

テスターを当てる前に、現車が「どの血統」かを確定させるのが最短ルートです。戦後に民間向けへ展開したCJシリーズの起点としてCJ-2Aがあり、軍用側ではCJ-3AをベースにしたM38(社内呼称Willys MC)が存在します。さらにCJ-3Bは、新エンジン搭載のためフード(ボンネット)が縦方向に高くなった点が外観上の大きな手掛かりです。これらは整備計画に直結します。なぜなら、同じ「ウイリス ジープ」と呼ばれていても、電装、防水、フレーム補強などの設計思想が別物だからです。
M38は、民生CJ-3Aから軍用に改修された車両で、フレーム/サスペンションの強化に加え、防水された24V電装システムを持つなど仕様差が大きいとされています。現場では、スターターが回らない・灯火が暗い等の症状が出たとき、単純に「バッテリー弱い」「配線古い」で片付けると沼に入ります。M38相当のハーネス思想(防水コネクタ、シールド、容量)を、民生6V/12Vの感覚で扱うと、接触抵抗や電圧降下の見積りが狂います。
ここで意外と見落とされるのが、外装・内装の換装です。レストア個体は見た目がMB風でも中身がCJ系、あるいはその逆もあります。年式当ては「見た目」だけに頼らず、電装電圧、発電機/レギュレータ形式、計器、デフ/トランスファーの型式、フレーム刻印やプレート等、複数の根拠を積み上げるのが安全です。
軍用と民生の違いを知る補助線として、ジープの系譜を押さえるのも有効です。Willys MA→MB、そこから戦後のCJへという流れ、そしてMBの後継としてM38が軍で使われた経緯がまとめられています。歴史は整備に直結しないようで、部品互換・流通の前提(何が残っていて何がレアか)を決める“地図”になります。
ジープの歴代モデル(MA/MB/CJ/M38等)の位置づけ。
https://dig-it.media/lightning/article/639364/
ウイリス系の文脈で頻出するのが、L-134(通称Go Devil)です。これは4気筒サイドバルブのエンジンとして知られ、排気量2.2L、出力はおおむね60馬力級という説明が一般的です。整備士として重要なのは、現代車の感覚で「トルクがない」「吹けが悪い」を異常扱いしないことです。仕様としてそういう性格なので、まず圧縮、点火、燃料、吸気漏れの順で“基本の健全性”を取りに行きます。
点火系は、配線・コイル・ポイント(装着されているなら)・プラグコードの順に「電圧降下」と「失火」を疑います。古い車両ほど、原因が単発ではなく、アース不良+キャブ薄い+プラグ劣化のように複合します。特にサイドバルブは燃焼室形状や熱の入り方が現代のOHV/OHCと異なるため、点火タイミングが少しズレただけでフィーリングが大きく変わり、症状が“曖昧”になりがちです。
燃料系では、キャブの状態がそのまま始動性とアイドリングに出ます。実際のレストア事例として、純正と同様のダウンドラフトキャブでアイドリング安定を狙いつつ、メインジェット穴を加工している話もあり、個体差や改造歴が大きい領域だと分かります。現場では、ジェット加工の有無を「良い/悪い」で裁く前に、プラグの焼け、排気臭、負圧計の挙動、燃圧、フロートレベル、加速ポンプの吐出を地道に確認して、現状仕様に合わせた再現性のある状態を作るのが先です。
見落としやすいのが、エンジンを“支える側”です。古いジープ系は、マウントのヘタりが振動とシフトフィールに直結します。L-134/F-134向けの強化エンジンマウントに触れている国内の整備・レビュー例もあり、現車の用途(街乗り、林道、展示)に応じて、純正ライクと耐久寄りのバランスを取る考え方が現実的です。
キャブ調整・ジェット加工に触れている再生記録(キャブ編)。
https://romi.naturum.neaturum.ne.jp/e1859765.html
電装は「何Vで組まれているか」を最初に決めないと、測定値の解釈が崩壊します。M38は防水された24V電装システムを持ち、民生CJ-3A系とは仕様がかなり異なるとされています。つまり、同じ“ライト暗い”でも、6V車の電圧降下なのか、24V防水系の接点抵抗なのかで、処置が別になります。改造個体では、ヘッドライトだけ12V、ワイパーだけ12Vモーターに交換、といった混在も起こり得ます。流通上も「ウィリス ジープ 用 DC12V」のワイパーモーターのような商品が普通に出回っており、現場では“純正前提”が通用しません。
