バラストが鉄道の線路に敷かれるのはなぜか

バラストが鉄道の線路に敷かれるのはなぜか

バラストが鉄道の線路に敷かれるのはなぜか

あなたが車で踏切を渡るとき、その石を「ただの飾り」だと思っていたなら、線路はとっくに崩壊しています。


この記事でわかること
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バラストとは何か

線路に敷き詰められた角ばった砕石「バラスト」の正体と、なぜ丸い砂利ではダメなのかを解説します。

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バラストの5つの役割

荷重分散・振動吸収・排水・雑草防止・音吸収という多機能ぶりを、自動車道路との比較で深掘りします。

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バラスト軌道 vs スラブ軌道

新幹線でも採用が分かれる2種類の軌道構造の違いと、メンテナンスコストの現実をわかりやすく紹介します。


バラストとは何か:鉄道の線路を支える砕石の正体





踏切で一時停止したとき、線路の脇に無数の石が敷き詰められているのを見たことがあるはずです。あの石の集まりを「バラスト(ballast)」と呼びます。日本語では「道床砕石」とも表現され、線路の構造を根本から支える最重要部品のひとつです。


バラストの構造を正確に理解するために、線路全体の断面を下から順に見てみましょう。一番下は「路盤」と呼ばれる地盤の基礎部分、その上に一定の厚さで敷き詰められたバラスト層(「バラスト道床」)があり、さらにその上に「まくらぎ(枕木)」が置かれ、最上部に2本のレールが固定されています。


重要なのは、まくらぎはバラストに「埋まっているだけ」で、地面のどこかにボルトで固定されているわけではないという点です。それでも列車が通っても簡単にずれないのは、バラストがしっかりと石同士で噛み合って支えているためです。つまりバラストが機能です。


バラストに使われる石は、現在では山から採掘した硬い岩石を機械で砕いた「砕石」が主流です。かつては川底の丸い小石も使われていましたが、現在は河川の砂利採取が法律で原則禁止されているため、砕石に切り替わっています。軌道延長1kmあたりに必要なバラストの量は約1,500〜3,000トンにも及び、東京ドームのグラウンドに積み上げたら軽く覆いつくせる量です。





























項目 バラスト(砕石) 川砂利(来)
形状 角ばっている 丸みを帯びている
噛み合わせ 強い(安定) 弱い(ズレやすい)
入手方法 採石場で生産 河川採取(現在は原則禁止)
耐久性 高い 低い


なぜ丸い石ではダメなのかについては、JR東日本広報部が「丸いと石同士の抵抗が少なくてズレやすい」と説明しています。角ばった石が互いに食い込み合うことで、何十トンもある列車の荷重に耐えられる強固な土台が生まれるのです。角ばっているが条件です。


鉄道のバラストの詳細な役割と構造についての公式情報が掲載されています。


国土交通省 Q&A:線路の下に石を敷く理由


バラストが鉄道の線路に敷かれるなぜの答え:5つの役割を深掘り

「なぜ線路にあんなに石が必要なのか」という疑問の答えは一つではありません。バラストには互いに連動した複数の役割があり、そのすべてが列車の安全運行に直結しています。


① 荷重の分散


自動車と鉄道では、地面への荷重のかかり方がまったく異なります。普通乗用車の重さは約1〜1.5トン、それに対して通勤電車1両の重さは約30〜40トンです。仮にまくらぎを直接地面に置いたとすると、その狭い接触面に列車の重量が集中して路盤が陥没してしまいます。バラスト道床を挟むことで、この重さが広い面積に分散され、地盤への負担が均等に伝わるしくみになっています。これが荷重分散の原則です。


② 振動の吸収


石と石が積み重なってできたバラスト層は、巨大なクッション材として働きます。列車が通過するたびに発生する上下方向の衝撃や横揺れを、石同士の微細なズレと摩擦で吸収します。この緩衝機能がなければ、車内の乗り心地が著しく悪化するだけでなく、周辺住宅や建物への振動被害も大幅に増加します。


③ 音の吸収


バラスト同士の隙間は、吸音材としても機能します。列車通過時の騒音は、隙間のない構造(スラブ軌道など)に比べてバラスト軌道の方が吸収されやすいのです。実際に、スラブ軌道ではコンクリートの上に「消音バラスト」と呼ばれる小粒の石を別途まいて騒音対策を補う場合もあるほど、バラストの吸音効果は高く評価されています。


