

クイックステアリングSTIの採用モデルは、ステアリングを少し切るだけでコーナーで10万円以上の修理代が発生することがあります。
ステアリングの「ギア比」という言葉は、クルマ好きでないとあまり馴染みがないかもしれません。簡単に言えば、ハンドルをどれだけ回すとタイヤがどれだけ動くかを示す数値です。ギア比が小さいほど、少しのハンドル操作でタイヤが大きく動くため、よりクイックな動きになります。
一般的な乗用車のステアリングギア比は16〜17:1程度です。これに対し、通常のWRX STIは13:1。そしてSTIのクイックステアリングギヤボックスを搭載した限定コンプリートカーは、なんと11:1というギア比を実現しています。
つまり、標準的な乗用車と比べると約3割以上クイックな操舵感です。
「ギア比が2違うだけで何が変わるの?」と感じるかもしれませんが、実際に体感すると話は別です。たとえば通常の乗用車でハンドルをゆっくり半回転する動作が、11:1のクイックステアリングでは約4分の1回転の動きでタイヤが同じ角度まで動く感覚に相当します。手首を少し傾けるだけで車線をスッと横切るほどの俊敏さです。
クイックステアリングとは、この超高感度な操舵系のことを指します。これが基本です。
| 車種 | ステアリングギア比 | 備考 |
|---|---|---|
| 一般的な乗用車 | 16〜17:1 | 標準的な設定 |
| WRX STI(標準) | 13:1 | スポーツ寄りの設定 |
| STIコンプリートカー(S207/S208/RA-R等) | 11:1 | 市販車最高レベル |
| WRCワールドラリーカー | 約11:1 | 競技専用車と同等 |
このギア比11:1は、2013年に登場したWRX STI tS TYPE RAで初めて市販車に採用されました。それ以来、S207(2015年)、S208(2017年)、TYPE RA-R(2018年)など歴代STIコンプリートカーの定番スペックとなっています。意外なことです。
STIのクイックステアリングギヤボックス(11:1)は、すべてのWRX STIに標準装備されているわけではありません。これが大きな誤解のひとつです。採用されているのは、STIが手がけた限定コンプリートカーのみです。
最初の採用モデルであるWRX STI tS TYPE RA(2013年・GVB型ベース)は、300台の限定生産で販売価格は441万円(税込)から。その後、NBR CHALLENGE PACKAGEは483万円〜508万円という設定でした。
続くS207(2015年・VAB型ベース)では引き続き11:1のクイックステアリングを採用。ビルシュタイン製可変ダンパー、エンジンチューニングによる328PSなどと組み合わせ、台数400台限定・価格約560万円で発売されました。
S208(2017年)では最高出力を329PSに引き上げ、さらにアクティブトルクベクタリングも搭載。価格は約628万円で、抽選販売450台という希少な存在でした。
TYPE RA-R(2018年)は、S208より約30kgの軽量化を実現した究極のモデルで、11:1クイックステアリングはもちろん搭載。500台限定で約503万円という設定でした。
こうして見ると、クイックステアリング搭載モデルは一般購入が難しい限定車ばかりです。
現在、これらのモデルは生産終了しており、中古車市場でのみ入手可能です。ベースのWRX STI(VAB型)自体が2019年に国内生産終了となったこともあり、限定コンプリートカーの中古価格は新車時の定価を大幅に超えるケースも珍しくありません。希少価値が高まっています。
STI公式:WRX STI tS TYPE RAの詳細スペック(STI公式サイト)
「クイックステアリングなんて、ギヤボックスを換えるだけでしょ?」と思う方も多いかもしれません。しかし、これは大きな誤解です。
11:1という超クイックなギア比は、ステアリング操作に対するタイヤの反応を急激に高めます。これは同時に、急ハンドルを切ることと同じ負荷がボディに瞬時にかかることを意味します。前輪が急激に舵を切ると、そのコーナリングフォースが車体を通じて後輪へ伝わるまでのわずかな時間差に「ねじれ」が生じ、ボディが剛性不足だと後輪がついてこれずに不安定な挙動を招きます。
