

ドリフトで派手に走る方がタイムが出ると信じているドライバーが、実は約8割に上るという調査結果があります。
サーキットや峠を走り込んでいる人なら一度は考えたことがあるはずです。「グリップ走行とドリフト走行、どっちが本当に速いのか?」という疑問は、走り好きのドライバーにとって永遠のテーマとも言えます。
まず両者の違いを整理しておきましょう。
グリップ走行とは、タイヤが路面をしっかりと捉えた状態(グリップした状態)を維持しながら、コーナーを滑らかに抜けていく走り方です。タイヤの摩擦力を最大限に活かし、無駄なスライドを起こさないことで効率的に前へ進みます。F1をはじめとするロードレースでは、このグリップ走行が基本スタイルです。
一方、ドリフト走行とは、主に後輪(リアタイヤ)を意図的に滑らせながらコーナーを旋回する走法です。カウンターステアを当てながら車体を横向きにしてコーナーをクリアするため、見た目のダイナミックさは抜群です。D1グランプリのような「魅せる走り」の競技では必須テクニックとなっています。
つまり根本的な目的が異なります。グリップ走行は「速く走るため」の技術であり、ドリフト走行は「コントロール性や見せ場を作るため」の技術と言えます。
| 項目 | グリップ走行 | ドリフト走行 |
|---|---|---|
| タイヤの状態 | 路面をしっかり捉える | 後輪を意図的に滑らせる |
| 主な目的 | 速さ・タイム短縮 | 魅せる走り・車体コントロール |
| 得意な路面 | 舗装路(アスファルト) | 未舗装路・低μ路面(ダートなど) |
| タイヤ消耗 | 比較的少ない | 非常に多い |
| 競技例 | F1・SUPER GT・タイムアタック | D1グランプリ・ドリフト大会 |
グリップ走行は一見地味に見えるかもしれません。ですが、そのぶんミスが許されない精密な操作が問われ、極めるほど奥深い走法です。
参考:グリップ走行の基礎と車種特性についての詳細は以下で解説されています。
グリップ走行とは?ドリフトとの違いや車の特性、走りを極めたい方への基礎知識 – モーターランドSP
結論から言えば、舗装路(アスファルト)においてはグリップ走行の方が速いです。これは今や世界トップレベルのレーシングドライバーたちが口を揃えて言うことです。
SUPER GTで2002年にシリーズチャンピオンを獲得した脇阪寿一選手は、次のようにはっきり述べています。「ドリフトって遅いんです。横滑りしてしまったら、その分のエネルギーがロスするので、遅くなってしまいます。実際にレース中に車を横滑りさせながらコーナーに入ったら、多分2〜3台に抜かれると思いますよ。」
理由は物理的にシンプルです。車はエンジンの出力をタイヤが地面に伝え、いかに効率よく前に進められるかが速さの根本です。ドリフト中はリアタイヤが横方向に滑っているため、駆動力が「前進」ではなく「横方向へのエネルギーロス」として消えていきます。走行距離も実質的に長くなります。つまり、エネルギーの無駄が生じるということですね。
一方でグリップ走行は、タイヤのグリップ力を縦方向(推進力)と横方向(旋回力)に効率よく配分することで、最短ルートを最高速で駆け抜けます。タイヤの限界ギリギリまでグリップを使い切ることが、タイムアップの鍵です。
ただし、ここで注意が必要なのは「どちらの走法でも、レベルが低ければ遅い」という事実です。物理学的な考察として有名なカーフィジックスの解説によれば、「グリップルートから登ると最も速いコーナリングはタイヤが滑るギリギリの場所となり、ドリフトルートから登ると最も速いのはタイヤが少しだけ滑る場所になる」とされており、最終的には「どちらのルートから登っても、最も速い走り方は結局似たようなものになる」とも言えます。
つまり本当の意味での「最速」とは、グリップ走行でもドリフト走行でもなく、タイヤの限界を完璧にコントロールした走りそのものということです。
参考:ドリフトとグリップはどっちが速いのかを物理的観点から解説した記事
ドリフトとグリップはどっちが速いのか? – carphys.net
「ドリフトは遅い」と言われると、意外に思う方もいるかもしれません。確かに、ラリーやジムカーナでは豪快にテールを滑らせるシーンが映像によく登場します。では、ダートや未舗装路ではどうなるのでしょうか?
