

スケルトンクラッチカバーをつけると、エンジンオイルを交換するたびに「透明窓が曇って中が見えなくなる」ことがあります。
スケルトンクラッチカバーとは、バイクのエンジン右側面に位置するクラッチカバーのうち、一部または全体が透明な素材で作られたカスタムパーツのことです。通常のクラッチカバーはアルミ合金製の不透明なカバーですが、スケルトンタイプでは透明な「窓」を通じてクラッチディスクやプレッシャープレートが回転する様子を外から確認できます。
クルクルと回るクラッチプレートの動きを走行中・停車中に眺められる、という視覚的な楽しさが最大の魅力です。まるでドカティなどのイタリア製スポーツバイクに見られる「乾式クラッチ」のオープンカバーに近い雰囲気を、湿式クラッチのバイクでも演出できる点で人気を集めています。
ただし、スケルトンクラッチカバーはあくまで「見た目のカスタム」です。性能面での向上はほぼなく、むしろ後述するデメリットも存在します。見た目以外の効果を求めるパーツではない、という点は最初に押さえておきましょう。
主な特徴をまとめると以下のとおりです。
- 透明素材の種類:アクリル樹脂またはポリカーボネート(PC)が使われるケースがほとんど。既製品では専用の耐熱クリア樹脂を採用するブランドもある。
- 取り付け方法:既存のクラッチカバーを透明窓付きの加工カバーに丸ごと交換するタイプと、既存カバーの一部を切り抜いて透明板をはめ込むタイプの2種類がある。
- 対応車種:CB1300SF/SB、Z900RS、ZX-14R、XJR1300、V-MAX、RZ250Rなど多数のモデル向けに市販品・自作事例が存在する。
つまり視覚カスタムの定番、というポジションのパーツです。
スケルトンクラッチカバーを語るうえで、「乾式クラッチ」と「湿式クラッチ」の違いを理解しておくと、なぜこのカスタムが注目されるのかがよくわかります。
乾式クラッチとは、クラッチディスクがエンジンオイルに浸かっていない状態で動作するクラッチです。ドカティやMVアグスタなどのイタリア製スーパースポーツに採用されており、オープンタイプのカバーから「カラカラカラ」という独特の金属音とともにクラッチが剥き出しで見えるスタイルが有名です。駆動ロスが少なくダイレクトなフィーリングが得られる一方、摩耗が早く騒音が大きいというデメリットもあります。
湿式クラッチは、クラッチディスクがエンジンオイル(ミッションオイル)に浸かった状態で動作します。日本製バイクのほぼすべて、つまりホンダ・カワサキ・スズキ・ヤマハの国産バイクは湿式が基本です。耐久性が高く静粛性に優れますが、密閉されたカバーの中に収まっているため、外から中の様子は見えません。
スケルトンクラッチカバーは、この「湿式クラッチ車でも乾式クラッチ風の見た目を実現する」ためのカスタムとして生まれました。エンジンオイルに浸かっているため、透明窓の内側にはオイルが飛び散ることがありますが、エンジンをしっかり暖機した状態ではオイルが比較的クリアに見えるため、回転するプレートを楽しめます。これが映える理由です。
強化クラッチキット(FCC製やTSR製など)と組み合わせると、カラーアルマイト仕上げのプレッシャープレートやクラッチディスクが見えて、カスタム感が一層高まります。これは使えそうです。
スケルトンクラッチカバーを自作または選ぶ際、素材選びが仕上がりと耐久性を大きく左右します。主に使われるのはアクリル樹脂とポリカーボネートの2種類です。それぞれに特性があり、用途やこだわりによって向き不向きが変わります。
アクリル樹脂(PMMA)は透明度が非常に高く、表面の傷もつきにくいのが特徴です。厚さ8mm程度のものを使えばボルト止めでも割れにくく、DIY加工もしやすいとされています。ただし、ポリカーボネートと比べると衝撃に弱い側面があり、転倒した場合は割れるリスクが高まります。エンジン周辺の温度に対してはミッションケース内(せいぜい80〜100℃程度)なら十分耐えられますが、直接炎や高温のオイルにさらされる場所には不向きです。
ポリカーボネート(PC)はアクリルより透明度はやや劣るものの、衝撃強度がはるかに高く、3mm厚でも実用的な強度が得られます。みんカラのCB1300ST自作事例では「アクリル板だと耐熱性がイマイチなので、3mmポリカーボネートを自作で加工した」という記録もあり、熱がこもりやすいエンジン周辺ではポリカを選ぶユーザーも多いです。素材はポリカが条件です。
自作の基本的な手順は以下のようになります。
1. 🔩 既存のクラッチカバーをエンジンから取り外す(オイルが流れ出るのでウエスを用意)
2. 🪛 カバーの中央部にホールソーで大きな穴を開け、リューターやヤスリで仕上げる
3. 📐 透明板(アクリルまたはポリカ)を窓部分に合わせてカットし、タップでネジ穴を作成
4. 🔧 液体ガスケットを塗布して透明板を固定、オイル漏れが起きないようにシールする
5. ✅ 組み付け後、暖機して各部からのオイル漏れがないかを確認する
自作の難易度は「初〜中級」程度です。ホールソーやドリル・タップなどの工具があれば3時間以内での作業も可能ですが、切り出しの精度が悪いとオイル漏れの原因になります。
なお、既製品としてはコアース(COERCE)やGSGモトテクニック(Ladybird)などが有名で、CB1300系やZ900RS、XJR1300向けにラインナップがあります。既製品なら専用ガスケット付属でオイル漏れのリスクが低く、完成度も高いです。国内ブランドのコアース製は「スケルトンクラッチカバーのガンコートカスタム」として塗装変更するオーナーも多く、アルマイトの色飛びを防ぎつつ個性を出せると評判です。
