

イグナイターを新品に交換しても、3,300円の電解コンデンサ交換だけで完全復活するケースがあります。
バイクに乗っているとよく耳にする「イグナイター」という言葉ですが、その実態をしっかり理解している人は意外と少ないものです。イグナイターとは、正式には「トランジスタ式点火制御装置」と呼ばれる電子部品で、エンジンの点火タイミングをコントロールする心臓部のような存在です。
具体的な仕組みを説明すると、クランクシャフトの回転信号をもとに最適な点火タイミングを計算し、バッテリーから供給された低電圧の電流を高電圧に変換したうえで、イグニッションコイルへと送ります。その高電圧がスパークプラグの電極間に火花(スパーク)を起こし、燃料と空気の混合気に点火するという仕組みです。
つまり「エンジンに火を点ける瞬間を管理するコンピューター」が、イグナイターです。
よく混同されやすいのが「CDI(Capacitor Discharge Ignition)」です。実はCDIはイグナイターの一種で、コンデンサに蓄えた電気を瞬間的に放電して点火する方式のことを指します。原付や2ストロークバイクに多く採用されてきた方式で、イグナイターという大きなカテゴリの中に含まれます。つまりCDIとイグナイターは別物ではありません。
さらに近年の電子制御が進んだバイクでは、イグナイターはECU(エンジンコントロールユニット)と連携して動作し、スロットル開度・排気ガス量・エンジン回転数など複数のセンサー情報を統合したうえで点火タイミングを制御しています。この精密な制御があってこそ、燃費性能とパワーの両立が可能になっているわけです。
イグナイターが正常に機能しなくなると、この精密な点火制御が崩れ、エンジンはたちまち不調を来します。それが原因で起こる様々なトラブルを次のセクションで詳しく解説していきます。
参考:バイクのイグナイターの基本的な構造・役割について詳しく解説しています。
イグナイターが故障すると、どんな症状が出るのでしょうか?ここを知っておくことが、バイク修理の第一歩です。
最も代表的な症状は、エンジンの始動不良と走行中のエンストです。セルを回してもエンジンがかかりにくい、あるいは一度かかっても数分で止まってしまう、という状態が典型的です。走行中にエンストが起こると、何回かに1回は点火プラグに火花が飛ばない状態になっているため、交通量の多い道路や高速道路では非常に危険です。
その他の主な症状を整理するとこのようになります。
ここで注目したいのは「熱ダレ型」の症状です。夏場の渋滞中にエンジン温度が上昇した状態でだけ症状が出て、冷えると復活するというパターンがあります。冷間始動は一発なのに、30分ほど走ると突然エンストする…という場合はイグナイターが怪しいと疑ってみましょう。
ただし、これらの症状はイグナイターだけに限った話ではありません。スパークプラグの劣化・イグニッションコイルの不良・バッテリーの低下・キャブレターの詰まりなど、原因が重複しているケースも多いものです。プラグ、バッテリー、エアクリーナー、キャブOHをすべて試みても症状が改善しない場合に、初めてイグナイターを疑うというアプローチが現実的です。
こう考えておけばOKです。「他の点火系・燃料系を全部潰してから疑う」のがイグナイターです。
参考:イグナイター故障の具体的な症状と確認方法について整備士目線で解説しています。
バイクパッション「イグナイターが故障した際の症状|修理費方法と費用」
イグナイターが故障と判明した場合、修理費用はどれくらいかかるのでしょうか。これが気になる方は多いはずです。
専門店に依頼した場合の修理・交換費用の目安は以下の通りです。
| 項目 | 費用の目安 |
|---|---|
| イグナイター部品代 | 8,000円〜15,000円 |
| 専門店での工賃 | 5,000円〜10,000円 |
| 合計(目安) | 13,000円〜25,000円 |
ただし、この費用はあくまでイグナイター単体の交換を想定した価格です。実際には、イグナイターと相互に動作するイグニッションコイルも同時交換を勧められることが多く、その場合はさらに1気筒あたり5,000円前後が追加されます。プラグコードやキャップも一緒に替えると、2気筒エンジンなら総額3万〜4万円に達することもあります。
