

資格なしでガス切断を業務で行うと、会社に「50万円以下の罰金または6ヶ月以下の懲役」が科せられます。
自動車に関わる仕事をしている方なら、「ガス切断」という言葉を一度は耳にしたことがあるはずです。廃車解体の現場や自動車板金の現場では、このガス切断が日常的に使われています。ガス切断とは、アセチレンガスやプロパンガスなどの可燃性ガスと酸素を混合・燃焼させ、その炎で金属を切断する技術のことです。「ガス溶断」「酸素切断」と呼ばれることもあります。
廃車解体の現場では、シャーシや鉄骨フレームを切り離す際にガス切断が活躍します。自動車板金では、錆びた車体の一部を切り取って新しいパーツを溶接するときにも使われます。つまり、自動車に関わるさまざまな現場で、この技術は欠かせない存在です。
ガス切断が普及している理由は明確です。電気を使わないため導入費用が安く、数ミリの薄板から数百ミリの厚鋼まで幅広く切断できます。直線だけでなく、曲線や円形のカットも可能なため、汎用性が高いのです。
一方で、可燃性ガスを扱うため爆発や引火のリスクが常に伴います。そのため、法律によって資格の取得が義務づけられています。これが知らないと損するポイントです。
ただし、注意点もあります。ガス切断はステンレスやアルミニウムには使えません。これらの金属は炎の温度よりも融点が高いため、プラズマ切断やレーザー切断が必要になります。素材によって使い分けが求められるのです。
車の板金や自動車解体を仕事にする際に必要な資格についての参考情報です。
車の板金に資格は必要?関係する資格や必要な資質を解説|横浜自動車整備専門学校
ガス切断に関係する資格は、大きく2つあります。混同されやすいので、ここで整理しておきましょう。
1つ目は「ガス溶接技能者(ガス溶接技能講習修了資格)」です。これは実際にガス切断・溶接の作業をする人が取る資格で、都道府県労働局長の登録を受けた講習機関で2日間の講習を修了することで取得できます。学科と実技を合わせて計13時間の講習を受け、修了試験に合格すれば資格証(修了証)が交付されます。受験資格は基本的になく、誰でも受講できます。値段の相場は15,000円〜20,000円前後です。
2つ目は「ガス溶接作業主任者」です。こちらはアセチレン溶接装置やガス集合溶接装置を使用する現場で、作業者を指揮・管理する責任者に求められる国家資格です。各地の安全衛生技術センターで実施される筆記試験に合格し、都道府県労働局長から免許の交付を受ける必要があります。試験費用は8,800円(非会員価格)です。ただし、合格後に免許申請をするためには「18歳以上かつガス溶接技能講習修了者で実務経験3年以上」という条件があります。
この2つの違いを表にまとめます。
| 項目 | ガス溶接技能者 | ガス溶接作業主任者 |
|---|---|---|
| 役割 | 実際に溶接・切断を行う | 現場の指揮・管理をする |
| 取得方法 | 2日間の技能講習を修了 | 国家試験に合格+免許申請 |
| 費用の目安 | 15,000円〜20,000円前後 | 試験料8,800円+実務経験必要 |
| 受講資格 | 基本的になし(誰でも可) | 受験は誰でも可(免許申請に条件あり) |
| 有効期限 | なし(一生有効) | |
| 合格率 | ほぼ全員合格 | 約85% |
まず取得すべきはガス溶接技能者です。作業主任者はその上位資格と考えてください。
自動車整備や廃車解体の現場に携わるほとんどの方が最初に取るのはガス溶接技能者の資格です。ガス溶接技能者の修了証は有効期限がありません。一度取得すれば更新の手続きなしに、生涯にわたって使い続けることができます。
資格試験の概要・受験手続きの詳細は公式機関で確認してください。
ガス溶接作業主任者の紹介|公益財団法人 安全衛生技術試験協会
では、実際にガス溶接技能講習(ガス切断の資格)を取得するためにかかる値段を細かく見ていきましょう。
講習費用の相場は、全国的におおむね15,000円〜20,000円前後です。地域や講習機関によって多少の差はありますが、極端に高かったり安かったりすることはありません。たとえば具体的な金額を挙げると、東京(労働技能講習協会)では13,580円(税込)、愛知(愛知労働基準協会)では13,780円(税込)、岡山(免キラワークスクール岡山校)では12,000円前後などとなっています。
講習費用に含まれるものは以下のとおりです。
費用に含まれない別途出費としては、証明写真代(500円前後)、交通費、昼食代などがあります。合計すると最大でも22,000円程度が現実的な上限と考えていいでしょう。これはちょうど新幹線で東京〜大阪を往復するくらいの金額です。
注意したいのは、相場よりも極端に安い講習には注意が必要な点です。講習機関は都道府県労働局長の登録を受けている必要があります。登録を受けていない機関で受講しても、修了証は発行されません。料金の安さだけで選ぶのは危険です。
