

「カーボン」と聞いて、軽くて強い高性能素材をイメージするのは当然ですが、実は市販の「カーボンパーツ」の9割以上はドライカーボンではありません。
カーボン製品は、正式には「炭素繊維強化プラスチック(CFRP)」と呼ばれる複合素材です。カーボン繊維をクロス状に織り込み、樹脂で固めることで成形されます。では「ドライ」と「ウェット」はどう違うのでしょうか?
ウェットカーボンは、型の上にカーボンクロスを敷き、液体の樹脂(ポリエステル樹脂)を手作業で塗り込みながら何層にも積み重ねる「ハンドレイアップ方式」で作られます。積層後はそのまま室温で放置し、樹脂内の硬化剤と反応させて自然硬化させます。設備投資が少なくて済み、特殊な機械が不要なため、製造コストを低く抑えられます。
一方、ドライカーボンは全く異なるアプローチを取ります。あらかじめエポキシ樹脂を均一に含浸させた専用シート(プリプレグ)を型に敷き詰め、真空パックで圧縮して余分な樹脂を追い出したあと、オートクレーブと呼ばれる高温高圧の窯の中で130℃〜180℃、1〜8時間かけて焼き上げます。これを「オートクレーブ成形」といいます。
つまり基本的な違いは「どのように樹脂を入れるか」と「どのように硬化させるか」です。
この工程の違いが、完成品の樹脂量の差を生みます。ウェットカーボンは手作業で含浸するため樹脂量が多くなりがちですが、ドライカーボンは高圧で絞り出すことで樹脂量を最小限に制御できます。樹脂量が少ないほど軽量になり、カーボン繊維の割合が高まるほど強度も上がります。つまり製法こそが性能のすべてを決めるということですね。
以下の表で、主要な違いを整理しておきます。
| ウェットカーボン | ドライカーボン | |
|---|---|---|
| 使用樹脂 | ポリエステル樹脂 | エポキシ樹脂 |
| 成形方法 | ハンドレイアップ(手作業) | オートクレーブ(高温高圧) |
| 重量 | 比較的重い | 極めて軽量 |
| 強度 | FRPよりやや強い程度 | FRPの数十倍 |
| 耐熱性 | 熱に弱い(熱可塑性) | 非常に高い(熱硬化性) |
| 耐候性 | 普通 | 非常に低い(黄変しやすい) |
| 価格 | FRPより高い | 非常に高価 |
「カーボンは軽くて強い」という話は聞いたことがあると思いますが、その数字を正確に知っている方は意外と少ないです。
カーボン(CFRP)全体でいえば、鉄と比べて重量は約4分の1でありながら、強度は5〜10倍以上ともいわれています。さらにドライカーボンはウェットカーボンと比較しても機械的強度が数十倍高いとされており、F1マシンのモノコックや航空機・人工衛星のフレームに採用されるのはそのためです。
軽量化の効果を具体的に見てみましょう。たとえば日産シルビアクラスの鉄製ボンネットは約18kgあります。それをウェットカーボン製ボンネットに交換すると約5kg前後まで落ちるため、10kg以上の軽量化が実現します。ドライカーボン製ならさらに薄く軽く仕上げられるため、鉄製との差は一段と大きくなります。
ドライカーボン製のドアに交換した場合、片側だけで約20kgの軽量化が可能というケースも報告されています。車重が10kg軽くなると燃費や加速にも体感できる差が出るとされますから、20kgという数字は驚異的な数値です。
また、強度の面では「ボルトの締め付け面が圧縮破壊されにくい」という特性がドライカーボンにあります。ウェットカーボンやFRPでは、ボルト周辺の面からひびが入ることがありますが、ドライカーボンはそのリスクが大幅に低い。これが必要なのは、サーキット走行や競技用途です。
強度・軽さともにドライカーボンが圧倒的に優れているということですね。ただし、そのぶんコストも圧倒的に高くなるのが現実です。
カーボン素材の性能や使用用途について詳しくまとめられている参考ページです。
カーボンとは(ドライカーボン製品のbenetec)
ドライカーボンがウェットカーボンより4〜5倍以上高価になる理由は、製造コストの高さにあります。
まずオートクレーブ本体が非常に高価な設備です。F1マシンのモノコックを焼くクラスのオートクレーブになると、設備費だけで数億円規模になります。国内のドライカーボンメーカーによれば、自動車用ボンネット1枚を製造するだけでも200万円以上のコストがかかるケースがあるといいます。
さらに材料費も異なります。ドライカーボンに使う「プリプレグ」は工場で均一に樹脂を含浸させた専用素材で、使用するまで冷凍保管が必要という取り扱いのしにくさもあります。ウェットカーボンに使うカーボンクロスと樹脂に比べて材料費も高くなります。
これが市販品に何をもたらすか、というと「9割以上がウェットカーボン」という現実です。
価格でいえば、カーボン製ボンネットが10〜20万円の価格帯で販売されている場合、それはまずウェットカーボン製です。同じ形状のドライカーボン製ボンネットは数十万円〜100万円超えになることも珍しくありません。
見た目でも区別がつきにくいのが厄介です。最近のウェットカーボンは製造技術が向上しており、クリアコートを施すとドライカーボンと外観がほとんど変わりません。製品をじっくり見ても、触り比べて「軽さ」を実感しない限り、区別は難しい状況です。
市販の「カーボンパーツ」の価格と用途を確認する際に参考になるページです。
カーボンはカスタム好きの必需品(オートメッセウェブ)
「ドライカーボンは最強」というイメージを持つ方が多いですが、実は屋外使用に向かない重大な弱点があります。それが「対候性の低さ」です。
ドライカーボンに使用されるエポキシ樹脂は熱硬化性で非常に強靭ですが、紫外線に対しては弱いという性質があります。コーティングやクリア塗装なしで直射日光下に置いておくと、早ければ約1週間程度で黄変が始まることがあるとされています。
