

旧JISの米印(*)のまま図面を読むと、修理後の車がメーカー保証を失うことがあります。
スポット溶接とは、2枚以上の金属板を電極で挟み、電流を流すことで発生する抵抗熱によって点状に接合する溶接方法です。溶加材(溶接棒など)を使わずに接合できるため、工程がシンプルで量産に向いています。自動車のドアパネルやルーフ、ボディの骨格など、至るところで使われている技術です。
この「スポット溶接」を図面上で指示する記号が、JISの改正によって大きく変わりました。具体的には、旧来の規格では「*(米印・アスタリスク状)」で表記されていたスポット溶接の記号が、現行のJIS Z 3021:2016では「○(丸印)」に変更されています。
変更の背景には、国際規格との整合化があります。現在の日本のJIS Z 3021は、国際規格ISO 2553:2013のSystem B(環太平洋地域向け)をベースに作られており、国内外で同じ図面を使うケースが増えた製造業の現場において、記号の統一が求められるようになりました。つまり、旧JIS記号は国際的な製造現場では「通じない記号」になりつつあるのです。
自動車を運転する方にとっても、この話は他人事ではありません。交通事故後のボディ修理や、車検時の板金修理では、修理工場が溶接図面や修理要領書に従って作業します。もし担当者が旧JIS記号のまま図面を読み間違えると、正しい位置・正しい個数でスポット溶接が打たれず、ボディ剛性が設計値を下回るリスクが生じます。
記号が変わったということです。
これは「知っておくだけで得をする」知識の一つです。修理を依頼する際に「新JISに対応した修理要領書を使っているか」確認するだけで、修理品質を大幅に担保できます。
スポット溶接記号の新旧比較と規格の詳細については、以下のミスミ公式記事も参考になります。
溶接記号の「見方・書き方・種類」|設計図面での正しい使い方を事例で解説(ミスミ meviy)
新JIS(JIS Z 3021:2016)において、スポット溶接の図面指示は「○(丸印)」という基本記号を中心に、いくつかの数値や補助的な表記を組み合わせて表現されます。この読み方を正確に理解することが、修理品質の確保に直結します。
まず基本記号「○」が基線(水平の線)の上または下に配置されます。基線の下側に記号が置かれる場合は「矢が指す側(手前の部材)」を溶接する指示です。上側なら「反対側の部材」への指示です。これは旧JISと同様の考え方で、変わっていない部分になります。
変わったのは「記号の形状」と「寸法の読み取り方」です。新JISでは、記号に付記される数値で以下の情報を読み取ります。
| 表記例 | 意味 |
|---|---|
| ○(3) | スポット溶接を3点打つ |
| d=6 | ナゲット径(溶接点の直径)が6mm |
| P=50 | 溶接点間のピッチ(間隔)が50mm |
ナゲットとは、スポット溶接で母材同士が溶け合って固まった部分のことです。コインサイズをイメージすると分かりやすく、板厚1.0mmの鋼板なら最小ナゲット径の目安は約6mmとされています。
つまり6mmということですね。
このナゲット径は溶接強度に直接関係します。自動車のフレームや構造部材を修理する際、ナゲット径が規定値を下回ると強度不足となり、衝突時に想定通りの変形吸収ができなくなる可能性があります。板厚別のナゲット径目安は以下のとおりです。
| 板厚(t) | 最小ナゲット径の目安 |
|---|---|
| 0.8mm | 約5.0mm(500円玉の厚さの半分ほどの径) |
| 1.0mm | 約6.0mm(ペン先のキャップ径程度) |
| 1.2mm | 約7.0mm |
| 1.6mm | 約8.0mm(小指の指先ほど) |
これが原則です。
自動車のボディ鋼板は外板で0.7〜0.9mm、骨格部材で1.2〜1.6mm程度が一般的です。部位ごとに板厚が異なるため、修理要領書に記載されたナゲット径を確認せずに「いつものやり方」で溶接すると、強度が大幅に下がる事態を招きかねません。
板金修理とスポット溶接の品質基準については、以下の記事に具体的なチェックポイントが詳しくまとまっています。
自動車のスポット溶接、正しくできてる?基本手順と品質管理チェックポイント(大同工業)
