LINバスの電圧と自動車の通信システムを知る完全ガイド

LINバスの電圧と自動車の通信システムを知る完全ガイド

LINバスの電圧と自動車通信の仕組みを徹底解説

バッテリーが12Vでも、LINバスの電圧が8V以下に下がると、パワーウインドウもドアミラーも動かなくなります。


🔍 この記事のポイント3つ
LINバスの電圧範囲は8〜18V

LINバスは通常8〜18Vで動作し、アイドル時は約12V。バッテリーが弱ると通信が崩れ、パワーウインドウなど身近な装備が誤作動・停止する原因になります。

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あなたの車のボディ系は全部LINバス管理

パワーウインドウ、ドアミラー、電動シート、室内灯など、毎日触れる装備のほとんどがLINバスで制御されています。故障と勘違いしやすいトラブルの多くが電圧問題です。

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LINバス診断時はバッテリー充電が必須

LINバスの診断中にバッテリー電圧が低いと、誤った診断結果が出ます。整備士も「まずバッテリーテンダーを接続する」ことを最優先とする理由がここにあります。


LINバスとは何か|自動車ネットワークの基礎知識





現代の自動車には、複数の電子制御ユニット(ECU)が搭載されており、それらが互いに情報をやりとりしています。その通信規格のひとつが「LIN(Local Interconnect Network)」です。LINは1999年に欧州の自動車メーカーや半導体メーカーを中心とした「LINコンソーシアム」が策定し、現在はISO17987として国際標準規格になっています。


LINの最大の特長は「低コスト」にあります。信号線がたった1本で済み、マイコンも安価な8ビット品が使えるため、配線コストを約50%、トランシーバコストを60〜70%削減できます。これは電費・燃費にも直結します。つまり低コストが原則です。







































比較項目 LINバス CANバス
最大通信速度 20kbps 1Mbps(高速CAN)
信号線の本数 1本(シングルワイヤ) 2本(差動信号)
最大ノード数 16ノード 30ノード
通信方式 シングルマスタ方式 マルチマスタ方式
動作電圧範囲 8〜18V 差動電圧で判定
主な用途 パワーウインドウ・ミラー・シートなど エンジン・ブレーキ制御など


LINはCANの「サブネットワーク」として位置づけられています。車のエンジンやブレーキのような基幹システムにはCAN(CAN FD)を使い、ドア周りやシートなど比較的シンプルな制御にはLINを使うという役割分担です。現在では1台の乗用車に数十本ものLINバスが張り巡らされており、まさに「縁の下の力持ち」的な存在といえます。


参考:LINプロトコルの基礎仕様やフレーム構成など技術的詳細はサニー技研の解説が網羅的です。


LIN(Local Interconnect Network)とは | サニー技研 製品サイト


LINバスの電圧の仕組み|信号レベルとバッテリー電圧の関係

LINバスは「バッテリー電圧をそのまま使う」設計になっています。これがLINの構造的な特徴であり、同時にドライバーが意識すべき重要なポイントです。電圧レベルには「レセッシブ(論理値1)」と「ドミナント(論理値0)」の2種類があります。


| 論理レベル | 名称 | 電圧レベル |
|---|---|---|
| 1 | レセッシブ(劣勢) | バッテリー電圧(8〜18V) |
| 0 | ドミナント(優勢) | グランド(ほぼ0V) |


アイドル時(通信していない静止状態)のLINバス電圧は約12Vです。通信が始まると、その電圧が0V付近まで下がったり戻ったりを繰り返すことでデータを伝達します。この仕組み、実はデジタル時計のような「カチカチと切り替わる電気信号」です。


LINトランシーバの動作電圧範囲は通常8〜18Vです。注目すべきは、この範囲が車のバッテリー電圧(名目12V)に完全にリンクしていることです。バッテリーが劣化して電圧が8V以下まで落ちた場合、LINトランシーバが正常に動作できなくなります。これが「バッテリーが少し弱っただけでパワーウインドウが動かない」という現象の原因です。