この黄変は表面が茶色がかった黄色に変色する現象で、一度起きると元に戻すことは非常に困難です。ウェットカーボンに使われるポリエステル樹脂と比べると、エポキシ樹脂は特に紫外線に弱い性質を持ちます。
つまり、ドライカーボン製のボンネットやエアロパーツを素のまま屋外に駐車し続けると、高額のパーツが短期間で黄変するリスクがあるということです。
ドライカーボンを屋外で長く使うためには、UV耐性のある2液性ウレタンクリアなどでコーティングを施す必要があります。このコーティング作業自体にも費用と手間がかかるため、ドライカーボンパーツの維持コストはパーツの価格だけでは語れません。
一方、ウェットカーボンに使われるポリエステル樹脂は熱可塑性であるため耐熱性や強度ではドライカーボンに劣りますが、対候性は普通に備わっています。街乗りで使うドレスアップパーツとしては、実はウェットカーボンのほうが扱いやすい面もあります。これは意外ですね。
高額なドライカーボンパーツを購入した後に追加のコーティングが必要になるという出費リスクを事前に知っておくことが重要です。カーボンパーツへのUVコーティングを検討する際は、ミッチャクロンプライマーを下地に使ったうえで2液性ウレタンクリアを吹き付ける方法が、DIY派には定番のアプローチとして知られています。
カーボン素材のコーティングと耐候性について解説しているページです。
ウェットカーボンとドライカーボンの違い(MARUCORO)
ここまでの内容を踏まえると、「どちらが優れているか」よりも「どちらが自分の用途に合っているか」が重要です。
まず、ドライカーボンが本当に必要なケースを考えてみましょう。サーキット走行を前提とした競技車両で、ラップタイム向上のために徹底的な軽量化を図りたい場合、ドライカーボン製ドアやルーフ、ボンネットへの交換は大きな意味を持ちます。片側ドア1枚で約20kgの軽量化になるレベルで、車体の高い位置が軽くなるとロール慣性が減りコーナリングが体感できるほど変わります。また、大きなダウンフォースを発生させるウイングやディフューザーをドライカーボンで作れば、強度の観点から高荷重にも耐えられます。ドライカーボンが条件です。
一方、街乗りメインのドレスアップや一般的なカスタムには、ウェットカーボンで十分な場合がほとんどです。カーボンボンネットの軽量化効果は鉄製純正から比べると10kg以上になることもあり、ウェットカーボンでも十分な軽量化は得られます。
🚗 用途別まとめ
| 用途 | おすすめ |
|------|---------|
| F1・競技用レーシングカー | ドライカーボン一択 |
| サーキット走行・タイム重視 | ドライカーボン(予算が許せば) |
| 街乗りドレスアップ | ウェットカーボンで十分 |
| 軽量化重視の一般改造 | ウェットカーボンでも効果あり |
| 航空宇宙・高強度産業用途 | ドライカーボン必須 |
また、第3の選択肢として「インフュージョン成型(VaRTM)」という工法も近年存在感を増しています。これはウェットカーボンとドライカーボンの中間的な工法で、真空引きによって樹脂量を抑えつつ、オートクレーブなしでも高強度を実現できます。コストはドライカーボンより抑えられるため、競技志向のカスタムでコスパを重視する方には注目の選択肢です。
さらに独自視点として知っておきたいのが、ルーフのカーボン化です。ルーフパネルは車体の中で最も高い位置にある大型パーツであり、ここを軽量化することで「低重心化」という副次的な効果が生まれます。数kgという一見小さな数値でも、車の高い位置が軽くなると、コーナリング時のロール抑制とハンドリングの鋭さが体感レベルで変わります。GRヤリスがカーボン製ルーフを採用しているのはまさにこの理由です。ボンネットの軽量化とはまた違う効果があるということですね。
カーボンパーツを購入する際、ドライカーボンとウェットカーボンを見分けることは素人には難しいのが現実です。製造技術の向上によって、ウェットカーボンでもクリアコートを施すとドライカーボンと外観がほとんど変わらなくなっています。
そのため購入時に確認すべきポイントは以下の通りです。
- 💰 価格帯で判断する:ボンネットが10〜20万円ならウェットカーボン。ドライカーボン製は同形状で30〜100万円超が相場。
- ⚖️ 重さで判断する:同じ形状・同じサイズのパーツで、明らかに軽ければドライカーボンの可能性が高い。
- 📋 製品説明を確認する:「オートクレーブ成形」「プリプレグ使用」という記載があればドライカーボン。「ハンドレイアップ」や「インフュージョン」はウェットカーボン系。
- 🔍 断面を見る:エッジ部分(切断面)が非常に薄くシャープに仕上がっていればドライカーボンの可能性が高い。ウェットカーボンは断面がやや厚みをもった仕上がりになりやすい。
なお、購入後のケアについても違いがあります。ドライカーボンパーツには必ずUV対応のクリアコーティングを施すことが必要です。紫外線による黄変リスクがあるため、施工後1〜2年に1度程度の再コーティングも検討する価値があります。ウェットカーボンも定期的なワックスがけやクリア層の確認は行いましょう。
「カーボンパーツを買ったのに思ったより軽くない」「すぐ変色してきた」というのは、素材と用途のミスマッチから起きることが多い失敗例です。購入前に「ドライかウェットか」を確認するだけで、こうした後悔は大幅に減ります。購入時の確認が条件です。
カーボンパーツの製法の違いと強度について詳しく解説しているページです。
カーボン製品の種類と強度の比較(f-carbon.jp)

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