これは意外と高い出費ですね。
では、専門店での交換の大まかな流れを確認しましょう。
作業時間は車種にもよりますが、おおよそ40分〜1時間程度が一般的です。バイクショップでは車両をリフトアップして作業するため、安全かつ正確に交換が行われます。
一点、多くの人が見落としがちなことがあります。修理の依頼前に「部品の在庫確認」を必ず行うことです。特に1990年代以前のバイクでは、純正イグナイターがすでに廃盤になっているケースが珍しくありません。部品の入手状況によっては、中古パーツや社外品の活用、もしくはDIY修理を検討する必要が出てきます。在庫確認が先決です。
参考:バイクのイグナイター修理・交換費用の内訳と手順を詳しく説明しています。
モトメガネ「バイクのイグナイターとは?故障の症状と修理方法・費用について」
実は、イグナイター故障の多くは内部の「電解コンデンサ」の劣化が原因です。電解コンデンサとは、電気を一時的に蓄えるための電子部品で、その寿命は一般的に10〜15年とされています。製造から20〜30年が経過した旧車では、この部品が確実に寿命を迎えていると考えてよいでしょう。
電解コンデンサは1個あたり数十円〜数百円で秋葉原の電子部品店やオンラインショップで手に入ります。スズキ・アクロスやバンディット、カタナなどの場合、必要なのは「35V47uF × 2個」と「25V10uF × 3個」程度です。部品代は合計でも数百円、はんだごて等の道具込みでも3,300円前後に収まる事例が報告されています。
ただし、注意点があります。
DIY修理には「はんだ付けの技術」と「電子回路の基礎知識」が必要です。具体的な作業手順は以下のようになります。
電解コンデンサには「極性」があります。足が短い方・白い帯が付いている方がマイナス側です。逆向きに取り付けると正常に動作しないどころか、最悪の場合コンデンサが破損します。これだけ覚えておけばOKです。
また、基板に「エポキシ樹脂」でコーティングされているタイプのイグナイターは、分解が非常に困難です。この場合はDIY修理を諦め、専門業者に依頼するか、旧車専門の修理業者(UPSHIFT等)に相談するのが賢明です。
成功すればセル1発でエンジンが始動するようになる例も多く、費用対効果は非常に大きいと言えます。これは使えそうです。
参考:スズキ・アクロスのイグナイターをDIYで電解コンデンサ交換修理した実際の手順と結果を詳しく紹介しています。
bike-notebook「エンジンのかかりが悪いのは「イグナイター」が原因かも…?DIYで修理してみた」
旧車やいわゆる「絶版バイク」オーナーにとって、イグナイターの修理は単に「部品を買って交換する」だけでは済まない場合があります。メーカーによる純正部品の供給は、一般的に生産終了から約10年が目安とされており、それ以降は廃盤となる部品が続出します。
ゼファー400・XJ750・XJR400・KZ1300など、1990年代以前のモデルはイグナイターが廃盤になっているケースが多く報告されています。廃盤地獄という状況です。
そこで、現実的な入手・修理の戦略として以下の方法が活用されています。
なぜ旧車のイグナイターが壊れやすいかと言えば、電解コンデンサをはじめとする電子部品は使用していなくても経年劣化が進むためです。倉庫で眠っていた20年物のバイクでも、イグナイターは確実に劣化しています。走行距離が少ないからといって安心できないのがこの部品の難しいところです。
さらに意外なことに、電装部品の故障は連鎖することが多いとされています。イグナイターを直したら次はレクチファイア、その次はCDIというように、まるで順番待ちのように電装系がほころんでいくパターンは旧車オーナーの間では「電装連鎖」と呼ばれているほどです。愛車が20年選手を超えているなら、イグナイターの修理をきっかけに電装系全体を見直すことを検討してみてください。
参考:旧車バイクのイグナイターの修理・デジタル電子化サービスについて詳しく説明しています。
UPSHIFT「旧車バイク用イグナイターを修理します。デジタル電子化・レストア」