

ショートストロークエンジン搭載車は、燃費が悪いから街乗りで損をすると思っていませんか?
エンジンの回転数を上げるとき、最大の障壁になるのがピストンの上下運動スピードです。ストロークが長い(ロングストローク)エンジンは、回転数が上がるにつれてピストンスピードも急激に高まり、コンロッドやクランクシャフトに大きな負荷がかかります。限界まで上げようとすれば、部品が破損するリスクが高まります。
ショートストロークエンジンは、ピストンの上下移動距離が短いため、同じ回転数でもピストンスピードを低く抑えられます。これが大きなポイントです。
具体的な数値で見てみましょう。ホンダがホンダS2000に搭載した「FC20型」エンジン(ボア87.0mm × ストローク84.0mm)は、ショートストロークのおかげで許容回転数9,000rpmという驚異的な高回転を実現しました。最高出力は250PS(184kW)を8,300rpmで発生します。これは当時のF1エンジン並みのピストンスピードと言われたほどです。
つまり「同じ排気量でも、より多くの回転数を稼げる=馬力を高められる」というわけです。
回転数が上がれば上がるほど出力は大きくなります。「馬力 = トルク × 回転数」という式の通り、回転数が倍になれば出力も理論上は倍に近づきます。ショートストロークはその高回転を安全に実現するための設計思想だといえます。
ショートストロークのメリットは、高回転に強いだけではありません。吸排気バルブを大きくできる、という構造上の利点があります。
エンジンのシリンダー内径(ボア)が大きいと、燃焼室もその分広くなります。燃焼室が広ければ、吸気バルブ・排気バルブをより大径に設計できます。これは使えそうです。
バルブが大きいほど1回の開閉で多くの混合気(空気とガソリン)を吸い込み、より多くの燃焼ガスを排出できます。高回転時にはバルブの開閉時間が極端に短くなるため、吸排気が間に合わなくなることがあります。しかし大径バルブならその問題を緩和でき、高回転域でもしっかりと充填効率を維持できます。
わかりやすく例えるなら、口が小さい人と大きい人が全力で素早く深呼吸をするようなイメージです。口が大きいほど短時間で多くの空気を吸い込めます。
大径バルブが吸排気効率を高める、というのが基本です。
エンジンの性能を数値で比較したいときは、カタログの「ボア×ストローク」の欄を確認してみましょう。ボアの数値がストロークより明らかに大きければ、それはショートストローク型のスポーティなエンジンです。車種選びの参考指標として一つ覚えておけばOKです。
▶ webcartop.jp|ショートストロークエンジンのデメリット・ロングストローク化のトレンドも解説(2024年3月)
世界のハイパフォーマンスカーを見渡すと、ショートストロークエンジンが採用されているケースが際立って多いことがわかります。意外ですね。
モーターファンテック(2021年)の調査によれば、現在市販されている中でも屈指のショートストローク型エンジンのS/B比(ストローク÷ボアの比率)は次のようになっています。
| メーカー・車種 | エンジン形式 | ボア×ストローク | S/B比 |
|---|---|---|---|
| ポルシェ911ターボ | 3.8ℓ水平対向6気筒ターボ | 102.0mm × 76.4mm | 0.75 |
| マクラーレン570S | 3.8ℓ V8DOHCターボ | 93.0mm × 69.9mm | 0.75 |
| フェラーリ GTCルッソ | 6.3ℓ V12 | — | 0.80 |
| ランボルギーニ | 6.5ℓ V12 | — | 0.80 |
| スバルWRX STI(EJ20) | 2.0ℓ水平対向4気筒ターボ | 92.0mm × 75.0mm | 0.815 |
S/B比が0.75とは、ストロークがボアの75%しかない超ショートストローク設計です。ポルシェとマクラーレンが同じS/B比0.75というのは興味深い数値です。
これらのエンジンに共通しているのは、7,000rpm以上の高回転域で強力なパワーを発揮するという特性です。ランボルギーニの6.5リッターV12が8,500rpmまで回り、800馬力超を発生できるのも、ショートストロークによる高回転設計があってこそです。