④ 排水の確保


石と石の間には無数の隙間があり、雨水がすばやく下方へ抜けていく構造になっています。もし線路に水が溜まると、路盤が軟弱化してレールの位置がずれ、脱線リスクが高まります。自動車道路でも排水性舗装が採用されていますが、鉄道ではこの機能をバラストが自然に担っています。排水性は必須です。


⑤ 雑草の抑制


バラストは太陽光を遮ることで、地面への日照を大幅に減らします。これにより線路内での雑草の発育が抑制されます。草が生い茂ってしまうと根がレールやまくらぎを持ち上げ、軌道変形の原因になります。除草剤や人手による除草コストを節約できるという意味でも、バラストの存在は経済的メリットがあります。


これら5つの役割は独立しているのではなく、互いが補い合っています。一つが崩れれば他も連鎖的に機能を失うという緊密な関係にあり、それがバラストを「ただの飾り」ではなく「構造の要」にしている理由です。いいことですね。


バラストの各種役割について詳細に解説された参考記事です。


マネーポスト:線路に敷き詰められた砕石の重要な役割


バラスト軌道とスラブ軌道の違い:新幹線はなぜ2つの軌道構造を持つか

バラストが敷かれた軌道を「バラスト軌道」と呼ぶのに対し、もう一方の代表的な軌道構造に「スラブ軌道」があります。スラブ軌道では砂利の代わりにコンクリート製の厚板(軌道スラブ)を使用し、レールを固定します。


この2つの軌道構造は、実は新幹線の歴史に深く絡んでいます。1964年に開業した東海道新幹線は、バラスト軌道を採用しました。当時はバラスト軌道が世界標準であり、建設コストも抑えやすかったためです。ところが、時速200km超で列車が走ると、バラストへの衝撃荷重も格段に大きくなり、砕石の劣化と軌道変形のスピードが在来線の比ではありませんでした。


そこで山陽新幹線(1972年開業)以降に建設された新幹線では、スラブ軌道が主力として採用されるようになります。現在、東北・上越・北陸など整備新幹線の大部分はスラブ軌道です。スラブ軌道の最大のメリットは保守の省力化で、バラスト交換やバラスト突き固めが不要なため、修繕費はバラスト軌道の約25%で済むとも試算されています。


ただし、スラブ軌道にも弱点があります。



  • 建設初期コストがバラスト軌道より高い

  • コンクリート単体では音を吸収しにくいため、別途吸音対策が必要になることがある

  • 地盤変位への追従性が低く、路盤施工の精度が要求される

  • 既存のバラスト軌道からの切り替え工事が非常に大規模で、過密ダイヤの路線では施工が困難


東海道新幹線が今もバラスト軌道を維持している背景には、毎日300本以上の列車が行き交う超過密ダイヤがあり、大規模な軌道切り替え工事を実施する「窓口」がほとんどないという現実があります。これが条件です。


































比較項目 バラスト軌道 スラブ軌道
建設コスト 低い 高い
保守コスト 高い(定期的な砕石交換・突き固めが必要) 低い(修繕費はバラスト軌道比約25%)
振動・騒音吸収 優れている やや劣る(消音バラスト補完の場合あり)
耐久性 劣化しやすい(石が摩耗・丸くなる) 高耐久
主な採用路線 東海道新幹線・在来線全般 山陽・東北・北陸・上越新幹線など


スラブ軌道とバラスト軌道の詳細比較が掲載されています。


AND MAGAZINE:East-iと技術者が支える新幹線の「当たり前」


バラストのメンテナンス:鉄道の線路はなぜ定期的に石を入れ替えるのか

バラストは半永久的に使えるように見えますが、実際には消耗品に近い存在です。列車が繰り返し通過するたびに、石に荷重がかかり続け、徐々に角が削れて丸くなっていきます。丸くなった石は互いの噛み合わせが弱くなり、クッション機能も排水性も低下します。これをバラストの「細粒化・劣化」と呼びます。痛いですね。


また、まくらぎが繰り返し荷重を受けることで少しずつ沈んだり、レールの位置がミリ単位でずれたりする「軌道変位」が常に発生しています。1mmのズレでも高速走行中の列車にとっては無視できない影響があり、乗り心地悪化だけでなく走行安全性にも直結します。


このため、定期的に2つのメンテナンス作業が行われます。


まず「突き固め(タンピング)」です。マルチプルタイタンパー(マルタイ)と呼ばれる黄色い工事用車両が、バラストの中に金属製の爪を振動させながら突き込み、まくらぎ下のバラストを正確な位置に締め固めます。この作業でレールの高さと水平を整えます。踏切で「カンカン…ガタガタ」と音を立てる黄色い作業車を見かけたことがある人も多いはずです。