STIが11:1を採用できたのは、フレキシブルドロースティフナー(前後)、フレキシブルタワーバー、フレキシブルサポート(リア)、ピロボールブッシュといった専用ボディ補強パーツをセットで開発・装着したからです。これらは剛性を単に「固める」のではなく、「強くかつしなやかに」することが狙いです。
剛すぎると車体ヒステリシス(ねじり変形時の位相遅れ)が増えて動きが唐突になる、という問題があります。STIは固める部分としなやかに受け流す部分を個体ごとに丁寧に調整しながら組み上げています。これはライン生産では実現できない手間のかかる作業です。結論はSTIの一体設計にあります。
後付けでギヤボックスだけを交換しようとしても、ボディがその速い入力に対応できなければ、むしろ挙動が乱れて危険な状態になる可能性があります。5ちゃんねるの掲示板情報によれば、クイックステアリングギヤボックスだけで約30万円という情報もありますが、ボディ補強の追加費用や工賃を考えると、簡単に手を出せる改造ではないと考えるのが現実的です。
11:1ギア比とボディ設計の関係を詳しく解説した試乗レポート(MOTA/autoc-one)
実際にクイックステアリングSTI搭載車に乗ると、最初は「ちょっと怖い」と感じる人が多いです。これは正常な反応です。
通常の乗用車に慣れたドライバーが11:1のSTIコンプリートカーに乗ると、ほんの少しハンドルを動かしただけでクルマがスッと反応することに驚きます。街中の交差点でハンドルを少し切りすぎて内側に寄りすぎた、という経験をするオーナーも少なくありません。
一般道では路面の凹凸をダイレクトに拾うため、ハンドルが微妙に取られやすくなります。特に路面の継ぎ目や荒れた舗装では、普通の乗用車よりもこまめな修正操舵が必要になります。慣れが条件です。
一方、高速道路や峠道など、速度が上がる場面では印象が一変します。「ハンドルを切れば姿勢を崩さずにグイッとスパッと曲がる」という感覚は、試乗経験者の多くが一致して語る魅力です。車速が上がるほどに操舵感が自分の意図とぴったり合い、「クルマと一体になる」感覚が生まれます。
慣れるためのアドバイスとしては、まず空いた時間帯に広い駐車場や交通量の少ない道でハンドルの感触をつかむことが最初の一歩です。特に最初の数時間は大きな操作をせず、クルマの反応を体に覚えさせることが大切です。乗り続けるほど体が慣れていきます。
実際のオーナーによるSTIクイックステアリングギヤボックスのパーツレビュー(みんカラ)
多くのSTIオーナーは、クイックステアリングの「速さ」ばかりに注目しますが、じつはこのシステムが最も力を発揮するのは「修正舵の少なさ」という側面です。これはあまり語られない視点です。
ラリーカーがクイックステアリングを使うのは、コーナーでのアプローチを素早くするためだけではありません。荒れた路面でタイヤが跳ねたとき、ドライバーが瞬時にカウンターを当てられるようにするためでもあります。路面が荒れるほど修正の速さが求められ、そのためにギア比を小さくする必要がある、というロジックです。
これを一般道に置き換えると、雨の日の濡れた路面、砂が浮いた交差点、急なハンドリングが必要な緊急回避といった場面で、より少ない操作量で素早くクルマをコントロールできるという「安全性の余裕」につながります。
ただし、この恩恵を引き出すには、普段の街乗りでも脇を締めてハンドルを持つ習慣が必要です。肘を張って大きくハンドルを動かすような持ち方だと、クイックステアリングの細かいフィードバックを感じ取れず、かえって操作がアバウトになります。9時15分のグリップ位置でしっかりと保持し、手首の微細な動きでコントロールする——これがSTIのクイックステアリングを最大限に活かす乗り方です。
STIがフレキシブルパーツとセットで開発したこのシステムは、「スポーツ走行のために速い」のではなく、「あらゆる路面でドライバーの意図を正確に伝えるため」に存在しているのです。この発想が基本です。
STI tsタイプRAの11:1ステアリングを解説した記事(ベストカーWEB)

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