

VVLエンジンを「低燃費専用の技術」と思い込んでいると、維持費が数万円余計にかかる可能性があります。
VVLとVVTは、どちらも「可変バルブ機構」という同じカテゴリに属します。ただし、制御する対象がまったく異なります。VVT(Variable Valve Timing)はバルブの「開閉タイミング」を変える技術で、クランクシャフトに対してカムシャフトの位相をずらすことで実現します。一方VVL(Variable Valve Lift)は、バルブが実際に「どれだけ開くか」、つまりリフト量そのものを変化させる技術です。
エンジン内部のバルブは、ドアの蝶番のように開閉してガスの出入りを管理しています。このドアを「5cmしか開けない」か「10cm全開にする」かを回転数や負荷に応じて切り替えるのがVVLの役割です。低速域では少ししか開かず、高速域では大きく開く。これだけで燃費と出力を同時に最適化できるのです。
つまりVVLとVVTは競合する技術ではなく、補完関係にあります。
多くの実用エンジンでは、VVTとVVLを組み合わせることで「タイミング」と「量」の両方を最適制御しています。日産の「NEO VVL」はこの複合的なアプローチを採用した代表例の一つです。
なぜリフト量を変えると燃費が良くなるのか?
通常のエンジンは、アクセル開度が小さい「軽負荷時」にスロットルバルブを絞って吸入空気量を減らします。ところがこれが問題で、ピストンが下がるとき大きな負圧が生じ、これが「ポンピングロス」と呼ばれるエネルギーの無駄遣いになります。VVLがあれば吸気バルブのリフト量を小さくすることで、スロットルをほとんど開いたまま吸入量を制御できます。負圧が発生しにくくなる分、ポンピングロスが大幅に低下します。
この効果は、エンジン回転の大半を占める「部分負荷領域」でこそ発揮されます。日常的な市街地走行でこそ、VVLの恩恵が大きいのです。燃費改善だけの技術ではない点がポイントです。
日産のVVL技術の名称は「NEO VVL」です。正式名称は「Nissan Ecology Oriented Variable Valve Lift and Timing」。環境性能を意識しつつ、出力特性も最適化することを目的として開発されました。初の採用は1997年、SR16VEエンジンに搭載されたものが最初です。
🔹 SR16VE(NEO VVL)の主要スペック:
| 仕様 | 内容 |
|------|------|
| 排気量 | 1,596cc(1.6L) |
| 型式 | 直列4気筒 DOHC 16バルブ |
| 最高出力(標準型) | 175馬力/7,800rpm |
| カム切り替え段数 | 2段階(吸気側5,000rpm/排気側7,000rpm) |
| 搭載車 | 日産パルサーVZ-R、サニーVZ-Rなど |
175馬力という数字は、1.6Lの自然吸気エンジンとしては当時のトップクラスです。ライバルであるホンダVTECのシビックタイプRが185馬力だったことを考えると、その競争力がわかります。
さらに際立っているのが、NEO VVLの「3段階切り替え」です。当時のVTECが一度しかカムを切り替えなかったのに対し、SR16VEのNEO VVLは吸気側が5,000rpmで切り替わり、その後7,000rpmで排気側も切り替わるという2回の切り替えを行いました。これはとても珍しい設計でした。
SR20VEとN1仕様の驚異的なスペック
SR16VEの上位モデルに位置するSR20VE(2.0L)も、同じくNEO VVLを搭載しています。プリメーラP12などに搭載され、最高出力は204馬力を発揮しました。
そして最も注目すべきが「パルサーVZ-R N1」用の特別仕様SR16VEです。オーテックジャパンが手作業でポート研磨を施したシリンダーヘッドを持つこのエンジンは、1.6LのNAで200馬力/7,800rpmという驚異的な出力を実現。リッターあたり出力は125.3馬力という、当時の国産1.6L自然吸気エンジンの最高記録です。
パルサーVZ-R N1(VersionIとVersionIIの合計)は、わずか500台しか製造されていません。現在では希少価値の高い1台として、中古市場でも注目を集めています。
