

ZDDPの量が多いオイルを旧車に使えば、エンジンは必ず長持ちするとは言えません。
ZDDP(ジアルキルジチオリン酸亜鉛、英語表記:Zinc Dialkyldithiophosphate)は、エンジンオイルに配合される多機能添加剤です。亜鉛・リン・硫黄の3つの元素が組み合わさった化合物で、1940年代から使われてきた歴史のある成分です。
ZDDPの主な役割は、エンジン内部の金属表面に「保護膜(トライボフィルム)」を作ることです。エンジンが動いているとき、カムシャフトやバルブリフター、ピストンリングなどの金属部品が高速・高圧で接触し合います。そのとき油膜だけでは守りきれない境界摩擦の領域で、ZDDPが反応して金属表面にガラス質の硬い膜を形成し、直接的な金属同士の接触を防ぎます。
エンジン内部の温度は通常走行でも100〜150℃に達し、高回転時にはさらに上がります。ZDDPはこのような高温・高圧の環境下でこそ反応が活性化し、保護膜が形成される設計になっています。つまり、エンジンが冷えているアイドリング中ではなく、しっかり走り始めてから機能が発揮される添加剤です。
この添加剤は酸化防止・腐食防止・耐荷重・耐摩耗という4つの機能を同時に持ち、多機能型添加剤としてほぼすべてのエンジンオイルに配合されています。ZDDPが入っていないオイルは存在しないと言っても過言ではありません。問題は「量」ではなく「車種・エンジン設計に合った配合かどうか」にあります。
ZDDPの配合量と選び方についての詳しい解説 – エンジンオイル屋
ZDDPの話をするうえで外せないのが、API(アメリカ石油協会)規格による含有量の変化です。これを知らないと、旧車オーナーが知らずに愛車のエンジンを傷めてしまうことになります。
APIグレードとZDDPのリン含有量の変化は以下のとおりです。
| API規格 | 適用時期 | リン(P)含有量の目安 |
|---|---|---|
| SH | 1996年以降 | 約1,200ppm |
| SJ / SL | 2001〜2004年 | 約1,000ppm |
| SM | 2010年まで | 約800ppm |
| SN / SP | 2010年以降 | 600〜800ppm(30番以下は上限規制あり) |
1990年代初頭にはZDDPのリン含有量がピーク時に1,200〜1,400ppmほどあったのに対し、現代の市販オイル(SN・SP規格)では30番以下の低粘度オイルに含有量の上限規制がかかっています。規制の理由は明確で、ZDDPに含まれるリンと硫黄が三元触媒(排ガス浄化装置)の表面を被毒して性能を劣化させるからです。
触媒コンバーターの交換費用は国内で平均約11〜17万円以上かかります。エンジンオイルの選択ミスが引き金になって触媒が劣化し、高額な修理につながるケースがあります。
一方、旧車(設計が古いエンジン)にとっては、この「低ZDDP化」が深刻な問題を引き起こしました。2000年代に入ってから、旧車オーナーやエンジンチューナーの間でカムシャフトやリフターの摩耗トラブルが増加したと報告されています。原因を調べると、低ZDDPのモダンオイルを使っていたことが共通点でした。
旧車のエンジンはカムとリフターが直接接触する「フラットタペット方式」を採用しているものが多く、高ZDDP配合でないとカムが摩耗しやすい構造です。カムシャフトの修理費用は5〜15万円、エンジンのオーバーホールに至っては数十万円以上かかることもあります。
意外なのは、SNやSP規格でも40番以上の高粘度オイルにはZDDP含有量の上限規制がかかっていないという点です。
つまり、旧車向けに10W-40や15W-40などの高粘度オイルを選べば、現行規格でもZDDPをより多く含むオイルが入手できます。これは知っておくと選択肢が広がります。
SN規格とZDDPの含有量規制に関する詳細解説 – キャメルオート スタッフブログ
ZDDPについてよくある誤解が「含有量が多いほど良いオイルだ」という考え方です。これは結論から言うと間違いで、危険な誤解でもあります。
