

オクタン価向上剤をレギュラー車に入れると、エンジン寿命が逆に縮まることがあります。
オクタン価向上剤とは、市販のガソリンに少量添加することでガソリンの「オクタン価」を高め、エンジン内の異常燃焼(ノッキング)を抑制するための燃料添加剤です。ガソリンスタンドで売られているレギュラーガソリンのオクタン価は日本ではRON(リサーチ・オクタン価)で90前後、ハイオクは100前後が一般的です。オクタン価とは「燃えにくさ」の指標で、値が高いほど圧縮に耐えてスパークプラグの点火タイミングまで自然発火しにくくなります。
つまり、オクタン価が高いほど良いエンジンです。
そもそもノッキングとは、エンジン内でガソリンと空気の混合気がプラグの点火より前に自己着火してしまう現象のこと。「カラカラ」「キンキン」といった金属音と振動が発生し、ピストンやシリンダーに大きな負担をかけます。オクタン価向上剤はこの問題を根本から抑えるために機能します。
オクタン価向上剤には大きく分けて2種類あります。「金属系(有機金属系)」と「含酸素系」です。かつては四アルキル鉛(テトラエチル鉛)がその代表でしたが、人体や環境への深刻な害から現在の自動車用ガソリンへの使用は事実上禁止されています。これが原則です。
現在市場で流通している製品は、主にエーテル系・アルコール系・芳香族炭化水素系の3系統に分けられます。それぞれの成分の特徴を次のH3以降で順を追って解説していきます。
JOGMEC(石油・天然ガス資源情報):オクタン価向上剤の解説
現在の市販ガソリンに実際に使われているオクタン価向上剤として最も代表的なのが、エーテル系含酸素化合物です。その代表が MTBE(メチル-ターシャリ-ブチルエーテル) と ETBE(エチル-ターシャリ-ブチルエーテル) です。
MTBEはRONが約118という非常に高いオクタン価を持ち、少量の添加でガソリン全体のオクタン価を引き上げる効率に優れています。燃焼時の発熱量もある程度確保されているため、燃費への悪影響も小さいとされていました。日本のハイオクガソリンでも2001年まで使用されていた実績があります。
これは使えそうです。
ただし、MTBEは水に溶けやすいという大きな欠点があります。地下水汚染や発がん性リスクが指摘され、アメリカでは多くの州で使用が禁止されています。日本でもその後、MTBEに代わってETBEの使用が段階的に進んでいます。ETBEはバイオエタノールから製造される部分があり、再生可能エネルギー由来の「バイオガソリン」として環境面でもメリットがある素材です。
ETBEのRONは約118とMTBEとほぼ同等。水への溶けやすさがMTBEより低く、地下水への影響も少ないとされています。ただし難分解性で長期毒性の疑いがあるという点は現在も研究が続いており、「完全に安全」と断言できる段階ではありません。
含酸素系が主流という点が条件です。
市販のオクタン価向上剤の添加剤として購入できる製品も多く、「アンチノッカー」「オクタスR」などの商品名で販売されています。1本270gで900リットル以上のガソリンに対応できるとされる超高濃度タイプも存在します。これらの主成分もエーテル系・含酸素化合物が中心です。
TDK:バイオガソリンとETBE・MTBEの使用経緯と環境への影響について
芳香族炭化水素系の代表がトルエン(toluene)とキシレン(xylene)です。ベンゼンに類似したこれらの物質は、RONが約110〜120と非常に高く、オクタン価を上げる力が強いことで知られています。
入手が比較的容易なため、DIY系のカーオーナーの中にはトルエンをガソリンに混ぜてオクタン価を上げようとする方もいます。ところが、オクタン価を実用的な範囲(たとえばRON90→95程度)まで引き上げるには、ガソリン全量の数十パーセント単位のトルエンを混入する必要があります。これは経済性においても、手間の面においても、非常に非効率です。
芳香族炭化水素の問題はそれだけではありません。ベンゼン類は発がん性物質として国際的に認知されており、大量に扱うことは健康リスクが伴います。またガソリン内のベンゼン比率について、日本のJIS規格(JIS K 2202)では厳しく管理されており、個人が勝手にベンゼン類を大量添加することは法令上も問題となる可能性があります。
厳しいところですね。
さらに、トルエンやキシレンはゴムや樹脂製部品を侵食する性質があります。エンジン内部にはゴム製のシール類やホース類が多数使用されており、適切でない成分を高濃度で使用すると、これらを溶かしたり膨張させたりするリスクがあります。これが特に古い車(1990年代以前の車両など)でトルエン系の過剰使用が危険とされる理由です。
一方で、市販のオクタン価向上剤製品の中には微量のトルエン成分を配合しているものも存在します。規定量の使用であれば問題ありませんが、独自に大量添加するのは危険です。使用上の注意を厳守するのが大前提です。
市販のガソリン添加剤に含まれる成分として、オクタン価向上と同時によく語られるのがPEA(ポリエーテルアミン)とアルコール系の成分です。
PEAは厳密にはオクタン価を直接上げる成分ではなく、エンジン内部の洗浄に特化した成分です。燃焼室・吸排気バルブ・インジェクターなどに堆積したカーボン(すす)を分解・除去する力に優れています。カーボンが溜まったエンジン内では、そのカーボンが高温化して点火源になり、ノッキングを引き起こすことがあります。PEAはその根本原因を取り除くことで、結果的にノッキングを抑制するという間接的な効果を持ちます。つまり、洗浄することでオクタン価向上効果を底上げするということです。