自動車の修理現場では、製造年代や図面の作成時期によって、旧JIS記号と新JIS記号が混在した状態が今も続いています。これは「記号の変遷」を知らないと見落としやすい、実務上の落とし穴です。
旧JISのスポット溶接記号は「*(米印)」でした。これは昭和時代から長年使われてきた記号で、現場の職人の間では今でもこの形に慣れ親しんでいる方が少なくありません。一方、2016年に改正されたJIS Z 3021:2016では「○(丸印)」に変わりました。
この変更は単なる「記号デザインの刷新」ではなく、ISO 2553:2013(国際規格)との整合化を意味します。輸出向けの部品図面、海外メーカー車の修理要領書、あるいは最新型の国産車に関する図面では、○(丸印)が標準です。
厳しいところですね。
旧JISの「*(米印)」は、見た目が「全周溶接記号の○」と紛らわしくなりにくい反面、ISO規格と異なるため、海外製図面を読む際に混乱を招きやすいという欠点がありました。新JIS移行後も、一部の工場や修理工場では旧JISに対応した図面や部品リストが現役で使われているケースもあります。
具体的にどのような違いがあるかを整理すると、以下のようになります。
| 比較項目 | 旧JIS(〜2010年頃) | 新JIS(JIS Z 3021:2016) |
|---|---|---|
| スポット溶接の基本記号 | *(米印) | ○(丸印) |
| 国際規格との整合性 | ISO 2553:1992準拠 | ISO 2553:2013(System B)準拠 |
| スポット個数の表記 | (n)を添付 | (n)を添付(継続) |
| 断続溶接の寸法表記 | L(n)-P | L(n)-P(JIS独自に踏襲) |
注目すべき点は「断続溶接の寸法表記」です。ISO 2553のSystem Aでは「n×L(e)」という表記法を使いますが、日本のJIS Z 3021:2016は「L(n)-P」を踏襲しています。これはJISがISO規格に完全一致しているわけではなく、一部「修正あり(MOD)」の状態であることを示しています。
つまり、たとえ「新JIS対応の図面」であっても、JISとISOの規格差を意識しないまま読むと誤解を生む余地がある、ということです。これが原則です。
自動車修理の文脈で言えば、輸入車のサービスマニュアルがISO System A準拠で書かれている場合、日本の新JIS感覚で読んでも細部で異なる解釈が生じる可能性があります。修理を依頼する際は、使用する要領書がどの規格に準拠しているかを確認することが安心につながります。
自動車の板金修理においてスポット溶接が用いられる場面は多岐にわたります。交通事故によるボディパネルの交換、サビによる切除・再接合、あるいはルーフやピラーなど構造部材の修復などがその代表例です。これらすべての場面で、新JIS記号を正しく読む能力と、適切な溶接条件の設定が求められます。
スポット溶接の品質は、「三大条件」あるいは「四大条件」と呼ばれる要素によって決まります。
近年の自動車ボディは、軽量化・高強度化のために高張力鋼板(ハイテン材)が多用されています。高張力鋼板は通常の軟鋼板に比べて硬く、溶接時の熱影響を受けやすいため、適正な条件から少しでもズレると強度が著しく低下するリスクがあります。
意外ですね。
さらに、自動車メーカー各社は車種ごとに修理方法を詳細に指定しており、使用すべき溶接機の種類、加圧力、電流値、通電時間などが修理要領書(サービスマニュアル)に明記されています。これらの条件は新JIS記号に基づく図面指示と一体のものであり、記号を正確に読めなければ修理条件の設定にも誤りが生じます。
修理の発注者側(車を所有する方)の視点では、以下の2点を意識するとよいでしょう。
ナゲット径や溶接点数が正しく管理された修理は、事故後の車のボディ剛性・安全性を本来の設計値に近い水準まで回復させます。逆に、記号の読み間違いや条件の不備があると、見た目は問題なくても衝突安全性が損なわれたままになる可能性があります。これは無視できないリスクです。
自動車補修スポット溶接の条件と課題に関する公式資料として、以下も参考になります。
一般社団法人 日本自動車補修溶接協会による提言(内閣府・交通安全基本計画参考資料)
