

車のボディ修理でTIG溶接を選ぶと、仕上がりが美しい代わりに修理費用がMIG溶接の約2〜3倍になることがあります。
MIG溶接(Metal Inert Gas Welding)とTIG溶接(Tungsten Inert Gas Welding)は、どちらもアーク溶接の一種であり、シールドガスに不活性ガス(主にアルゴンガス)を使用するという共通点があります。しかし、電極の仕組みと溶加材の供給方法に大きな違いがあり、この違いが作業スピード、仕上がり品質、コストのすべてに影響してきます。
MIG溶接では、溶接ワイヤーが電極を兼ねており、ローラーによって自動的に供給される仕組みです。つまり、溶接棒を手で持ちながら操作する必要がなく、片手でトーチを操作しながら溶接が進められます。これが「半自動溶接」とも呼ばれる理由です。溶接スピードが速く、作業効率が高いため、自動車製造ラインや建築構造物など、大量生産の現場で特に活躍しています。
一方、TIG溶接では電極に融点3380℃という金属最高の融点を誇るタングステン棒を使用します。タングステン自体は溶けないため、別途手動で溶加棒(フィラーロッド)を供給する必要があります。両手を使う作業になるため習得に時間がかかりますが、その分溶接部への熱コントロールが精密で、薄板や複雑な形状の接合に対応できます。つまり精度が条件です。
| 項目 | MIG溶接 | TIG溶接 |
|---|---|---|
| 電極の種類 | 消耗式(溶接ワイヤー) | 非消耗式(タングステン棒) |
| 溶加材の供給 | 自動(ワイヤーが兼用) | 手動(別途フィラーロッド) |
| シールドガス | アルゴンまたは混合ガス | アルゴン(純不活性ガス) |
| 溶接スピード | 速い | 遅い |
| 仕上がり品質 | 普通(スパッタあり) | 高品質(スパッタほぼなし) |
| 習得難易度 | 比較的低い | 高い(両手操作が必要) |
| 適用材料 | 鉄・ステンレス・アルミ | 鉄・ステンレス・アルミ・チタン |
スパッタとは、溶接中に飛び散る溶融金属の微小な粒子のことで、MIG溶接ではこれが多く発生する傾向があります。溶接後にスパッタをタガネで除去する手間が生じるため、仕上がりの美しさを求める用途には不向きな場合があります。これが基本です。
シールドガスの役割についても押さえておきましょう。溶接中、金属が高温になると空気中の酸素や窒素と反応して酸化や窒化が起こります。この反応が溶接部の強度低下や欠陥につながるため、アルゴンなどの不活性ガスで接合部を覆って外気を遮断するのがシールドガスの役目です。MIG溶接・TIG溶接の双方でアルゴンが使われますが、MIG溶接では炭酸ガスとの混合ガスが使われることもあります(その場合はMAG溶接と呼ばれます)。
参考:MIG溶接・TIG溶接・MAG溶接の基礎と違いについての詳細はこちら(金属塑性加工.com)
各種溶接方法のメリットとデメリット – 金属塑性加工.com
実際にMIG溶接とTIG溶接のどちらを選ぶかを判断するには、それぞれのメリット・デメリットを正確に知ることが重要です。「速さか品質か」という単純な話ではなく、素材の種類・板厚・仕上がり要件・コストなど、複数の軸で考える必要があります。
MIG溶接のメリットを見ていきましょう。最大の強みは、その作業効率の高さです。溶接ワイヤーが自動供給されるため、連続した長い溶接ビードを素早く引くことができます。TIG溶接と比べて習得難易度が低いため、熟練度に差が出にくく、現場での即戦力になりやすいという利点もあります。また、鉄・ステンレス・アルミなど幅広い金属材料に対応できるため、用途の汎用性が高いです。
MIG溶接のデメリットとしては、使用するアルゴンガスが高価であることと、スパッタの発生がTIG溶接より多い点が挙げられます。アルゴンガスはアークが広がりやすい性質があるため、溶け込みが浅くなり、溶け込み不良が起きやすいという点も要注意です。さらに、シールドガスを使用するため屋外や風の強い環境での作業には向きません。
次にTIG溶接のメリットです。仕上がりの美しさはほかの溶接方法の追随を許しません。スパッタがほとんど発生しないため、溶接後の研磨・後処理が最小限で済みます。タングステン電極は消耗しないため長時間の連続溶接が可能で、電流・電圧・速度を精密にコントロールできます。薄板への対応力も高く、複雑な形状の部品でも精密な作業が可能です。これは使えそうです。
TIG溶接のデメリットは、溶接スピードが遅い点と作業者の習熟度によって仕上がりに大きな差が出る点です。両手を使って作業するため、一定の技術修得に時間とコストがかかります。不活性ガス(アルゴン)の消費量もMIG溶接より多く、ランニングコストが高い傾向にあります。大量生産には不向きで、少量・高品質の用途に向いている溶接方法だと言えます。
参考:溶接方法の仕上がりと使い分けの実情はこちら
溶接機の選び方 車の板金・修理 – ウエルドツール【溶接機専門店】