参考:コアース(COERCE)スケルトンクラッチカバーの取り付け実例(NAPSブログ)
スケルトンクラッチカバーは見た目のインパクトが強い一方で、複数のデメリットが存在します。購入・取り付け前に必ず把握しておきたいポイントです。
① 透明窓の曇り問題
最もよく報告されるのが「透明窓の曇り」です。エンジンが完全に暖まっていない状態(特に冬場の朝一番の走行直後など)では、エンジンオイル内の水分や内外の温度差により、窓の内側が白くなって中が見えなくなることがあります。あるRZ250Rオーナーの記録では「走行中は曇るが、数ヶ月走り込んだら曇りは無くなった」とあり、オイル内の水分が抜けると改善するケースも多いようです。エンジンオイルは定期的に交換することが基本です。
曇りを防ぐための実践的な対策として、以下が有効とされています。
- 走行前にしっかり暖機運転をおこない、オイル内の水分を蒸発させる
- 良質なエンジンオイルを使い、こまめに交換する(3,000〜5,000kmを目安に)
- 冬場は特に暖機時間を長めに取る
② 経年劣化による交換コスト
透明部分(アクリル・ポリカ)は紫外線や熱・オイルにより、数年使い続けると黄変や白濁が起きることがあります。Yahoo!知恵袋の実例でも「数年経つとクリア部分が劣化するらしく交換しなくてはならない」という声が上がっています。既製品の場合、透明レンズ部分だけを交換できる製品(ZX-14R用など)もありますが、車種や製品によっては丸ごと交換が必要になることも。痛いですね。
購入前に「レンズ(透明部分)単体で交換できるか」を確認しておくと、長期的なコストを抑えられます。
③ オイル漏れリスク
スケルトンクラッチカバーは、透明板とカバー本体の合わせ面からオイルが滲む事例が報告されています。特に自作品や安価な粗悪品では、ガスケットの密着不良でオイル漏れが起きやすいです。YouTubeに投稿された「ZX14Rスケルトンカバー交換」の動画タイトルは「OILがこぼれて最悪!」というほどで、取り付け直後のオイル漏れは比較的多いトラブルの一つです。
対策としては、液体ガスケット(シリコン系)を合わせ面に均一に塗布し、ボルトの締め付けトルクを均等にすることが重要です。規定トルクを守るのが原則です。
④ YAMAHAバイク特有の追加作業
YAMAHAのXJR1300などに装着する場合、クラッチカバー本体にオイル注入口がない構造上、別途ヘッドカバーへの穴あけ加工とブローバイホースの取り付けが必要になるケースがあります。これはホンダ系(CB1300など)には不要な作業で、作業難易度と費用が上がります。素人には難しいというレビューも多く、ヤマハ車への取り付けは専門ショップへの依頼も一つの選択肢です。
参考:スケルトンクラッチカバーの実際のユーザー評価(Yahoo!知恵袋)
XJR1300 スケルトンクラッチカバー使用レビューと注意点(Yahoo!知恵袋)
スケルトンクラッチカバーを選ぶ際、見た目の仕上がりにこだわるオーナーにとって意外と盲点になるのが「アルマイト処理の色飛び問題」です。これは、既製品のスケルトンクラッチカバーの多くがアルマイト処理(陽極酸化処理)で着色されているために起こります。
アルマイト処理は軽量かつ美しいメタリック発色が得られる一方で、エンジンに直接取り付けられる高温環境では数年以内に色がくすんだり剥げたりしやすいという弱点があります。人気ブランドのコアース(COERCE)も「以前はブラックアルマイトのラインナップもあったが現在はシルバーのみ」に絞られた経緯があり、これは色飛びの問題が背景にあるとショップが明かしています。
そこで注目されているのがガンコートペイント(セラミックコーティング塗装)です。ガンコートは元々銃器の塗装に使われていた工業用コーティングで、耐熱性・耐腐食性・耐油性に非常に優れています。スケルトンクラッチカバー本体とスケルトン用カバー(透明板を囲む枠部分)にガンコートを施すことで、エンジン熱による色変化を大幅に抑えられます。
東京から持ち込みでこのカスタムを依頼したオーナーの事例(青山バイクカスタムショップ)では、クラッチカバーをツヤあり黒・スケルトン用カバーを艶消し黒・プレッシャープレートをブロンズ・スプリングボルトを赤とカラーコーディネートすることで、まるでワンオフパーツのような完成度を実現しています。
ガンコートペイントは自分で施工するのは難しいため、バイクカスタムショップへの依頼が一般的です。費用の目安は塗装する部品の数にもよりますが、クラッチカバー周辺のガンコートであれば3万〜5万円程度が相場です。見た目への投資として考えると、十分元が取れます。
つまり「見た目を長くキープしたいならガンコートが条件」ということです。
選び方をまとめると以下のようになります。
| チェック項目 | 既製品(コアースなど) | 自作 |
|---|---|---|
| 費用 | 2万〜4万円程度 | 材料費のみ(数千円〜) |
| 取り付け難易度 | 低〜中(車種による) | 中〜高 |
| オイル漏れリスク | 低(専用ガスケット付属) | 高(精度次第) |
| カラーカスタム | ガンコート依頼が必要 | 塗装・加工が自由 |
| 耐久性 | 高(透明部は要経過観察) | 素材・加工精度次第 |
参考:コアース製スケルトンクラッチカバーのガンコートカスタム詳細
CB1300SF スケルトンクラッチカバー ガンコートカスタム事例(青山バイクカスタム)