

モリブデングリスを塗るほど、ラックのゴムシールが早く傷んで修理費が10万円を超えることがあります。
ステアリングラックとは、ハンドルを回す動きを左右のタイヤに伝える「ラック・アンド・ピニオン」機構のことです。ハンドルを回すと、シャフト先端にある円形のピニオンギアが回転し、それに噛み合っている棒状のラックギアが横方向に動くことでタイヤが向きを変えます。この「回転運動を直線運動に変換する」という精密な動きを支えているのが、グリスです。
金属と金属が直接こすれ合えば、当然ながら摩耗が進みます。グリスはその摩擦を和らげる"潤滑剤"の役割を果たしており、ステアリングラックの寿命を大きく左右します。また、ラックの両端にはゴム製の「ステアリングラックブーツ」が被さっており、このブーツの内部にグリスが封入されています。ブーツは砂・泥・水分がギア部に入り込まないようにする保護カバーでもあります。
グリスが切れた状態で走り続けるとどうなるか。まずハンドルを切るたびに「ギーギー」「ゴリゴリ」という異音が発生します。これは内部の金属が直接こすれているサインです。この段階で放置すると、ラックギアやピニオンギアが削れてしまい、最終的にはラックアッセンブリごと交換という事態になりかねません。ラック本体の交換費用は部品・工賃込みで15万〜30万円に達するケースもあります。グリスは数百円〜数千円で補充できることを考えると、早めのケアがいかに重要かが分かります。
つまり、グリスはステアリングラックを守るための「最初の防衛線」です。
ステアリングラックブーツが破れると車検不合格になる理由(中日モータース)
グリスにはさまざまな種類があり、それぞれ性質が異なります。ステアリングラックに関係する主な3種類を整理してみましょう。
🟡 リチウムグリス(万能グリス)
リチウムグリスは「万能グリス」とも呼ばれ、もっとも広範囲に使われているグリスです。最高使用温度は約130℃で、耐水性・せん断安定性にも優れています。ホームセンターで300〜500円程度から入手でき、緑色のチューブに入っているものが定番です。ステアリングラックのボールジョイント部分やラックブーツ交換時に広く使われています。コストパフォーマンスが高く、DIYでの補充にも向いています。
⚫ モリブデングリス(二硫化モリブデングリス)
モリブデングリスはリチウムグリスに「二硫化モリブデン」という固体潤滑剤の粉末を混ぜたものです。耐摩耗性・耐荷重性が高く、ミッションやスプラインなど高荷重がかかる金属部品に向いています。色は黒っぽいグレーが特徴です。ただし、二硫化モリブデンの粒子が非常に硬いため、ゴム製のシールやアルミ・真鍮などの軟質素材を削ってしまうという欠点があります。
🔵 ウレアグリス(非石けん系グリース)
ウレアグリスはリチウムグリスより耐熱性・耐水性に優れた非石けん系グリースです。最高使用温度は約180℃で、自動車の電装部品や軸受に広く使われています。価格はリチウムグリスより高めですが、特に高温になりやすい場所や長期間メンテナンスできない箇所に適しています。
グリスの種類ごとの特性をまとめると以下のようになります。
| 種類 | 最高使用温度 | 耐水性 | ゴムへの影響 | 価格目安 | ラックへの適性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 🟡 リチウムグリス | 約130℃ | 良好 | 影響少ない | 300〜800円 | ✅ 適している |
| ⚫ モリブデングリス | 約130℃ | 良好 | ⚠️ 硬い粒子でシール損傷リスク | 400〜900円 | ❌ 非推奨 |
| 🔵 ウレアグリス | 約180℃ | 優れる | 影響少ない | 500〜1,200円 | ✅ 適している |
リチウムグリスが基本です。
ウレアグリスはより長寿命が期待できる選択肢として有効で、特に過酷な環境で使う車や走行距離が多い方には心強い選択肢になります。一方でモリブデングリスは、ラック内部のゴムシールを攻撃するリスクがあるため、整備士からも「ここには使わない」と明言されることが多いです。