さらに見落とされがちなのが「過電圧への対応」です。LINトランシーバはISO9141規格に準拠しており、最大40Vの過電圧に耐える設計が義務づけられています。これは誤ったジャンプスタートや車両メンテナンス時の電圧スパイクを想定した安全規格で、40Vという数字は「2台の12Vバッテリーを直列接続した場合(24V)+サージ電圧」を考慮した値です。この40Vという耐圧設計は頭に入れておくと得します。


参考:LINトランシーバの電気特性と電圧規格の詳細は以下が参考になります。


車載ネットワーク(10)LIN ハードウェア | 日本システムクリエイト


LINバスの電圧と接続される装備|身近な機能への影響

「LINバス」という言葉に馴染みがなくても、LINバスが制御している機能は毎日使っているものばかりです。次の装備は、すべてLINバスを介して動いています。



  • 🪟 パワーウインドウ(開閉・オート機能・挟み込み防止)

  • 🪞 電動ドアミラー(角度調整・格納)

  • 💺 電動シート(前後・リクライニング・高さ調整)

  • 💡 室内灯・読書灯・アンビエントライト

  • ワイパー制御(雨滴センサー連動)

  • 🔦 ヘッドライト制御(オートライト・方向指示器)

  • 🌡️ エアコン補助制御(ブロワモーター・フラップ)

  • 🔑 スマートキー・キーレスエントリー


これらは「走る・曲がる・止まる」に直接関係しないため、LINという低コストネットワークが割り当てられています。逆にいえば、エンジンやブレーキはLINではなくCANが管轄しているため、LINバスに問題が起きても走行が完全にできなくなるケースは少ないです。


ただし、スマートキーがLINバスを使っている場合、「エンジンはかかるがドアが開かない」「ウインドウが動かない」「室内灯がつかない」といった複数のトラブルが同時発生することがあります。これを「個別の故障」と誤認して部品を交換してしまうケースは少なくありません。LINバスの電圧異常が根本原因であることを知っているだけで、無駄な出費を避けられる可能性があります。これは使えそうです。


複数の装備が同時に動かなくなった場合は、まず「バッテリー電圧のチェック」を最初の手順に入れましょう。正常なバッテリーの開回路電圧は12.5〜12.7V程度です。12.2V以下になっているようなら、LINバスの通信が不安定になっている可能性があります。


LINバスの電圧と故障診断|誤診を防ぐための注意点

LINバスに関わる故障診断は、専門的な知識と手順が必要です。ここでは、自動車ユーザーが知っておくと役立つポイントを整理します。


まず前提として、LINバスは診断コネクタ(OBD2ポート、DLC)に直接配線されていません。スキャンツール(診断機)はLINバスのマスターコントローラー(BCMやボデーECUなど)を経由して、間接的にLINデバイスの状態を確認する仕組みです。診断機でエラーコードを読み出す場合も、このことを理解しておく必要があります。


診断時に最も重要なのは「バッテリー電圧の確保」です。 LINバスの信号電圧は1〜12Vの範囲を変動します。バッテリーが弱った状態で診断すると、実際には異常がないのに「通信エラー」として検出されることがあります。これを「誤診」と呼びます。米国NHTSAの技術情報(PIT5698)でも「LINバスを診断する際は、必ず車両にバッテリーテンダー(充電器)を接続すること」が推奨されています。意外ですね。


よく見られるLINバス関連の故障コードには次のようなものがあります。



  • 🔴 B2287:LIN通信バス異常(ダイハツ タント・ムーヴ等)

  • 🔴 B2325:ドア系LINバス異常(トヨタ ヤリスクロス・プリウスPHV等)

  • 🔴 U0032:LINバス通信喪失(汎用OBD2コード)

  • 🔴 800FC8:LINバス通信エラー(BMW系)


これらのコードが出た場合、すぐに部品交換に踏み切るのは早計です。まず「配線の断線・短絡・接続不良」「バッテリー電圧の不足」「コネクターの未着座」といった基本的な確認を行うのが正しい順序です。LINバスの配線は1本のシングルワイヤであるため、断線や接触不良といった「アナログ的な故障」が意外に多いのが現実です。


