

メジャーで距離を測ってタイムアライメントを設定しても、実は音がずれたままになっていることがあります。
カーオーディオを本格的に楽しむうえで、避けて通れないのが「タイムアライメント」です。これはDSP(デジタルシグナルプロセッサー)の機能の一つで、各スピーカーからリスニングポジションまでの距離の差を補正し、音声の到達時間をそろえる仕組みです。
車内では、運転席は左側のスピーカーに近く、右側のスピーカーは遠い位置にあります。たとえばフロント左スピーカーまでの距離が50cmなのに対し、フロント右スピーカーまでが90cmある場合、音が耳に届くタイミングに約1.2ms(ミリ秒)のズレが生じます。これはおよそ40cmの「音のズレ」に相当します。
この差が放置されると何が起きるかというと、左右の音が「位相ズレ」を起こし、打ち消し合いや重なり合いによる音の歪みが発生します。つまり、スピーカー本来の実力が出せなくなるということです。
タイムアライメントを正しく設定すれば、リスニングポジション(主に運転席)でまるでスピーカーから等距離の場所にいるかのような音の広がりが生まれます。これが「音が前から出てくる」「センターに定位する」といったドライバーの感想につながります。
ポイントはここです。タイムアライメントはDSP搭載のカーオーディオやナビゲーションシステムに内蔵されており、カロッツェリア(パイオニア)の一部機種では0.35cm刻みで調整が可能です。設定の細かさがそのまま音質の仕上がりに影響します。
カロッツェリアの高精度タイムアライメント・EQ調整機能の詳細(パイオニア公式)
「アプリでタイムアライメントを測定する」と聞くと、難しそうに思えるかもしれません。でも実際には無料ツールで十分です。
スマホアプリを使ったタイムアライメント測定の基本的な考え方は、マイクを通じてスピーカーから発せられた音の周波数特性や極性(位相の向き)を確認し、設定値の参考データとして活用するというものです。以下に代表的な5つのアプリを紹介します。
| アプリ名 | OS | 主な機能 | 料金 |
|---|---|---|---|
| JL Audio Tools | iOS / Android | SPL測定・RTA(周波数分析)・極性チェック | 無料 |
| ETANI RTA | iOS | リアルタイム周波数特性表示 | 無料 |
| ETANI POLARITY | iOS | スピーカー極性チェック(位相確認) | 無料 |
| iPhoneの「計測」アプリ | iOS | AR距離測定(スピーカーまでの実距離計測) | 無料(標準搭載) |
| Sound Tune(Pioneer) | iOS / Android | パイオニア製DSPと連動したタイムアライメント調整 | 無料 |
なかでも注目したいのは、iPhoneに標準搭載されている「計測」アプリです。ARカメラを使ってスピーカーまでの直線距離をリアルタイムで測定でき、みんカラのユーザーレポートによると「カッター板で精度確認をしたところ、なかなかの精度だった」という声もあります。
JL Audio Toolsは、アメリカの老舗カーオーディオメーカーが開発したアプリで、SPL(音圧)測定・周波数特性のRTA表示・スピーカーの極性チェックという3つの機能をまとめて使えます。英語表記ですが機能自体は直感的に使いやすく、カーオーディオファンの間では定番の存在です。
これは使えそうです。これらのアプリを使う目的は、設定後の音の状態を「数字と波形で確認する」ことにあります。
JL Audio Tools・ETANI RTAなどカーオーディオ向けiPhoneアプリの紹介(AllAbout)
「メジャーで測って入力すればOK」と思っていた方には驚きの事実があります。スピーカーメーカーが公表しているカタログスペックの「再生音速」はどのスピーカーも同じではなく、振動板の素材・形状・取り付け位置によって実際に音が出るタイミングは異なるため、メジャーだけでは正確なタイムアライメントにならないことがあります。
とはいえ、実測値を入力することが「仮設定」として必須であることは変わりません。まずは正しい距離測定からスタートしましょう。
距離が測れたら、各スピーカーの実測値をDSPの設定画面に入力します。これが「仮設定」の完了です。次に音楽を流しながら微調整を加えていきます。ピアノとボーカルのシンプルなデュオ音源がおすすめです。エアコン吹き出し口あたりの1点から音が聴こえてくるようになれば、調整が正しい方向に進んでいます。
また、ビートソニックのTOON Xシリーズ向けには、スピーカーまでの距離を入力するだけでDSP設定値を自動計算してくれる無料のWebツールも存在します。タイムアライメントの計算が苦手な方にとって、最初の入り口として非常に使いやすいツールです。