新JIS(JIS Z 3021:2016)のスポット溶接記号は、基本記号「○」単体で使われることは少なく、実際の設計図面では複数の補助記号や寸法情報と組み合わせて使用されます。自動車に関わる知識としてここを理解しておくと、修理の見積書や点検記録などを読んだ際に「どこに何個打ってあるのか」を正確に把握できます。
まず、補助記号の中でも特に重要なのが「全周溶接」を示す記号です。基線と矢が交わる点に小さな「○(丸)」を付加することで、接合部の全周を溶接することを指示します。スポット溶接の基本記号「○」とは別物ですが、同じ○が使われているため、初めて図面を読む方は混乱しがちです。
これは注意が必要です。
次に「現場溶接」の補助記号があります。工場内ではなく、組み立て現場や修理現場での溶接を示す旗印(フラッグ記号)が基線と矢の交点に付きます。自動車の修理工場でのボディ溶接はまさにこの「現場溶接」にあたります。
断続溶接の表記も重要です。スポット溶接で複数点を等間隔に打つ場合、「L(n)-P」の形式で表記されます。たとえば「(6)-50」とあれば、「6点を50mm間隔で打つ」という意味です。50mmピッチとは、ちょうどクレジットカードの短辺(54mm)よりわずかに短い間隔のイメージです。
以下は実際の図面で見かける記号例をまとめたものです。
| 図面上の表記例 | 読み方 |
|---|---|
| ○(3) | 3点スポット溶接 |
| ○(6)-50 | 6点をピッチ50mmで施工 |
| ○d=6 (4) | ナゲット径6mm、4点打ち |
| 基線×矢 交点に○ | 全周溶接の補助指示 |
また、新JISでは「抵抗スポット溶接(RSW)」と「溶融スポット溶接(FW)」が別々の基本記号で区別されています。自動車ボディに主に使われるのは「抵抗スポット溶接」です。一方、溶融スポット溶接はアーク熱によって穴あき状に溶かして接合する方法で、記号が異なります。これを取り違えると、まったく異なる加工指示になってしまうため注意が必要です。
図面の指示と溶接機の設定を一致させることが条件です。修理工場に車を預ける際は、「どの溶接方法が指定されているか確認しているか」を一言確認してみるだけで、修理品質へのチェック機能として機能します。
JIS規格に基づく溶接記号の読み方と実務への応用については、以下も参考になります。
JIS規格にもとづく溶接記号一覧|図面での読み方と実務での使い方(protrude)
溶接の図面記号は、一般的には「設計者や製造現場の人間が使うもの」というイメージが強いでしょう。しかし、自動車を所有・利用する立場から見ると、このJIS改正には見過ごせない実益があります。
自動車保険による修理(いわゆる保険修理)では、修理内容の正確な記録と品質基準への適合が求められます。保険会社は修理費用を査定する際に修理要領書と照合しますが、その修理要領書に記載される溶接記号は新JIS準拠のものが増えています。つまり、修理工場が使用する図面と実際の作業内容が「新JIS記号で照合されている」のが現実です。
これは知っておくと得するポイントです。
具体的に言うと、旧JIS時代の記号に慣れた修理担当者が溶接点数やナゲット径を誤って読み取ると、必要な溶接が行われないまま「修理完了」とされてしまう可能性があります。特に目視で確認しにくいボディ内側の構造部材(フロアやピラーなど)では、外観上は問題なく見えても内部強度が低下したままになることがあります。
日本自動車補修溶接協会が公表している資料によれば、超高張力鋼板(引張強度780MPa以上)については、既存のJISやWES規格が対象外とされており、溶接機の使用者が自己責任で規格を援用しているケースも少なくないとされています。これが問題ありません、とは言い切れない状況です。
自動車オーナーとして押さえておきたいポイントをまとめます。
溶接記号1つが変わっただけに見えて、そこには車の安全性・修理品質・保険対応という連鎖があります。新JISの「○」という記号は、単なるデザイン変更ではなく、国際標準に沿った品質管理体制の一環として機能しています。
これだけ覚えておけばOKです。
自動車を使う立場でも「旧JISと新JISでスポット溶接記号が変わった」という事実を知っているだけで、修理工場との会話の質が変わり、結果として修理品質を守ることにつながります。溶接の記号は、安全な車生活を守る「読み取れると得する図面言語」でもあります。