スタッドボルト外し方をダブルナットで確実に行う完全手順

スタッドボルト外し方をダブルナットで確実に行う完全手順

スタッドボルトの外し方をダブルナットで行う完全手順と失敗しないコツ

ダブルナットを2個ただ締め込むだけでは、スタッドボルトは外れないどころかネジ山を傷めて修理費が1万円超えになることがあります。


この記事でわかること
🔩
スタッドボルトとダブルナットの基本

スタッドボルトが「植え込みボルト」とも呼ばれる理由と、なぜ普通のレンチで外せないのかを解説します。

⚙️
ダブルナットの正しい手順と向き

上下ナットの正しい向き、下ナット逆転法の具体的な手順、供回りを防ぐコツまで詳しく説明します。

🚗
固着・折れへの対処と専用工具の選び方

エキマニやマフラー周りの固着ボルトへの対処法、スタッドボルトリムーバーとの使い分け方を紹介します。


スタッドボルトとは何か、ダブルナットが必要な理由





スタッドボルトとは、両端にネジ山がついた棒状のボルトで、「植え込みボルト」とも呼ばれます。通常のボルトと大きく異なる点は、頭部がない点です。頭部がないため、一般的なレンチやソケットをそのまま当てて回すことができません。


自動車では主に、マフラーの取り付けフランジ部(エキゾーストフランジ)、エキゾーストマニホールド(エキマニ)のシリンダーヘッドへの結合部、ターボチャージャーの固定部など、高温・高振動にさらされる箇所で多用されています。これらの部位は繰り返し着脱が必要なため、スタッドボルトの「位置決め機能」が大きな意味を持ちます。エキマニを外す際も、ボルトが生えているおかげでパーツの位置がずれません。つまり、あえて頭部のないスタッドボルトを使う合理的な理由があるわけです。


では、なぜダブルナットが必要かというと、ボルト単体には工具をかける面がないからです。2個のナットを強く締め合わせてロックすることで、ボルト先端に「疑似的なボルト頭」を作り出す。これがダブルナットの発想です。


ただし、この原理を理解せずに「2個ナットを締め込めばいい」と考えていると、後述するような失敗が起きます。ダブルナットの仕組みを知ることが、確実な作業への第一歩です。


参考:スタッドボルトの規格と用途についての詳細は以下に詳しくまとまっています。


JIS B 1173 スタッドボルト規格(日本産業規格)


スタッドボルト外し方の前に知るべき準備と工具一覧

作業を始める前の準備が、成功率を大きく左右します。実際に整備士として15年以上の経験を持つ方々が口を揃えて言うのが「段取りが9割」という言葉です。準備が整っていれば、ほとんどのスタッドボルト取り外しはスムーズに進みます。


まず必要な工具と材料を確認しましょう。


工具・材料 用途・ポイント
スパナ(2本) 同サイズのものを2本用意。下側ナットにはスパナを使うこと
コンビネーションレンチ(代用可) スパナの代わりにコンビネーションレンチのスパナ部分でもOK
メガネレンチ(上側ナット用) 上側ナットに使う。力をかけやすく舐めにくい
同サイズのナット(2個) スタッドボルトのネジ径に合ったもの。現地で外したナットを使っても可
ワイヤーブラシ ネジ山の錆・汚れ除去に使う
浸透潤滑剤 固着対策の必需品。作業前に吹き付けて最低15〜30分浸透させる


ここで多くの方がやってしまいがちな間違いがあります。下側のナットにもメガネレンチを使おうとすることです。メガネレンチはナットを差し込んで使うため、2個のナットが重なった状態では抜き差しがしにくく、作業効率が著しく落ちます。下側のナットには必ずスパナを選びましょう。これが作業性アップの条件です。


作業前には必ずスタッドボルトのネジ径を確認してください。乗用車のエキマニ周りでよく使われるのはM8(8mm径)やM10(10mm径)です。ピッチと径を間違えると、ナットが入らなかったり、逆にガタつきが出て締め込めないという事態になります。サービスマニュアルかパーツリストで事前に確認するのが原則です。


スタッドボルトのダブルナット外し方:正しい5ステップ手順

ここからが本題です。整備現場で実際に使われている手順を、ステップごとに解説します。


ステップ1:ネジ山の清掃と浸透潤滑剤の塗布


作業前に、スタッドボルトのネジ山をワイヤーブラシで丁寧に清掃します。錆や汚れが残っていると、ナットがスムーズに入らず途中で引っかかります。清掃後、浸透潤滑剤(ラストペネやPITWORK RP-Cなど)をたっぷり吹き付け、最低でも15〜30分待ちます。