次に「バラストクリーナ(道床交換)」です。専用の列車がバラストをかき上げ、摩耗して細粒化した石をふるい分け、再利用できるものは戻しつつ、劣化した石は新しいバラストに入れ替えます。これが本格的な交換作業です。


これらの保線作業は基本的に深夜から早朝の終電〜始発間に行われ、日本全国の線路で毎夜、誰も見ていないところで進んでいます。道路の舗装補修と違い、工事中も列車を完全に止める必要があるため、時間的制約が非常に厳しいです。つまり保線は夜の仕事です。


バラストの保守整備とメンテナンス機械について詳しく掲載されています。


トレたび テツペディア Vol.13:線路の砂利


冬に鉄道バラストは車を傷つける?バラストネットという知られざる対策

ここからは、自動車で踏切を利用する人にとって意外と知られていない話です。冬季、降雪地帯から都市部に向かう特急列車や貨物列車の車体には、走行中に大量の雪が付着・積載されます。この雪塊が暖かい都市部に入ると、気温差によって溶けて一気に線路上へ落下します。


問題はここからです。時速100km前後で走行中の列車から落下した雪塊は、相当の運動エネルギーを持っています。それがバラストに直撃すると、ビリヤードの球が弾けるように石が飛散します。これを「雪塊の落下によるバラスト飛散」と呼び、線路作業員がケガをするほどの危険な現象です。


この飛散を防ぐために設置されているのが「バラストネット」です。線路の路盤全体に網をかけ、石が弾き飛ばされても散乱しないように固定する仕組みです。降雪地帯だけでなく、北陸〜関西を走るサンダーバード号のように「降雪地帯→都市部」のルートを走る列車が通過する都市部の線路にも設置されています。普段は雪と縁のない地域にもバラストネットがある理由がこれです。意外ですね。


自動車が踏切を通過するとき、線路の石が車の下に入り込んで車体を傷つけるケースがあります。これも本来はバラストが飛散しやすい構造になっていることと無関係ではありません。特に低床の車両は要注意で、踏切前後ではゆっくり通過する習慣をつけることが、ボディ傷の予防に直結します。


また、バラストネットは工事のたびに一度取り外す必要があり、現場作業員の間では「メンドクサイ」と呼ばれるほど手間のかかる存在だそうです。安全と利便性のトレードオフが、鉄道インフラの最前線でも起きているというわけです。これは使えそうです。


バラストネットの役割と設置背景が詳しく解説されています。


鉄道雑学ブログ:雪が降ると石が飛んでくる?危険を防ぐバラストネット


道路と鉄道を比べてわかるバラストのなぜ:自動車目線で再整理

ここまで読んで「自動車の道路はなぜバラストを使わないのか?」と疑問に感じた人もいるかもしれません。これは実はとても鋭い問いです。


まず、自動車道路はアスファルト舗装やコンクリート舗装で面全体を覆い、荷重を広い面積で受け止める構造になっています。一方で鉄道は、レールとまくらぎという「線と点」で構成されており、荷重が特定のポイントに集中しやすい構造です。この違いが、バラストの必要性を生む根本的な理由です。


また、自動車のタイヤはゴム製で路面との接触面積が比較的大きく、走行しながら自ら衝撃を吸収できます。一方で鉄道の鉄輪は硬い金属のまま鉄レールに乗り、タイヤのようなクッション性がありません。だからこそ線路側に振動吸収の仕組みが必要になり、その役割をバラストが担うのです。


さらに排水という観点でも差異があります。アスファルト道路は排水性舗装を別途設計しますが、バラスト軌道は構造上、石の隙間が自然な排水路になっています。設計と施工のコストを考えると、バラストは非常に合理的な選択といえます。バラストが原則です。


自動車ユーザーとして鉄道の構造を理解しておくと、日常のちょっとした場面で役立つことがあります。たとえば踏切で一時停止中に線路の石が散らばっているのを見たとき、それは保線工事後の残石である可能性があります。また、積雪後の早朝に鉄道の遅延情報が出やすい理由も、バラストと雪の関係を知っていれば「ああ、バラスト飛散対策で徐行してるんだな」とすぐに納得できます。


鉄道は日本の交通インフラの基幹であり、その路線の総延長は約2万km以上にのぼります。その大部分の地面にはバラストが敷かれており、毎日無数の列車の重さを黙々と受け止め続けています。あの小さな石一粒にも、百年以上の技術と運用の積み重ねが詰まっています。結論はバラストは縁の下の力持ちです。




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