車のオーナーとして修理を依頼する際、「どんな溶接方法で直してもらっているのか」を意識したことはあるでしょうか。実は、修理箇所によって使うべき溶接方法は明確に異なっており、誤った方法を選ぶと強度不足や外観不良につながることもあります。
自動車のボディ板金修理(ドア・フェンダー・ルーフなどの薄板スチール部分)には、一般的にMIG溶接が採用されています。理由は、薄板の連続溶接において溶接ワイヤーが自動供給されるため、多少の隙間があっても肉盛りしながら溶接できる柔軟性があるからです。仮に溶接ビードが多少荒れても、後工程で研磨・パテ・塗装が入るため、溶接の外観仕上がりを完璧にする必要がないという実情もあります。MIG溶接なら問題ありません。
一方、バイクのチタンマフラー・ステンレスマフラー・アルミ製フレームの溶接には、TIG溶接一択とされています。これらの部品は溶接ビードがそのまま外部から見えるフィニッシュとなるケースが多く、スパッタの付着は品質上の大きな問題になります。また、チタンやアルミは酸素との反応性が高く、より精密なシールドガス管理が求められるため、TIG溶接の精度とクリーンな溶接環境が必須です。
近年の自動車は高張力鋼板(ハイテン材)やアルミ合金など新素材の使用比率が高まっており、溶接条件が以前よりもシビアになっています。一部の自動車メーカーでは、修理に使える溶接方法を公式に指定しており、指定外の方法で修理すると構造強度の保証がされないケースもあります。厳しいところですね。
参考:自動車板金で使用される溶接方法の種類と実情
TIGとMIG溶接の違いは?溶接の種類や使い分け方を解説! – 大阪太平クリエイト
溶接の費用を左右する大きな要素の一つが、シールドガスのコストです。MIG溶接とTIG溶接はどちらもアルゴンガスを使用しますが、消費量と使い方に違いがあり、長期的なランニングコストに差が出てきます。
MIG溶接では、アルゴンガス単体または炭酸ガス(CO₂)との混合ガスを使用します。純アルゴンより安価な炭酸ガスを混ぜたMAG溶接に切り替えることでガスコストを下げる運用が一般的です。一方、TIG溶接では純アルゴンガスのみを使用するのが基本で、ガスの消費量も多くなります。ガスコストは有料です。
溶接機本体の初期費用も見逃せません。MIG溶接機の相場は一般的な業務用モデルで20万〜50万円程度とされていますが、TIG溶接機(特に交流・直流切り替えができる交直両用モデル)は50万〜100万円程度になることがあります。アルゴンのみを使うTIG溶接は、機材・ガス・技術すべての面でコストが積み重なる溶接方法です。
実際の車の板金修理代への影響を考えると、同じ損傷箇所でも採用する溶接方法によって工賃に差が生まれます。仕上がり研磨や塗装が後続工程で入る一般的なボディパネルの修理なら、コストパフォーマンスに優れたMIG溶接の方が合理的と言えます。TIG溶接を指定したり、チタン・アルミ素材の修理を依頼すると、工賃が大幅に跳ね上がることを知っておくと損しません。
MIG溶接とTIG溶接のコスト面を整理すると、次のようなイメージになります。
参考:TIG溶接機の費用とガスコストの実態はこちら
各種溶接方法のメリットとデメリット – 金属塑性加工.com
「MIG溶接とTIG溶接の比較」を調べていると、必ずといっていいほど出てくる「MAG溶接(マグ溶接)」という言葉があります。これはMIG溶接・TIG溶接と並ぶ第3のガスシールドアーク溶接で、特に鉄の溶接において現場で最も広く使われている方法です。意外ですね。
MAG溶接(Metal Active Gas Welding)は、シールドガスにアルゴンガス(不活性ガス)と炭酸ガス(CO₂)の混合ガスを使用します。MIG溶接が純アルゴンを使うのに対し、MAG溶接は炭酸ガスを加えることでアークのエネルギーを集中させ、深い溶け込みを実現できます。その結果、MIG溶接より高い接合強度が得られ、スパッタの量もCO₂溶接より少なく抑えられます。
自動車の板金修理現場において、実は最もよく使われているのがこのMAG溶接です。CO₂ガスはアルゴンより安価なため、ランニングコストを抑えながら鉄板の確実な溶接が可能です。純粋なMIG溶接(純アルゴン使用)は日本の鉄鋼板金現場ではあまり一般的ではなく、「MIG溶接」と呼ばれていても実態はMAG溶接というケースも少なくありません。つまり要注意です。
ただし、MAG溶接には一つ重要な制約があります。混合ガスに含まれる炭酸ガス(活性ガス)がアルミニウムやステンレスなどの非鉄金属と化学反応を起こしてしまうため、これらの材料には使用できません。アルミやステンレスにはMIG溶接(純アルゴン)またはTIG溶接が必要になります。これが原則です。
車の修理を依頼する際は、素材と目的に合わせて「どんな溶接方法を使いますか?」と一言確認するだけで、不必要に高いTIG溶接を発注してしまうリスクを避けられます。溶接方法を知っておくことが、そのまま修理代の節約につながります。これが条件です。
参考:MAG溶接とMIG溶接の違いと使い分けについての詳細はこちら
TIGとMIG溶接の違いは?溶接の種類や使い分け方を解説! – 大阪太平クリエイト