実は、ラリーという競技において、ドリフト走行が「有効な場面」は確かに存在します。未舗装路や低μ(低摩擦係数)な路面では、グリップ走行でコーナーをきっちりトレースしようとしても、そもそも路面のグリップが足りず、意図せずスライドが発生します。そのような場面では、リアをスライドさせることで車体の向きを素早く変え、コーナー出口でアクセルを踏むタイミングを早める「ドリフトの利点」が活きることがあります。
しかし、これも近年では変化しています。WRCトップクラスでは、以前のドリフト主体の走法からグリップ主体の走法へと大きくシフトしており、セバスチャン・ローブらが「縦のグリップを最大限使う走り」を普及させて以来、ドリフト走法に頼るチャンピオンはほぼいなくなっています。脇阪選手も「WRC(世界ラリー選手権)の世界一を争う選手たちは、近年縦のグリップを使って走る。ドリフトしているように見えますが、あくまで結果的に横滑りしているだけ」と語っています。
まとめると以下のようになります。
ダートでのドリフトは「コントロールしやすい」という理由で使われることが多く、必ずしも「速いから」という理由ではないということが基本です。
参考:ラリーでドリフトが使われる理由と、グリップ走行との比較についての解説
速さとは別に、多くのドライバーが見落としがちなのが「タイヤコスト」という現実的な問題です。これは知っていると大きな節約につながります。
ドリフト走行では、リアタイヤが常に横方向にスライドしているため、タイヤの摩耗速度が非常に速くなります。グリップ走行では1セット(4本)のタイヤで数回のサーキット走行が可能な場合でも、ドリフト走行では1日の走行で後輪2本が使い物にならなくなることも珍しくありません。
具体的な費用感を見てみましょう。
さらに、ドリフト走行はタイヤだけでなく、駆動系パーツへの負荷も大きいです。クラッチやプロペラシャフト、デフなどの消耗も早まります。これを知らずにドリフト練習を続けると、維持費が予想をはるかに超えるケースがあります。痛いですね。
グリップ走行であれば、適切なブレーキングとライン取りを心がけることで、タイヤを無駄に消耗させず、コスト面でも効率的に楽しむことができます。サーキット走行のコストを抑えながらタイムアップを狙いたい場合は、グリップ走行に集中する方が長続きしやすいでしょう。
走行コストを把握したい場合、「オートメッセウェブ」や「みんカラ」などのサイトでは、実際の走行レポートと合わせてタイヤ消耗の記録が豊富に載っているので、走行前に参考にすると現実的な予算感がつかめます。
速さやコストだけでなく、2026年現在、ドリフト走行を取り巻く法的なリスクが急速に高まっていることを必ず知っておかなければなりません。
これまで公道でのドリフト走行は、道路交通法上の「騒音運転等違反(違反点数2点・反則金6,000円)」や「安全運転義務違反(違反点数2点・反則金9,000円)」に該当するケースが多く、直接的にドリフト走行を禁じる条文は整備されていませんでした。
しかし、2025年の法制審議会の検討により状況が大きく変わりました。
自動車運転死傷行為処罰法の改正において、ドリフト走行を「危険運転」として明確に処罰対象に追加する方針が固まっています。改正法が施行されると、公道でドリフト走行をして誰かにケガをさせた場合は、最長15年の拘禁刑が科される危険運転致傷罪の対象になります。
以前は「ちょっと試しにやってみた」という感覚でも、改正後は一発で人生が変わりかねない刑罰の対象になります。これは読者自身に直結するリスクです。サーキット走行での合法的なドリフトと、公道でのドリフトは全く別物と認識してください。
「でも自分は公道でそこまでやるつもりはない」と思っていても、峠道でのアクセルを踏みすぎたオーバーステアなども、状況次第では「意図的なドリフト」と判断されるリスクがあります。これが条件です。
公道でのドリフト行為が気になる方は、法務省が公開している自動車運転死傷行為処罰法の資料を確認しておくことをおすすめします。
参考:公道ドリフトの危険運転致死傷罪への追加に関する最新情報
「ドリフト走行禁止」が今後明文化される?「過失」ではなく「危険運転」に – くるまのニュース
参考:法制審議会による危険運転新制度案の詳細(ドリフト追加の経緯)
危険運転等の新制度案提示 飲酒と速度は2案検討、ドリフトも追加 – ncsol
ここまでの内容を読めば「グリップの方が速い」という答えは明確です。では、ドリフト走行に意味はないのでしょうか? 実はそうではありません。これは意外ですね。
ドリフト走行の練習は、グリップ走行の上達にも深く関係しています。ドリフトを繰り返し練習することで、車の限界挙動を体が覚え、「タイヤが滑り始める感覚」を身体レベルで習得できます。この感覚こそが、グリップ走行でタイヤのグリップ限界ギリギリを突く走りを可能にします。つまりドリフトはグリップへの近道です。
プロドライバーが公言しているのもこの点です。グリップ走行のタイムアップに必要な「アンダーステアを感じたら素早く修正する」「オーバーステアの兆候を感じてアクセルを抜く」といった操作は、ドリフト走行の経験が豊富なドライバーほど素早く正確に行えます。
また、グリップ走行の練習だけでは「なぜそのライン取りが速いのか」を物理的に理解しにくい面もあります。ドリフト走行でタイヤの限界をあえて超えてみることで、「グリップの限界がどこにあるか」を肌感覚で理解できるようになるわけです。
具体的な活用方法としては、次のようなアプローチがあります。
グリップ走行だけに専念していると、車の挙動が崩れた瞬間に「どうしたらいいかわからない」となりがちです。一方でドリフト走行の経験があると、車が横を向いた状態でも冷静に対処できます。これは公道での緊急回避にも活きる、実用的なスキルです。
サーキット走行の上達を本気で考えるなら、グリップとドリフトを「対立するもの」として捉えるのではなく、「互いを高め合うもの」として組み合わせることが、最も賢い選択と言えるでしょう。グリップ走行が基本です。
参考:プロドライバーが語る、グリップとドリフトの速さの本質
先生おしえて! ドリフトって本当に速いんですか?(脇阪寿一監督インタビュー) – note(Netflix)

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