

ホンダピックアップでまず押さえるべきは、北米で販売される「リッジライン」が一般的なラダーフレームのピックアップとは異なる立ち位置だという点です。報道でも、リッジラインは「乗用車と同じモノコック構造」で、SUV「パイロット」と部品を一部共通化していると説明されています。つまり、入庫時に「トラックだから全部頑丈で単純」と決めつけると、診断の入口でズレが出ます。
整備現場で影響が出やすいのは、足回りやサブフレーム周りのアクセス性と、電装・制御がSUVベースで組まれている点です。モノコック+独立懸架+制御AWD系は、異音・ジャダーの原因が「機械的摩耗」だけでなく「制御の介入条件」に広がります。さらに、北米市場ではピックアップの需要が大きく、販売台数の情報も公開されており、同じ「ピックアップ」でも市場のど真ん中と少し外れた設計思想が混在するのが実情です。
参考)リッジライン(米国ホンダ)のメンテナンス・整備手帳
また、整備士目線では「部品共通化」は強みでもあります。共通プラットフォーム由来のセンサー類、制御ユニットの考え方、診断機(HDS)での作法がSUV系ホンダ車と近い可能性が高く、経験がそのまま活きる場面があります。逆に、トラック特有の使われ方(牽引・積載・悪路脱出)が絡むと、後述のVTM-4や油温管理が一気に重要になります。
参考)Instagram
ホンダピックアップ(リッジライン)の肝は、リアデフに組み込まれたVTM-4(Variable Torque Management 4WD)です。整備書では、VTM-4コントロールユニットが電磁コイルへ流す電流を制御し、リアデフ内の左右クラッチを締結・解放して駆動トルクを配分すると説明されています。ここを理解しておくと、「デフ=機械」だけで追わず、入力(車輪速・油温・CAN)と出力(コイル電流)の両面で点検設計できます。
VTM-4の機能として、加速トルク制御(VATC)、LSD制御、LOCK制御が挙げられており、状況に応じて自動的に前後配分・左右配分に介入します。LOCKは「シフトがR/1/2で、車速が約30km/h以下のとき、スイッチ操作でクラッチを締結する」設計で、さらにLOCK中でも約10km/hを超えると負荷低減のためトルクを段階的に下げる、と明記されています。整備士としては、ここを知らないまま試運転すると「LOCKが効いたり抜けたりする=故障」と誤認しやすいので注意が必要です。
加えて、VTM-4はフェイルセーフを持ち、異常検知時はDTCを記憶し、4WD制御を停止して2WD(FWD)に戻し、状況に応じてエンジントルクを下げる動作をするとされています。つまり「お客様の訴え:4WDが効かない」が、実は保護動作の結果であるケースがあり、現象だけで部品交換に走ると外します。
ホンダピックアップで作業時間を最も食うのは、警告灯とDTCの“読み順”を間違えたときです。整備書には、VTM-4の異常時にVTM-4インジケータが点灯し、MIL、D5、VSA等が同時点灯する場合があること、そして「燃料・排ガス→A/T→VSA→VTM-4の順でトラブルシュートする」旨が明記されています。現場ではこの優先順位が、そのまま診断工数に効きます。
意外と見落とされるのが、DTCの保持仕様です。VTM-4コントロールユニットは最大7個のDTCを記憶し、EEPROM(不揮発メモリ)に保持するため、バッテリーを外しても消えないと説明されています。つまり「バッテリー外したのに履歴が残っている」こと自体は異常ではなく、むしろ履歴を活かして再現試験の条件出しに使えます。
もう一つ、整備士が助かる情報として、HDS以外の確認手段も書かれています。SCS回路(サービスチェック信号)をボディアースに落とすことで、イグニッションON時にVTM-4インジケータの点滅でDTCを表示でき、10以上は「長点滅=10」として長短を合算するルールが示されています。外車的な“専用スキャンツール前提”に寄りがちな輸入ピックアップと違い、現場の状況に応じて二段構えで診断できるのは強みです。
参考:VTM-4のDTC優先順位、DTC保持(EEPROM)、初期化手順、SCS点滅診断、油温センサ抵抗値など(整備・診断の根拠)
Rear Differential(Ridgeline ESM)
ホンダピックアップの「曲がるとゴリゴリ」「低速で引っ掛かる」系は、リアデフのクラッチ制御が絡むため、フルード状態と油温・制御の組み合わせで症状が出ることがあります。整備書の症状診断には、フルロック旋回でのノイズ/ジャダーに対して「リアデフのフルードを新油にドレーン&リフィル」「デフ機能テスト」「必要なら再度ドレーン&リフィル(ドレンプラグワッシャ交換)」という手順が示されています。最初から機械破損扱いで分解見積りに行く前に、メーカーが想定する“戻し手順”を踏む価値があります。
さらに、点検の当たりとして有用なのが「油温センサ」の扱いです。整備書には、油温センサ抵抗が温度でどう変わるか(例:0℃で約5.82k〜7.26kΩ、30℃で約1.53k〜1.83kΩ、100℃で約148〜162Ω、140℃で約52〜61Ω)まで書かれています。現場では、この種の基準値があるだけで、配線不良・センサ不良・油温異常(過負荷)を切り分ける速度が上がります。
そして意外に効くのが、周辺条件の潰し込みです。DTCトラブルシュート手順の中に、車輪速系の診断で「後輪を手で回してリアブレーキドラッグがないか確認する」という工程があり、ドラッグがあれば修理して再テストする流れになっています。駆動系の警告灯でも、ブレーキの引きずりが“きっかけ”になり得るという示唆なので、足回りの基本点検を軽視しないのが結果的に最短です。
検索上位の一般解説では「AWDが賢い」「ピックアップだけど乗用車っぽい」といった紹介で終わりがちですが、整備士の現場で差が出るのはECU交換後や配線修理後の“締め”です。整備書には、VTM-4コントロールユニットを交換した場合は初期化が必要で、推奨はHDSによる初期化、代替として手動初期化の手順も示されています。手動初期化は、エンジン始動→ブレーキ踏む→シフトをR/1/2へ→VTM-4 LOCKスイッチ操作→IG OFF→IG ONでインジケータが約4秒点灯して消灯、という流れで初期化完了とされています。
独自視点として強調したいのは、「初期化・DTCクリア・試運転・再読取」をワンセットの作業設計に落とすことです。整備書でも、DTC取得後は全DTCをクリアし、4WDモードで数分テストドライブして再度DTCを確認し、戻らなければ断続的(インターミッテント)としてコネクタや端子の締結を点検する、という思想が繰り返し出てきます。つまり“たまたま点いた”を真顔で追いすぎず、「戻るかどうか」を基準に工数配分を変えるのが、作業品質と利益率の両方に効きます。
最後に、ホンダピックアップという狙いワードで記事化するなら、車種の「存在」自体の背景も押さえると説得力が増します。ホンダは北米でリッジラインを販売しており、モノコック構造・パイロットと部品共通という特徴が報道で整理されています。加えて、ピックアップ領域で他社供給の可能性を検討するという報道もあり、今後国内整備工場でも「ホンダのピックアップ的な車両」を扱う機会が増える前提で、診断の型を早めに作っておく価値があります。