グリースの増ちょう剤別分類と特性比較(協同油脂・業界権威サイト)
グリスアップは「塗れば塗るほど良い」という発想で行うと、逆に大きなトラブルを招くことがあります。ここでは代表的なNG行為を具体的に確認しましょう。
❌ NG①:モリブデングリスを使う
最もよく見られる誤りがこれです。「滑らかにしたいから強力なものを」という発想でモリブデングリスを使う方が一定数います。しかし二硫化モリブデンの粒子は非常に硬く、ラック内部のゴムシールやパワステフルードのシール部を少しずつ削ってしまいます。最終的にはパワーステアリングフルードが漏れ出し、ポンプやラック本体の交換が必要になります。修理費は場合によって10万円超えです。痛いですね。
❌ NG②:グリスを詰めすぎる
「グリスが多いほどよく保護できる」と思いがちですが、ラックブーツにはグリスを詰め込みすぎると空気穴が詰まり、ブーツ自体が破裂・亀裂するという落とし穴があります(Yahoo知恵袋上のプロ整備士の指摘より)。ラックブーツはドライブシャフトブーツのようにグリスをパンパンに詰める場所ではありません。ボールジョイントをひと回りカバーできる程度の量が適切です。これが基本です。
❌ NG③:古いグリスを拭き取らずに上から塗り足す
ブーツ交換の際に古いグリスを残したまま新しいグリスを塗り足すのもNGです。ブーツが破れている場合、砂や泥が混入していることがあります。汚れたグリスがそのまま残っていると、異物がラックシールと接触して傷をつけ、パワーステアリングフルードが噴き出すリスクがあります。作業の前には必ずパーツクリーナーで古いグリスを除去することが大切です。
❌ NG④:グリス切れのサインを無視して走り続ける
据え切り(停車中にハンドルを切る操作)や低速時のハンドル操作で「ギーギー」「ゴリゴリ」という摩擦音が出たとき、「大丈夫だろう」と放置する方がいます。グリスアップや部品交換であれば5,000〜20,000円程度で済む段階でも、放置してラック本体に損傷が及ぶと修理費は一気に跳ね上がります。異音は車からのSOSだと覚えておけばOKです。
ハンドルを切ると「ギギギ・グググ」…異音の原因別修理費用の目安(参考情報)
グリスアップはいつ、どのタイミングで行えばよいのでしょうか。
⏱ グリスアップのタイミングの目安
- ステアリングラックブーツの交換目安は走行距離4〜5万km・3〜4年とされています
- 一般的な車のグリスアップ頻度は、車検ごと(2年に1回)または1万kmごとが推奨されています
- ハンドル操作時に異音(ギー・ゴリゴリ・ガタガタ)が出た場合は即点検が必要です
- ブーツに亀裂・破損が確認できた場合はそのまま走行しないことが原則です
ブーツが破れた状態では車検に通りません。これは重要な点で、整備工場での車検前点検の際にラックブーツの状態を確認してもらうと安心です。
🔧 DIYでグリス補充をする場合の手順(概要)
1. ジャッキアップして車体を安全に支える
2. ロックナットを緩め、タイロッドエンドを外す
3. ステアリングラックブーツのバンドを外してブーツを引き抜く
4. 古いグリスをパーツクリーナーで丁寧に除去する
5. 新しいリチウムグリスをボールジョイントが一周覆える程度に塗布する
6. 新しいブーツを取り付け、バンドで固定する
7. 全体を元通りに組み直す
DIYで行う際はタイロッドエンドの位置(ネジ山の巻き数)を事前に記録しておくことが大切です。タイロッドエンドの取り付け位置がズレると、トー角(タイヤの向き)が変わり、車が直進しにくくなります。タイロッドエンドの位置がずれた場合には、ディーラーや整備工場でサイドスリップ調整(アライメント調整)をしてもらう必要があります。費用は1,000〜5,000円程度が目安です。
部品代の目安
- ステアリングラックブーツ(1本):約1,000〜2,000円
- リチウムグリス(チューブ式):約300〜800円
- ブーツ交換の工賃込み費用(業者依頼):片側 約4,400〜8,000円程度
