

アルミダイカスト製ショックタワーに換えると、フロント5部品が1部品になり31%も軽くなります。
ショックタワーとは何か、まず整理しておきましょう。車のサスペンション上部(ショックアブソーバーの頂点)を受け止める構造体で、走行中にタイヤから入ってくる上下・前後の力を車体全体へ分散させる役割を担っています。エンジンルームの左右に1つずつ配置された、山形・ドーム状のあのパーツです。ここが変形すれば乗り心地と操縦安定性の両方が崩れるため、剛性・強度・耐久性すべてが高水準で求められます。
ところが近年、この部品の素材が大きく変わりつつあります。これまでは複数枚の鋼板をプレス成型して溶接するのが当たり前でした。しかし、その当たり前がいまEVシフトと軽量化の波に押され、急速にアルミダイカスト化へと移行しています。
なぜダイカストなのでしょうか? アルミニウムの比重は鉄の約3分の1(鉄:7.8、アルミ:2.7)であり、同じ体積ならアルミ製品の方がはるかに軽い。これは基本事実です。そこに「複雑形状を一体成形できる」というダイカストの特性が加わると、部品点数削減・工程削減・重量削減が一気に実現します。
電気自動車(EV)は、大容量のバッテリーを積む関係でガソリン車の1.5〜2倍の重量になりやすいとも言われており、航続距離を伸ばすにはとにかく車体を軽くする必要があります。軽量化は必須です。だからこそ、ショックタワーのようなボディ骨格部品のアルミダイカスト化が、世界中の自動車メーカーに急ピッチで採用されているわけです。
「鋼板からアルミダイカストに換えても、強度が落ちるのでは?」と感じた方は多いはずです。結論から言えば、正しく設計されたダイカスト品は強度・剛性ともに基準をクリアします。
ショックタワーには、引張強度180MPa以上・0.2%耐力120MPa以上・伸び10%以上という機械特性の要件が課されています(宇部機械研究より)。アルミ合金Silafont-36(Al-Si系合金)のダイカスト品にT7熱処理を施した場合、これらの要件を安定してクリアできることが確認されています。引張強度で平均約210MPaという数字は、一般的な建築用アルミ材をはるかに上回る水準です。鉄よりアルミは弱い、というのは素材単体の比較であって、最適設計されたダイカスト部品では別の話です。
鋼板プレスとの比較で目立つのは部品点数の削減効果です。メルセデス・ベンツ新型Cクラスでは、フロントショックタワーを鋼板の5部品から高真空アルミダイカスト1部品に統合し、重量を31%削減しています。5対1で一体化。これは溶接継ぎ目がなくなることを意味し、剛性・耐久性の向上にも直結します。
マツダCX-60でも、フロントサスペンション取付部にアルミ6000系ダイカストを採用しました。「従来の鉄構造では形状・板厚・接合の制約から剛性アップに限界があり、形状自由度の高いアルミダイカストを採用した」(マツダ技報2022)という説明の通り、鋼板では出せなかった断面形状やリブ構造がダイカストなら自在に設計できます。つまり鋼板よりも剛性が高いことですね。
| 比較項目 | 鋼板プレス(従来) | アルミダイカスト |
|---|---|---|
| 部品点数(例) | 5〜10点 | 1点に一体化 |
| 重量 | 基準 | 約30〜50%削減 |
| 形状自由度 | 低(板厚制約あり) | 高(リブ・複雑形状OK) |
| 溶接箇所 | 多数あり | なし(一体成形) |
| 剛性 | 設計に依存 | 断面形状の最適化が容易 |
| 錆 | 発生しやすい | アルミは錆びにくい |
製造工程の削減も見逃せません。溶接が不要になれば工程数が減り、製造コストを下げられます。金型費用は高いものの、量産数が多いほどコストメリットが出るのがダイカストの特性です。これは使えそうです。
参考:マツダCX-60のショックタワーにアルミダイカストを採用した技術背景はこちら
ダイカスト製ショックタワーの品質を左右するのが、製造時の「高真空技術」です。この技術を知ることで、なぜアルミダイカスト部品が構造部材として成立するかが見えてきます。
通常のダイカストでは、溶けたアルミを金型に高速・高圧で流し込む際、空気やガスが製品内に取り込まれてしまいます(鋳巣・気泡)。この鋳巣があると、熱処理時に表面が膨らむ「ブリスター」が起き、引張強度や伸びが大きく低下します。ショックタワーのような衝撃荷重を受け続ける構造部材には、許されないことですね。
そこで採用されているのが高真空ダイカストです。キャビティ内を2〜3kPa(≒真空状態)まで減圧してから鋳込むことで、気泡の発生を抑制します。アーレスティが開発した「HiGF法」は、金型のシール性能を工夫して従来の真空ダイカストよりさらに高い真空度を実現し、T7熱処理後の伸びと0.2%耐力を大幅に改善しています。宇部機械の研究では、スリーブ内を含む高真空システムで「1.0秒以内に-95kPa」という目標真空度を達成したことが報告されています。
💡 ここでちょっとイメージしてみてください。製品サイズはW462mm×H454mm×D347mm(大きめのプリンタほどの体積)で、肉厚はわずか3.0mm。このペラペラな肉厚で均一に高速充填しながら、気泡ゼロに近い品質を出す。これが高真空ダイカストの実力です。