ZDDPは各オイルメーカーが独自に化学合成して製造しており、同じ「ZDDP」という名称でも製造方法・原料・純度が異なります。高純度のZDDPは不純物が少なく、耐摩耗性・酸化防止性に優れた保護膜を形成します。一方、低純度のZDDPは不純物を多く含み、スラッジの発生やオイルの劣化を早める原因になります。
料理で「天然の岩塩」と「工業用の塩」が同じ「塩」でも全く異なるのと同じイメージです。
ZDDPには大きく分けて「低温型」と「高温型」の2種類があります。
さらに、現代の高性能エンジンオイルにはZDDP単独ではなく、ボロン系・モリブデン系・硫黄系・リン系などの添加剤が精密にバランス調整されて配合されています。これらの添加剤は互いに助け合いながらエンジンを守る「チーム戦術」で機能しています。
そこに後から市販の添加剤を追加するとどうなるか。オイル本来のバランスが崩れ、予期しない化学反応が起きる可能性があります。ゲル状に固まったり、油膜が薄くなってかえって摩耗が進んだりするトラブルも報告されています。つまりZDDP増量を謳う市販添加剤の安易な使用には注意が必要です。
旧車・クラシックカーにZDDPが必要な理由の詳細解説 – Temperament Lube
最新の新車(2000年代以降のガソリン車)にとって、ZDDPの過剰摂取は別の意味で大きなリスクを生みます。
現代の自動車には三元触媒コンバーターが搭載されており、排気ガス中のHC(炭化水素)・CO(一酸化炭素)・NOx(窒素酸化物)を同時に浄化しています。この触媒の表面を傷めるのが、ZDDPに含まれる「リン(P)」です。エンジン内でオイルが燃焼するとリン成分が排気ガスに混入し、触媒表面の活性部位に蓄積して「リン被毒」と呼ばれる劣化を引き起こします。
触媒が劣化すると、まずエンジンチェックランプが点灯します。放置すると排気ガス基準を満たせなくなり、車検にも通らなくなるケースがあります。国内での触媒コンバーター交換費用の平均は部品代・工賃込みで約11〜17万円以上が相場です。痛い出費ですね。
だからこそ、2000年代以降に設計された新車にはSN・SP規格のオイル(低リン・低硫黄設計)を使うのが原則です。
ただし、ここで混乱しがちなポイントがあります。SN・SP規格でも「30番以下の低粘度」にのみZDDPのリン含有量の上限規制があります。40番以上の高粘度オイルにはその上限規制がありません。新車でも高回転エンジンや夏場のスポーツ走行では高粘度オイルを選ぶことがありますが、その際はリン含有量を意識することが重要です。
新車オーナーで普段から市販のZDDP添加剤を追加している方は、触媒への影響リスクを一度確認しておくことをお勧めします。オイル成分表(PDS:製品データシート)にある「Zinc(亜鉛)」「Phosphorus(リン)」の数値をチェックするのが一番確実な方法です。
旧車(おおよそ1990年代以前の設計のエンジン)を所有している方に向けて、ZDDPオイル選びの実践的なポイントをまとめます。
まず前提として、旧車のエンジンはカムシャフトとリフターが直接接触する「フラットタペット式」が多く、高ZDDP環境を前提に設計されています。現代の市販オイル(特に低粘度・低リン設計)をそのまま使い続けると、エンジン設計の想定を下回る保護しか得られず、カムの摩耗が早まるリスクがあります。
旧車向けオイル選びで確認すべきポイントは以下の通りです。
旧車ガソリンエンジンには、もともと10W-40・15W-40・20W-50といった高粘度オイルが指定されているものが多いです。高粘度オイルはZDDP上限規制の対象外であるため、旧車に必要な保護成分を確保しやすいです。これが基本です。
旧車専用に設計されたオイルも近年増えています。たとえばRIZOIL(リゾイル)のようなノンポリマー鉱物系オイルは旧車・過走行車向けに設計されており、適切なZDDP配合と油膜保持力を両立させています。エンジン設計の年代に合ったオイルを選ぶことが、長く乗り続けるための最短ルートです。
ZDDPとエンジン保護のチーム戦術に関する解説 – エンジンオイル屋
旧車・低年式車のZDDPとAPIグレード別含有量の詳細データ – ココナラブログ