

警告灯が消えていても、横滑り防止装置は動いていないことがあります。
ステアリング角センサー(舵角センサー)は、ハンドルが今どの角度にあるかをECU(エンジンコントロールユニット)に伝えるセンサーです。この情報は、横滑り防止装置(ESC/VSC/ESP)やABSのブレーキ制御、バックカメラの予測ガイドライン表示など、複数のシステムが同時に利用しています。
「校正未完了」という状態は、センサーそのものが物理的に壊れているのではなく、センサーの「ゼロ点(直進状態を0度とする基準値)」がコンピュータから消えてしまった状態を指します。つまり、ハンドルが真ん中にあるのかどうかを車が判断できなくなっている、という状態です。
この状態になると、メーター内にESP警告灯・VSC警告灯・ABSと横滑り防止の複合マークが点灯または点滅します。スズキ車ではDTC(故障コード)C1439やC1445として記録され、レクサス・トヨタ車ではC1290として記録されることが多いです。
校正未完了が記録されているだけで、これらの安全システムは自動的に無効になります。つまり横滑り防止装置がオフになった状態のまま走行していることになります。これは見た目には気づきにくいため、「警告灯が点いているけど走れるから放置」という行動が特に危険です。
| 主な警告灯の表示 | 関係するシステム |
|---|---|
| ESP警告灯(点灯・点滅) | 横滑り防止装置(ESC/ESP) |
| VSC・ABS複合マーク | 横滑り防止装置・ABSブレーキ |
| パワーステアリング警告灯 | 電動パワーステアリング(EPS) |
警告灯が複数同時に点灯する場合もあります。複数の警告灯が一度に現れると驚きますが、多くは舵角センサーのゼロ点が消えたことで連鎖的にエラーが出ているケースです。原因が1つということですね。
校正未完了が発生する原因は、センサー本体の故障だけではありません。実際のところ、センサーが正常でもこのエラーは発生します。代表的な原因を整理します。
まず最も多いのが、バッテリーの上がりや交換です。ECUへの電力供給が途絶えると、舵角センサーのゼロ点データがリセットされます。スズキ・スイフトのバッテリー上がり後にこのエラーが出た事例が多数報告されており、グーネットピットでも同様の診断結果が確認されています。バッテリー交換はごく普通のメンテナンスのはずが、思わぬ警告灯の原因になる場合があります。
次に多いのが、ステアリングやスパイラルケーブルの交換・取り外しです。ハンドルを社外品に交換した際に、スパイラルケーブル(ハンドル中心を通る渦巻き状のケーブル)のセンター位置がズレると、舵角センサーが正しい「直進=0度」を読めなくなります。アルトワークスやトヨタ86のステアリング交換後にVSC/ABS警告灯が点灯したという報告はカーチューン等にも多数存在します。
そのほか、4輪アライメント調整後にも発生することがあります。ホイールアライメントを調整した場合、ハンドルの中立位置と実際のタイヤの向きがズレるため、ゼロ点の再設定が必要です。アライメント調整した後に「なんとなくハンドルがまっすぐでない」と感じる場合、このゼロ点ズレが原因のことがあります。
また、事故による足回りや車体への衝撃、あるいは経年劣化によるセンサー本体の損傷も原因になります。センサーはスパイラルケーブルと一体化されている車種が多く、どちらか一方が故障しても校正未完了の状態になります。
スズキ車ではスパイラルケーブルと舵角センサーがASSY(アッセンブリ)構造で一体化されている場合があり、スパイラルケーブルの断線だけが原因でも、センサーまで含めた一式交換をディーラーが提案してくることがあります。つまり費用が膨らむ可能性がある点は覚えておくべきです。
スズキ・ソリオ等でのDTC C1439/C1445の発生条件と診断フロー(Z-SPACE 修理書)
校正未完了を放置することのリスクは、大きく2つあります。安全面のリスクと、車検に通らないという実務的なリスクです。
安全面のリスクについて具体的に説明します。ステアリング角センサーのゼロ点がない状態では、ESC(横滑り防止装置)がステアリングの角度データを正確に読み取れません。ESCは「ドライバーがどちらに曲がろうとしているか」を把握したうえで、タイヤの横滑りを防ぐためにブレーキを自動制御するシステムです。ゼロ点が不明だと予測方向を誤るため、ESCシステムが丸ごと無効化されます。
急ハンドルや雨の日の高速コーナリング、緊急回避など、本来ESCが作動すべき場面で機能しないのは大きな問題です。見た目上はふつうに走れているため「大丈夫だろう」と思いがちですが、横滑り防止が無効の状態は、発動したときの違いが非常に大きい安全装備が外れていると同義です。
次に車検上のリスクです。国土交通省は2024年(輸入車は2025年)からOBD検査(車載式故障診断装置を活用した車検)の本格運用を始めています。このOBD検査では、横滑り防止装置(保安基準第12条の3)に関する「特定DTC」が1つでも検出されると車検不合格になります。