また、使用する合金の選定も重要です。構造部材向けに多く使われるSilafont-36(Al-Si系合金)は、熱処理によって伸びと耐力を両立できる特性を持っています。ADC12のような汎用合金(引張強度310MPa)よりは数値上「強さ」は低いものの、伸び(靭性)が必要な構造部材にはSilafont-36系が適しています。剛性だけでなく、衝撃を吸収する「粘り」が条件です。
製品1個あたりの重量は約3.5kg。鋳込み重量は8.0kgで、残りはランナーや湯口分として再利用されます。アルミの優れたリサイクル性(リサイクル時のエネルギーは新地金製造の約3%)を考えると、廃材ロスが少ない点も製造側の大きなメリットです。
参考:ショックタワー専用の高真空スリーブ技術の詳細はこちら
自動車用大型構造部材のダイカスト鋳造技術(宇部機械・技術論文PDF)
実際にどのメーカーが、どのモデルにショックタワーのダイカスト化を採用しているか、具体例を見ておきましょう。
メルセデス・ベンツ 新型Cクラスでは、メキシコのBOCARグループが製造する高真空アルミダイキャスト部品として、フロント・リヤのショックタワー、ロンギテューディナルメンバー、リヤクロスメンバーの計7部品が採用されています。フロントショックタワー単体で鋼板5部品→1部品への統合、重量31%削減を達成。71.4kgにのぼる全体軽量化の一端を担う中心的技術として機能しています。「Cクラスの俊敏な動き(アジリティ)を支えている」と評価されるのも、ショックタワーの剛性向上が走行特性に直結するからです。
マツダ CX-60では、フロントショックタワーにアルミ6000系合金のダイカストを採用(マツダ技報2022)。高耐食性の剛性接着剤との組み合わせで、ねじり剛性と車体軽量化を両立しています。鉄では実現困難だった形状自由度が、サスペンション取付剛性の向上に活かされています。
国内ダイカストメーカーでは、アーレスティが4,000tクラスの既存設備を使ってショックタワーの量産に対応しており、世界最速レベルの生産速度(1回の射出で2個取り)を実現しています。リョービは3,500tのダイカストマシンでフロントサブフレームを展示するなど、車体・シャシー系部品のダイカスト化に積極的に取り組んでいます。
さらに視野を広げると、テスラが「ギガキャスト」と呼ぶ超大型ダイカスト技術(6,000t以上の型締め力)は、ショックタワーどころかリアアンダーボディ全体を一体成形するレベルまで拡大しています。従来であれば86点の部品だったものが数点になる世界です。トヨタも同様の技術導入を発表しており、2025〜2026年以降の新型EVでの本格採用が見込まれています。
参考:アーレスティのHiGF法とショックタワー量産技術の詳細はこちら
軽量化と電動化の未来に向かって|アーレスティ ダイカスト事業紹介
メーカーや製造現場の話が続いてきましたが、最終的に「車に乗る人」にとって何が変わるのかを整理しておきましょう。
まず、軽量化による走行性能の変化があります。ショックタワーを含む車体骨格がアルミダイカスト化されることで、バネ下重量・車体重量が下がり、サスペンションの追従性が向上します。路面の凹凸に対して素早く反応できるようになるため、ハンドリングのダイレクト感や乗り心地の両方が改善します。車体が軽ければ軽いほど動きが素直になるということです。EVの場合は航続距離の延長にも直接寄与します。重量が10%下がれば電費も同程度改善するという関係性があるためです。
次に、剛性の向上は騒音・振動・ハーシュネスの改善(NVH性能)につながります。従来の鋼板では形状の制約から剛性アップに限界があったのに対し、アルミダイカストのリブ形状・断面形状の最適設計によって、ショックタワー周辺の共振が抑えられます。高速走行時やコーナリング時の安心感につながる変化です。
一方で、知っておくべき注意点もあります。ギガキャストや大型一体成形ダイカストを採用した車種(特にEV)では、事故時の修理コストが跳ね上がるリスクがあります。一体成形されているため部分補修が難しく、損傷箇所によっては大型部品ごとの全交換が必要になるためです。日経ビジネスなどでも「修理費が高額になりやすい」として指摘されています。修理費用が高くなるということです。
このリスクへの対処として現実的なのは、車両保険の車両価額・免責金額の見直しです。アルミ一体成形ボディを持つ車を購入・所有する場合は、板金修理が効かないケースを想定した保険内容になっているかを、契約時点で確認しておくことをお勧めします。またトヨタは、事故衝撃を受けやすい部位に意図的に変形しやすい「クラッシャブルゾーン」を設けてギガキャスト部の全交換を避ける設計を採用するなど、各メーカーが修理コスト問題への対応を進めています。
技術の進歩はドライバーにとって確実にメリットをもたらします。ただし、最先端技術には対応した知識と準備も必要です。ショックタワーのダイカスト化は「製造現場だけの話」ではなく、車を選ぶ・所有する・維持するすべての段階に関係してくる変化だということを覚えておけばOKです。
参考:EVとダイカストの関係、ショックタワーを含む採用部品の一覧はこちら
電気自動車(EV)とダイカストの関係性やメリットを徹底解説(帝産大鐘ダイカスト工業)

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