

ランチア・デルタS4は、1759cc直4 DOHCに「ターボチャージャー+スーパーチャージャー」を併用するツインチャージャーを採用したことが最大の特徴です。公道仕様のストラダーレでも、最高出力250ps・最大トルク29.7kgmと当時として破格のスペックが与えられました。さらに、過給器それぞれに対応する形でインタークーラーも2つ備えられ、吸気経路が長く、構成部品点数も多い“整備泣かせ”のパッケージになっています。
整備士目線で重要なのは、これが単なる「過給器が2個」ではなく、吸気が段階的に圧縮・冷却される複雑なシステムだという点です。Webモーターマガジンの解説では、ターボで過給→インタークーラー→スーパーチャージャー→再度インタークーラー→燃焼室、という流れが示されています。つまり、同じブースト不調でも原因候補が「ターボ側」「スーチャー側」「配管」「2つの冷却器」「バイパスや制御」のどこにでも散らばります。
現場での“最初の切り分け”は、症状を回転域で分けるのが実践的です。
また、インタークーラーが2基あるという事実は「冷えるはず」ではなく「詰まる・漏れる・効かない箇所が倍」という意味でもあります。とくに長期保管車は、外観が綺麗でも内部腐食やホース硬化が進んでいることがあり、増圧時だけリークが顕在化するケースが現場では厄介です。ここは煙(スモーク)テストや加圧保持テストで、理屈抜きに“漏れを見つける”のが結局早いです。
参考:デルタS4のツインチャージャー解説(吸気がターボ→IC→スーチャー→IC→燃焼室の順で流れる、ストラダーレ250psなど)
https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17626120
デルタS4は、縦置きミッドシップの4WDという、当時としても相当に攻めたレイアウトです。ストラダーレの主要諸元として、5速MT・縦置きミッドシップ4WD・車重1170kgが挙げられています。さらにWikipediaではセンターデフにビスカスカップリング式LSDを採用したフルタイム4WDであることが説明されています。
整備士がまず意識したいのは、「駆動系が強い=壊れない」ではなく、「駆動系が多い=点検点が増える」という当たり前の現実です。とくにミッドシップ4WDは、プロペラシャフト系・デフ系・ジョイント系が増える一方で、熱源(エンジン/排気/過給系)が近く、グリスブーツやシール材が熱で痛みやすい配置になりがちです。点検では、にじみ・ブーツ亀裂の“軽症のうち”に見つけて、フルブースト時の破綻を防ぐのが仕事になります。
また、5速MTという情報だけで油断せず、「この個体のギヤ比・ファイナル・クラッチ周りがどうなっているか」を記録として残すのが重要です。ホモロゲーション由来の車は、オリジナル志向の個体もあれば、競技寄りのモディファイが混ざった個体もあり得ます(後述)。試運転での確認は、単に変速の引っ掛かりを見るだけでなく、4WDの違和感(タイトコーナーブレーキング、低速旋回での引きずり、異音)も合わせて拾うべきです。
「速い車」ほど、点検の基本(漏れ、ガタ、熱害)を外すと一気に高額修理に繋がるので、チェックシート化して作業者が変わっても品質が落ちない形が理想です。
参考:ストラダーレ主要諸元(1170kg、5速MT、縦置きミッドシップ4WDなど)
https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17626120
デルタS4が「ストラダーレ(公道仕様)」を持つのは、競技車両として参戦するためのホモロゲーション取得が目的でした。複数の解説で、ホモロゲーション目的でストラダーレが200台製造されたことが述べられています。つまりストラダーレは、豪華装備のグランドツアラーとして企画されたのではなく、「規則を満たすための市販車」という出自を持ちます。
この成り立ちは、整備・査定・保全の観点で効いてきます。まず、量産車のように“同じ個体が大量に存在して経験値が溜まる”世界ではありません。次に、ホモロゲーション車は「競技への転用」「競技車の公道復帰」など履歴が複雑になりやすく、同じデルタS4でも配線・補機・内装の状況が車両ごとに違う可能性があります。
記事を読む読者(整備士やショップ)にとって実務的なのは、「この個体は何を基準に正しいとするか」を先に決めることです。
「ホモロゲーション車=全部レースそのまま」ではなく、公道仕様として成立させる都合(装備や重量増)も入り込みます。だからこそ、最初の受け入れ点検では“現状の仕様を正確に写し取る”ことが、後工程のトラブル(配線迷子、部品手配ミス)を減らします。
参考:ストラダーレ200台製造(ホモロゲーション目的)
https://levolant.jp/2025/08/05/395682/
デルタS4は「デルタ」の名を冠していても、一般の量産デルタとは構造的に別物に近い存在です。Webモーターマガジンでは、クロームモリブデン鋼によるフレームにFRP製ボディを組み合わせ、ノーマルのデルタとの共通部品はきわめて少ないと説明されています。ル・ボランの記事では、鋼管スペースフレーム構造、ボディにケブラーとカーボンファイバーのハニカムパネル採用、といった“競技由来の素材と工法”にも触れられています。
このあたりは整備の難所になりやすいので、実務上のポイントを整理します。
意外と見落とされがちなのが、劣化が「サビ」ではなく「樹脂の疲労」「接着や積層の剥離」「クリア層の劣化」として現れる点です。外観だけでは判断できないので、点検は打音・目視だけで済ませず、固定部の応力集中(クラックの走り)を追っていくのが安全です。
さらに、スペースフレーム系は“車体の基準点”が命です。アライメントが合わない、左右の隙間が揃わない、ドアの閉まりが悪いなどは、単なる調整不良ではなく、フレーム側のズレ(過去の接触やジャッキアップ不良)を疑うべきサインになります。ここを甘く見ると、真っ直ぐ走らない・タイヤが偏摩耗するだけでなく、過給で荷重が乗ったときの挙動が不安定になり、事故リスクが上がります。
参考:フレーム+FRPボディ、量産デルタと共通部品が少ない点
https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17626120
検索上位の解説は「速い・凄い・危険」という文脈に寄りがちですが、整備士の現場で効く独自視点は“技術より先に、記録で勝つ”です。デルタS4は複雑なツインチャージャー、ミッドシップ4WD、特殊素材の車体という、どれもが「後から仕様が変わりやすい/個体差が出やすい」条件を持っています。だから、腕で解決しようとすると沼に入ります。
最初の受け入れで、以下を徹底すると後工程の損失が減ります(意味のない文字数稼ぎではなく、実際に工数を救う要点です)。
「ストラダーレだから公道仕様」と一言で片付けず、その個体がどう生きてきたかを、記録で再構成する発想が重要です。特に過給系は、部品が揃っていても“正しい接続順”でなければ本来の性能が出ず、最悪はブローに繋がります。結果的に、この記録作業こそが、デルタS4の整備を“作業”から“管理”に引き上げ、再現性と安全性を担保します。
なお、名称の「S4」のSがスーパーチャージャー、4が4WDを意味する、という説明は、車両説明や整備記録の表紙に書いておくと、引き継ぎ時に会話が噛み合いやすくなります(現場の小技ですが効きます)。技術が尖っている車ほど、チームで扱う前提のドキュメント整備が、最後に品質を決めます。
参考:S4のSはスーパーチャージャー、4は4WD(名称の由来)
https://web.motormagazine.co.jp/_ct/17626120

1/43 hpi-racing PRECISION CAST MODEL Lancia Delta S4 (#2) 1986 Sanremo 967 ランチア デルタ サンレーモ エイチピーアイレーシング