜十数万円 |
| 電子部品・センサー | 接触不良・誤作動 | 修理費:不定(数万円〜) |
参考:チェーンメーカーRKジャパンの公式メンテナンス情報(業界権威)
RK JAPAN チェーンメンテナンス公式ページ|シールチェーンへの使用禁止溶剤について
それでは実際に、ブレーキクリーナーを使ったバイクのブレーキキャリパー洗浄の手順を見ていきましょう。難しくありません。
作業前の準備として、まず安全な場所(火気のない、換気のできる屋外または広い作業スペース)を確保してください。ブレーキクリーナーは引火性が高い危険物です。タバコや焚火の近くでの作業は絶対に禁止です。加えて保護メガネ・使い捨てゴム手袋・マスクを用意しましょう。
ブレーキキャリパーのオーバーホール(シール交換を含む本格的な分解整備)は、バイクショップへの依頼工賃が5,000〜16,200円が相場です。「なんか引きずりが気になる」と感じたときが、プロへの相談タイミングです。
参考:バイク情報サイト グーバイクによるキャリパーメンテナンス解説(実際の手順写真付き)
バイクのブレーキキャリパーの清掃・メンテナンス方法|グーバイク
ブレーキクリーナーには「速乾」「中速乾」「遅乾」の3タイプがあります。これを用途に合わせて選ぶだけで、作業効率と安全性が大きく変わります。
速乾タイプはほぼ即座に揮発するため、作業時間が短くなります。軽度のブレーキダスト除去や、拭き取りをすぐに始めたい場面に向いています。代表的な製品はモクケンの「テラ パーツ&ブレーキクリーナー 840ml(税込682円)」で、1缶で840mlという大容量かつコスパ最強クラスです。
遅乾タイプは溶剤がパーツ上でゆっくりと留まるため、頑固なカーボン汚れやこびりついたグリースを徹底的に落とすのに向いています。AZの「パーツクリーナー 650ml 遅乾タイプ」は非塩素系溶剤で引火点が高く、より安全に使いやすいのが特徴です。
中速乾タイプは速乾と遅乾のいいとこどりです。汚れに一定時間浸透しつつ、作業テンポも損ないません。AZの「PA-003 超強力/中速乾パーツクリーナー 650ml」は炭酸ガスによる強力噴射で、頑固な油汚れをしっかり浮かせます。逆さ噴射対応なのも便利です。
バイクのゴムパーツやプラスチックが多い箇所でも使いたいなら、KUREの「パーツクリーナー プラスチックセーフ」がおすすめです。強力な洗浄力を保ちながらプラスチックやゴムへの攻撃性が低い設計で、金属とプラスチックが混在するエンジン周りのパーツにも安心して使えます。速乾性で拭き取り不要という手軽さも魅力です。これは使えそうです。
| 製品名 | タイプ | 容量 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| モクケン テラ P&Bクリーナー | 速乾 | 840ml | 大容量・コスパ最強、逆さ噴射OK |
| AZ パーツクリーナー | 遅乾 | 650ml | 非塩素系・引火点高め・安全性重視 |
| AZ PA-003 | 中速乾 | 650ml | 炭酸ガス強力噴射・頑固汚れ向け |
| KURE プラスチックセーフ | 速乾 | 420ml | ゴム・プラスチックにも使える |
購入前に「塩素系か非塩素系か」を確認するのも大切な習慣です。塩素系は洗浄力は高いですが、金属パーツへの腐食リスクがある製品もあります。迷ったら「非塩素系・プラスチックセーフ」表記のある製品を選ぶのが安全です。非塩素系なら問題ありません。
ブレーキクリーナーを正しく使っているつもりでも、陥りやすい落とし穴があります。ここでは検索上位ではあまり触れられていない、現場ベースの注意ポイントを掘り下げます。
「直接吹きかけ」の拡散問題
バイクにキャリパーを付けたままディスクローターに直接スプレーすると、ミスト状の溶剤が霧状に飛散して、塗装済みのホイールや樹脂製のフェンダーに付着します。これが塗装白濁や樹脂変色の原因です。正しいやり方はウエスにブレーキクリーナーを吹き付けてから、そのウエスでパーツを拭く「間接吹き」です。特に狭いキャリパー周りでは絶対に守りましょう。
「洗浄後すぐ走行」の危険性
洗浄直後は溶剤成分がパーツ表面に薄く残っていることがあります。完全に乾燥する前に走行を開始すると、初期制動時にブレーキの効きが一時的に低下することがあります。洗浄後は最低でも数分間の自然乾燥をとり、走行前に一度駐車状態でブレーキレバーを数回握って感触を確認するのが鉄則です。これが原則です。
「ブレーキ鳴きが止まらないからクリーナーを大量噴射」の誤解
ブレーキ鳴きの原因は多様で、単純な汚れが原因でないことも多いです。ブレーキパッドの減りによる金属接触、ブレーキパッドとローターの相性、パッドの面取りがない、など様々な要因があります。ブレーキクリーナーを過剰に噴射しても解決しないばかりか、パッド表面の摩擦材に溶剤が染み込み、かえって制動力が落ちる逆効果になります。鳴き対策には洗浄後にパッドの角を軽くサンドペーパーで面取りし、パッドグリスをバックプレートに薄く塗布する方法が有効です。
フロントフォークオイル漏れ後の洗浄ミス
フロントフォークからオイルが漏れてブレーキディスクやパッドに付着してしまったとき、「とりあえずブレーキクリーナーで洗えばいい」と考えがちです。しかし実際には、油分が染み込んだブレーキパッドはクリーナーで洗っても制動力は回復しないことがほとんどです。フォークオイルが付着したパッドはパッド交換が必要になります。しかも根本原因のフォークシール交換をしないと何度でも同じことが起きます。なお知識として覚えておけば、フォークシール交換(工賃1万5,000〜3万円)を先に行えば無駄なパッド交換費用(3,000〜1万円)を防げます。意外ですね。
チェーングリスの飛散汚れへの誤使用
チェーングリスがスイングアームやリアホイールに飛散している状態を見て、ブレーキクリーナーで拭き取ろうとするライダーは多いです。金属部分への飛散汚れならブレーキクリーナーで問題ありません。ただしリアタイヤのゴム表面にグリスが飛んだ場合、ブレーキクリーナーをタイヤに吹きかけるのはNGです。タイヤのゴムを傷める可能性があり、グリップ力の低下につながります。この場合は中性洗剤と水での拭き取りが正解です。
参考:ブレーキパーツの使用NG箇所の解説(GUTS CHROME)
ブレーキクリーナーを使ってはいけないパーツ5選|GUTS CHROME
以上、ブレーキクリーナーの使い方とバイクのメンテナンスについて正しく理解することで、安全で長持ちするブレーキ系統を維持できます。使用OK・NGの判断と正しい手順さえ守れば、バイクのセルフメンテナンスは十分に可能です。正しい知識があれば大丈夫です。