スピーカー距離からタイムアライメントの設定値を自動計算できるビートソニックの計算ツール
タイムアライメントの調整を「音楽を聴きながら耳で合わせる」という方法だけで行うのは、実は非常に難しいです。厳しいところですね。
その理由は、CDや音楽配信の音源はそもそも左右のバランスやボーカルの定位が、録音した制作者側の意図で決められているからです。「ボーカルがセンターにあるはず」という思い込みで調整しようとしても、実際には録音時にボーカルが少し左に寄っていることもあります。そのズレを「タイムアライメントのせい」と勘違いしてしまい、正しい設定をかえって崩してしまうリスクがあります。
さらに厄介なのは「縦位相」と呼ばれる問題です。左右の位相だけでなく、ツイーター・ミッドレンジ・ミッドバス・サブウーファーといった、縦方向(各スピーカー間)の時間軸のズレも存在します。これは音楽を聴くだけではまったく判断できません。
音楽を使うよりも効果的なのは、専用のテスト信号(バースト正弦波やパルス音源)をスピーカーから流し、スマホアプリのマイクでキャプチャする方法です。アプリの波形表示で到達タイミングのズレを数字として確認できるため、勘に頼らない調整が実現します。
どういうことでしょうか? たとえばJL Audio Toolsに内蔵された極性チェック機能を使うと、スピーカーが正位相かどうかを一発で確認できます。これがズレていると、どれだけタイムアライメントを細かく調整しても音のまとまりは出ません。アプリで極性を確認することが条件です。
測定に使うスマホのマイク位置は、できるだけ自分の耳の位置に近づけましょう。座席に座った状態で頭の高さに持ち、スピーカー方向に向けて測定するのが基本です。
多くの解説記事は「距離を測って入力する」ところで終わっています。でも実際にカーオーディオを突き詰めると、もう1段深い話が見えてきます。それが「縦位相の調整」と「温度変化による誤差」の問題です。
まず縦位相についてです。ツイーターとミッドウーファーでは、クロスオーバーフィルターの特性によって、同じ距離にあっても「音が出るタイミング」が異なります。たとえばクロスオーバー周波数11,200Hzで設計されたシステムでは、高域側に70μs(マイクロ秒)、距離換算で約24mm分の遅延を設定しないと、クロス周波数付近で音の打ち消しが発生することがわかっています。これはメジャーでは絶対に測定できない領域です。
次に温度の問題です。音速は気温に依存し、0℃では約331m/s、20℃では約343m/sと変化します。スピーカー間の距離差が428mmある場合、夏(35℃想定)と冬(5℃想定)では設定すべきタイムアライメント値が約2mm以上ずれる計算になります。日本の四季があるドライビング環境では無視できない差です。
もちろん、最初からここまで追い込む必要はありません。まずはスマホアプリとメジャーで仮設定をして、耳で微調整する—このサイクルを繰り返すことで音は確実によくなっていきます。これが基本です。
本格的にDSP調整を追い込みたい場合は、スマホアプリだけでは限界があります。その段階になったら、REW(Room EQ Wizard)という無料のPCソフトと外部マイクを組み合わせた測定環境への移行を検討する価値があります。また、カロッツェリアのDEQ-2000Aのように「オートTA」と呼ばれるマイク自動測定機能を搭載したプロセッサーを使えば、専門的な調整作業を自動化することも可能です。
マイクによる自動タイムアライメント・EQ調整機能を搭載したカロッツェリアDEQ-2000A製品ページ(パイオニア公式)
タイムアライメントの設定を終えても「なんか音がスッキリしない」「低音がボワッとする」と感じるケースがあります。原因はたいていの場合、以下のどれかです。
調整の優先順位は「極性確認 → クロスオーバー → タイムアライメント仮設定 → 音量バランス → タイムアライメント微調整」が原則です。この順番を守れば大丈夫です。
また、サブウーファーのタイムアライメントは特に難しいとされています。低域の位相特性は単純に距離で計算できず、サブウーファーの取り付け位置・向き・エンクロージャー(箱)の設計によっても変わります。自動測定機能付きのDSPを使うか、プロショップでの調整を検討するのが確実です。
カーオーディオ専門店に相談すれば、測定用マイクと専用ソフトを使ってプロが音響特性を数値で把握したうえで調整してくれます。工賃は店舗によって異なりますが、おおよそ1〜3万円程度が目安です。自分でアプリを使って仮設定を入れてから持ち込むと、作業時間が短縮されてコストを抑えられる場合もあります。

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