

オイル交換をサボると、エンジンが50万円以上の修理費で壊れます。
「エキセントリックシャフト(Eccentric Shaft)」という名前を初めて聞いた人は、少し奇妙に感じるかもしれません。「エキセントリック」は日本語で「偏心」を意味し、文字通り「中心からずれた回転をするシャフト(軸)」のことです。一般的な自動車のレシプロエンジン(ガソリン・ディーゼルを問わず、ピストンが往復するエンジン)では、動力を外部に取り出す軸を「クランクシャフト」と呼びます。それに対して、マツダが市販化に成功したロータリーエンジン(ヴァンケルエンジン)では、この役割を担う軸のことを「エキセントリックシャフト」と呼びます。
つまり、エキセントリックシャフトとはロータリーエンジン専用の出力軸です。
構造の特徴として、シャフトには「メイン軸受け部」と「ローター軸受け部」の2種類の軸受けがあります。重要なのは、メイン軸受けの中心に対して、ローター軸受けが意図的にズレた(偏心した)位置に設けられている点です。このズレの量を「偏心量(e)」と呼び、このわずかなズレこそがロータリーエンジンの動力発生の核心となっています。
シャフトの内部には、潤滑油(エンジンオイル)をローターやベアリングに供給するためのオイル通路が設けられています。これにより、エキセントリックシャフトは動力を伝えながら、同時に潤滑と冷却も担う多機能な部品となっています。素材には高強度のクロムモリブデン鋼が使われており、表面は高周波焼入れによる硬化処理が施されています。
エキセントリックシャフトの定義と基本構造についての詳細(グーネット自動車用語集)
エキセントリックシャフトの動きを理解するには、まずロータリーエンジン全体の構造を把握する必要があります。ロータリーエンジンは、繭型(まゆ型)のローターハウジングと、その内側でひとり回りするおむすび型の三角形ローターで構成されています。ハウジングの形状は、正確には「トロコイド曲線」と呼ばれる数学的な曲線で描かれた形状です。このローターがハウジング内で偏心回転することで、3つの空間(燃焼室)が同時に生まれます。
ローターの3辺それぞれで「吸気→圧縮→燃焼(膨張)→排気」の4工程が行われます。
ここで重要なのが、「平歯車と内歯車の関係」です。ローター中央の穴には内歯車が設けられており、エンジン本体側に固定された平歯車と噛み合っています。この2つの歯車の歯数比は 2対3 です。この比率により、ローターが1回転(360度)する間に、エキセントリックシャフトはちょうど3回転します。
これは、どういうことでしょうか?
例えるなら、遊星歯車に似た仕組みです。ローター自体はゆっくり自転しながら、エキセントリックシャフトの周りを公転しています。その公転の動きがエキセントリックシャフトを回転させるわけです。ローターは1回転に4工程を3辺で行うため、エンジン回転数(エキセントリックシャフトの回転数)は、ローター回転数の3倍になります。
この構造により、エキセントリックシャフト自体の形状はレシプロエンジンのクランクシャフトと比べて非常にコンパクトです。支持部も少なくてすみ、フリクションロスが小さいという大きなメリットがあります。振動面でも有利で、これがロータリーエンジン特有の滑らかな吹け上がりの要因のひとつとなっています。
平歯車と内歯車の歯数比2:3の仕組みについての図解説明(からくりすと)
同じ「動力を外部に取り出す軸」でありながら、エキセントリックシャフトとクランクシャフトの動きには根本的な違いがあります。この違いを理解することで、なぜロータリーエンジンが「低振動・高回転」という独自の特性を持つのかが見えてきます。
レシプロエンジンのクランクシャフトは、ピストンの「上下の往復運動(直線運動)」を「回転運動」に変換する役割を持ちます。この変換は機械的には不可避な振動を生みます。ピストンが折り返すたびに、慣性力の方向が変わるからです。4気筒エンジンでは、このバランスを保つための複雑な設計が必要で、さらに多気筒になるにつれてシャフトは長く重くなります。
一方、エキセントリックシャフトはローターの「回転運動」をそのまま「回転運動」として受け取ります。直線運動→回転運動という変換ステップが存在しないのです。これが条件です。
マツダの13B-RENESISエンジンのエキセントリックシャフトは、レシプロエンジンの多気筒クランクシャフトと比較すると全長が非常に短く、位相も小さいのが特徴です。Motor Fan illustrated誌(2003年)の技術解説によれば、このコンパクトさにより剛性面で有利となり、支持部(ベアリング)も少なくてすみます。厳しいところですね、しかし同時に、これがロータリーの持つ高回転特性と滑らかさの源でもあります。
下の表で両者の特性を比較してみましょう。
| 比較項目 | エキセントリックシャフト(ロータリー) | クランクシャフト(レシプロ) |
|---|---|---|
| 運動変換 | 回転→回転 | 往復直線→回転 |
| シャフトの長さ | 非常に短い(コンパクト) | 気筒数が増えるほど長くなる |
| 振動特性 | 低振動(回転運動のみ) | 往復運動による振動が発生しやすい |
| ローター/ピストンとの回転比 | ローター1回転=シャフト3回転 | ピストン往復2回=シャフト1回転(4スト) |
| 対応気筒数 | 多ローター化で複雑化 | 多気筒化が比較的容易 |
ただし、ロータリーエンジンで3ローターや4ローターを構成する場合は、エキセントリックシャフトが長くなるため、組み立て精度の難しさが増します。つまり、単純なシンプルさには限界もあるということですね。
マツダ13B-RENESISのエキセントリックシャフトの構造比較について(Motor Fan illustrated)
ロータリーエンジンの燃費が悪いとされる原因のひとつは、エキセントリックシャフトの動きそのものに関係しています。これを理解すると、単純に「排気量が少ない=燃費が良い」と判断してロータリー車を購入すると、思わぬ出費を招く可能性があることが見えてきます。
前述の通り、ローターが1回転するとエキセントリックシャフトは3回転します。ローター1枚には3辺があり、各辺で吸気・圧縮・燃焼・排気の工程が行われます。つまりローター1回転で3回の燃焼が起きることになります。これは問題ないんでしょうか?