実は名機VTEC超えだった!? パルサーに搭載されていたSR16VEの実力 – ベストカーWeb
日産のNEO VVL搭載エンジンが搭載されていた車種は、以下のとおりです。
🔹 NEO VVL(SR16VE)搭載車:
| 車名 | 型式 | 備考 |
|------|------|------|
| 日産パルサーセリエ VZ-R | JN15 | NEO VVL採用の元祖・175馬力 |
| 日産パルサーセリエ VZ-R N1 | JN15 | 特別仕様・500台限定・200馬力 |
| 日産サニーVZ-R | JB15 | 約300台の幻のモデル |
🔹 NEO VVL(SR20VE)搭載車:
| 車名 | 型式 | 備考 |
|------|------|------|
| 日産プリメーラ SSS | P11 | NEO VVL 2.0L・200馬力級 |
| 日産プリメーラ P12 GT | P12 | SR20VET(ターボ)との混在ラインナップ |
| 日産ブルーバードシルフィ | G10 | SR20VE搭載・上位グレード |
これらのVVL搭載車を中古車として検討するとき、見落としてはいけない点があります。VVLの機構はエンジンオイルの油圧を使ってカムを切り替える設計になっています。つまり、オイル管理の質が車両のコンディションに直結しています。前オーナーがオイル交換をサボっていた場合、カム切り替えが正常に機能しない状態になっているリスクがあるのです。
中古車購入前にチェックしておくべきポイントは次のとおりです。
- ✅ オイル交換の記録(メンテナンスノートや整備記録簿)が残っているか
- ✅ アイドリング時の異音がないか(カラカラ・ガラガラ音)
- ✅ 高回転域(5,000rpm以上)でのカム切り替え感が正常かどうか
- ✅ エンジン警告灯の点灯歴がないか
購入前に試乗できる場合は、必ず5,000rpm以上まで回してカムが正常に切り替わるか確認することをおすすめします。「切り替わり感」は実際に体感できる独特のフィーリングがあるため、VVL搭載車に乗ったことがある人にとっては比較的わかりやすいポイントです。
VVLエンジンはオイルの油圧で動いています。これが原則です。
通常のエンジンオイルの役割は「潤滑・冷却・清浄」ですが、VVL(やVVT)搭載エンジンではそれに加えて「油圧アクチュエーターの動力源」としての役割も担います。オイルが劣化すると粘度が下がり、必要な油圧を維持できなくなります。その結果、カム切り替えが遅延したり、最悪の場合は切り替わらなくなったりします。
一般的なオイル交換の目安は「5,000〜10,000km」という認識を持っている方が多いですが、NEO VVL搭載エンジンのような高回転型NAエンジンの場合、できれば3,000〜5,000kmでの交換が推奨されています。スポーツ走行を行う場合はさらに短いサイクルが理想的です。
オイルの粘度選択にも注意が必要です。NEO VVL搭載のSRエンジンには一般的に5W-30または5W-40のエンジンオイルが推奨されています。過度に粘度の高いオイルを使用すると、冷間時にカム切り替えの応答が遅くなる原因になることがあります。一方で粘度が低すぎると、高回転時の油膜切れリスクが高まります。粘度選びは純正指定に従うのが基本です。
VVLエンジンのオイル管理を怠ると起こること
オイルコントロールバルブ(OCV)が汚れると、次のような症状が出始めます。
- 🔴 エンジン警告灯の点灯
- 🔴 アイドリングの不安定化(エンジンが振動する)
- 🔴 「カラカラ・ガラガラ」という異音の発生
- 🔴 高回転域でのパワー感の低下
OCVの交換費用は部品代と工賃を合わせておおよそ1万〜3万円程度です。しかしOCVのトラブルを放置し、カムシャフト周辺まで影響が及んだ場合は修理費が10万円を超えることもあります。定期的なオイル交換(数千円)で防げるトラブルが、後に大きな出費につながるケースがあります。これは知っておいて損はない情報です。
2001年にBMWが「バルブトロニック」を発表したとき、連続可変バルブリフト機構は「未来のエンジン技術」として一時期もてはやされました。2007年にトヨタが「バルブマチック」を発表し、日産が「VVEL(Vehicle Variable Event & Lift)」を、三菱が「MIVEC」の新世代を発表するなど、業界では一時的なブームが起きました。
