

ブレーキを踏んだだけで、テンションロッドが壊れると車が真っ直ぐ止まれなくなります。
車の足回りは、何本ものアームやロッドが組み合わさることで成立しています。その中でもとくに見落とされがちなパーツが「テンションロッド」です。
テンションロッドは、主にマクファーソンストラット式のフロントサスペンションに採用されているサスペンションアームの一種です。ロアアームを車体の前方向から引っ張り(あるいは支え)、タイヤが前後方向にズレないよう固定する役割を担っています。つまり、加速時・減速時にかかる前後方向の力を受け止めているのがこの部品です。
位置としては、フロントタイヤの内側、車体の前後方向に沿って取り付けられています。向きがほぼ車の進行方向と平行なため、他のアーム類と比べても前後方向の荷重をダイレクトに受けやすい構造になっています。これが重要です。
一方、テンションロッドは「すべての車についている」わけではありません。ダブルウィッシュボーン式やマルチリンク式のサスペンションでは、ロアアームがA型の形状(2点でボディに取り付けられる構造)になっており、テンションロッド相当の機能がアーム自体に内包されています。テンションロッドが必要なのは、ロアアームがI型(1本のロッド形状)を採用する車種です。
| サスペンション形式 | テンションロッドの有無 | 代表的な車種例 |
|---|---|---|
| マクファーソンストラット(Iアーム) | あり | 日産 シルビア・180SX、スカイライン(FR系) |
| ダブルウィッシュボーン(Aアーム) | なし | ホンダ NSX、レクサス IS(フロント) |
| マルチリンク | なし(機能内包) | BMW 3シリーズ、メルセデス Cクラス |
つまり車種によって存在するかが変わります。自分の車のサスペンション形式を確認しておくと、メンテナンスの際の参考になります。
テンションロッドが何をしているのか、もう少し具体的にイメージしてみましょう。
ブレーキを強く踏んだとき、車体は慣性で前方に進もうとします。このとき、タイヤは路面に対してロックしようとし、ロアアームには後方へ引き戻される力(引張力)がかかります。これが「テンション(張力)」であり、ロッドの名前の由来でもあります。結論は前後荷重への抵抗が主役です。
この力をテンションロッドがしっかり受け止めることで、タイヤが前後方向にズレずに正しい位置を保ちます。逆にテンションロッドが機能しなくなると、ブレーキのたびにタイヤが後ろへ逃げてしまい、制動距離が伸びたり、ハンドルが取られたりする現象が発生するのです。
また、テンションロッドはトー角(タイヤの向き)にも間接的に影響します。ロッドの長さや取り付け位置が変わることでキャスター角が変化し、直進時のハンドルの戻り具合や、コーナリング中の安定感にも影響を与えます。これは使えそうです。
発進時も同様に、テンションロッドは役割を果たしています。アクセルを踏んで車体が後方に沈む際、ロアアームには前方へ押し出す力がかかります。この力も前後方向への動きなので、テンションロッドが支えています。つまり「発進」と「停車」の両方に関係するということですね。
テンションロッドがしっかり機能するには、取り付け部の「ゴムブッシュ」が健全であることが前提です。ゴムブッシュが問題の急所です。
純正品のテンションロッドは、車体側の取り付け部にゴム製のブッシュが圧入されており、振動吸収と動き制御を両立しています。日産系の一部車種(例:33シーマ、ローレルC35など)ではブッシュ内部にグリスが封入されており、経年劣化でそのグリスが漏れてくるという症状も見られます。トヨタ車の場合はグリスなしのゴムのみ構成ですが、やはり時間と走行距離によって劣化は進みます。
走行距離が10万kmを超えたり、製造から10年以上経過した車では、テンションロッドのブッシュ劣化がほぼ定番のトラブルとなっています。ゴムが硬化・亀裂を起こすことで、本来あるべきでない「遊び(ガタ)」が生まれてしまうのです。
ブッシュが劣化した場合に現れる代表的なサインを整理すると、以下の通りです。
早期に気づいた場合はブッシュ単体での交換が可能な場合もあり、部品代だけなら1個あたり約2,000円程度で済むこともあります。ただし、交換用ブッシュ単体では部品設定がない車種も多く、その場合はテンションロッドをアッセンブリー(一式)交換することになります。
テンションロッドのガタの確認方法(DIY Labo):ブレーキを踏んだときの車体の挙動でガタを確認する実践的な方法が解説されています。
テンションロッドのブッシュが劣化している場合、修理を後回しにしていると車検で引っかかる可能性があります。車検不合格も十分ありえます。
グリス封入型ブッシュからのオイル漏れは「下廻りのオイル漏れ」として車検の不適合項目になり得ます。また、ブッシュの破れや著しいガタは「サスペンションの遊び過大」として指摘される場合もあります。実際にYouTube上には「車検でテンションロッドが落とされた」という実例動画も複数公開されており、決して珍しいケースではありません。
交換費用の目安は以下の通りです(部品代+工賃込み)。
| 交換内容 | 費用の目安 | 備考 |
|---|---|---|
| ブッシュ単体交換 | 1個あたり約2,000〜5,000円(工賃別) | 部品供給がある車種に限る |
| テンションロッド本体(一式)交換 | 平均約30,780円(一般パーツ) | 最小6,840円〜最大77,010円の幅あり |
| カープレミアパーツ利用時 | 平均約24,620円 | 最小6,840円〜最大61,610円 |
費用に大きな幅があるのは、車種(国産・輸入車、FR・FF)によって部品価格が大きく異なるためです。軽自動車や一般的なコンパクトカーであれば1〜2万円台で収まるケースが多く、輸入車や旧車になるほど高額になる傾向があります。
また、テンションロッドを交換した後は「アライメント調整」が必要です。テンションロッドはトー角やキャスター角に影響するため、交換後にアライメントがズレていると直進安定性に悪影響が残ります。アライメント調整の工賃は別途5,000〜15,000円程度かかることを念頭に置いておくと、費用の見積もりがより正確になります。
ここまで「純正テンションロッドのメンテナンス」について解説してきましたが、実はテンションロッドを「社外の調整式ピロタイプ」に換えることで、走りの質を根本から変えることもできます。これは意外ですね。
「ピロボール式テンションロッド」とは、ゴムブッシュの代わりにピロボール(金属製の球状関節)を採用した社外品です。ゴムの弾性による「あそび」がなくなるため、タイヤの位置精度が格段に上がります。さらに大きなメリットは、ロッドの長さを調整できる「調整式」になっており、キャスター角の変更が可能になる点です。
キャスター角を純正より増やすと(例:日産シルビア・180SXの純正6°50'→7°50'程度に変更)、直進時のハンドルの復元力が強まり、高速道路走行でのふらつきが減少します。キャスター角の調整が肝です。ドリフト走行を楽しむ場合でも、テールの流れ速度をコントロールしやすくなることから、モータースポーツ車両では標準的な交換メニューになっています。
ただし、調整式ピロテンションロッドへの交換には注意点もあります。
純正テンションロッドのブッシュが劣化・亀裂を起こしているタイミングで、日常使用は純正交換、スポーツ走行を楽しむなら調整式ピロへの交換を検討してみることが、費用対効果の高い選択になります。いずれにせよ、テンションロッドを交換したら「アライメント測定」を行うことが条件です。
サスペンションアームの車検対応について(シルクロード):調整式テンションロッドを含むサスペンションアーム類の車検適合性に関する情報が掲載されています。