

スクエアエンジンを「バランス型」と思い込んでいると、燃費も出力も中途半端で損をする選択をしてしまいます。
エンジンの仕様表に必ず記載されている「内径×行程」という数字をご存じでしょうか。たとえばトヨタ旧86やスバルBRZに搭載されていたFA20型エンジンには「86.0mm×86.0mm」と記されています。この2つの数字、内径(ボア)と行程(ストローク)がぴったり同じ値であることが、スクエアエンジンの絶対条件です。
ボアとはシリンダーの内側の直径のこと。ストロークはピストンが上死点から下死点まで移動する距離のことです。つまりスクエアエンジンとは、シリンダーの直径と、ピストンが動く距離がまったく同じエンジンのことをいいます。
数式で示すと、「ボア÷ストローク=1.0」が成立するエンジンです。正確にいうと、この比率が1.0より小さければショートストローク(オーバースクエア)、1.0より大きければロングストローク(アンダースクエア)と呼ばれます。スクエアはその名の通り、ちょうど正方形に近い断面形状になります。
スクエアという言葉がそのままエンジンの形の比喩になっているわけですね。
実際に数値でイメージすると、ボア80mm・ストローク80mmのエンジンなら、シリンダーの横幅(直径)も縦の動き幅も同じ8cmほど。名刺の短辺が約5cmですから、8cmはA6サイズの紙の短辺にほぼ等しい大きさです。その小さな空間の中でピストンが毎分数千回往復していると考えると、精密さに驚かされます。
参考:ボアストローク比の詳細な解説(Wikipedia)
ボアストローク比 - Wikipedia(自動車エンジンの分類と特性)
スクエアエンジンが多くの車に採用される理由は、一言でいえば「守備範囲の広さ」にあります。低回転から高回転まで、一定以上の実力を維持できるバランスのよさが最大の武器です。
まず低速・中速域のトルクについて。ストロークがある程度の長さを持っているため、ロングストロークほどではないものの、発進や市街地走行で必要な粘り強いトルクが得られます。信号からの発進や合流時に、アクセルを踏み込んだ際の反応がしっかりしているのはこの特性のおかげです。
次に高回転域での伸び。ボアが十分に確保されているため吸排気バルブを大きく設計しやすく、エンジンが高回転になったときに吸い込める空気の量が稼ぎやすくなります。高速道路の追い越しや山道でのエンジンの引っ張り感は、この吸排気効率に直結しています。これは使えそうです。
また、ピストンスピードのバランスも重要なポイントです。ストロークが短すぎず長すぎないため、同じ回転数での往復速度が適度に抑えられます。量産エンジンでは一般にピストン平均速度の上限が約25m/秒とされていますが、スクエアエンジンはその限界に余裕を持って近づけるため、エンジン耐久性を保ちながら高回転化できます。
さらに燃焼室の形状も有利に働きます。ボアが大きすぎず、燃焼室の表面積がコンパクトに収まるため、熱が逃げにくく、熱効率の低下を抑えられます。ロングストロークほど燃費に特化してはいませんが、一定以上の燃焼効率を確保できる設計です。
参考:JAFによるボアとストロークの解説
「内径×行程」とはどういう意味か?(JAF公式Q&A)
スクエアエンジンには確かな弱点もあります。バランスを優先する設計は、逆を言えば「どちらかに突き抜けた性格を持てない」ということでもあるからです。
まず低速トルクの面では、ロングストロークエンジンに敵いません。ロングストロークはクランクシャフトの半径が大きく、テコの原理のように小さな燃焼圧力でも大きな回転力を生み出せます。軽いアクセル操作でぐっとトルクが出てくる感覚は、ロングストロークエンジン独自のものです。スクエアエンジンはそこまでの粘り強さはありません。
一方で高回転の伸びについては、ショートストローク(オーバースクエア)エンジンには劣ります。ボアが大きいショートストロークは、より大きな吸排気バルブを搭載でき、回転数が上がるほど力強くなる特性を持ちます。F1をはじめとするレーシングエンジンがボア÷ストローク比=2.0近くまでショートストロークに設定されているのは、極限の高回転性能を求めているからです。
つまり「究極に燃費重視」でも「究極に高回転スポーツ向け」でもない。厳しいところですね。
ただし、この「中間的な性格」がデメリットになるかどうかは、使い方次第です。街乗りから高速道路、週末のワインディングまで幅広く使う一般ユーザーにとっては、尖った性格のエンジンよりも扱いやすく、長い目で見て疲れにくい特性でもあります。
| エンジン種別 | ボア÷ストローク比 | 得意な場面 | 苦手な場面 |
|---|---|---|---|
| ロングストローク | 1より大きい | 低速トルク・燃費 | 高回転の伸び |
| スクエア | 1.0(ちょうど等しい) | バランス全般 | 極端な特性が出しにくい |
| ショートストローク | 1より小さい | 高回転・最大出力 | 低速トルク・燃費 |
スクエアエンジンの代表例として最も有名なのが、スバルBRZ(初代ZC6型)とトヨタ86(初代ZN6型)に搭載されていたFA20型エンジンです。このエンジンのボア×ストロークはまさに86.0mm×86.0mmと、ピッタリ一致したスクエア設定になっています。