修了試験で不合格になった場合、再受講や補講料が別途必要になるケースもあります。補習料の目安は4,700円前後です。試験には落ちたくないですね。ただし実際には講習をしっかり受ければほぼ全員が合格するため、過度に心配する必要はありません。
厚生労働省が定める人材開発支援助成金の詳細はこちらから確認できます。
ガス溶接技能講習の費用を少しでも抑えたい場合、有効な方法が3つあります。
1つ目は「会社負担制度の活用」です。
自動車解体業や鉄工所など、ガス切断を業務で使う職場では、会社が資格取得費用を全額負担するケースが多くあります。会社経由で申し込めば、個人では得られない団体割引が適用される講習機関もあります。まず、勤務先の安全衛生部門や総務部門に「会社負担で受講できるか」を確認するのが最初のステップです。
2つ目は「人材開発支援助成金の活用」です。
厚生労働省が設けている人材開発支援助成金を利用すると、中小企業の事業主が従業員に技能講習を受けさせる場合に、受講料の一部が助成されます。ただし、個人での受講は対象外です。訓練計画の届出や賃金支給など一定の要件を満たす必要があるため、事前にハローワークへ相談することをおすすめします。
3つ目は「講習機関のキャンペーン・早期申込割引の利用」です。
講習機関によっては、早期申込で割引になる制度や期間限定のキャンペーンを実施していることがあります。繁忙期を外した時期(年度替わりの4〜5月を避けた時期など)は受講料が割安になるケースもあります。各教習所の公式サイトをこまめにチェックするのが有効です。
これが節約の基本です。3つの方法をすべて試す必要はありません。まず「会社負担が使えるか」を確認するだけで、実質0円で取得できる可能性があります。自動車整備や廃車解体を仕事にしている方ならば、会社が費用を出してくれる場合がほとんどです。まずは上司や会社の担当者に確認してみましょう。
「少しくらい試しに使ってみるだけなら大丈夫だろう」と考えている方は要注意です。業務としてガス切断を行う場合、資格なしでの作業は法律違反になります。
労働安全衛生法(第61条・施行令第20条第10号)では、可燃性ガスおよび酸素を用いて行う金属の溶接・溶断・加熱の業務は「就業制限業務」に指定されています。つまり、ガス溶接技能講習修了者またはガス溶接作業主任者免許保持者でなければ、この業務に就かせることはできないのです。
罰則の内容は以下のとおりです。
つまり、50万円の罰金が会社に科せられる可能性があります。痛いですね。しかも本人だけでなく会社も処罰の対象になるため、職場全体に影響が及びます。
気をつけたいのは「DIYや趣味で個人が使う分には資格は不要」である点です。自分の自動車を趣味でカスタムするために自宅でガス切断を試みる場合は、法律上の就業制限の対象にはなりません。ただし、安全確保は別問題です。可燃性ガスの取り扱いには常に爆発・火災のリスクが伴うため、未経験のまま無計画に手を出すのは大変危険です。
業務として行うか、個人の趣味として行うかで、法律上の取り扱いが変わる点が重要です。仕事の現場では資格が条件です。この一線を明確に理解しておきましょう。
自動車整備業における労働安全衛生法の適用について、厚生労働省が整備したマニュアルが参考になります。
自動車整備業におけるリスクアセスメントマニュアル|厚生労働省(PDF)
資格を取った後のことを考えている人は意外と少ないです。ここでは、資格取得後に実際に役立つ「修了証の管理術」を紹介します。
ガス溶接技能講習の修了証は有効期限がなく、一生有効です。しかし、複数の技能講習を受けるうちに修了証が増え、バラバラになってしまうことがよくあります。車の整備や解体現場では、ガス溶接以外にも「玉掛け」「フォークリフト」「高所作業車」など複数の技能講習を受ける場面が多いからです。
この問題を解決するのが、厚生労働省が推進する「技能講習修了証の統合カード(まとまるくん)」制度です。複数の技能講習修了証を1枚のカードにまとめることができます。厚生労働省が指定する発行事務局に申請すれば、手持ちのすべての修了証を1枚に統合できます。
修了証を紛失した場合は、取得した講習機関で再交付の申請ができます。費用は2,000円〜3,000円前後が目安です。金額はそれほど大きくありませんが、手続きに時間がかかるため、早めに対処するのが基本です。
また、もし高校時代や学生時代に工業系の授業でガス溶接技能講習を修了していた場合、その修了証は現在も有効です。更新手続きは一切不要なので、古い修了証が出てきたら活用できます。ただし、氏名が変わっている場合は書き替え手続きが必要です。
資格取得後の管理が意外と重要です。取って終わりではなく、現場で確実に提示できる状態にしておくことが求められます。
技能講習修了証の統合カード制度や再発行手続きについての詳細は、厚生労働省の公式ページで確認できます。