DIYか業者依頼かを判断する際は、工具の有無とジャッキアップの安全確保がポイントです。タイロッドエンドプーラーという専用工具が必要になるため、工具がない場合は業者への依頼が現実的です。これは使えそうです。
ステアリングラックブーツの交換費用・工賃相場の詳細(参考情報)
近年の国産車の多くは、油圧式パワーステアリング(HPS)から電動パワーステアリング(EPS)へと移行しています。EPS搭載車では、ラック内部にモーターやセンサーが組み込まれているケースがあり、従来のグリスの選び方をそのまま適用すると問題が生じることがあります。
EPS内蔵ラック式のモデルでは、金属・ゴム・樹脂・センサー類が混在しています。ここで誤ったグリスを使うと、樹脂やセンサー保護のためのコーティングを溶かしたり、ゴム部品を膨潤させるリスクがあります。特に「エステル系合成油を基油にしたグリス」はゴムを膨潤させることがあるため、EPS車には不向きです。
EPS搭載車のステアリングラック周りにグリスアップをする際には、「純正指定グリス」または「メーカー推奨グリス」を確認することが最初の一手です。ディーラーに「この車種のラックブーツ交換に使うグリスは何ですか?」と問い合わせるだけで確認できます。この確認を怠ると、誤ったグリスで樹脂部品が傷み、センサー類の誤作動や電子制御の異常につながることもあります。
一般にEPS搭載車のラックブーツ部分のグリスアップには、シリコン系またはリチウム系の「ゴム・樹脂対応グリス」が推奨されることが多いです。対ゴム性・対樹脂性に優れた合成炭化水素油(PAO系)を基油に使ったグリスも選択肢になります。EPSの普及率が高い現代においては、グリス選びは「車種ごとに確認する」という姿勢がもっとも安全です。これが条件です。
EPSのステアリングラックには、ディーラー純正グリスかメーカー推奨品を選ぶのが原則です。
合成油系グリースの基油別特性比較(協同油脂):EPS車のグリス選定に参考になる基油の対ゴム・対樹脂性の違いを確認できます
グリス切れは走行中の感覚や音に現れます。異音や感触の変化に気づくには「こういうサインがある」と事前に知っておくことが大切です。意外ですね。普段の運転中に以下を確認してみましょう。
🔍 グリス切れや劣化のサインチェックリスト
- 🔊 ハンドル操作中に「ギー」「ゴリゴリ」「ガタガタ」という異音がする:グリス切れによる金属接触の典型的サインです。特に据え切りや低速時のハンドル操作で顕著に出ます。
- 🖐 ハンドルが重い、または引っかかりを感じる:ラックの潤滑不足によって抵抗が増している状態です。放置すると10〜20万円規模の修理につながることがあります。
- 👀 タイヤ周りにグリスが飛び散っている痕跡がある:ラックブーツが破れてグリスが漏れているサインです。車検不合格になるため早急な対処が必要です。
- 👃 エンジンルームや足回りから焦げたような臭いがする:グリス切れが進行した状態での摩擦熱が原因のことがあります。
- 📏 直進時にハンドルが左右どちらかに流れる:タイロッドエンドのガタやズレにより、タイヤのトー角が狂っている可能性があります。アライメント確認が必要です。
これらのサインが1つでも出ているときは、自走での長距離移動を避けてください。グリスアップや部品交換で済む段階が、ラック本体の損傷に発展する前に手を打てる最後のチャンスです。
早期発見の具体的な手段として、年1回・または1万km走行ごとに足回りの目視点検を習慣にすることをおすすめします。ジャッキアップせずとも、しゃがんでタイヤの内側を覗き込み、ラックブーツの破れや亀裂がないかを確認するだけで十分です。5分もあれば確認できます。グリス漏れに早く気づくほど、修理費を抑えられます。これは使えそうです。
ラックブーツに異変があれば、修理費3,000円〜8,000円程度のうちに対処できます。これを見逃してラック本体まで損傷が及ぶと、15万〜30万円の出費に跳ね上がります。定期的な目視確認だけで、数十万円規模のリスクを回避できるということです。

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