エキマニやマフラー周りは熱と水分で強烈に錆びていることが多く、この待ち時間が後の作業の難易度を大きく変えます。急いで作業を進めると、ボルト折れのリスクが跳ね上がります。待ち時間は必須です。


ステップ2:1個目のナット(下ナット)を根元まで締め込む


スタッドボルトのネジ山部分に1個目のナットを入れ、手で奥まで締め込みます。工具は使わず、手で締められる限界まで入れてください。これが「下ナット」になります。


ステップ3:2個目のナット(上ナット)を重ねる


下ナットの上に2個目のナット(上ナット)を手で締め込み、下ナットにぴったり接触するところまで入れます。2個のナットが密着した状態にします。


ステップ4:2個のナットをロックする(ここが最重要)


🔑 最大のポイントはここです。


スパナを下ナットにあて、メガネレンチ(またはスパナ)を上ナットにあてます。次に、「下ナットを逆回転方向(緩む方向・反時計回り)」に回しながら、「上ナットは正回転方向(締まる方向・時計回り)」に回して、2個のナットをお互いに引き離すように締めます。


これを「下ナット逆転法」と呼びます。この操作でナット同士の間にロッキング力(引っ張り合う力)が発生し、ダブルナットがボルトに強固に固定されます。


多くの方が「2個とも同じ方向に締めれば強くなる」と思い込んでいます。しかし実際はそうではありません。両方を同じ方向に締めるだけでは、上ナットの摩擦力が強まるだけで下ナットの締め付け力が抜けてしまいます。シングルナットと変わらない状態になってしまうのです。


ステップ5:下ナットを反時計回りに回してスタッドボルトを緩める


ロックが確立したら、下ナットにかけたスパナを「反時計回り」にゆっくり回します。ダブルナットがしっかりロックされていれば、スタッドボルトごと回転して抜けてきます。


ボルトが完全に外れたら、上下のナットを互いに反対方向に回して外します。このナットは次回の作業でも再利用できます。


参考:ダブルナットの正しい締め方と原理については以下が詳しいです。


ダブルナットの締め方の向きによる違い(ものづくりのススメ)


スタッドボルト外しでダブルナットが供回りする原因と対処法

「ダブルナットを正しく組んだはずなのに、スタッドボルトが供回りして外れない」というトラブルは非常に多いです。供回りとは、スタッドボルトとナットが一体になって回ってしまい、ボルトが緩まない現象のことです。


原因は大きく3つに分けられます。


原因①:ナットのロックが甘い


2個のナットを引き離すように締める力が不十分な場合、ナットとボルトの間に十分な摩擦力が生まれません。ロックが弱いとナットだけが滑ってボルトに力が伝わらない、つまり「供回り」が起きます。対処法は、スパナを2本握り込む「握る」技法を使うことです。両手でスパナを1本ずつ持ち、2本を握り込むように力を加えると、ナット間のロック力が大幅に増します。


原因②:ボルトが強固に固着している


エキマニ周りなど高温部のスタッドボルトは、アルミのエンジンブロックに鉄のボルトが何年もかけて錆び付き、まるで一体化したような固着になっていることがあります。この場合、ダブルナットのロック力より固着力の方が上回るため、ナットだけが空回りします。


対処法は加熱です。ガスバーナーやヒートガンでボルト根元を加熱すると、アルミ(膨張率が大きい)と鉄(膨張率が小さい)の膨張率の差によって、接触面に微小な隙間が生まれて固着が緩みます。ネジロック剤が塗布されていた場合は、加熱による軟化効果がより顕著です。加熱は周辺の樹脂パーツや配線を養生してから慎重に行ってください。


原因③:ロングスタッドにダブルナットが届いていない


あまり知られていない重要な盲点があります。長いスタッドボルトの多くは、両端のネジ山部分だけにネジが切られており、中間の軸部分にはネジが切られていません。ダブルナットを先端のネジ山部分に組んで回転力を加えても、ボルト自体がしなってトルクが根元まで伝わらない場合があります。


これは「ボルトの粘り(ねじれ)によるトルクロス」と呼ばれ、長いスタッドボルトに対してダブルナットが「ラッキーな場合だけ有効」と言われる理由です。こうしたケースでは、後述するスタッドボルトリムーバー(貫通タイプ)の出番になります。