効果の出方が間接的ですね。
一方、アルコール系のメタノールやエタノールは、RONが約129〜130と非常に高くオクタン価向上剤として理論上は優秀な素材です。実際、いくつかの国ではガソリンにエタノールを混合(E10やE85など)して販売しています。日本でもバイオガソリンとしてETBE配合ガソリンが普及しつつあります。
ただし、個人でメタノールやエタノールを大量に混合するのはリスクが伴います。アルコール類はガソリンの約2/3程度の発熱量しかないため、大量混合するとパワーダウンや燃費悪化を招く可能性があります。また金属・ゴム・樹脂部品への腐食性があり、車種や年式によっては深刻なダメージにつながることがあります。
適切な濃度での市販製品の使用が基本です。
ニトロ系(ニトロメタンなど)の成分も一部添加剤に配合されており、燃焼促進や高回転域でのトルクアップに効果があるとされています。ただしこれはレース用途の特殊な成分で、一般市販車への日常的な使用には向かない場合がほとんどです。
Wikipedia:オクタン価向上剤の種類と成分一覧(MTBE・ETBE・有機鉛)
オクタン価向上剤を選ぶ際に最初に確認すべきことは、自分の車が「レギュラー指定」か「ハイオク指定」かという点です。ここが最も重要なポイントです。
レギュラー指定車にオクタン価向上剤を使う場合
レギュラー指定車のエンジンは、RON90前後のガソリンで最適な性能を発揮するよう設計されています。現代の車はノックセンサーを搭載しており、ノッキングが発生すると自動で点火時期を遅らせて対応します。レギュラー車でノッキングが頻発している場合、多くはエンジン内部のカーボン汚れが原因であることが多く、その場合はPEA系の洗浄系添加剤が有効です。
オクタン価を向上させる成分そのものが必要な場面は限定的です。
無理にオクタン価をRON100近くまで引き上げても、レギュラー指定のエンジンはそれを活かせる設計になっていません。過剰なオクタン価向上は、燃焼室内の温度・圧力バランスを崩し、不完全燃焼を誘発するリスクがあります。燃費悪化やエンジン性能の低下につながる可能性も否定できません。
ハイオク指定車にオクタン価向上剤を使う場合
ハイオク指定車でレギュラーガソリンを使用しているケースでは、オクタン価向上剤の効果は比較的明確に出やすいです。ノッキング音が実際に収まったり、加速時のフィーリングが改善したりという効果を体感しやすい状況です。
ただし、オクタン価向上剤でRONを2〜5程度引き上げるには、適切な添加量を守ることが大前提です。たとえば市販の「オクタスR 500ml」は1本で500〜750リットルの燃料に対応しています。この規定量を大幅に超えて入れることでエンジン不調の事例も実際に報告されています。用量を守ることが条件です。
選び方の基本まとめとして、次の3点だけ覚えておけばOKです。
- 🔧 ノッキング音が気になるが原因不明 → まずPEA系洗浄剤で内部洗浄を試す
- ⛽ ハイオク指定車にレギュラーを入れている → RON2〜5上乗せ可能なエーテル系向上剤を選ぶ
- 🚫 レギュラー車でも入れすぎに注意 → 用量の2倍以上は不調の原因になることがある
関東工大ブログ:ガソリン添加剤の効果が出るケースと無意味なケースの解説
多くの解説記事がオクタン価向上剤の成分や効果を紹介しますが、そもそも「向上剤が必要になる前に何ができるか」という視点はほとんど取り上げられていません。これが最も実用的な情報といえます。
オクタン価向上剤が必要になる主な原因のひとつが、エンジン内部のカーボン汚れです。長年蓄積したカーボンが高温になり、プラグ点火前に混合気へ着火するためノッキングが起きます。これはエンジン内部の状態を良好に保てばかなりの部分は防げます。
エンジン内のカーボン汚れを防ぐためには、主に3つの方法があります。まず定期的なエンジンオイル交換(走行距離5,000〜10,000kmに1回が目安)。次に信号待ちの多い街乗りばかりでなく、月に一度は30分以上の高速道路走行で「強制的にカーボンを燃やす」こと。そして給油3〜5回に1回の頻度でPEA系の燃料添加剤を使うことです。
これが長持ちさせるための黄金ルールです。
もうひとつ意外に見落とされがちなのが、エンジンに見合ったオクタン価のガソリンを常に使うという基本です。ハイオク指定車にレギュラーを継続使用している場合、ノックセンサーが常に点火時期をリタードし続けることになり、長期的にはエンジンの本来の出力や燃費を損ないます。
1Lあたり約10円の価格差を嫌ってレギュラーを入れ続けると、燃費の低下で逆にコストが高くなるというデータも存在します。たとえば年間走行距離1万kmの車でハイオク指定にレギュラーを使い続けた場合、燃費が2〜3%低下するとすれば、年間で消費ガソリンが数十リットル増えることになります。痛いですね。
オクタン価向上剤の成分や効果を正しく理解したうえで、それを「最後の手段」として使うのではなく、日常のメンテナンスと組み合わせて使うことで、エンジンの長寿命化と燃費の安定化を同時に実現できます。結論は正しい知識を持って使うことです。
JAF:ハイオク仕様車にレギュラーを入れた場合の燃費・性能への影響について