

グリスを多く塗るほど部品は長持ちすると思っていませんか?実は塗りすぎたグリスがブレーキパッドを汚染し、制動力を一気に低下させます。
車のメンテナンスでグリス塗布と聞いたとき、「ヘラで塗ればいいだけでは?」と考える人は少なくありません。確かに表面のブレーキパッドのバックプレートにグリスを薄く塗るような作業であれば、ヘラや指でも対応できます。しかし自動車の整備においては、グリスを注入する「場所」によって必要な道具がまったく異なります。
グリスを塗布するための道具は、大きく分けて以下の3グループに整理できます。
中でも注目すべきはグリスガンです。グリスガンのノズル先端からの吐出圧は機種によって異なりますが、エア式や電動式では40〜69MPa(メガパスカル)という非常に高圧な力でグリスを押し込めます。これは水道水の水圧(約0.3〜0.5MPa)の約100〜200倍以上の圧力です。手が届かないシャフト内部にも確実にグリスを届けられるのは、この高圧があるからこそです。
つまり道具の選択です。塗布場所が「表面か内部か」、「一般部品かゴム・樹脂を含む部品か」をまず確認するのが基本です。
参考:グリスガンの種類・構造・使い方について詳しく解説されている信頼性の高い専門メーカーのページ
グリスガンの使い方とおすすめ商品を紹介 | アストロプロダクツ
グリスガンは「手動式」「エア式」「充電式(電動式)」の3種類が主流です。それぞれに明確な特徴があり、使う場面や頻度によって最適な選択が変わります。
手動式(ハンドポンプ式)は、最も手軽に購入できるタイプで、価格は1,000〜3,000円前後のものも多く流通しています。レバーを手で往復させてグリスを押し出す構造で、整備の頻度がそれほど高くない一般ドライバーや、自宅でのDIY整備を始めたばかりの人に向いています。電源もエアコンプレッサーも不要なので、ガレージの中でも屋外でも使いやすいのが利点です。
一方、エア式グリスガンはエアコンプレッサーに接続して使うタイプで、連続的かつ高圧でグリスを供給できます。プロの整備工場では主流の選択肢です。ただし別途コンプレッサーが必要になるため、一般ドライバーには導入コストがかかります。
充電式(電動式)グリスガンは近年急速に普及しています。マキタやKTC、京セラインダストリアルツールズなどが製品を展開しており、18Vのリチウムイオンバッテリーで動作するものが主流です。トリガーを引くだけでグリスが自動注入されるため、力が弱い方でも疲れずに作業できます。KTCのコードレスグリースガン(JTAE911)は定価46,000円前後と高価ですが、プロ仕様の品質です。これは使えそうです。
DIYでの自動車整備が目的なら、まずは手動のハンドポンプ式グリスガン(1,000〜5,000円)から始めるのが現実的です。カートリッジ式(400g入りが標準サイズ)に対応したものを選べば、グリスの補充も手軽に行えます。
ノズルとニップルの適合確認が条件です。グリスガンを購入する際は、使いたいノズルの形状と、車側のグリスニップルの形状が合うかどうかを事前に確認してください。ハイドロリックニップル(A型)が最もポピュラーですが、農機や旧型車ではB型・C型など斜め挿しタイプが使われることもあります。
参考:グリスニップルA型・B型・C型の違いとグリスガンの種類について詳しい解説
グリスガンとはどのような工具?導入するメリットから注意点まで解説 | 電材ネット
グリス塗布の道具と同じくらい重要なのが「どのグリスを使うか」という選択です。グリスの種類を間違えると、ゴムシールを溶かしたり、逆に部品を削り取ったりと、深刻なトラブルを引き起こします。
自動車整備でよく使われるグリスは主に4種類です。
「何でもよかろう」で塗ってしまうと、数万円規模の部品交換につながるリスクがあります。特に注意が必要なのはブレーキ周辺で、油分がパッドやローターに付着すると制動力が大幅に落ちます。オイルシール周辺に使うグリスを選ぶ際は、JTEKTの技術資料(下記リンク)のような専門文書で、ゴム材質との適合を確認するのがおすすめです。
