
5Gで使用される周波数は大きく2つに分類されます。Sub6は6GHz未満の周波数帯を指し、日本では3.7GHz帯、4.0GHz帯、4.5GHz帯が使われています。一方、ミリ波は厳密には30GHz~300GHzの電磁波を指しますが、日本の5Gでは28GHz帯が使用されており、波長が1mm~10mmとミリメートル単位になることから「ミリ波」と呼ばれています。周波数が高いほど一度に運べるデータ容量が大きくなりますが、電波の届く範囲は狭くなるという相反する特性があります。
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この周波数の違いは、車での通信環境に直接影響します。高速道路や一般道を走行中にスマートフォンやカーナビで通信する場合、Sub6の方が広範囲をカバーするため接続が安定しやすいです。ミリ波は周波数が高いため直進性が強く、建物や車体などの障害物があると電波が遮断されやすく、移動中の車内では通信が途切れる可能性が高まります。
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通信速度においてミリ波は圧倒的な優位性を持っています。ミリ波は広い帯域幅を確保できるため、4Gでは数分かかっていた映画のダウンロードが数秒で完了するなど、Sub6を超える超高速通信が実現します。実際の通信環境では、キャリアがCA(Carrier Aggregation)技術で複数の周波数帯を束ねることで、Sub6でも下り4Gbpsを超える高速通信を提供していますが、ミリ波の単独性能には及びません。
参考)https://atmarkit.itmedia.co.jp/ait/articles/2105/31/news035.html
エリアカバレッジではSub6が優れています。Sub6はミリ波と比較して電波伝搬範囲が約3倍以上広く、ミリ波帯が100〜200mなのに対しSub6は約700mまで電波が届きます。さらにSub6は4G(LTE)の周波数帯に近い特性を持つため、既存の基地局設備を一部活用しながら効率的にエリア展開できます。車で移動する際には、こうした広いカバレッジが途切れない通信を実現する重要な要素となります。
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現在販売されている5G対応スマートフォンのほとんどはSub6に対応していますが、ミリ波対応端末は限られています。日本市場では、arrows 5G、Galaxy Z Fold3 5G、Galaxy S21 Ultra 5G、Xperia 1 III、Google Pixel 6 Pro、AQUOS zero6などがミリ波に対応していますが、iPhone12・13シリーズはアメリカではミリ波対応でも日本向けモデルは非対応です。2022年に日本で販売されたスマホのうちミリ波対応機種は少なく、iPhone 15も日本では非対応となっています。
参考)https://www.strapya.com/blogs/hameefun/5710
ミリ波対応端末が少ない理由は、製造コストの高さにあります。ミリ波に対応するにはアンテナ設計が複雑になり、実装技術にμm単位の精度が要求されるため、他端末と比べて機種代金が高額になる傾向があります。車載用の5G通信モジュールについても同様で、高度な回路設計と実装技術が必要です。今後もSub6対応端末が主流となり、ミリ波は限定的な展開が続くと予想されます。
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ミリ波の最大の弱点は、障害物と天候の影響を受けやすいことです。ミリ波は直進性が非常に強く、壁や建物はもちろん、雨や霧、さらには人の体でさえも電波を遮ったり減衰させたりします。特に豪雨や雪などの極端な悪天候では「雨減衰」という現象が発生し、電波が散乱・吸収されて通信品質が大幅に低下します。高周波数の電波ほど波長が短く雨粒などの障害物にぶつかりやすいため、28GHz帯のミリ波は700〜900MHzの4Gプラチナバンドと比べて影響度が大きくなります。
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この特性は車での利用に大きく影響します。走行中に雨が降っている場合、ミリ波による通信は著しく不安定になる可能性があります。またトンネルや高架下、ビルの谷間などでは電波が届きにくくなります。一方、Sub6も完全に影響を受けないわけではありませんが、ミリ波ほど深刻ではなく、比較的安定した通信が可能です。このため、移動中の車内通信にはSub6が適しており、現在の5Gエリア展開もSub6とNR化(既存4G周波数の5G転用)が中心となっています。
ミリ波の超高速通信を車で活用するには、限定的なシーンを狙う必要があります。例えば大型ショッピングモールの駐車場、高速道路のサービスエリア、都市部の立体駐車場など、ミリ波基地局が設置された特定エリアで停車中に利用するケースが考えられます。停車中であれば車体の移動による電波断が発生せず、大容量データのダウンロードや車載システムのアップデートを短時間で完了できます。
参考)https://www.mdpi.com/1424-8220/19/9/2057/pdf
コネクテッドカーの分野では、ミリ波を活用した車車間通信(V2V)の研究が進んでいます。ミリ波の超広帯域を利用すれば、自動運転に必要な高精細センサーデータをギガビット単位で数秒以内に転送できるため、車両隊列走行(プラトーニング)などの実現が期待されています。ただし実用化には、移動中の電波管理や干渉対策など多くの技術的課題があります。当面は、Sub6を基本通信として使い、ミリ波はスポット的な超高速通信が必要な場面で補完的に活用する形が現実的です。
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現在の5Gネットワークでは、3つの周波数帯が役割分担しています。NR化(既存4G周波数の5G転用)が広域カバーを担当し、Sub6がバランスの取れた高速通信とエリア展開を実現し、ミリ波が特定エリアでの超高速通信を提供する構造です。各通信キャリアは、人が多く集まる駅や空港、スタジアムなどを中心にミリ波エリアを拡大していますが、全国的なカバレッジではSub6が主軸となっています。
特徴 | Sub6 | ミリ波 | NR化 |
---|---|---|---|
周波数帯域 | 6GHz未満 | 28GHz帯 | 既存4G帯 |
通信速度 | 比較的速い | 超高速 | 4Gより速いがSub6に劣る |
カバーエリア | 比較的広い | 狭い | 広い(既存エリア活用) |
障害物への強さ | 比較的強い | 弱い | 比較的強い |
車での利用適性 | ◎移動中に最適 | △停車時のみ | ○広域で安定 |
今後の展開として、新たな周波数帯域の割り当てが検討されています。テラヘルツ波などミリ波よりさらに高い周波数帯の研究開発が進められており、将来の6G技術への基盤となることが期待されています。また、DSS(Dynamic Spectrum Sharing)技術により、同じ周波数帯を4Gと5Gで効率的に共用することで、設備投資を抑えながら5Gエリアを拡大する取り組みも進んでいます。車載通信の分野では、5G通信モジュールの小型化と低消費電力化が課題となっており、μm単位の精密実装技術が求められています。
参考情報:総務省の5Gインフラ整備に関する資料
更なる5Gインフラ整備推進に向けて
参考情報:コネクテッドカーと5G通信の関係について
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参考情報:各キャリアの5Gエリアマップ
5Gの「ミリ波」ってどんな電波?Sub6との違い・利用の注意