

モリブデングリスをアクスルに塗ると、ゴムシールを削って修理費が3万円超えることがあります。
アクスルシャフトとは、車のタイヤを固定し、回転する際の軸として機能する部品です。前輪駆動車や四輪駆動車では、エンジンの動力をタイヤに伝える「ドライブシャフト」もこの構造に含まれます。常に回転し、車重を支え続けるため、適切なグリスアップがなければ金属同士が直接こすれ合い、すぐに損傷が進みます。
グリスには大きく6つの役割があります。
- 減摩作用:金属面の間に油膜を作り、摩擦を減らします
- 冷却作用:摩擦熱を吸収し、部品の過熱を防ぎます
- 緩衝作用:集中した荷重を分散させ、ベアリングへの衝撃を和らげます
- 防錆作用:油膜が表面を覆い、水分や空気からの錆を防ぎます
- 機械安定性:部品の動きに対してグリスが形状を変えながら潤滑を維持します
- 使用環境適応性:温度変化や負荷に応じて性能を発揮します
グリスアップを怠ると、シャフトに錆が発生します。錆が進行すると、ホイールを脱着する際にシャフトが固着して抜けなくなります。無理に引き抜こうとすれば、シャフト表面に深い傷が入り、最悪の場合はシャフトごと交換が必要になります。カープレミアの調査では、アクスルシャフト交換の平均費用は約67,950円(部品代・工賃込み)とされています。数百円のグリスを定期的に塗るだけで、こうした出費を防げます。
アクスルベアリングが損傷した場合も、平均修理費用は約36,370円です。グリスアップが予防策として機能するということですね。
グリスは「たくさん塗れば安心」ではありません。塗りすぎは、はみ出したグリスが砂や泥を吸着し、逆に研磨剤のように部品を削る原因になります。正しい量・種類・タイミングの3つが重要です。
参考:アクスルシャフトの故障症状と修理費用の詳細はこちらで確認できます。
グリスは増ちょう剤(増粘剤)の種類によって大きく性能が異なります。代表的なグリスを整理すると、使い分けの基準が見えてきます。
🟡 リチウムグリス(万能グリス・マルチパーパスグリス)
最も広く使われているグリスです。耐熱性(約150℃)と耐水性に優れ、アクスルシャフト・ホイールベアリング・レバーの軸・スタンドのピボットなど、幅広い箇所に使えます。半透明の黄色で、コストが安いため初心者でも扱いやすい万能グリスです。ただしゴムや樹脂に対してやや攻撃性があるため、ゴム製シールに直接触れる部位への使用は避けるのが無難です。
⚪ ウレアグリス
リチウムグリスよりも性能が一段上の万能グリスです。耐熱温度は約180℃と高く、耐水性・耐圧性もリチウムより優秀です。アクスルシャフトにはリチウムとウレアのどちらでも使用可能ですが、雨天走行が多い環境や長距離走行が多い場合はウレアグリスが安心です。白みがかった色が特徴です。価格はリチウムよりやや高めですが、性能差を考えると積極的に選ぶ価値があります。
⚫ モリブデングリス(二硫化モリブデン)
二硫化モリブデンの粒子が「コロ」のように機能し、極圧性能が非常に高いグリスです。スイングアームのピボット部やトランスミッションの軸受けなど、大きな荷重がかかる部位に有効です。しかし、二硫化モリブデンの粒子は非常に硬く、ゴム製シール・アルミ・真鍮などの柔らかい素材を削ってしまいます。アクスルシャフトのゴムシール周辺には使ってはいけないグリスです。誤って塗るとシール損傷から水分浸入につながり、ベアリングの早期劣化を招きます。
🔵 シリコングリス
基油にシリコンオイルを使ったグリスで、耐熱温度は約200℃。ゴムや樹脂への攻撃性がほぼなく、オイルシールやブレーキキャリパーのピストンシールなどゴム部品が関わる部位に最適です。ただし金属同士の強い摩擦・圧力がかかる軸受部には向いていません。アクスルシャフトのシャフト本体よりも、周辺のシール類に使うグリスです。
🟠 カッパーグリス(スレッドコンパウンド)
銅・グラファイト・モリブデンを配合した耐熱特化型のグリスで、耐熱温度は約800℃以上。マフラーのスタッドボルトやエキマニのフランジボルトなど、高熱にさらされるネジ部の焼き付き防止に使います。ボルトのかじり防止と防錆を同時にこなすので、アクスルナットのネジ山に薄く塗っておくと次回の整備が格段に楽になります。塗りすぎるとトルク管理が狂い、締めすぎによるボルト破断の原因になるので要注意です。
グリスの選択は「正しければ何でもいい」ではなく、使用箇所の材質・温度・荷重条件に合わせた選択が必要です。
参考:グリスの種類と使い分けについての詳しい解説はこちら。
RIDE-HI|メンテナンスに使うグリス。どこにどんなグリスを使うのがいいの?