ダブルナットで外れないスタッドボルトに対するリムーバーと加熱の使い分け

ダブルナットで外れない場合の選択肢を整理します。外れない原因によって、最適な対処法が変わります。


スタッドボルトリムーバー(プーラー)の使用


スタッドボルトリムーバーは、内部に3本のローラーが配置されており、緩め方向に回すとローラーがボルトに食い込む構造です。回せば回すほど食いつきが増すため、ダブルナットよりも確実にトルクを伝えられます。さらに、ナットのネジ山部分ではなくボルトの軸部分を直接掴むため、ロングスタッドに対するトルクロスも起きません。


リムーバーには「ソケットタイプ」と「貫通タイプ」があります。ソケットタイプはボルト先端に差し込んで使い、貫通タイプはボルトの根元近くまで差し込めます。根元に近い部分でトルクをかけられるため、長いスタッドボルトへの対応力は貫通タイプが上です。ロングスタッドには貫通タイプが原則です。


リムーバーを使う場合も、浸透潤滑剤の塗布と加熱は必ず先に行うことが推奨されています。工具の力だけで強引に外そうとすると、ボルトやエンジンブロック側のネジ山を傷める可能性があります。


リムーバーは6mm用、8mm用、10mm用など径ごとに専用サイズが存在します。購入前には必ず外したいスタッドボルトの径を確認してください。


参考:スタッドボルトリムーバーの選び方や種類の詳細は以下にまとまっています。


エンジンオーバーホールで邪魔になるスタッドボルトは専用工具を使おう(Webike)


加熱+潤滑剤の組み合わせ


どんな方法を選ぶにせよ、「加熱→潤滑剤浸透→工具でトルクをかける」という流れは変わりません。特に車や使用年数の長い車両では、この前処理なしに外そうとするのは危険です。焦って無理な力をかけると、ボルトが途中で折れてしまいます。ボルトが折れた場合の修理費は、タイムサートやヘリサートによるネジ山再生を含めると1本あたり5,000円〜1万5,000円以上になるケースもあります。折れる前に手を打つことが最もコストを抑える方法です。


状況 推奨する方法
短いスタッドボルト・固着が軽い 浸透潤滑剤+ダブルナット
長いスタッドボルト・固着中程度 加熱+スタッドボルトリムーバー(貫通タイプ)
強固な固着・錆びが激しい 加熱(バーナー)+浸透潤滑剤+リムーバー
ボルトが折れた 逆タップ(エキストラクター)または溶接ナット法。難しい場合は専門業者へ


スタッドボルトの外し方で多くの人が見落とす「独自の視点」:再取り付けこそ本番

スタッドボルトの外し方は多くのサイトで解説されています。しかし「外した後の再取り付け」については、ほとんど語られていません。実は、再取り付け時のミスがその後の固着や漏れの原因になることが多いのです。これが整備初心者の見落としポイントです。


スタッドボルトを新しいものと交換する際は、ダブルナットを「外す」のとは逆に使います。上側のナットにレンチをかけて時計回りに回すことで、スタッドボルトをネジ穴に締め込んでいきます。この際、必ず規定トルクで締め付けることが重要です。


スタッドボルトの締め付けトルクは径によって大きく異なります。エキマニ周りでよく使われるM8は18〜25N・m、M10は35〜45N・mが参考値ですが、車種やメーカーによって異なるため、必ず車両のサービスマニュアルを確認してください。手締めや感覚だけに頼ったトルク管理は厳禁です。


また、取り付け時に忘れがちな処理が「アンチシーズ(焼き付き防止剤)の塗布」です。


エキマニやマフラー周りのスタッドボルトは、排気熱に常にさらされます。そのため何もしないまま取り付けると、数年後の次回整備で再び同じ固着トラブルに直面します。取り付け前にスレッドコンパウンドやアンチシーズを薄く塗布しておくだけで、次回の取り外しが格段に楽になります。


これは知っていると数千円〜数万円の修理費を将来的に節約できる情報です。


再取り付けに使えるスタッドボルトセッター(専用工具)も存在します。ダブルナットで締め込む際に、ネジ山への負担を最小限に抑えられます。スタッドボルトリムーバーと同じメーカー(KTCやko-kenなど)から対応製品が出ており、抜き取りと取り付けをセットで揃えると長期的に役立ちます。


参考:スタッドボルトの取り付け・取り外しの原理については以下が参考になります。


植込みボルトの取付・取外しと頭のないねじ(藤本産業 ねじの豆知識)




ホイールアダプターボルト、20個の高強度亜鉛メッキスチール自動車用ホイールボルト (M14×1.5-M12×1.5)