整備の勘所は、電圧測定を「バッテリー端子」だけで終わらせないことです。灯火回路なら、バッテリー→メインスイッチ→ヒューズ(あるなら)→スイッチ→負荷→アース帰還まで、負荷をかけた状態で区間ごとに電圧降下を測ります。特にボディアースは、塗装やサビ、グリスで簡単に抵抗が増えます。古い車ほど、スターターは回るのに点火が弱い、ウインカーが点くと計器が揺れる、といった“症状の連鎖”が出やすいので、アース線を暫定でバイパスして症状が消えるかを見るのが早いです(恒久対策は適切なアースストラップ追加や接点処理)。
ここで独自視点として強調したいのは、整備工場の“安全文化”との相性です。ウイリス ジープの配線は年式不詳・改造歴不詳が多く、現代車のように規格化された色やカプラが期待できません。作業前に、簡易でも配線スケッチを起こし、ラベルを貼り、写真で記録し、復旧時の根拠を残すことが、結局は最短で品質が上がります。上司チェックの観点でも「なぜこの配線を疑ったか」を説明できる材料になります。
M38の24V防水電装・強化点の概要。
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A6%E3%82%A3%E3%83%AA%E3%82%B9_M38
古い4WDで避けて通れないのが「漏れ」と「滲み」です。特にトランスファー周りは、オイルのにじみがドラシャや下回りへ広がって“どこが起点か分からなくなる”典型ゾーンです。ここは整備士の段取りがものを言います。基本は、洗浄→乾燥→短距離走行→再確認で起点を特定し、それからシール、ガスケット、ブリーザ、取り付け面の歪み、フランジ摩耗(溝)まで順に潰していきます。
漏れ作業の注意点として有用なのが「注入口が開くことを確認してからドレンを抜く」という鉄則です。これは車種問わずですが、連休などで部品や油脂が手配できない状況で、ドレンを先に開けてしまうと詰みます。実例として、トランスファー側のシール交換を行う際、注入口から先に開ける重要性が強調され、シールを均等に打ち込まないと漏れが再発する点も述べられています。ウイリス系でも同じで、作業そのものより「再発しない面の作り方」が難所です。
また、リーフスプリング+ショートホイールベースの個体では、プロペラシャフト角や振動が油封に影響することがあります。オイル漏れに見えて、実際はベアリングガタやフランジ振れが原因でシールが追従できていないケースもあるため、シールだけ交換しても止まらないことがあります。整備記録には、トランスファーのオイル漏れ修理を段階的に追う動画・日記もあり、構造理解の助けになります。
注入口先行・シール均等打ち込み等の作業観点(一般例だが重要ポイントが明確)。
https://bankerkon.seesaa.net/article/2024-04-28.html
ウイリス ジープ系を“診断できる車”にするには、結局のところ一次資料の強さが効きます。国内では、三菱Jeepの「整備解説書」をPDF化したページが公開されており、目次レベルでもエンジン、燃料、冷却、エンジン電装、クラッチ、MT、プロペラシャフト、前後アクスル、ブレーキ、ステアリング、フレーム、ボデー、シャシー電装、配線図まで揃っていることが分かります。注意書きとして、1994年6月現在の車両を基に作成、仕様変更で一致しない可能性、そして無断転載禁止である旨も明記されています。つまり、参照はできても、内容の丸写しは避け、現車確認で裏取りする姿勢が必要です。
整備士向けの実務では、この手の解説書を「規定値」だけに使わないのがコツです。配線図の“回路思想”や、分解図の“構成部品の並び”、締結や調整の“順番”が最大の価値になります。例えば、現車のハーネスが改造されていても、元設計の回路ブロックを知っていれば、追加されたリレーやヒューズの意味を推理しやすくなります。部品調達も同様で、名称が分かれば国内外の流通(リプロ品、互換品)を当てやすくなり、結果として工数も下がります。
三菱Jeep整備解説書PDF(目次と配線図等にアクセスできる)。
http://jurinji.life.coocan.jp/images/jeep/syogen/seibikaisetusyo.htm