グリスアップは「塗ればいい」ではなく、正しい手順があります。順番を守ることで、効果を最大限に引き出せます。
① ホイールの取り外しと清掃
タイヤ交換やホイール脱着のタイミングが最適です。アクスルシャフトを抜き取ったら、まずシャフト全体の古いグリスを布やウエスで拭き取ります。古いグリスには金属粉・砂・泥などが混ざっており、そのまま新しいグリスを上塗りすると研磨剤として機能し、シャフト表面を傷つけます。清掃が基本です。
② シャフト表面の確認
錆や腐食がないかを確認します。表面に細かな点錆がある場合は、細目のサンドペーパーで優しく除去してください。深い傷や変形がある場合は、シャフト交換を検討する必要があります。
③ グリスの塗布量
「たっぷり塗るほど長持ちする」という思い込みは危険です。ベアリングに対するグリスの充填量は、空間容積の1/3〜1/2程度が適切とされています。充填量が多すぎると、高回転時の攪拌によって発熱が起きます。発熱はグリスの変質・劣化・軟化を引き起こし、結果として潤滑性能が急速に低下します。シャフト表面には薄く均一に塗布するイメージで十分です。
④ ネジ部への対応
アクスルナットやシャフトのネジ部には、カッパーグリス(スレッドコンパウンド)を薄く塗っておきましょう。固着防止と錆止めの効果があり、次回の脱着が格段に楽になります。ただし塗布後はトルクレンチで規定トルクを確認することが必須です。
⑤ はみ出したグリスは必ず拭き取る
組み付け後にはみ出したグリスは、すぐにウエスで拭き取ってください。表面に残ったグリスは走行中にホコリや砂を吸着し続けます。見た目が汚れるだけでなく、部品の摩耗を早める原因になります。余分なグリスは役に立ちません。
参考:グリスの適切な充填量と過充填の影響についての解説。
JTEKT(コーヨー)|ベアリングの基礎知識:潤滑の目的と方法
グリスに関する「やってしまいがちな失敗」には、修理費用に直結するものがあります。知らないと損する4つのミスを整理します。
❌ パターン1:異種グリスをそのまま混ぜて使う
「前に塗ってあったグリスの上から新しいグリスを追加塗りした」という経験はないでしょうか。種類の違うグリスを混合すると、予測不能なリスクが生じます。化学的な反応で不溶解物が発生したり、流動性が低下して硬い塊ができることがあります。たとえばリチウムグリスとアルミニウム系グリスの組み合わせは「著しくかけ離れた変化をする」と評価されており、混合は厳禁です。正しくは、古いグリスを完全に除去してから、新しいグリスを塗布します。
❌ パターン2:モリブデングリスをゴムシール周辺に塗る
これが最も多いミスのひとつです。二硫化モリブデンの粒子は非常に硬く、ゴム・アルミ・真鍮などの柔らかい素材を削ってしまいます。アクスルシャフト周辺には複数のゴムシールが存在します。モリブデングリスをそのまま塗ると、シールが少しずつ削られ、そこから泥水が侵入し、ベアリングが損傷します。修理費が膨らむパターンです。アクスルシャフトには「リチウムグリス」か「ウレアグリス」が正解です。
❌ パターン3:万能グリスを等速ジョイント(CVジョイント)ブーツ内に使う