国産スポーツカーの代表格であるトヨタGR86/スバルBRZ(FA24型)のS/B比は0.915で、これもショートストローク型です。2.4リッターの自然吸気エンジンで235PS(173kW)を7,000rpmで発生します。高回転が原則です。
スバルのEJ20型エンジンはS/B比0.815という数値を持ち、WRX STIの象徴的なエンジンとして多くのファンに愛されました。現在はEJ20の生産は終了していますが、ショートストロークの魅力を体現した名機として語り継がれています。
あまり語られない視点ですが、ショートストロークエンジンはエンジン本体の高さ(縦方向の寸法)が低くなる傾向があります。これは車体設計に大きな恩恵をもたらします。
ピストンのストローク(上下移動距離)が短ければ、シリンダーの全長が短くなります。シリンダーが短いとエンジン全体の高さが抑えられ、エンジンをより低い位置に搭載できます。これが条件です。
エンジン搭載位置が低いほど、車体の重心も下がります。重心が低い車はコーナリング時のロール(横揺れ)が小さくなり、ドライバーが意図した通りに車が動く特性が生まれます。スポーツカーが「ハンドルの動きに素直に反応する」と言われる理由の一つがここにあります。
トヨタGR86とスバルBRZが水平対向エンジン(ボクサーエンジン)を採用しているのも、エンジン全高をさらに低く抑えて重心を下げるためです。水平対向エンジン自体がショートストロークと相性が良く、低重心パッケージとして完成度を高めています。
ホンダの初代NSXでは、ビッグボア90mm・ショートストローク78mmの設計を採用し、チタン製コンロッドも投入することで高回転化と軽量化を同時に達成しました。これは単純な馬力の追求だけでなく、車全体の運動性能を高める設計哲学によるものです。
低重心化によるハンドリング向上は、数字として見えにくいメリットです。しかし峠道やワインディングを走ったときに「なんかこの車、曲がりやすい」と感じるその背景に、ショートストロークの恩恵が隠れていることがあります。
ショートストロークエンジンのメリットを最大限に引き出すには、その特性を理解した上で乗ることが重要です。特性に合わない乗り方をすると、性能を活かせないどころか、エンジンへの負担が増えることにもなりかねません。
まず知っておきたいのは、ショートストロークエンジンは「低回転時に強くない」という点です。ロングストロークエンジンと比べると、アイドリング付近や低いギアでのトルクが薄い傾向があります。街中での発進・低速走行では、回転数の上下にやや気を使う乗り方になります。これは知っておくべき特性です。
一方で、回転数を5,000〜7,000rpm以上に乗せていくと、パワーの出方が別次元になります。ホンダS2000(FC20型エンジン搭載)のドライバーは、6,000rpmを超えてから怒涛の加速が始まると表現することが多く、それがこのエンジンの醍醐味とされています。
ショートストロークエンジンを搭載した車は、マニュアルトランスミッション(MT)との組み合わせで特に真価を発揮します。ドライバーが意図的にエンジン回転数を維持・上昇させながらシフトチェンジすることで、パワーバンドを外さずに走ることができます。
日常的なメンテナンスも大切です。高回転型エンジンはエンジンオイルの消耗が早い傾向があります。オイルの管理は必須です。推奨オイル粘度(例:0W-20や5W-30など車種指定のもの)を守り、走行距離や使用頻度に応じたオイル交換が、エンジンを長く健康に保つ基本です。高回転を多用する走行スタイルなら、通常のサイクルより1,000〜2,000km早めにオイル交換するだけで、エンジン内部の保護効果が大きく変わります。
エンジンオイルのグレードや交換時期を確認したい場合は、メーカー推奨のオーナーズマニュアル、または「CASTROL」「MOTUL」などの高性能オイルブランドの適合情報ページで自分の車種を検索するとすぐわかります。高回転仕様の車なら、粘度だけでなく「全合成油(フルシンセティック)」であることも確認しましょう。
▶ clicccar.com|ショートストローク・ロングストロークの特性をわかりやすく比較解説(ボア/ストローク比・バイクとの違いも網羅)