参考:ゴム材質とグリスの適合性について技術的に解説されている資料
オイルシールの取扱い・密封不具合の原因 | JTEKT(光洋)軸受・技術情報
実際にグリスガンを使って車のグリスニップルにグリスを注入する際は、手順を守ることが非常に重要です。間違った手順は部品の損傷やグリスの混入事故を引き起こします。
まず最初に行うべきは、グリスニップルの清掃です。泥・砂・古いグリスの固着汚れがニップルに付いたままグリスを注入すると、異物が内部に押し込まれます。歯ブラシやウエスで丁寧に拭き取ってから作業を始めましょう。ニップルが破損・劣化している場合は、注入前に交換してください。
次に、グリスガンのノズル形状とニップルの形状が合っているかを確認します。ハイドロリックニップル(A型)の場合は、ノズルを真上から垂直に押し込むとカプラの爪がニップル頭部に噛み付いてロックされます。斜めになった状態で無理やり押し込もうとすると、ニップルが折れることがあります。
注入の目安はレバー1〜2往復が原則です。レバーが急に重くなったり、古いグリスがニップル周辺から滲み出てきたりすれば、充填完了のサインです。グリスが出てくる様子が見えない密閉構造の部位では、2往復で止めるのが安全です。過剰注入はシールの破損を招く恐れがあります。
作業後はノズルをニップルから外す際、直接引き抜かずに少し傾けてテコの原理で爪を緩めてから外してください。引き抜く力をそのまま加えると、ニップルごとねじ切れる事故が起きます。使用後はノズルにキャップをかぶせて保管し、グリスへの異物混入を防ぐことも忘れずに。
| 手順 | 作業内容 | 注意点 |
|------|----------|--------|
| ① | グリスニップルの清掃 | 汚れが残ると異物混入の原因に |
| ② | ノズルとニップルの形状確認 | 形状不一致はグリス漏れのもと |
| ③ | ノズルを垂直にはめ込む | 斜め挿しはニップル破損の原因 |
| ④ | レバーを1〜2往復 | 重くなったら注入完了サイン |
| ⑤ | テコの原理でノズルを外す | 直接引っ張ると破損リスクあり |
| ⑥ | 余分なグリスを拭き取る | ウエスで周辺を清潔に保つ |
参考:グリスガンの正しい使い方・注意事項について詳しい解説(ミスミ技術情報)
グリスガンの種類と特長 | 技術情報 | MISUMI-VONA
これはあまり知られていない事実ですが、グリスは「多く塗れば塗るほど安全」ではありません。むしろ、塗りすぎが直接的な故障原因になるケースが整備現場では日常茶飯事です。
最も危険なのは、ブレーキパッドのバックプレートへのグリス塗りすぎです。グリスがパッドの摩擦材側やブレーキローター表面に回り込むと、ブレーキの制動力が著しく低下します。これはブレーキパッドが半分以上の残量があっても廃棄せざるを得ない状態になる深刻なトラブルです。痛いですね。
整備士向けの技術資料(三菱自動車)によると、ブレーキキャリパーのスライドピン部・ピストンシール部に使うグリスは「整備解説書指定のグリスのみ使用」と明確に規定されています。指定外のグリスを適当に使うと、ゴムシールが膨張・溶解して液漏れや固着を起こすリスクがあります。
グリスの適正量を見極めるには、以下の3つのポイントを覚えておくと便利です。
また、異なる種類のグリスを混ぜて使うことも厳禁です。例えばリチウムグリスとモリブデングリスを同じグリスガン内で混合すると、化学反応により本来の性能が失われるだけでなく、粘度が変化して注入できなくなるケースもあります。グリスを変える際はシリンダー内を完全に空にして洗浄してからにしてください。
グリスの塗布量・塗布箇所に迷ったときは、車両のメーカー整備解説書か、一般社団法人 日本潤滑油協会(JLMA)などが発行する技術文書を参考にするのが確実です。
参考:ブレーキ部品へのグリス指定・注意事項についての三菱自動車公式告知
ブレーキ部品の取扱い上の注意事項について | 三菱自動車

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