校正未完了を示すDTCがその特定DTCに該当する場合、外観上は何も問題がなくても不合格になります。「走れているから問題ない」という判断が、車検当日に発覚して困ることになる典型的なケースです。OBD検査は2024年以降に販売された対象車種から順次拡大されており、今後はより広い範囲の車が対象になります。
また、平成29年2月以降の車検では、ESP警告灯など5種類の警告灯が点灯・点滅した状態では検査自体を受け付けられないルールになっています。警告灯が点いたまま車検場へ持ち込んでも、検査前に弾かれる可能性があります。これは痛いですね。
校正未完了が発生した場合、対処の選択肢は大きく3つあります。走行による自動校正・手動でのリセット操作・スキャンツールを使ったプロへの依頼です。
まず、走行による自動校正は一部の車種で有効です。スズキ車の場合、時速35km/h以上の速度で5秒以上平坦な道を直進すると、ECUが舵角ゼロ点を自動取得する仕組みになっています(DTC C1439の修理書に記載)。同様に、スズキのESPセンサー学習は時速15km/h以上でのホイールスピンなしの直進走行でリセットされます。バッテリー上がりが原因でエラーが発生し、センサー本体は正常な場合、この走行を行うだけで警告灯が消えることがあります。
ただし、この方法は「ゼロ点の一時消失」が原因のケースにのみ有効です。スパイラルケーブルのセンター位置がズレていたり、センサー本体が劣化していたりする場合は、走行しても校正が完了しません。
次に、スキャンツールなしの手動リセット操作が有効な車種もあります。マツダのアクセラなどでは、エンジン始動後にステアリングを右いっぱい・左いっぱいに2〜3回繰り返すことでゼロ点学習が完了するケースがあります。車種によって手順が異なるため、愛車のサービスマニュアルや公式情報を確認することが必須です。
それでも警告灯が消えない場合は、スキャンツールを使用できるショップやディーラーへ持ち込むのが最善です。「センサー一括校正」という作業が診断機を使って行われ、コンピュータにステアリングのゼロ点を記憶させます。作業時間は30分以内で終わるケースも多く、センサー交換が不要な場合は工賃のみで対応できることもあります。
校正作業だけで済む場合の費用は数千円〜1万円程度が多いです。ただし、センサー本体や スパイラルケーブルの交換が必要になると、部品代と工賃を含めて平均3万3,550円前後(カープレミア調査)の費用が発生することがあります。なお、カープレミアパーツなど代替部品を活用すると平均2万6,840円程度に抑えられることもあります。
スキャンツールの有無で作業効率は大きく変わります。スキャンツールがある工場かどうかを事前に確認することが、無駄な出費と時間を防ぐコツです。
スズキ ESP(ステアリング角センサー)リセット・初期化・学習方法(oildata.car.coocan.jp)
横滑り防止装置の警告灯は気づきにくくても、バックカメラのガイドライン乱れで校正未完了に最初に気づく人は少なくありません。これはあまり知られていない、ユニークな発見経路です。
ステアリング角センサーは、横滑り防止装置だけでなく、バックカメラの「予測軌跡ライン」の計算にも使われています。ハンドルが今どの角度にあるかをもとに、バックしたときに車がどのラインを通るかを予測して画面に表示するのがこのガイドラインです。
ゼロ点が消えていると、ハンドルが真ん中にあるのに「右に曲がっている」と判断してガイドラインが斜めに表示されたり、ラインが突然ガクっとズレる動きをしたりします。これは、ESPの警告灯よりも視覚的にわかりやすいため、「駐車しようとしたらバックカメラのラインが変」という気づき方をするドライバーが実際に多いのです。
この現象は、センサー本体の故障ではなくゼロ点の未設定でも起きます。つまり、修理や交換が必要ではなく、校正だけで解決できる可能性がある状態ですね。
また、サイドカメラやトップビューカメラを装備している車では、それらの映像と組み合わせて車両の向きを表示する機能にも影響が出ることがあります。最近の車はセンサー1つの異常が複数の機能に連鎖する構造になっているため、「バックカメラだけおかしい」と感じたときでも、根本原因が舵角センサーにあるケースを頭に入れておくと良いでしょう。
バックカメラのガイドラインが乱れ始めたら、ESPやVSCの警告灯も確認することが大切です。メーター内の警告灯は消えていても、OBD診断機でDTCを読み出すと校正未完了のコードが残っていることがあります。
定期点検のタイミングで、スキャンツールが使える工場に診断してもらうことをおすすめします。目視では発見できない潜在的なエラーを把握するうえで、OBD診断は「健康診断」のような役割を果たします。これは使えそうです。
ステアリング角センサーのキャリブレーションが必要な場面と具体的な手順(SmartSafe・2025年版)