参考:各メーカーの故障コード診断手順の実例は以下のサイトで確認できます。


DTC B2287 LIN通信バス異常 タント ムーヴ アトレーワゴン診断手順


LINバスの電圧を守る|バッテリー管理とユーザーができること

LINバスは「バッテリー電圧をそのまま使う」設計です。つまり、LINバスを安定させる最も確実な方法は「バッテリーを良好な状態に保つこと」に尽きます。ここでは、一般ドライバーが実践できる具体的な対策をまとめます。


バッテリーの健全性チェックが基本です。 現代の乗用車バッテリーは一般的に3〜5年が交換の目安ですが、走行距離・気候・駐車環境によって大きく変わります。バッテリーの開回路電圧が12.2V以下になっている場合や、エンジン始動時にセルモーターの回転が遅く感じる場合は要注意です。


特に冬は注意が必要です。気温が0℃付近では、バッテリーの放電能力が夏と比べて最大50%低下することがあります。電圧計では問題なく見えても、実際の容量が大幅に落ちていることがあります。LINバスの動作電圧下限である8Vを割り込むリスクが高まるのはこうした状況です。


































バッテリー電圧(開回路) 充電状態の目安 LINバスへの影響
12.65V以上 100%(良好) 問題なし
12.45〜12.65V 75〜100% ほぼ問題なし
12.20〜12.45V 50〜75% 注意域(通信不安定になる場合あり)
12.00〜12.20V 25〜50% ⚠️ 通信エラーリスクあり
12.00V以下 25%以下 ❌ LINバス通信異常が発生しやすい


また、ジャンプスタートには十分注意が必要です。LINトランシーバは最大40Vの過電圧保護設計になっていますが、手順を誤ると保護回路を超える電圧スパイクが発生し、ECUやトランシーバを損傷させるリスクがあります。特に近年普及している「ジャンプスターターパック(携帯型バッテリー)」の中には、逆接続保護が不十分な安価品もあります。スパークが起きた場合は最大で数十ボルトのサージが瞬間的に加わることがあり、LINバスだけでなく車載ECU全体に悪影響を与えることがあります。


日常的な予防策として有効なのは、バッテリー電圧計(OBD2接続タイプのモニターや車内設置型のデジタル電圧計)を活用することです。これらは安いものなら1,000〜3,000円程度で購入でき、エンジン始動時や走行中のバッテリー電圧をリアルタイムで確認できます。LINバスの電圧異常に早期に気づくための実用的な手段です。


LINバスの電圧と最新規格|ISO17987とCXPIとの違い

LINバスは1999年のLIN1.0公開から約25年が経過し、現在も現役の規格として車載ネットワークに組み込まれています。最新規格はLINコンソーシアム最終版の「LIN 2.2A」を引き継いだ「ISO 17987」(2016年制定、2019年改訂)です。ISO 17987では、セキュリティ機能の強化も盛り込まれており、コネクテッドカー時代に対応した改訂が行われています。


LINの電圧規格は一貫して「8〜18V動作・40V過電圧耐性」を基本としており、12Vバッテリーシステムを前提とした設計は現在も変わっていません。一方、24Vシステムの大型車(バス・トラック)向けにもLINは使用可能で、この場合も同じトランシーバが対応できる設計です。つまり8〜18Vという動作範囲が条件です。


LINの次を担う規格として注目されているのが「CXPI(Clock Extension Peripheral Interface)」です。CXPIは日本の自動車メーカーが主導した規格で、ISO 20794として標準化されています。最大通信速度はLINと同じ20kbpsですが、イベント駆動通信(CSMA/CR方式)に対応しており、応答速度が数十msから数msに改善されています。

































比較項目 LIN(ISO 17987) CXPI(ISO 20794)
最大通信速度 20kbps
イベント駆動 非対応(ポーリングのみ) 対応
応答性 数十ms 数ms
スレーブ発振器 必要 不要(マスタから供給)
普及度 高(世界標準) 中(主に日本メーカー採用)


LINバスは現時点でも世界標準であり、当面は車載システムの中核的な役割を担い続けます。電気自動車(EV)やハイブリッド車においても、ボディ系制御はLINバスが担っているケースが多く、12Vバッテリーシステムが存在する限りLINの電圧設計は変わりません。LINバスへの理解は、これから先も長く役立つ知識です。


参考:車載ネットワーク全体の位置づけと最新動向については以下が参考になります。




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