ところが現在、これらの連続可変バルブリフト機構を新型エンジンに積極的に展開しているメーカーはほとんどいません。なぜなのか? 意外ですね。
その理由は、「同じ目的を達成するより安価な技術」が登場したからです。連続可変バルブリフトの主な狙いは、スロットルバルブによるポンピングロスの低減でした。ところが最大EGR率が25%を超えるようになった高度なEGR制御と、吸気弁遅閉じの「ミラーサイクル」を組み合わせることで、わざわざ複雑な可変リフト機構を追加しなくても、ほぼ同等の効率改善が達成できるようになりました。
EGRとミラーサイクルの組み合わせには、バルブリフト制御では得られないメリットもあります。燃焼温度が下がって冷却損失が少なくなること、点火進角が稼げること、NOxが減少することなどです。費用対効果で見ると、連続可変バルブリフトはコストが見合わなくなってしまったというわけです。
🔹 主要メーカーの可変バルブリフト機構の展開状況:
| メーカー | 技術名 | 展開状況 |
|---------|--------|---------|
| BMW | バルブトロニック(VALVETRONIC) | 第2世代まで発展・継続採用 |
| トヨタ | バルブマチック(Valvematic) | 一部系列のみ・新展開なし |
| 日産 | VVEL(NEO VVLの後継) | 採用系列以外への展開なし |
| 三菱 | MIVEC(新世代) | 限定的な採用のみ |
このトレンドの変化は、VVLという技術が「駄目だった」わけではないことを示しています。むしろ「目的を果たすよりシンプルな方法が見つかった」という、技術革新の自然な流れです。VVLエンジンを搭載した車は、その技術的な挑戦の結晶として、特に日産のNEO VVL搭載モデルは熱心なファンからいまも高く評価されています。
エンジン技術の一大トレンドだった可変バルブリフトはなくなる? – Motor-Fan TECH
VVLエンジン(特にNEO VVL搭載のSRエンジン)を語る上で、多くの技術記事が見落としがちなポイントがあります。それは「カム切り替え時の体感変化と音の変化」です。これを知っておくと、運転そのものが格段に楽しくなります。
SR16VEの場合、吸気側のカムは5,000rpmで切り替わります。この瞬間、エンジンの音質がガラリと変わります。低回転域では比較的おとなしいエンジンサウンドが、5,000rpmを超えた瞬間に「モーターのような高音」に変わると表現するオーナーが多くいます。これはカムプロファイルが低速用から高速用に切り替わることで吸入空気量が急増し、吸気音の音質が変化することによるものです。
さらに7,000rpmでは排気側のカムも切り替わり、排気音の音量と質感も変わります。これが「二段ロケット」とも呼ばれるNEO VVLの独特の加速フィーリングです。
🔹 NEO VVL(SR16VE)回転数別の体感変化:
| 回転数 | 状態 | 体感・音の変化 |
|--------|------|---------------|
| 〜5,000rpm | 低速カム作動 | おとなしく扱いやすい特性 |
| 5,000rpm | 吸気側カム切り替え | 急加速感・音質が変化 |
| 7,000rpm | 排気側カム切り替え | さらなる音量増加・回転の軽さが増す |
| 7,800rpm | レブリミット | 最高出力到達・リミッターカット |
この「2回の切り替え感」が、ホンダVTECの「1回の切り替え」と大きく異なるNEO VVLの特徴です。多段階の切り替えにより、低中速域での扱いやすさと高回転域でのパワーを、より広い回転域でうまくつなげることに成功しています。
知っておくと得する情報ですね。
現在このフィーリングをオリジナルで味わえるのは、NEO VVL搭載の中古車に乗るしかありません。特にサニーVZ-Rは現役で22万kmを走り続けているオーナーの記録もあるほど、適切な管理のもとでは長期間使用できる耐久性を持っています。エンジンの「味」を大切にしたい方にとっては、今でも非常に魅力的な選択肢の一つです。