WEB CARTOPの解説によれば、マツダ13B型エンジン(654cc×2ローター=公称1,308cc)は、実際の燃焼回数から逆算すると実質3,924cc相当のエンジンとして機能しているとも考えられます。もちろんレシプロとは作動原理が根本的に異なるため単純比較はできませんが、それでもこの「高い燃焼頻度」が燃費の悪化につながっているのは確かです。
さらに、ロータリーエンジンは燃焼室の形状が広く、レシプロエンジンに比べて熱効率が低い傾向があります。燃焼室の壁面積が大きく、熱が逃げやすい構造だからです。その結果、燃やした燃料から取り出せるエネルギーの割合(熱効率)が低くなります。これが条件です。RX-7やRX-8が実燃費でリッター5〜8km程度になるケースが多い理由はここにあります。
📌 知っておくと節約になるポイント
ロータリー車を中古で購入する場合、排気量だけで自動車税を判断するのは危険です。RX-8の公称排気量は1,308ccですが、維持費(燃料代)は2.0L〜2.5L級の車と同等以上になると想定しておくと、維持費の見積もりが現実的になります。
ロータリーエンジンの燃費が悪い理由とエキセントリックシャフトの回転比についての解説(WEB CARTOP)
エキセントリックシャフトの動きを長期間維持するために、最も重要なメンテナンスがエンジンオイルの管理です。ロータリーエンジンのオイル管理は、レシプロエンジンと比べてかなりシビアです。意外ですね、と感じる方も多いでしょう。
実際のRX-8オーナーの実体験によると、約1,000kmの走行で約500ml(ペットボトル1本分)のエンジンオイルが消費されるといいます。これはロータリーエンジンが構造上、エンジンオイルを意図的に燃焼室に送り込む仕組みを持っているためです。ローターの頂点(アペックスシール)やハウジング内壁を潤滑するため、オイルが少量ずつ燃焼ガスとともに消費されます。
このオイル消費は「故障」ではなく「正常な動作」です。
しかし、問題なのはオイルが減った状態を放置した場合です。エキセントリックシャフトはローターベアリングを介してローターと接触しており、オイルが不足するとこのベアリングへの潤滑が失われます。さらに、ローターを冷却する経路にもオイルが使われているため、油量不足はすぐに熱ダメージへと直結します。エンジンのブロー(焼き付き・破壊)が起きた場合、エンジンのオーバーホールや交換に50万〜350万円以上かかる事例も珍しくありません。
以下の管理サイクルが、ロータリー車オーナーに推奨される最低ラインです。
エンジンオイルの油量低下を早期に察知するためには、オイル警告灯だけに頼らないことが重要です。ゲージでの定期確認を給油のタイミングや洗車のタイミングと合わせて習慣化することをおすすめします。また、ロータリーエンジン専門の整備店に依頼することで、エキセントリックシャフトやアペックスシールなどロータリー特有の消耗状態を適切に診断してもらえます。「オイル管理が生命線」というのは、ロータリー車オーナー全員の共通認識です。
RX-8オーナーの実体験に基づくオイル消費量と補充管理の詳細(J-CarLife)
一度は「過去の技術」として幕を閉じかけたロータリーエンジンとエキセントリックシャフトの動きが、2020年代になって再び脚光を浴びています。その理由は、カーボンニュートラル社会を目指す上での水素エンジンおよびレンジエクステンダーEVへの応用です。
2023年、マツダは「MAZDA MX-30 Rotary-EV」を発売しました。このモデルにはシングルローター式(8C型、654cc)の新型ロータリーエンジンが発電機として搭載されています。エキセントリックシャフトの動きによって発生した回転エネルギーで発電し、その電力でモーターを駆動させるシリーズ式プラグインハイブリッドです。
この使い方は、エキセントリックシャフト構造の優位性を巧みに活用しています。
ロータリーエンジンはレシプロエンジンと比べて全長が短く軽量・コンパクトです。エキセントリックシャフトが短く支持部が少ない構造は、車体への搭載スペースを最小化します。これにより、電気モーター・バッテリーとの共存が容易になります。また、低振動・低騒音という特性はモーター走行との相性が非常に良く、EV特有の静粛性を損なわずに発電機として機能します。
さらに注目されているのが水素燃料との相性です。水素はガソリンよりも着火しやすく、レシプロエンジンでは「バックファイア(過早着火)」が起こりやすいとされています。しかしロータリーエンジンでは、吸気・燃焼・排気の各ポートが分離しており、バックファイアが発生しにくい構造です。エキセントリックシャフトの偏心回転がもたらす空間分離こそが、この耐バックファイア性を実現しています。これは使えそうです。
マツダ以外のメーカーや研究機関もロータリーエンジンの水素対応に関心を示しており、今後の発展が期待されます。ロータリーエンジン車に乗る人にとっては、自分の車のエキセントリックシャフトの動きが、未来のEV技術と地続きになっているという事実は、誇りに感じてもいい部分ではないでしょうか。
ロータリーエンジンの水素燃料対応とバックファイア耐性の解説(三井ダイレクト損保)

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