なぜ86mmという数値にこだわったのか、というのが興味深い背景です。スバルが前に使っていたEJ20型エンジンはボア92mm×ストローク75mmというショートストロークでした。それに対してFA20はスクエアに改めることで、日常域での扱いやすさを大幅に高めています。しかも「86(ハチロク)mm」という数字は、かつてのトヨタAE86(通称ハチロク)を意識した遊び心のある設定とも言われています。
また先代スバルWRX S4(VAG型)にも同じくFA20 DITエンジンが搭載されており、ボア×ストローク86mm×86mmのスクエア設定でした。こちらはターボ付きで最大トルク400N・mを発生するハイパフォーマンスバージョンです。ターボ付きでもスクエアエンジンが成立する点は、その汎用性の高さを示しています。
一般的な実用車においても、多くのガソリンエンジンはボア÷ストローク比が1.0前後に設定されることが多く、スクエアに近い設計が標準的といえます。Wikipediaでも「多くの実用ガソリンエンジンでは、ボア・ストローク比は1.0近傍に設定されるか、ややロングストロークに設定される」と記されています。
スクエアエンジン搭載が基本です。
参考:FA20型エンジンの詳細スペックと歴史
「どのエンジン特性が自分に合うのか」を知ることは、次の車選びで後悔しないための重要な視点です。エンジンのボア・ストローク比を意識するだけで、カタログでは分からない走り味の違いが見えてきます。
街中をメインに走る人、通勤や買い物で低速域の多い運転をする場合は、ロングストローク寄りのエンジンが向いています。アクセルを深く踏まなくても太いトルクが出るため、燃費にも有利です。スバルのレガシィアウトバック(1.8ターボ、80.6mm×88.0mm)やフォレスターのハイブリッドモデルはその典型例で、実用性重視の設計になっています。
週末にワインディングロードを楽しみたい、スポーツドライビングを趣味にしているという人は、スクエアからショートストローク寄りのエンジンが合います。スクエアエンジンはアクセルの踏み始めから高回転まで幅広く使えるため、ステージを選ばないオールラウンドな楽しさがあります。ショートストロークならエンジンの「吹け上がり感」がより強調されます。
主に高速道路を使った長距離移動が多いなら、スクエア設定のエンジンが使いやすいです。一定速度を維持しながらも、追い越し時には高回転まで使える特性は高速巡航との相性が良いといえます。
自分の車がどのエンジンタイプに属するかを確認したい場合は、カタログの「エンジン諸元」欄にある「内径×行程」(または「ボア×ストローク」)を確認するだけでOKです。前者の数字が小さければショートストローク、後者が小さければロングストローク、ぴったり同じならスクエアエンジンということになります。
💡 確認手順。
- 車のカタログまたはメーカー公式サイトの「主要諸元表」を開く
- 「内径×行程(mm)」の欄を確認する
- 前の数字(内径)と後の数字(行程)を比較する
エンジン諸元の詳細な読み方については、JAFや各メーカーの公式サイトで確認できます。
参考:ボアとストロークによるエンジン特性の違い(WEB CARTOP)
同じ排気量でもまったく違うエンジンになる!ボア×ストロークの違いとは(WEB CARTOP)
「スクエアエンジン=中途半端」という印象を持つ人は少なくありません。しかし、この見方は少し表面的です。スクエアエンジンが積極的に選ばれている理由には、設計者の戦略的な意図が隠れています。
エンジン開発において「尖った性格にする」ことは技術的にはさほど難しくありません。むしろ難しいのは「複数の特性を高い次元で両立させる」こと。スクエアエンジンは、この「高次元の両立」を狙った設計の結果です。
たとえばFA20型エンジンは、スバルの旧来型EJ20エンジンがショートストロークだったのを、あえてスクエアに変更しています。これは単に「バランスを取った」のではなく、「市街地燃費の改善」「ピストン摺動抵抗の低減」「日常域でのトルク確保」という三つの課題を同時に解決するための設計変更でした。スクエア化によって燃焼室がよりコンパクトになり、熱の逃げ方が最適化されたのです。
また、2000年代以降は排出ガス規制・省エネ要求・衝突安全基準という三つの制約が厳しくなる中で、スクエアに近い設計が「最も現実解に近い」として広まっています。ショートストロークは燃費に不利、ロングストロークはエンジン高さが増してフード設計が難しくなるという課題があるため、スクエア設計が自然と増えているのです。
つまり「スクエアエンジンは妥協の産物」ではなく、「現代の複合的な要求に応えた合理的な解」といえます。
さらに興味深いのが、スクエア設定のエンジンはチューニングの自由度も高いという点です。ボア方向への拡大(ボアアップ)でショートストローク化、ストローク方向への変更でロングストローク化、どちらの方向にも改造しやすい「中間点」であることが、チューニング愛好家に好まれる理由の一つでもあります。
これは意外ですね。
エンジンのカタログ値だけを眺めていては気づきにくいこうした背景を知ることで、車選びやカーライフの視野は確実に広がります。どんなエンジンが搭載されているかを把握し、自分の走り方に合った車を選ぶ目が養われていくと、長い目で見てコストや満足度の両面で得をします。
参考:ボアストローク比の自動車への応用と設計思想
エンジンのボア×ストロークに注目——スバル信州スタッフブログ

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