ドライブシャフトのブーツ(ゴム製カバー)の中にある等速ジョイントには、専用のCVジョイントグリスが必要です。一般的な万能グリスは、高回転・高作動角という等速ジョイント固有の条件には最適化されていません。専用グリスには高濃度の二硫化モリブデンが配合されており、ジョイント内部の金属ボールにかかる極圧荷重に対応しています。市販されている等速ジョイント専用グリスは150g入りで1,000〜2,000円程度です。ブーツ交換の際には専用品を使います。
❌ パターン4:潤滑スプレー(KURE 5-56など)をグリスアップの代わりに使う
「奥まで浸透するし、手軽だから」とスプレー潤滑剤をアクスル周辺に吹きかける方がいます。しかしこれは逆効果です。汎用の潤滑スプレーは浸透性と揮発性が高く、元々塗布されていたグリスを洗い流してしまいます。グリスアップではなく、グリスを除去してしまうことになります。潤滑スプレーとグリスは役割が根本的に異なります。スプレー系はあくまで一時的な潤滑や防錆に留まります。
これら4つのうち1つでも心当たりがある場合は、次のタイヤ交換のタイミングでシャフト周辺を点検することをおすすめします。
参考:グリスの混合可否についての詳細な技術情報。
日本ユニバイト株式会社|増ちょう剤の異なるグリースの混合について
グリスアップのタイミングで多くの人が迷うポイントが「いつやればいいか」という頻度の問題です。一般的な目安は年1回、または1万6,000km走行ごととされています。ハーレーダビッドソンのオーナーズマニュアルでも「1年に1回、あるいは1万6,000km走行毎、あるいは長期保管前にグリスを交換してください」と明記されています。国産車でも同様に年1回程度が推奨されています。
実際のところ、アクスルシャフトのグリスアップはホイールを取り外さないとできない作業です。工具と知識が必要なため、日常的に行うのは難しい。そのため、タイヤ交換のタイミングに合わせて実施するのが最も効率的です。
タイヤ交換は一般的に4〜6年または走行距離3〜5万kmごとに行われます。このタイミングで必ずシャフトを点検し、古いグリスを拭き取って新しいグリスに入れ替える習慣をつけましょう。これだけで固着リスクを大幅に下げられます。
ショップに依頼する場合は、タイヤ交換の際に「アクスルシャフトのグリスアップもお願いします」と一言伝えるだけで対応してくれる店舗がほとんどです。工賃は一般的に1本あたり数百〜1,000円程度で済むことが多く、割安感があります。自分でやる場合のグリス代は、リチウム系万能グリス80g入りで500〜800円程度です。コストに注目すれば、この定期メンテは非常に効果的です。
走行後にホイールを手で軽く揺すって「ガタつき」がないかを確認する習慣をつけることも有効です。ガタがある場合はベアリングの劣化が疑われ、その段階で修理すれば1万〜3万円程度で済みます。放置して症状が悪化すると5万〜10万円以上になるケースがあります。早期発見が条件です。
雨天走行が多い方、泥道を走る機会がある方は、グリスの劣化が早まる傾向があります。通常の走行環境より頻度を高めて、半年または8,000km程度を目安にするとより安心です。
参考:車のハブベアリングのグリスアップと交換時期についての詳細。
Goo-net|車のハブベアリングのグリスアップ(グリス交換)について

フロント左 CV アクスルシャフト自動車オートバイ部品と互換性 2017 2018 2019 2020 2021 CSW